株式譲渡承認の議事録|M&Aクロージングで必要な雛形と実務

会社売却で発行済株式を手放すとき、承認の記録は買い手が決済に応じるかどうかを左右します。取締役会か株主総会か、当事者の取締役は議決に加われるのか。譲渡制限のある会社の承認手続を流れに沿って整理し、記載事項やひな形、現場でつまずきやすい点まで、中小企業の事業承継の目線でわかりやすく解説します。

「うちの会社でも売却できるだろうか…」、「何から始めればいいんだろう…」。そのようなオーナー経営者の不安に、中小企業向けM&A仲介会社みつきコンサルティングは、20年間・500件以上の支援実績に基づき、お応えします。本格検討前の情報収集として、まずはお話をお聞かせください。

会社売却の決済直前で議事録につまずくケース

会社を譲渡する直前になって、思わぬ書類で止まることがあります。その代表が株譲渡の承認決議の議事録です。譲渡の合意は整っているのに、形式が整わず決済日がずれる。極めて稀ですが、中小企業の現場ではあり得る光景です。

買い手が決済前に必ず見る一枚

譲受企業は、対象会社が正式に譲渡を承認したかどうかを書面で確かめてから資金を動かします。口頭の約束では足りません。承認の事実を証明する議事録こそ、クロージングの可否を握る一枚になります。

不備があると何が起きるか

記載漏れや日付の誤りがあると、決議そのものの有効性が疑われます。買い手側の弁護士から差し戻され、決議のやり直しになることもあります。譲渡オーナーにとっては、想定外の時間と心労が増える局面です。株式譲渡の段取りは株式譲渡の手続全体の流れで先に押さえておくと、こうした手戻りを減らせます。

株式譲渡承認の議事録とは何か

そもそも議事録とは、会議で何を決めたかを残す公式の記録です。株式譲渡では、譲渡を認める決議を会社の機関で行い、その結果を文書化します。種類は、会社の機関設計によって二つに分かれます。中小企業における株式譲渡の基本を押さえたうえで読み進めると理解が早いです。

株主総会議事録

取締役会を置いていない会社では、株主総会で承認を決議します。譲渡承認のときだけでなく、株主総会を開くたびに作成が必要です。会社法は記載事項と保管のルールを定めています。

取締役会議事録(取締役決定書)

取締役会を設置している会社は、取締役会で承認を決議します。決められた項目を盛り込んだ議事録の作成が義務です。電磁的記録で残す場合は電子署名を用います。

取締役会のない会社の取締役決定書

取締役会はないものの、取締役の決議で承認する機関設計の会社もあります。この場合は「取締役決定書」や「取締役決議書」という名称で、取締役会議事録に相当する書面を作成するのが実務慣習です。

どちらを作るかは機関設計で決まる

承認機関は、会社のかたちで自動的に決まります。下表で整理します。表中の機関に応じて、作成すべき議事録が変わる点に注意してください。

会社の機関設計承認を行う機関作成する議事録
取締役会設置会社取締役会(出席取締役の過半数の賛成)取締役会議事録
取締役会非設置会社株主総会(普通決議)株主総会議事録
取締役のみで決議取締役の決定取締役決定書(取締役決議書)

承認機関の根拠は会社法にあります。条文はM&Aと会社法の関係で全体像をつかめます。

会社売却の承認で議事録が要る場面

議事録は、いくつかの場面で作成や提出が求められます。会社売却では、次の三つを押さえておけば実務はほぼ回ります。

譲渡契約に先立つ承認決議

譲渡制限のある株式は、契約の前に会社の承認が要ります。この承認決議の過程で、取締役会議事録や株主総会議事録が作られます。承認の入口にあたる手続です。

変更登記の添付書類として

株式譲渡そのものに登記は不要です。ただ、M&Aで株を動かすと役員や定款を変えるのが通常で、変更登記が要ります。その際、変更を承認した株主総会議事録の添付が必要になります。詳しくは株式譲渡に伴う登記と役員変更で確認できます。

株主からの閲覧謄写請求への対応

株主や債権者は、営業時間内であれば議事録の閲覧や謄写を求められます。会社法318条が定めるルールです。正当な理由なく拒むと過料の対象になり得ます。承継後の少数株主対応でも、ここは効いてきます。

株主総会議事録の記載事項とひな形

ここからは、書面に何を書くかという各論です。まずは株主総会議事録から見ていきます。機密性が高く、外部への開示を前提としない点が特徴です。

記載すべき項目

基本となる項目は次のとおりです。漏れがあると、登記や紛争の場面で書面の信頼性が下がります。

記載項目具体的な内容
開催の場所と日時株主総会を開いた場所、開始から終了までの時刻
出席者出席役員と株主の氏名、議決権を行使できる株主数と議決権数
議長議長を務めた者の役職と氏名
議事の経過と要領議案の概要、審議の経過、会計参与や監査役の発言の要旨
決議事項譲渡人と譲受人、譲渡する株式の種類と数、承認した旨

ひな形

項目を盛り込んだ株主総会議事録のひな形は、下表のとおりです。実際の運用では、機関設計と定款を確かめたうえで調整します。

区分記載例
表題臨時株主総会議事録
開催日時2025年〇月〇日 午後〇時〇分から午後〇時〇分
開催場所当会社本店会議室
出席状況株主総数〇名、発行済株式総数〇株、議決権を行使できる株主〇名、その議決権〇個、出席株主〇名(委任状を含む)
議長代表取締役〇〇〇〇
議案株式譲渡承認の件
議事の経過議長が定足数を満たした旨を述べ開会。譲渡承認請求の内容を説明し、審議の結果、出席株主の全員一致で承認可決した旨を記載
承認内容譲渡人〇〇〇〇が保有する株式〇株を、譲受人〇〇〇〇へ譲渡することを承認
末尾作成年月日、会社名、議長および出席取締役の記名押印

取締役会議事録の記載事項とひな形

続いて取締役会議事録です。考え方は株主総会議事録と近いものの、署名押印のルールに違いがあります。

記載すべき項目

取締役会議事録も機密性が高く、開示を前提としません。基本項目は下表のとおりです。

記載項目具体的な内容
開催の場所と日時取締役会を開いた場所、開始から終了までの時刻
出席者出席した取締役と監査役の氏名、総数
議長議長を務めた者の役職と氏名
議事の経過と要領議案の概要と審議の経過、発言の要旨
決議事項譲渡を承認した旨、譲渡人と譲受人、株式の種類と数

ひな形

取締役会議事録のひな形は、下表のように整えます。出席した取締役と監査役の署名または記名押印が要る点が、株主総会議事録との大きな違いです。

区分記載例
表題取締役会議事録
開催日時2025年〇月〇日 午後〇時〇分から午後〇時〇分
開催場所当会社本店会議室
出席者取締役〇名(総数〇名)、監査役〇名(総数〇名)
議案株式譲渡承認の件
議事の経過議長が定足数を満たした旨を述べ開会。譲渡承認請求の内容を説明し、議場に諮ったところ全員一致で可決承認した旨を記載
承認内容譲渡人〇〇〇〇が保有する株式〇株を、譲受人〇〇〇〇へ譲渡することを承認
末尾作成年月日、会社名、議長および出席取締役・監査役の記名押印

M&Aで議事録を整える際の注意点

承認の意思は固まっていても、書面の精度が低いと後で響きます。会社売却の場面で押さえたい注意点を下表に整理します。最左列が確認すべき観点、右側に不備が招くリスクをまとめました。

確認の観点具体的な内容不備があったときのリスク
開催日時と場所日付、時刻、場所を正確に記す誤記があると客観的な正確性が崩れ、虚偽記載と疑われる
決定事項との一致実際に決めた内容と記載を完全に合わせる登記や裁判の証拠資料として、記載内容が事実とみなされてしまう
署名押印の要否定款の定めと用途を確認する登記添付用は議長と出席取締役の記名押印が要る場面がある
作成の速さ登記が絡む決議は2週間以内の申請に間に合わせる議事録の添付が間に合わず、変更登記が遅れる
保管期間株主総会議事録は本店で原本を10年間保管する期間を満たさず廃棄すると法令違反になる

保管や閲覧の根拠は会社法318条にあります。出典は会社法(e-Gov法令検索)で原文を確認できます。M&A全般の法務の流れはM&A法務の手続の流れを参照してください。

当事者の取締役は議決に加われない

見落とされがちな論点を一つ。承認決議の場で、譲渡する株を持つ社長自身が議決に加われるか、という問題です。ここを誤ると、決議そのものが揺らぎます。

取締役会と株主総会で扱いが違う

取締役会で承認する場合、譲渡当事者である取締役は特別の利害関係を持つ者にあたり、議決に加われません。一方、株主総会での承認なら、譲渡する株主であっても議決権を行使できます。会社の機関で結論が変わります。

誰が議決に入れるかを先に決める

承認機関が取締役会か株主総会かで、議決メンバーの組み方が変わります。決議の前に整理しておけば、決議のやり直しは防げます。株主の権利関係はM&Aでの株主の権利と議決権もあわせて確認すると安心です。

クロージング書類としての議事録チェックリスト

会社売却の決済では、議事録が「使える状態」になっているかが問われます。当社の支援現場で実際に確認している項目を、チェックリストとして整理しました。

確認項目見るポイント
承認機関の妥当性機関設計に合った機関で決議しているか
議決メンバー特別利害関係のある取締役を取締役会の議決から外したか
譲渡内容の特定譲渡人、譲受人、株式の種類と数が正確か
定足数と賛否成立要件と賛否の内訳が読み取れるか
署名押印用途に応じた記名押印や電子署名が揃っているか
原本の所在買い手が決済前に確認できる状態にあるか

買い手は通常、正式な承認の証拠として議事録の原本または写しを確認してから資金を動かします。揃える書類の全体像は株式譲渡で揃える必要書類で先に把握しておくと、直前の慌ただしさが減ります。

株式譲渡承認手続の流れ

議事録は手続のどこで生まれるのか。承認から名義書換までの流れに沿って、作成のタイミングを確かめます。譲渡制限のある会社では、この一連の流れが特に重要になります。株式譲渡制限会社の仕組みを踏まえると、各段階の意味がつかみやすくなります。

承認の請求から名義書換まで

段階ごとに、必要に応じて議事録を作成します。順を追って見ていきます。

1 譲渡承認を請求する

譲渡を望む株主が、会社に譲渡承認請求書を出します。譲渡制限株式では、譲渡側と譲受側が共同で請求書を作るのが通常です。書き方は譲渡承認請求書の書き方で確認できます。

2 取締役会または株主総会で承認する

請求を受けた会社が承認の可否を決議します。取締役会設置会社なら取締役会、非設置会社なら株主総会が行うのが原則です。ここで議事録が作られます。承認の流れは譲渡制限株式の譲渡承認の流れもご覧ください。

3 決議内容を通知する

承認の可否を、請求から2週間以内に当事者へ通知します。期限内に通知しないと、承認したものとみなされる場合があります。

4 株式譲渡契約を締結する

承認が下りたら、当事者間で株式譲渡契約書を交わします。合意は口頭でも成立しますが、後のトラブルを防ぐため書面で残します。記載事項は株式譲渡契約書の記載事項を参考にしてください。

5 株主名簿を書き換える

仕上げは株主名簿の書換です。譲渡側と譲受側が共同で会社に請求し、会社が名簿を書き換えます。請求があれば、株主名簿記載事項証明書を交付します。

株式譲渡の議事録に関するFAQ

最後に、会社売却の現場でよく受ける質問を取り上げます。一般論ではなく、実務での確認のしかたに寄せて答えます。

Q:議事録は売り手と買い手のどちらが作るのですか?

作成するのは発行会社です。実務では譲渡する側の会社が用意し、買い手が原本や写しを確認します。現場では、誰が原本を保管するかを決済前にすり合わせておきます。

Q:取締役会も株主総会もない一人会社では議事録は不要ですか?

不要ではありません。取締役の決定として取締役決定書を作成します。ただし機関設計や定款の定めで扱いが変わるため、まずは自社のかたちを確認するのが先です。

Q:ひな形をそのまま使って問題ないですか?

ひな形はあくまで土台です。機関設計や定款、決議の中身で必要な記載は変わります。登記に使う場合は要件が厳しくなるので、司法書士に内容を見てもらうのが安全です。

Q:買収の決済前は議事録のコピーで足りますか?

案件によります。写しで進む場合もあれば、原本確認を求められる場合もあります。最終契約のクロージング条項に何が書かれているかで決まるので、契約書の文言を確認しましょう。

Q:議事録に押す印鑑は実印でないとだめですか?

いいえ、通常は実印である必要はありません。株式譲渡承認の議事録であれば、一般には実印までは不要です。もっとも、その議事録を代表取締役選定などの登記添付書類として用いる特別な場面では、登記所届出印や登録印鑑が必要になることがあります

株式譲渡承認の議事録と会社売却のまとめ

株式譲渡承認の議事録は、会社売却の決済を通すための証拠となる書類です。取締役会か株主総会かは機関設計で決まり、譲渡当事者の取締役は取締役会の議決に加われません。記載事項と保管を押さえれば、譲渡オーナーが決済直前で慌てる事態は避けられます。一つひとつは地味でも、積み重ねが安心につながります。

当社は税理士法人グループのM&A仲介会社です。中小企業のM&A支援で培った実績と経験をもとに、議事録を含むクロージング書類の整備まで一貫して伴走します。会社売却の本格検討の前段階から、無料でご相談に応じています。

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著者

西尾 崇
西尾 崇事業法人第三部長/M&A担当ディレクター
宅食事業を共同経営者として立ち上げ、CFOとして従事。みつきコンサルティングでは、会計・法務・労務の知見を活かし、業界を問わず、事業承継型・救済型・カーブアウト・MBO等、様々なニーズに即した多数の支援実績を誇る。M&Aの成約実績多数、M&A仲介・助言の経験年数は10年以上
監修:みつき税理士法人

みつきコンサルティングは、中小企業の会社売却・事業承継に特化した譲渡企業様に完全成功報酬制のM&A仲介会社です。売り手と買い手企業の最適なマッチングを、経験豊富なM&Aコンサルタントが初期相談から成約まで一貫してフルサポートします。

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