事業承継計画書とは?必要な理由(業務・税制・融資)・雛形の記入例

事業承継計画とは

事業承継計画とは、経営者が事業の引き継ぎを行うための中長期的な計画です。それをペーパーに落とし込んだものが「事業承継計画書」などと呼ばれます。通常、5~10年間の計画が記載されることが多く、承継する相手先、すくなくとも方向性を決めていきます。承継先の方向性としては「親族」、「役員・従業員」、「第三者」の3つに大別されます。

いずれの選択肢も実行できない場合には、廃業という選択肢を選ぶこともあります。廃業は非常に多く、自主的な廃業を含め、2023年の休廃業・解散は約5万件でした。

事業承継計画が必要な3つの理由

事業承継は、会社の将来を左右する重要な経営課題です。後継者への円滑な引継なくして、会社の永続的な発展はありえません。しかし、事業承継には10年以上の時間を要するとも言われており、早めの準備が肝心です。

事業承継計画の作成が不可欠な理由は主に3つあります。

円滑な業務の引き継ぎのため

経営のバトンタッチを円滑に進めるためには、スケジューリングは必要です。

  • 現オーナー経営者と後継者候補の意思疎通を図るため
  • 承継時期等の目途がないと、役員・従業員も不安になるため
  • 金融機関や取引先など社外のステークホルダーに安心感を与えるため

事業承継計画の作成を通じて、現経営者と後継者の考え方のすり合わせを行い、社内・社外の関係者の理解と協力を得ながら、戦略的に事業承継を進めていくことが重要です。早い段階から周到に計画を立て、関係者への丁寧な説明を重ねることが、事業承継の成功の鍵を握ります。

事業承継税制を活用するため

事業承継を行う際の税負担を軽減するための特例措置として「事業承継税制」があります。特例措置の適用を受けるためには、事業承継計画の提出が要件の一つとなっています。

日本政策金融公庫の融資を受けるため

国を挙げて事業承継を後押ししています。例えば、政府系金融機関である日本公庫には、小規模・中小事業者に対して事業承継に関する制度融資として「事業承継・集約・活性化支援資金」が用意されています。そして、この融資を受けるための条件の1つに事業承継計画の提出があります。

事業承継計画の書き方

事業承継計画の具体的な書き方についてみていきます。

中小機構等のテンプレートの利用も可

事業承継計画の書式について、法律で定められた統一フォーマットはありません。各社の状況に合わせて、任意の形式で作成します。

事業承継支援センターや金融機関などが提供するひな形を参考にすると、網羅的でわかりやすい計画が作れます。ひな形の中で、自社にとって重要でない項目は削除し、必要だと思われる情報は追加するなど、メリハリをつけて作成するのがコツです。

テンプレートが記入例が掲載されている以下を参考にしても良いでしょう。

基本情報の整理

事業承継を行う上で欠かせない基本情報を下記に記載いたします。事前に情報を整理し、準備しておくことをお勧めします。

  • 家族関係 : 法定相続人および親族関係、株式の保有状況など
  • 承継予定時期 : 現経営者の年齢と引退のタイミング
  • 会社概要 : 沿革、事業内容、業績、財務状況、組織体制など

現状分析と将来の見通し

現在の経営状況や事業環境を分析した上で、今後の見通しを立てます。

  • 自社の強み・弱み、機会・脅威の整理(SWOT分析)
  • 今後の事業見通し、成長戦略
  • 後継者への引き継ぎ方針
  • 人材育成の考え方

現状をしっかり見据え、中長期的に目指すべき方向性を示すことが肝要です。

作成時の注意点

事業承継計画の作成を進める中で、特に留意したいポイントが4つあります。

計画開始のタイミングと十分な準備期間の確保

事業承継を進めるタイミングは、遅くても経営者が60歳を迎える前後だと言われています。60代に入ると、体力や判断力の衰えを実感する人も少なくありません。万が一の際に慌てて後継者選びを始めるようなことがあれば、十分な引き継ぎができず、事業が立ち行かなくなる恐れもあります。

そのため、60歳前後で計画をスタートし、遅くても70歳になるまでには後継者に事業を全面的に譲渡するのが理想的なスケジュールだと考えられます。なお、後継者が問題なく経営をしていけるようにサポートする期間も必要ですので、その期間も考慮して計画を立てることが重要です。

組織的なスケジュール管理

事業承継計画は、全体の大まかな流れだけでなく組織的に実行することまでスケジュールを立てておくと、後々の混乱がなくなります。計画がしっかりしているほど計画通りに進めることが難しくなりますが、ここで大事なのは計画通りであることに固執しないことです。事業承継は何年もの時間をかけて進めていくものです。事業承継計画を作って満足せずに、常にアップデートを心がけましょう。

抱えている問題の早期解決

事業承継を行うにあたって、業績不振に陥っている、資金繰りに窮しているなどの問題がある場合は、事前に解決を目指す必要があります。資金繰りに窮している状況ですと、後継者候補が会社を引き継いでくれる可能性が低くなってしまいます。場合によっては専門家など外部の力を借りつつ、承継完了に向けた組織的な取り組みを進めましょう。

適切な承継方法の選択

事業承継の方法は、子供や親族に承継するだけが選択肢ではありません。冒頭に述べた通り、大きく分けて「親族」、「役員・従業員」「第三者」の3つの選択肢があり、それぞれ特徴やメリット・デメリットが異なります。自社の状況に合った方法を選ぶのがポイントです。

第三者承継は専門機関との連携が必須

事業承継の方法として、第三者承継(M&A)を選択した場合に、最も肝心なのは、自社の希望に沿う譲渡先企業を見つけることです。自力で1社ずつ精査し、打診していくのは現実的ではありませんが、M&A仲介会社やM&Aに強い会計事務所などに相談すれば、自分の意向に沿う譲渡先企業が見つかる可能性が高くなります。

国内で行われるM&Aの多くは、M&A仲介会社が支援しています。

M&A仲介会社に依頼できる業務

M&A仲介会社には、譲渡候補企業探しから、M&Aに関する一連の流れを依頼できます。譲渡候補企業探しには、企業の価値算定資料やサマリー資料作成など、金融の専門知識がないと作成が難しい書類も必須です。M&A仲介会社はこうした書類作成も行い、譲渡候補企業への提案や条件交渉も行ってくれます。できるだけ希望の譲渡額に近づけるよう交渉してもらうことも可能です。

M&A仲介会社に依頼することのメリット

M&A仲介会社に依頼するメリットは多岐にわたりますが、その中でも一番は「自社の意向に沿った譲渡候補企業を見つけてもらえる可能性が高くなる」という点でしょう。M&A仲介会社は多くの譲渡候補企業の情報を持っているため、自力では見つけられないような優良な相手を紹介してくれる可能性が高いです。また、金融の専門知識がなくて難しい条件交渉も上手く進めてくれるのも、専門家を利用するメリットです。

事業承継計画のまとめ

事業承継計画の作成は、円滑な事業承継の第一歩です。現状分析から将来像まで見通すことで、課題の洗い出しと対策の立案が可能になります。特に、後継者の育成や社外の理解と協力を得るためには、腰を据えて臨む必要があります。フォーマットにとらわれず、自社の実情に即した実践的な計画を練り上げましょう。手間暇をかけた計画は、必ず事業承継の成功につながるはずです。

みつきコンサルティングは、税理士法人グループのM&A仲介会社として15年以上の業歴があり、中小企業M&Aに特化した経験実績が豊富なM&Aアドバイザーが多数在籍しております。みつき税理士法人と連携することにより、税務面や法律面のサポートもワンストップで対応可能ですので、M&Aをご検討の際は、成功するM&A仲介で実績のある、みつきコンサルティングに是非ご相談ください。 

著者

田原聖治
田原聖治事業法人第一部長
みずほ銀行にて大手企業から中小企業まで様々なファイナンスを支援。みつきコンサルティングでは、各種メーカーやアパレル企業等の事業計画立案・実行支援に従事。現在は、IT・テクノロジー・人材業界を中心に経営課題を解決。
監修:みつき税理士法人

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