学習塾・予備校の売却は在籍生徒数と講師労務がカギ|M&Aの評価と事例

学習塾・予備校の売却では、学年ごとの在籍生徒数と、授業準備まで含めた講師の賃金管理が評価の土台です。生徒が減り講師も集まりにくいなか、閉塾ではなくM&Aを選べば、教室と雇用を次の担い手に引き継げます。価格の見方、特定商取引法やFC契約の注意点、17教室の成約事例まで、譲渡オーナーの目線で解説します。

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目次
  1. 小中学生の減少と講師不足、学習塾・予備校が売却を考える背景
    1. 小学生・中学生は過去最少、激しさを増す生徒の奪い合い
    2. 倒産は過去最多、従業員5人未満の小さな塾に集中
    3. 学習塾ならではの売却理由
  2. 教室網と合格実績を求める学習塾・予備校の買い手候補
    1. 同業の大手・中堅塾|未進出エリアの拠点と合格実績
    2. 同じFCブランドの加盟企業|複数教室を束ねる運営会社
    3. 異業種・隣接業種と投資ファンド|学童・英会話・EdTech
  3. 閉塾と比べてわかる学習塾売却の売り手メリット・デメリット
    1. 閉塾を選んだ場合に起きること
    2. 売り手が得るものと手放すもの
    3. 成長を選ぶ塾には資本業務提携という形も
  4. 在籍生徒数と講習会売上で読み解く学習塾の譲渡価格
    1. 年買法で見る学習塾の株価の目安
    2. 買い手が確かめる教室ごとの数字
    3. 名物講師への生徒の集中が評価を下げる理由
  5. 講師のコマ給と特定商取引法|学習塾の売却で特に注意すべき論点
    1. 授業準備や報告書の時間まで含めた講師の賃金
    2. 特定商取引法の書面と中途解約のルール
    3. 株式譲渡と事業譲渡で変わる契約の引継ぎ
    4. こども性暴力防止法(日本版DBS)の認定への備え
  6. 62歳の塾経営者が同じ個別指導ブランドの運営会社へ17教室を売却した事例
    1. ひとりで抱える経営に限界を感じた売却の背景
    2. いったん見送った相手を選び直した決め手
    3. 売却後に生まれたゆとりと新しい役割
    4. その他の学習塾・予備校のM&A事例
  7. 学習塾・予備校の譲渡を検討する経営者からのよくある質問
  8. 学習塾・予備校のM&A・売却支援はみつきコンサルティング
    1. 学習塾・予備校の会社売却の関連コラム
M&Aの基本や会社売却の進め方を電話相談|0120-169-256・24時間受付

受験学年が抜ける3月の生徒数の落ち込みと、年々難しくなる講師の採用。塾の行く末をひとりで抱え込む経営者は、決して珍しくありません。本記事は、学習塾・予備校の会社売却を考えるオーナー経営者に向けた内容です。学年構成の見せ方、コマ給で働く講師の未払賃金、講習費の前受金など、売却の場面で実際に問われる論点を掘り下げます。

小中学生の減少と講師不足、学習塾・予備校が売却を考える背景

駅前には塾の看板が並ぶ一方で、静かに教室を閉じる塾も増えています。地域の塾がM&Aで次の担い手を探す動きは、この変化と表裏の関係です。

小学生・中学生は過去最少、激しさを増す生徒の奪い合い

文部科学省「学校基本調査」(2025年度確定値)によると、小学校の児童数は581万2,000人と前年度から12万9,000人減り、中学校の生徒数も310万5,000人と、ともに過去最少でした。通う子どもが減れば、同じ商圏での生徒の奪い合いは強まる一方。都市部では中学受験向けの進学塾に需要が集まる半面、地方の補習塾では1教室あたりの在籍が細りがちです。大学受験の予備校も、浪人生が減り、現役生を映像授業や個別指導で支える形へ重心を移しています。

倒産は過去最多、従業員5人未満の小さな塾に集中

東京商工リサーチの集計では、2025年の学習塾の倒産は55件と、前年の53件を上回って過去最多を更新しました。従業員5人未満の塾が51件と9割を超え、原因の8割超は販売不振です。物価高のなかで月謝の値上げにも踏み切りにくい、小規模塾の苦しさが数字に表れています。倒産や閉塾に至れば、前払いの講習費の返金、講師の解雇、教室の原状回復が同時に押し寄せることに。黒字のうちに売却という出口を考える意味は、ここにあります。

学習塾ならではの売却理由

売却を考え始める理由は、後継者がいないことだけにとどまりません。塾という事業の作りから来る悩みがいくつも重なり、決断を後押しするケースが目立ちます。どれも、経営者個人の努力だけでは解きにくいものばかりです。

塾長が経営と授業を兼ね、後継者が育ちにくい

小規模な塾ほど、社長自身が塾長として教壇に立ち、保護者面談や進路指導まで担っています。生徒と保護者の信頼が社長個人に集まるぶん、子どもや社員に経営を譲ろうとしても、同じ指導力と人望を短い期間で受け継ぐのは難しいもの。親族に担い手がいなければ、第三者への事業承継が現実的な選択肢になります。

継者のいない教育事業の会社は44%

教育産業の後継者不在率は2022年49.6%、2023年46.1%、2024年44.0%と年々改善していますが、依然として高水準です。背景には、少子高齢化による労働人口減少や、創業者・経営者の高齢化、親族内承継意識の低下があります。

学習塾・予備校・専門学校の後継者不在率の推移

TDB「全国「後継者不在率」動向調査(2024年)」をもとに当社作成

教育業界では講師や人材の確保が難しく、デジタル化対応や経営環境の変化も事業承継を複雑化させています。一方、官民の相談窓口整備や事業承継支援策の普及が進み、後継者不在率は全企業平均よりも低い水準で推移しています。

大学生講師の採用難と最低賃金の引上げ

個別指導の授業を支えるのは、多くが大学生のアルバイト講師です。学生の働き口の選択肢が広がり、募集を出しても講師が集まりにくくなりました。最低賃金の引上げが毎年続くなか、時給を上げれば人件費がかさみ、据え置けば講師が離れていきます。採用力のある大手グループに加わることは、この板挟みから抜け出す有力な道です。

ICT教材への投資と日本版DBSへの備え

タブレット教材やAI教材、映像授業を取り入れるには、端末とライセンスの費用が毎年かかります。2026年12月にはこども性暴力防止法(日本版DBS)の施行も控え、講師の性犯罪歴の確認や研修の体制づくりを求められる場面も増える見込み。投資と制度対応を自前で続けられるかどうかは、単独経営を見直す節目です。

▷関連:教育・福祉業界のM&A|少子化と介護報酬改定下の譲渡価格と事例

教室網と合格実績を求める学習塾・予備校の買い手候補

子どもが減る業界で、なぜ塾を譲り受けたい企業が絶えないのでしょうか。教室をゼロから開くより早く、生徒と講師と地域の評判を得られるからです。

同業の大手・中堅塾|未進出エリアの拠点と合格実績

中心となるのは、教室網を広げたい同業の大手・中堅塾です。新しい地域に教室を出しても、知名度と合格実績が積み上がるまでには数年かかります。地域で名の通った塾を迎えれば、その時間を大きく縮められるのが利点。大手グループには、地域の塾名を残したまま運営を続ける塾が数多く並んでいます。受験で実績を持つ進学塾や、教室長が長く定着している個別指導塾は、とりわけ評価されやすい存在です。医学部受験などの専門予備校を、自社にない分野を補う目的で迎える動きもあります。

公開事例|学研グループによる白石学習院の株式取得

2026年3月3日、学研ホールディングスのグループ会社である学研教育ホールディングスは、広島市で12校舎を構える白石学習院の発行済株式をすべて取得し、同月31日付でグループに迎える予定と発表しました。1975年創業で中学受験の合格実績を持つ同社の加入により、グループ初の中国エリアの進学塾拠点を確保。合格メソッドの共有や、教材・学力診断テストとの組み合わせによる相乗効果をねらうとしています。

同じFCブランドの加盟企業|複数教室を束ねる運営会社

個別指導塾にはフランチャイズ(FC)で広がるブランドが多く、同じ看板の教室を多数運営する加盟企業も育っています。こうした企業から見れば、同じブランドの教室は本部のシステムや指導の型が共通で、引継ぎの負担が小さい相手。近くの教室を加えれば、講師の融通や広告の共同化でスケールメリットも出しやすくなります。

当社が支援した神奈川の個別指導塾(17教室)の案件でも、同じブランドの教室を49室運営する企業が譲受企業となりました。FC加盟の塾では、同ブランドの加盟企業を打診の第一候補に据え、そこから隣接エリアの同業や異業種へ広げるのが定石です。

異業種・隣接業種と投資ファンド|学童・英会話・EdTech

学童保育や保育園、英会話・プログラミング教室を営む企業は、幼児期から高校生までの子どもとの接点を長く保つ目的で塾を求めます。教材やアプリを手がけるEdTech企業は、対面の教室を自社サービスの販路や検証の場として評価。美容など本業と離れた企業が、教育を新たな柱に据えて参入する例もあります。複数の塾を束ねて価値を高める投資ファンドも候補の一角です。顔ぶれが広いぶん、打診を待つより、業界に通じたM&A仲介を通じて相手を探すほうが条件を比べやすくなります。

▷関連:サービス業のM&A|人手不足と許認可承継で変わる譲渡事例と相場

閉塾と比べてわかる学習塾売却の売り手メリット・デメリット

「塾を売るのは、生徒を見捨てるようで気が引ける」。そう話す経営者は少なくありません。実のところ、通う場を奪うのは売却より閉塾のほうです。

閉塾を選んだ場合に起きること

閉塾を決めると、在籍する生徒は年度の途中でも転塾先を探すことになります。講習費や教材費を前払いで受け取っていれば、未受講の分は返金しなければなりません。講師には解雇や雇止めを伝え、教室の賃貸借契約を解約して原状回復の費用を負担。借入金が残っていれば、返済と社長の個人保証はそのまま残ります。地域で積み上げた塾名や合格実績も、閉じた時点で価値を失うことに。売却であれば、生徒も講師も教室も、次の担い手のもとで続けられます。

売り手が得るものと手放すもの

下表は、学習塾・予備校を売却する譲渡オーナーのメリットとデメリットを、生徒や講師、資金といった観点ごとに並べたものです。

観点譲渡オーナーのメリット譲渡オーナーのデメリット
生徒・保護者通う教室と指導が続く
受講契約と担当講師を引き継げば、生徒は転塾せずに学び続けられます。
方針の変化で退塾が出ることも
月謝の改定や教材の切替えに、保護者が戸惑う場合があります。
講師・教室長雇用と処遇を守れる
大手の研修や評価の制度のもとで、働き続ける道が開けます。
勤務ルールの変化で離職も
シフトや報告の決まりが変わり、ベテランが戸惑う場合があります。
譲渡対価創業者利益を受け取れる
株式の譲渡益は約20%の分離課税で、手取りを見通しやすくなります。
希望額に届かない場合も
生徒数が減っている局面では、のれんが控えめに見積もられがちです。
借入金と個人保証個人保証を外せる
譲受企業の信用で、借換えや保証の差替えを進められます。
解除の時期は金融機関次第
同意の取付けが遅れると、保証が外れる時期がずれ込みます。
教務・ブランド教材やICTの選択肢が増える
グループの模試や映像授業を取り入れ、指導の幅を広げられます。
塾名やカリキュラムの見直し
統合の方針によっては、塾名や教材の変更を求められます。
経営者自身経営の重圧から離れられる
資金繰りや採用、保護者対応の最終責任を手放し、次の人生を描けます。
引継ぎ期間と競業避止義務
一定期間の引継ぎに加え、近隣での開塾が制限されるのが一般的です。

表中のデメリットの多くは、交渉で手当てできます。たとえば競業避止義務(一定の地域・期間で同じ事業を営まない約束)は、範囲を具体的に決めれば退任後の選択肢を狭めずに済みます。手取りを比べるときは、株式譲渡の税金に加えて、M&Aの手数料も差し引いて考えましょう。

成長を選ぶ塾には資本業務提携という形も

後継者はいるものの、教室を増やす資金と講師が足りず、成長が頭打ちになっている塾もあります。そうした塾には、大手や異業種と資本業務提携を結び、株式の一部を持ってもらう道があります。経営を続けながら、教材やICT、採用の仕組みを共有できるのが利点です。中小企業のM&Aでは、将来の全株式の譲渡を見据えて段階的に進める例も。「会社を売りたい」とまで決めきれない段階でも、相談する意味は十分にあります。

在籍生徒数と講習会売上で読み解く学習塾の譲渡価格

夏期講習の売上が乗った8月の試算表を、そのまま譲受候補に渡してしまうケース。月ごとの山と谷が大きい塾では、こうしたつまずきがよく起こります。

年買法で見る学習塾の株価の目安

株価の算定にはDCF法や類似会社比較法もありますが、中小の学習塾で最もよく使われるのは年買法(年倍法)です。時価純資産(資産と負債を時価で見直した差額)にのれん(数年分の利益)を加えて目安を出す方法で、式で表すと時価純資産+のれんです。教室を借りて営む塾では、資産の多くが敷金・保証金と内装で、講習費や教材費の前受金は負債に入ります。純資産が薄いぶん、のれんの元になる利益の安定度が価格の中心を占めます。

買い手が確かめる教室ごとの数字

譲受企業が見るのは、決算書の利益だけではありません。下表の数字を教室別・月別にそろえておくと、利益の安定度を裏づける材料になります。

見られる数字譲受企業が見る中身用意しておきたい資料
学年別の在籍生徒数受験学年の比率と、卒業で抜けた分を新年度の入塾で埋められているか月末在籍の学年別推移(3年分)
退塾率月ごとの退塾者数と理由、特定の講師や教室への偏り退塾者の一覧と退塾理由の記録
学年進行時の継続率小6から中1、中3から高1へ上がる際に残る生徒の割合学年進行時の継続者数
講習会の参加率と単価夏期・冬期・春期講習の売上が年間売上に占める比重講習別の申込数と売上
人件費率と講師の構成正社員と学生講師の比率、時給の水準、教室長の勤続年数講師名簿と賃金台帳
教室別の損益家賃と人件費を差し引いた教室ごとの採算教室別損益表と賃貸借契約書

支援現場では、中3生や高3生の多い学年構成の塾ほど、3年分の学年別在籍を並べて示すよう勧めています。受験学年が抜ける3月に在籍が落ち込んでも、4月以降の入塾で毎年埋め戻せていれば、譲受企業もその谷を一時的なものとして扱えるわけです。単年の数字だけでは減少基調と見分けがつかず、のれんを控えめに見積もられる原因になりがちです。

講習会の売上は12か月でならして示す

学習塾の売上は、夏期講習の8月と冬期講習の12月から1月に山ができ、受験が終わる2月以降は在籍が減っていきます。講習会の比重が大きい塾ほど、特定の月の試算表だけでは実力が伝わりません。12か月分を並べ、通常授業と講習会の売上を分けて示すのが基本。講習会の参加率の高さは、保護者からの信頼の厚さを示す材料にもなります。

講習費を売上に計上する月のずれ

講習費を入金した月に売上として計上している塾では、授業より先に利益が立つ形になります。決算期末をまたぐ冬期講習や春期講習があると、期ごとの利益が実態より膨らんだり縮んだりしがちです。授業を行った月で計上し直した数字を示せれば、譲受企業による利益の修正で価格を削られる事態を防げます。

教室長の勤続年数と学生講師の層の厚さ

数字を支える人の厚みも、評価の対象です。教室長が何年同じ教室を任されているか、学生講師が卒業で入れ替わっても授業が回る採用の仕組みがあるか。運営が特定の人に頼り切っていないと示せれば、売却後の退塾を心配する譲受企業の不安が和らぎます。

名物講師への生徒の集中が評価を下げる理由

地域で評判の名物講師は強みに見えますが、生徒の多くがその講師目当てで通っている場合、譲受企業は慎重になります。講師が辞めれば、担当の生徒がまとめて退塾しかねないからです。講師ごとの担当生徒数を把握し、授業の型や教材を教室全体で共有しておけば、属人性への懸念は薄められます。こうした地道な取組みが企業価値を押し上げ、提示額が売却相場の上側に寄るかどうかを分けます。

講師のコマ給と特定商取引法|学習塾の売却で特に注意すべき論点

授業の分の給料はきちんと払っている、と胸を張る経営者ほど、譲受企業によるデューデリジェンス(譲受前の調査)で思わぬ指摘を受けがちです。

授業準備や報告書の時間まで含めた講師の賃金

学生講師の給与を、授業1コマごとの単価で払う「コマ給」は、塾で広く使われる仕組みです。見落とされやすいのが、授業の前後に行う準備や質問対応、報告書の作成、会議の時間。塾の指示で行う業務なら労働時間に当たり、賃金の支払いが必要になります。授業の時間だけを労働時間として扱い、労働基準監督署の是正勧告を受けた塾の例もあります。賃金の請求は過去3年分までさかのぼれるため、未精算の分は簿外債務(決算書に載らない債務)として価格の引下げにつながりかねません。

業務委託で契約している講師の扱い

講師と業務委託契約を結んでいる塾もあります。ただし、時間割や指導方法を塾が決め、教室で指示を受けながら働いているなら、契約の名称にかかわらず労働者と判断される可能性があります。その場合、残業代や社会保険の負担が後から生じることも。契約書の文言と実際の働き方が合っているかを、売却の前に見直しておきましょう。

特定商取引法の書面と中途解約のルール

学習塾の受講契約は、期間が2か月を超え、入会金や教材費を含む総額が5万円を超えると、特定商取引法の特定継続的役務提供(長期・高額の継続サービスへの規制)に当たります。契約前の概要書面と契約後の契約書面の交付が義務で、契約書面に不備があれば8日間のクーリング・オフの期間が始まりません。中途解約の解約料にも上限があり、授業の開始前は1万1,000円、開始後は受けた授業の対価に加え、2万円か1か月分の授業料の低いほうまで。上限を超える解約料や、解約そのものを認めない規約は無効と判断されるおそれがあります。

講習費の前受金と表明保証の手当て

みつきコンサルティングでは、受講規約と書面の控え、返金の記録を早い段階でそろえていただきます。講習費を前払いで受け取る塾では、クロージング(代金の支払いと株式の引渡し)時点の前受金の残高が、譲受企業の引き継ぐ授業の義務そのもの。残高は財務デューデリジェンスでも調べられるため、運用の不備は売却前に正すか、表明保証(契約時点の事実に誤りがないと約束すること)と補償の範囲で手当てするかを決めておきます。

株式譲渡と事業譲渡で変わる契約の引継ぎ

塾の売却は、会社ごと引き継ぐ株式譲渡で行うのが一般的です。教室の一部だけを切り出すときは事業譲渡を使いますが、下表のとおり、契約を相手ごとに移し替える手間が生じます。みつきコンサルティングが仲介した日本語学校の案件でも、事業譲渡では許認可の取り直しに時間がかかるとわかり、株式譲渡に切り替えた経緯があります。

引き継ぐ契約・情報株式譲渡の場合事業譲渡の場合
生徒・保護者との受講契約会社が当事者のまま続く保護者ごとに契約の移転への同意を得るか、結び直しが必要
講師・社員の雇用雇用契約はそのまま続く本人の同意を得て転籍。辞退する人が出るおそれ
FC加盟契約契約は続く。株主の変更に本部の承認や届出を求める条項の有無を確認本部の承認を得て地位を移すか、譲受企業が新たに加盟
教室の賃貸借契約原則そのまま。株主の変更を解除の理由とする条項の有無を確認貸主の承諾を得て賃借権を譲渡するか、契約を結び直す
生徒・保護者の個人データ会社が保有したまま事業の承継に伴う提供として移せるが、元の利用目的の範囲で扱う

駅前のビルに入る教室では、株式譲渡でも油断できません。株主の変更を解除の理由に挙げる条項があれば、貸主への事前の相談が欠かせなくなります。

FC本部の承認は基本合意の前に読み解く

FC加盟の教室を売る場合、加盟契約には、契約上の地位の譲渡や株主の変更に本部の承認を求める条項が置かれていることが多くあります。譲受企業の審査や研修、承認の手数料が条件とされることも。基本合意の前に該当条項を読み、本部へ伝える時期と順序を決めておけば、終盤で足止めされずに済みます。FCの契約実務に明るい仲介会社を選ぶことも、本部とのやり取りを円滑に進める方法です。

こども性暴力防止法(日本版DBS)の認定への備え

2026年12月25日に施行されるこども性暴力防止法では、学校や認可保育所に対策が義務づけられる一方、学習塾は国の認定を受けて同じ対策を行う「認定制度」の対象になります。修業期間が6か月以上で対面で指導し、教える人が3人以上いることなどが要件。認定を受けると、講師の性犯罪歴の確認や研修、相談体制の整備が求められます。認定の有無は保護者が塾を選ぶ目安になり得るため、譲受企業にとっても準備の状況は気になる項目です。株式譲渡か事業譲渡かで手続の確認事項も変わるので、方針を早めに固めておきたいところ。

62歳の塾経営者が同じ個別指導ブランドの運営会社へ17教室を売却した事例

川崎市で個別指導塾を運営していた灯学舎の事例です。みつきコンサルティングが仲介し、2023年12月に成約しました。

個別指導塾で講師がノートを指し示しながら生徒に優しく勉強を教えている様子

ひとりで抱える経営に限界を感じた売却の背景

2010年設立の灯学舎は、個別指導塾を17教室まで広げ、売上は3億7,800万円に達していました。後継者はおらず、62歳の節目を迎えた代表は、業界の再編が進むなかで「自分だけでは限界がある」と痛感。長年支えてくれたスタッフに、より良い環境を用意したいとの思いも背中を押しました。

いったん見送った相手を選び直した決め手

譲受企業は、美容と教育の事業を営み、同じブランドの教室を49室運営するヤマノホールディングスです。代表は交渉の途中でいったん見送りを決めましたが、相手先の強い意向を受け、担当者が粘り強く交渉をつなぎました。条件だけでなく、経営理念や現場で働く人の気持ちまで考えてくれた姿勢が信頼につながったといいます。

売却後に生まれたゆとりと新しい役割

経営の第一線を離れた今は「肩の荷が下りた」と語り、新体制のもとで若手経営者の指導にも力を注いでいます。

【インタビュー全文】17教室の個別指導塾を託した経営者が、いったん見送った交渉の末に下した決断を読む

その他の学習塾・予備校のM&A事例

学習塾業界におけるM&Aは、大手教育会社が生徒に対する教育サービスの質の向上や効果的なサポートを充実させることを目的に、地域密着型の個別指導塾を譲り受ける事例がよくあります。

クリエイト研究会の富士山マガジンサービスへの譲渡(2025年1月)

富士山マガジンサービスは2025年1月24日、クリエイト研究会(大阪府茨木市)から医系予備校・学習塾事業を取得することを発表しました。取得価額は約2500万円(うち株式取得分は1円の備忘価格)で、取得予定日は2025年3月31日です。クリエイト研究会は「ミリカ予備校」「ミリカ医専」「ミリカ学習塾」などを運営しており、特に実用英語検定試験の2級以上に早期合格できる英語対策に強みを持っています。この取得は教育事業拡大の一環で、昨年7月に傘下に収めた「翔進予備校」に続くものです。

学習塾MHのMoonJapanへの譲渡(2024年12月)

教育系インパクトスタートアップのMoonJapanは2024年12月19日、学習塾MH(略称)の事業買収を完了し、2025年4月より総合型選抜特化の受験対策塾「MoonAcademy」を本格始動させることを発表しました。MoonJapanは「教育を共育で変える」をミッションとする企業で、買収によって特に地方在住の受験生が直面する「都会と地方での教育格差」という社会課題の解決に挑戦します。MoonAcademyでは総合型選抜対策や実践的なキャリア探究、地域や時間の制約を越えたコミュニティ活動などを提供予定です。

グローバルアシストホールディングスのユナイテッドへの譲渡(2024年11月)

ユナイテッド株式会社は2024年11月13日、個別指導塾「ベスト個別」を運営するベストコ(福島県郡山市)の子会社化を目的として、その持株会社であるグローバルアシストホールディングスの株式を取得することを決定しました。譲受による取得価額は約9.77億円で、取得後の所有割合は51.0%となります。ユナイテッドは本件M&Aを通じて個別指導塾領域に新規参入し、教育事業で培ったノウハウやリソースを基にテクノロジー活用の強化および教室数の拡大を加速させる方針です。

一会塾の成学社への譲渡(2024年4月)

株式会社成学社は2024年4月19日、医学部・難関大学に特化した大学受験専門予備校を運営する株式会社一会塾(神奈川県川崎市)の発行済株式を取得したことを発表しました。この買収は少子化や教育のデジタル化により競争が激化する教育産業市場において、学習塾のM&Aが活発化している流れの一環です。業界では大手教育企業による積極的なM&A戦略が実施されており、スケールメリットを活かした教育施設の拡充や経営効率化が図られています。

京都洛西予備校のベネッセコーポレーションへの譲渡(2023年3月)

株式会社ベネッセホールディングスは2023年3月17日、京都市内を中心に小中高校生向けの学習塾「洛西進学教室」等を運営する株式会社京都洛西予備校の発行済全株式を取得する株式譲渡契約を締結しました。京都洛西予備校は「一人ひとりの個性を大切に」を教育理念とし、京都市西京区を中心に7教室を展開する地域密着型の学習塾で、公立高校受験や公立中高一貫校受験において高い合格実績を有しています。ベネッセグループは同社を連結子会社化することにより、アップと京都洛西予備校の事業連携と経営資源の共有化を推進し、京阪神エリアにおける塾・教室事業の強化を図ることを目指しています。

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学習塾・予備校の譲渡を検討する経営者からのよくある質問

受講契約や広告、併設事業など、塾の売却ならではの質問を集めました。

Q:塾長として授業も受け持っています。売却後も教壇に立てますか?

立てるケースは多くあります。生徒や保護者の信頼が厚い塾長が急にいなくなると退塾につながるため、買い手も一定期間は現場に残ってほしいと考えるのが通例です。現場では、講師としての雇用契約や顧問契約で期間と報酬を決め、その間に後任の教室長へ担当の生徒を受け渡す計画を立てます。長く教え続けたいなら、最初の面談で希望を伝えておくのが得策です。

Q:これまでの合格実績は、売却後も広告に載せられますか?

株式譲渡なら運営会社は変わらないため、同じ塾の実績として載せ続けるのが通常です。事業譲渡で運営会社が替わる場合や、買い手の塾名に統合する場合は、どの教室・どの年度の実績かを明記し、景品表示法の優良誤認(実際より優れていると誤解させる表示)を招かない形にそろえます。講習会だけの受講生を合格者に数えるかなど、集計の基準を文書にしておくと安心です。

Q:放課後等デイサービスや学童を併設しています。塾だけを売却できますか?

可能です。塾の部分だけを事業譲渡や会社分割で切り出せば、放課後等デイサービスは手元の会社に残せます。反対に会社ごと株式譲渡し、デイサービスだけを残す場合は、別会社へ移す際に児童福祉法に基づく事業所の指定を受け直す必要が生じやすくなります。学童保育も、市町村への届出や補助金の条件を確かめておきたいところ。どの事業を動かすかで、手法の向き不向きが変わります。

Q:タブレット教材や映像授業の契約は、買い手に引き継げますか?

契約の相手と中身次第です。株式譲渡なら契約は会社に残りますが、利用規約に株主の変更を理由とする解約の定めがないかを点検します。事業譲渡では、契約上の地位を移すために提供元の承諾を得なければなりません。学習塾の売却を支援するみつきコンサルティングは、教材ごとの契約期間と解約の条件を一覧にし、買い手の教材へ切り替える場合の費用まで見通せるよう準備を支えます。

税理士法人を母体とするM&A仲介会社|みつきコンサルティングが選ばれる理由

学習塾・予備校のM&A・売却支援はみつきコンサルティング

学習塾・予備校業界の会社売却では、学年別の在籍推移と講習会を含む月次の売上、講師の賃金管理と受講契約の書面が、価格と交渉を支える柱になります。FC本部の承認や日本版DBSへの備えも、早めに着手するほど負担は軽く済むもの。生徒と講師の行き先を思うほど、決断に迷うのは自然なことです。

みつきコンサルティングは、税理士法人グループに属する財務・税務に強いM&A仲介会社です。中小企業のM&A仲介の実績経験が豊富で、M&Aに特化した専門チームが相談先選びの段階から伴走します。学習塾・予備校の会社売却なら、みつきコンサルティングへ。

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学習塾・予備校の会社売却の関連コラム

著者

田原 聖治
田原 聖治事業法人第一部長/M&A担当ディレクター
みずほ銀行にて大手企業から中小企業まで様々なファイナンスを支援。みつきコンサルティングでは、各種メーカーやアパレル企業等の事業計画立案・実行支援に従事。現在は、IT・テクノロジー・人材業界を中心に経営課題を解決。M&Aの成約実績多数、M&A仲介・助言の経験年数は10年以上
監修者 神門 剛 代表取締役 / 公認会計士・税理士

みつきコンサルティングは、中小企業の会社売却・事業承継に特化した譲渡企業様に完全成功報酬制のM&A仲介会社です。売り手と買い手企業の最適なマッチングを、経験豊富なM&Aコンサルタントが初期相談から成約まで一貫してフルサポートします。

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