印刷業界におけるM&A成功への道を最新動向・事例からお伝えします。市場動向、デジタル化の影響、環境問題対応、印刷業界におけるM&Aの目的・メリットをご説明します。
印刷業界の現状と市場動向
印刷業界は、企業の広告や出版物の製作・印刷を行い顧客へ提供する業種です。近年、デジタル技術の発展により、印刷市場においても変化が見られ、多くの大手企業が印刷事業のデジタル化に取り組み、事業拡大のためにデジタル化に対応できる印刷会社の子会社化を積極的に行っています。業界内では、専門技術や設備を持つ企業が独自の付加価値を生み出しており、M&Aによる事業再編が活発化しています。
また、印刷業界では競争力を維持するための戦略的なM&A再編が行われています。M&Aに成功した企業は一般的な印刷物に加え、食品や包装を含むパッケージング等、新たな市場を開拓し、事業領域を拡大しています。さらに、環境問題への対応や人材育成などの課題もあり、企業間の協業や業界団体の活動が活発な状況です。
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印刷業の市場規模
日本の印刷市場は、単一市場としては世界的な規模を誇る産業の一つです。業界全体としては、大手から中小企業まで多岐にわたる事業者が存在し、広告、書籍、雑誌、チラシなどの印刷物を製造しています。
印刷業界の市場規模は、下記の表のように縮小傾向にあります。
出展:一般印刷市場に関する調査を実施(2020年) / 株式会社矢野経済研究所
コロナ禍で縮小傾向が加速した面もありますが、以前から印刷業界の縮小傾向は進んでいました。2000年頃からインターネットが普及し、その結果、印刷業界が縮小していったと考えられます。今後は紙媒体がより減少していくと考えられるため、印刷業界はより縮小していくでしょう。 近年ではデジタル化による紙媒体による印刷物の減少や少子高齢化、消費者のライフスタイルの変化等の要因が市場規模の減少が続いています。
しかし、新たなビジネスチャンスを捉えた企業は、デジタルとアナログの融合やクロスメディア戦略を活用し、シェアを拡大させ生き残りを図っています。矢野経済研究所調べによると、下記の図の通り、WEBサービスも含めた印刷事業の市場規模は横ばいで推移しており、需要が無くなったのではなく媒体が変わってきています。
デジタル化の影響
印刷業界におけるデジタル化は、業務効率化や新たな付加価値の創出といったメリットを提供する一方で、紙媒体の縮小による事業者間の競争激化といったデメリットもあります。
デジタル技術の進化により、印刷物に代わる電子書籍やウェブコンテンツが増加し、従来の印刷業界における紙媒体の需要が減少しています。しかし、印刷業界もこの対応し、デジタル技術を活用した印刷サービスや、オンデマンド印刷、クロスメディア戦略などを展開することで紙媒体の需要減少を補っています。
また、デジタル化によって生まれた新たな市場に対応すべく、印刷業界はサービス拡充や事業領域の多様化に取り組んでいます。これにより、印刷業界自体の一部の企業は今後も競争力を高め、市場における地位を確保することが可能とみられています。矢野経済研究所「デジタル印刷市場規模推移と予測」によると、デジタル印刷市場も緩やかな上昇傾向であり、印刷事業すべてが斜陽産業とは言い切れません。
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環境問題への対応
印刷業界は、環境問題への取り組みが求められる産業であり、紙やインクに代表される印刷素材は、環境負荷を抑えるような開発を日々進めています。また、企業もISO認証やエコマークを取得することで、環境に配慮した姿勢をアピールし、顧客からの信頼を得る取り組みを断続的に行っています。
さらに、廃棄物処理やエネルギー消費の削減など、環境負荷を低減するための施策を実施している企業もありことから。印刷業界としては今後も環境問題への対応が業績や事業展開に大きな影響を与えることと想定されます。
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印刷業界におけるM&Aの目的
印刷業界においても、シナジー(相乗効果)を生むM&Aが活発に行われています。会社の成長戦略の一環として譲受を検討し、企業価値を高める一つの重要な手法です。具体的な目的としては、経営資源や技術の共有、事業ポートフォリオの多角化、市場シェアの拡大などが挙げられます。
経営資源や技術の共有
印刷業界においてM&Aを行う目的の一つに、経営資源や技術の共有があげられます。これにより、業務の効率化や専門性を向上させることが可能となります。
例えば、デジタル技術に長けた企業と印刷技術に特化した企業がM&Aすることで、互いの得意分野を活用し、サービスの幅を広げることができます。また、経営資源や人材を共有することで、業務効率化を通じて安定した経営基盤の獲得が見込めます。
事業ポートフォリオの多角化
M&Aによって事業ポートフォリオ(事業のラインナップ)の多角化も、重要な目的の一つです。異なる事業領域や顧客層を持つ企業同士が経営統合を行うことで、事業の幅を広げるとともに、リスクの分散が可能です。また、業種の違いや規模の差を活かして、効果的な営業戦略やマーケティング活動を展開できる点も大きなメリットといえるでしょう。
市場シェアの拡大
印刷業界においても、市場シェアを拡大することは業績向上や競争力強化に直結します。M&Aを通じて、他社を買収することで、市場シェアの拡大が期待できます。シェアを拡大することで、価格交渉力も向上し、顧客ニーズや市場環境の変化に柔軟に対応したうえでさらなる事業成長を実現することが可能となるでしょう。
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印刷業界におけるM&Aの成功ポイント
M&Aは相談から成約まで論点が多岐に渡り、専門家のサポートが欠かせません。印刷業界のM&Aの成功に向けて重要な要素として、専門家のサポートのもと適切なタイミングでの実行や、事前の戦略を立てることが非常に重要です。
さらに、譲渡企業と譲受企業の調整や、両者の協力関係を築くことは、M&Aの過程においてもちろん、M&A後における継続的な事業拡大・成長ためにも欠かせません。
お相手を選ぶ際には、業種や規模だけでなく、企業文化や将来ビジョンにおいて互いに納得できることが重要です。また、M&Aを通して新たな価値やサービスを顧客に提供することが目的でもあり、そのためにはデジタル化や人材活用が不可欠であるといえるでしょう。
お相手企業選びの重要性
M&Aにおいて、適切な相手企業を選ぶことは極めて重要です。業界における市場動向や成長性を考慮し、適切な投資を行うことで、M&A後の事業拡大や競争力強化が期待できます。
また、相互の成長ニーズを満たすために、お相手企業との事業内容や目的の共有が双方にとってメリットがあるM&Aに欠かせない要素です。相手企業選びには、十分なリサーチと市場分析が必要であり、しっかりした専門家のサポートを受けることをお勧めします。
デジタル技術と人材の活用
印刷業界のM&Aにおいて、デジタル技術や既存の人材の活用はM&A成功のカギを握ります。IT技術の導入や人材教育を通じて、PMI(M&A後の事業統合)をスムーズに進めることができます。
また、デジタル技術の活用は、印刷物の生産効率や環境負荷の軽減にもつながり、専門知識やスキルを持つ人材を適切に配置することで、最大限の効果を生み出すことができるでしょう。
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印刷業界M&Aの最新動向と事例
近年の印刷業界におけるM&Aの動向を見ると、デジタル化がキーワードとなっています。M&Aにより、新しい市場や顧客層へのアプローチを可能にすることで自社の成長を目指しています。また、日本国内だけでなく、グローバルな視点でのM&Aも注目されており、多様な文化や市場環境に対応したビジネス展開がなされています。各社の実績や事例を参考に自社に適した戦略を検討してください。
成功事例: A企業とB企業のM&A
業界をリードする印刷会社A社と、市場で注目を集めるデジタル技術の専門企業B社が、事業拡大を目的に過去にM&Aを行ないました。このM&Aにより、双方の強みをもちよることでシナジー(相乗効果)が生まれ、A社は業界における地位を強化することができました。A社とB社は経営統合後も営業戦略を見直しを断続的に行い、顧客ニーズに応える製品やサービスの提供を続けています。
この成功事例が示すように、適切なM&A戦略が経営課題を解決し、企業の成長の起爆剤となる可能性があり得ます。
失敗事例: C企業とD企業のM&A
一方で、M&Aが成功を収められないケースも存在します。例として、印刷業界のC社と出版業界のD社が合併を試みたものの、経営理念の違いやD社の管理体制の不備により経営統合が失敗しました。特に、D社の対応に対する不満がC社の従業員に広がったことで、統合業務が円滑に進まず、最終的に破談しました。
この失敗事例から学ぶべき教訓は、M&Aの過程においては、企業文化の違いを理解し、M&A前に適切な対話と調整が不可欠であるということです。
スキットがアヤトを完全子会社化
スキットは商業印刷事業や印刷商品の開発や販売を行っている企業です。具体的には、選挙ポスターやノベルティーを扱っています。アヤトは企業や公的機関に向けて刊行物、宣伝品、伝票などの印刷を行っている企業です。
アヤトにとってのM&Aの目的は事業承継です。スキットにとってのM&Aの目的は、経営統合によるシナジー効果の発揮です。後継者不足によって事業を手放したい企業や、シナジー効果を発揮するための事業を買収したい企業は増加傾向にあります。その結果需要と供給がマッチし、M&Aが進みます。スキットとアヤトの事例も、このように業界の統廃合の一環と言えるでしょう。 M&Aが実施されたのは2020年8月です。
異業種企業と印刷業界のM&A事例
異業種企業と印刷業界のM&Aもまた、成功の鍵を握る要素のひとつです。例えば、食品業界の大手企業がパッケージ開発の専門企業を子会社した事例があります。このM&Aにより、環境に配慮した持続可能なパッケージ開発能力を食品業界大手企業へもたらされ、両者の事業の一層の成長につながりました。
異業種企業とのM&Aにおいては、各業界の最新技術や市場動向を把握し、戦略的な取り組みが成功へと導くポイントです。
大手出版社のM&A事例
大手出版社と印刷業界のM&A事例です。
大手出版社が自社刊行物の品質を向上させるためにM&Aを実行しました。大手出版社は、最先端印刷技術を持つ企業とのM&Aを実行し、当初の目的通りに自社事業を成長させています。
その結果、印刷物の品質が向上し、顧客満足度が向上しました。大手出版社と印刷業界のM&A事例は、業界間の連携がM&A成功の秘訣である好事例です。
デジタル企業のM&A事例
近デジタル企業と印刷関連会社のM&A事例について、概要をご紹介いたします。
ある大手出版社Eは、デジタル技術の専門企業Fを子会社化することで、電子書籍の製造やアプリケーション開発に携わる新たなサービスを展開しました。このM&Aにより、E社はデジタル化への対応力を強化し、出版事業における競争力を向上させる、E社のグループ企業である印刷会社とF社が協力し、広告事業やデジタルプリントを活用した製品開発に取り組んでいます。
この事例から、デジタル企業と印刷会社のM&Aは今後、ますます注目される分野であると考えられます。
オストリッチダイヤが北越パッケージから印刷事業を譲受
オストリッチダイヤは、紙、プラスチックフィルムなどを扱っている企業です。製本、帳票の製造などを行っています。北越パッケージは、名前の通りいろいろなパッケージの企画やデザインを行っています。
そして、オストリッチダイヤが北越パッケージから印刷事業を譲り受けました。このM&Aの目的は、北越パッケージが印刷事業を切り離して主力事業のパッケージ事業に集中することです。M&Aが行われたのは2021年5月です。
印刷業界M&Aのまとめ
印刷業界におけるM&Aは、今後も市場競争に勝ち抜く手段として、その重要性が増すであろうと予測されます。デジタル化が進む市場環境下において、印刷業界は革新的な技術やサービスを提供するためにM&Aを活用していくことは間違いないと想定されます。
最後に、M&A成功に向けて、適切な相手企業の選定や、技術と人材の活用が必要不可欠である、適宜、専門家のサポートをお受けすることをお勧めします。
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著者
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国内証券会社(現SMBC日興証券)にてクライアントの資産運用を支援。みつきコンサルティングでは、消費財・小売業界の企業に対してアドバイザリーを提供。事業承継案件のみならず、Tech系スタートアップへの支援も行う。
監修:みつき税理士法人
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