給食会社の売却では、決算書よりも先に「どの施設と、いつまで、いくらで契約しているか」が値段を動かします。入札更新の重さ、調理員の採用難、特定給食施設の届出や管理栄養士の配置。譲渡オーナーが直面しやすい論点と譲渡価格の見立て方、買い手の顔ぶれ、成約事例までを、税理士法人グループのM&A仲介会社みつきコンサルティングがまとめます。
受託先の入札に毎年神経をすり減らし、調理員の求人を出しても応募が来ない。そんな状態のまま、厨房設備の更新時期と自身の引退時期が重なってしまった。給食会社のオーナー経営者から寄せられる相談は、この形が多いところ。本記事は、集団給食を受託する会社の売却を検討し始めた経営者に向けて書いています。
特定給食施設の増減と外部委託率の上昇が映す給食業界の現在地
給食は毎日止められない事業です。外部委託の広がりと施設数の変化が、この業界のM&Aを静かに動かしています。
3兆円台へ戻った集団給食市場と施設区分の構成
日本フードサービス協会の推計によると、集団給食の市場規模は2023年で3兆1,741億円。内訳は事業所給食がおよそ半分を占め、病院給食が約24%、学校給食が約15%、保育所給食が約11%と続きます。2020年はリモートワークや休校の影響で大きく落ち込みましたが、その後は回復基調。給食費の値上げも金額を押し上げました。高齢者施設の増加を織り込めば、長期の需要はまだ厚いといえます。
調理業務の外部委託が6割に届いた学校給食の事情
文部科学省の学校給食実施状況等調査(2023年5月1日現在)では、公立学校の調理業務における外部委託が進み、その割合はおよそ6割に達しました。自治体が調理員の退職を補充せず、委託へ切り替える流れが背景にあります。中小の受託会社にとっては案件が回ってくる好機である反面、応札者が増えれば落札単価は下がりやすい。数を取っても粗利が積み上がらない、という声は現場でよく耳にします。
食材費の高騰を受託単価へ乗せにくい構造
学校給食は一般競争入札で数年単位の契約が主流のため、契約期間の途中で値上げを申し入れても、保護者や教育委員会への説明を伴い簡単には通りません。病院給食は入院時食事療養費という公定価格に連動します。中央社会保険医療協議会での見直しを経て、1食あたりの基準額は2024年6月に670円、2025年4月に690円、2026年6月に730円へと引き上げられました。原資は増えても、委託料への反映は交渉の巧拙次第です。
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入札更新の重さと調理員の採用難が押し出す給食会社の売却理由
後継者がいない、という一言で片づかないのがこの業界です。売却の相談は、現場が回らなくなる予感から始まることも。
数年ごとに訪れる入札更新への疲れ
受託契約は永久ではありません。自治体案件なら3年から5年で再入札、民間の事業所給食でも単年度更新は珍しくない。1施設を失えば、そこに配置していた調理員の行き場を考え直す必要が出てきます。営業と労務を同時に動かす負担が毎年のしかかり、70代を迎えたオーナーが「もう一巡は難しい」と判断する。相談先を探す段階で仲介一覧を眺め始める方も多いところです。
調理員と栄養士の採用難が細らせる受託余力
給食の現場は人が資産です。ところが調理員はパート比率が高く、平均年齢も上がっています。管理栄養士や栄養士の求人は、病院や高齢者施設との取り合い。欠員が出た施設に本社スタッフを回して急場をしのぐ運営が続くと、新規受託どころではありません。人が採れないから売上を伸ばせず、伸びないから待遇を上げられない。この循環に入った時点で、会社売却を選択肢に加える経営者が増えます。
厨房設備の更新投資と個人保証をどう外すか
自社工場やセントラルキッチンを持つ会社では、スチームコンベクションオーブンや冷却機、真空包装機の更新に数千万円規模の資金が要ります。借入とセットの個人保証は、引退を考える年齢では重い。当社が関わる給食会社の案件では、株式譲渡の実行時に譲受企業が借入を一括返済するか、保証人を差し替える形で解除へ持ち込む段取りを、金融機関と早い段階で詰めておきます。ここを後回しにすると、最終条件の詰めで話が滞ります。
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受託食数と契約更新率から見立てる給食会社の譲渡価格
価格の話になると決算書だけを見て一喜一憂しがちですが、給食会社では契約の中身が数字より先に効きます。
年買法での目安と、のれんに乗るもの
中小の給食会社で最も使われるのが年買法(年倍法)です。算式は時価純資産+のれんで、のれんには数年分の利益を目安に据えます。純資産法やDCF法、類似会社比較法も理屈としてはありますが、受託先の厨房を借りて運営する会社は資産が薄く出やすい。長く続く受託契約と有資格者の陣容があれば、そこに上乗せの余地が生まれます。
譲受企業が確かめる受託ポートフォリオの中身
下表は、給食会社の譲渡価格を見極める際に譲受企業が確認する主な指標です。年配の経営者にも読みやすい言葉を選びました。
| 指標 | 買い手が見る視点 |
|---|---|
| 受託施設数と区分構成 | 事業所・病院・学校・保育所のどこに偏るかで、収益の安定度と規制対応の重さが変わる |
| 1日あたり提供食数 | 厨房と人員の稼働効率を示し、増やせる余地の大きさにも直結する |
| 1食あたり受託単価 | 入札で削られていないか、値上げ交渉の実績があるかを確かめる |
| 契約更新率と残存期間 | 更新が続いている施設が多いほど、将来売上の確からしさが高まる |
| 労務費率 | 薄い利益率の中で差が出る項目。欠員補充の外注費が膨らんでいないかも見る |
| 管理栄養士・栄養士の在籍 | 人数と年齢構成が、病院・福祉施設案件を続けられるかの裏づけになる |
| 施設別損益の把握度 | 赤字現場を把握し手を打てているかが、経営管理の水準として評価される |
労務費率と食材費率を説明できる資料の作り方
株価算定の場面で当社がまず求めるのは、施設別の食数と損益がわかる管理資料です。全社合計の営業利益だけでは、どの受託先が利益を生んでいるのか譲受企業には見えません。逆に、施設ごとの労務費率と食材費率を並べた表が出てくると、交渉のテンポが目に見えて上がります。値上げ交渉が通った施設と通らなかった施設を分けて示せると、のれんの根拠として説得力が増すのも実感するところです。
給食会社の譲渡オーナーが手にする成果と、引き受ける制約
売却は万能薬ではありません。得るものと手放すものを、天秤にかけたうえで判断したいところです。
グループ入りで変わる仕入れ・採用・信用
大手グループの傘下に入れば、食材の共同購買で原価が下がり、採用も本部の力を借りられます。入札の場面でも、資本の後ろ盾は信用として働く。一方で、献立や食材の選定に本部の方針が及び、地域の生産者から仕入れてきたこだわりを続けにくくなる場合もあります。従業員にとっては待遇改善という良い面が大きいものの、長年の運営ルールが変わる戸惑いは残ります。
売却で得るものと引き換えになるもの
下表に、給食会社の譲渡オーナーから見た主なメリットと注意点を対にして示します。
| 観点 | 譲渡オーナーのメリット | 譲渡オーナーのデメリット |
|---|---|---|
| 事業の継続 | 後継者がいなくても受託先への供給を止めずに済む | 屋号や献立の方針が譲受企業の基準に寄せられることがある |
| 資金と保証 | 創業者利潤を得られ、借入の個人保証も解除へ進めやすい | 表明保証の対象が広く、成約後も一定期間の責任が残る |
| 人材確保 | グループの採用網と教育制度で調理員・栄養士を補いやすい | 人事制度の統合で、既存社員の役割や評価が変わる |
| 仕入れとコスト | 共同購買や物流の共有により食材費率を下げられる | 取引を続けてきた地元業者との関係を見直す必要が生じる |
| 設備投資 | 厨房設備の更新やHACCP対応の投資を親会社の資金で進められる | 投資の可否が本部判断となり、現場の裁量が狭まる |
| 受託の拡大 | 資本力と実績で、これまで届かなかった規模の施設に応札できる | 統合作業に人手を取られ、当面は新規開拓が止まりやすい |
給食会社に関心を寄せる買い手の類型と、その狙い
「うちのような規模に手を挙げる会社があるのか」。最初の面談で必ず出る問いに、類型で答えます。
同業の受託給食会社
最も多いのがこの類型です。給食は仕入れと配送の規模がそのままコスト差になるため、エリアや施設区分の異なる会社を取り込む動機が働きます。事業所給食に強い会社が病院・福祉施設向けを求める、中部が地盤の会社が関東へ広げる、といった組み合わせ。既存の受託先をそのまま引き継げるので、譲渡オーナーにとっては従業員の配置も変わりにくく、話が進みやすい相手です。
食品卸・弁当製造など隣接する事業者
業務用食材卸や惣菜・弁当メーカーが、川下の受託給食へ入ってくる動きもあります。狙いは販路の確保と工場の稼働率向上。卸から見れば、給食会社は毎日一定量を買ってくれる安定顧客であり、自社に取り込めば商流が短くなります。療養食や介護食といった専門領域を持つ会社は、この類型から高く評価されやすい傾向です。
異業種の参入と投資ファンド
介護、保育、ビルメンテナンス、人材サービスなど、施設運営に接する業種からの参入も見られます。既存顧客に給食を提案できるからです。投資ファンドは、複数の中小受託会社を束ねて規模の利を作る発想で動きます。みつきコンサルティングの成約実績を振り返ると、給食会社が譲受側に回って周辺分野の会社を迎えた案件もあり、買い手候補への打診では同業と隣接業種を並行して当たるのが実務の進め方です。
健康増進法の届出と37号告示が問う給食会社の売却で注意すべき論点
価格が折り合っても、届出と契約の段取りでつまずくと日程が崩れます。給食ならではの確認事項を押さえます。
特定給食施設の届出と管理栄養士の配置
健康増進法では、1回100食以上または1日250食以上を継続して提供する施設を特定給食施設と定め、都道府県知事への届出と管理栄養士の配置を求めています。届出の主体は施設側ですが、受託会社の人員が要件充足を支えている実態は珍しくありません。支援現場では、有資格者が特定の1人に依存していないか、退職の予兆がないかを初期段階で確かめます。ここが崩れると、受託継続そのものが危うくなるためです。
学校給食調理業務の請負区分と偽装請負のリスク
見落とされがちなのが労務の論点です。厚生労働省の37号告示に関する疑義応答集では、学校給食調理業務について、発注者から調理業務指示書が示されても、労働者の配置決定と作業の指揮命令を請負事業主が行っていれば直ちに労働者派遣とは判断されない、と整理されています。ただし献立ごとの人数指定や作業割付まで発注者が示す場合は、労働者派遣と見なされる。買い手の労務調査では、現場の指示系統が契約書どおりかを必ず確認されます。
受託契約の承継とスキーム選びで変わる手続
株式譲渡なら会社が契約当事者のまま残るため、受託契約は基本的に引き継がれます。ただし自治体案件や大手企業との契約には、支配株主の変更を通知・承諾の対象とする条項が入っていることがあり、事前の読み込みが欠かせません。事業譲渡を選ぶと、受託先ごとに契約を結び直す作業が発生します。デューデリジェンスでは大量調理施設衛生管理マニュアルに沿った記録の有無も見られるため、M&A仲介を入れて資料を先に整えるほうが安全です。
療養食の冷凍弁当メーカーが給食会社グループに加わった売却事例
集団給食の受託会社そのものではありませんが、給食大手が買い手として動いた類似業種の譲渡事例を紹介します。

譲渡に踏み切った事情
神奈川のメディカルフーズは2006年設立。疾患を持つ患者向けの療養食を冷凍弁当の形で製造・販売し、売上は2億7,500万円規模でした。譲渡理由に挙げられたのは、事業継続と雇用確保。たんぱく質や塩分を調整した献立の開発を続けるには、単独での体制維持に限界がありました。
譲受先に給食会社を選んだ理由
譲受企業は、食堂受託と給食製造を手がける東京のニッコクトラスト。1941年設立、売上210億円規模で、病院や福祉施設向けの食堂受託運営と食材卸を展開しています。療養食分野への進出と冷凍弁当の製造ノウハウ確保が目的でした。みつきコンサルティングが助言し、2018年7月に株式譲渡が成立しています。
グループ参画後に描いた姿
両社の強みが重なり、医療・介護向けの食事サービスをより充実させる形になりました。専門性の高い事業を関連業界の大手が引き受けた、業界をまたぐ相乗効果の一例といえます。
【インタビュー全文】療養食の冷凍弁当メーカーが給食大手グループ入りを選んだ経緯を読む
その他の給食会社のM&A成約事例
上記の当社事例以外で、給食業界で行われた譲渡事例を幾つか紹介します。
トーカンによる三給の全株式をM&Aで取得
セントラルフォレストグループ傘下で食品・酒類食品卸を手掛けるトーカンは、外食・給食事業者向けの業務用食材卸売業を展開する三給の全株式を取得しました。三給の業務用食材卸売事業とトーカンの給食事業でシナジーが見込めること、三給の子会社であるヒカリのスーパー惣菜向けの食品卸売事業が、トーカンの戦略領域と合致したことを理由にM&Aを実施しました。
レバストがマシモのM&Aで食品工場部門をM&Aで取得
給食事業や食事宅配事業を展開するレバストは、寿司や弁当の製造・販売を行うマシモから食品工場を全事業譲渡により取得しました。レバストは、従来の給食・宅食事業に加え中食事業への新規参入を目的としM&Aを実行しました。
ACA Next、タイリョウの給食事業の一部をM&Aで取得
官公庁・病院・学校・介護福祉施設などの食事提供事業を主業に、人材派遣・ヘルスケア事業などを手掛けるACA Nextは給食事業の販路拡大・競争力の強化を目的に、タイリョウから給食事業の一部を譲り受けました。
京進、リッチの全株式をM&Aで取得
個別指導塾のフランチャイズ展開や英会話サービス、保育サービス、介護サービス、国際人材交流事業などを手掛ける京進は、産業給食事業や食堂委託事業、園児給食事業などを展開するリッチの全株式を取得しました。京進は、自社の配食サービスのノウハウ共有と業務効率化のシナジーを目的にM&Aを実施しました。
完全成功報酬
M&Aが成立した場合のみ、譲渡対価に応じた手数料を頂戴します。
売主様は、ご成約まで費用負担なくスタートできます。
着手金・中間金
0円
月額報酬
0円
成功報酬
成約時のみ
※レーマン方式
給食会社の譲渡を検討する経営者からのよくある質問
相談の場でよく挙がる問いを、実務の答え方でまとめます。
株式譲渡であれば会社は同一なので、資格そのものは残るのが原則です。ただし自治体によっては、代表者変更や株主異動の届出を求め、審査を経て名簿情報を更新します。届出漏れのまま入札に参加すると指摘を受けることも。現場では、受託先ごとの入札参加資格審査申請の要領を洗い出し、成約後の提出物リストを先に作ります。
体制そのものより、欠員の埋まり方を見られます。求人応募がある地域か、常勤の責任者が各施設に置けているかが判断材料です。加えて社会保険の適用拡大により、短時間勤務者の加入範囲が広がっています。将来の法定福利費の増加を見込んだ試算を用意しておくと、労務調査で慌てずに済みます。
評価されます。この業態では資産ではなく、契約と運営体制が価値の中心だからです。誰と何年契約し、更新が続いているか。有資格者と調理マニュアルが揃っているか。むしろ設備を持たない分、投資負担が軽い会社として好まれる場面もあります。
可能ですが、条件次第です。厨房や配送を共用していると、切り分けたときの損益が読みにくくなります。買い手が片方だけを求める場合は事業譲渡を検討しますが、受託契約の巻き直しと従業員の転籍同意が要ります。まずは事業別の損益を分けて見せられる状態にしてから、進め方を決めるのが順当です。
給食会社の委託契約承継と売却の相談先選び
集団給食の市場は回復と外部委託の広がりに支えられている一方、入札単価と人材確保の厳しさは続きます。譲渡価格を動かすのは受託施設の構成、1食あたり単価、契約更新率、そして有資格者の陣容。特定給食施設の届出や請負区分の整理も避けて通れません。何から手をつければよいか迷うのは、当然のことです。
みつきコンサルティングは、財務・税務に強いM&A仲介会社として、中小企業のM&A仲介の実績経験が豊富です。相談先選びに迷った段階からのご相談も歓迎します。給食会社の会社売却なら、みつきコンサルティングへ。
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著者

- 事業法人第三部長/M&A担当ディレクター
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宅食事業を共同経営者として立ち上げ、CFOとして従事。みつきコンサルティングでは、会計・法務・労務の知見を活かし、業界を問わず、事業承継型・救済型・カーブアウト・MBO等、様々なニーズに即した多数の支援実績を誇る。M&Aの成約実績多数、M&A仲介・助言の経験年数は10年以上
監修者 神門 剛 代表取締役 / 公認会計士・税理士
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