ホテルの売却|旅館業許可の承継と土地建物の持ち方で選ぶM&Aと事例

ホテルの売却は、旅館業の許可を会社ごと残すのか、土地建物を手元に置いて運営だけを託すのかで、選べる手法も譲受企業の顔ぶれも違ってきます。人手不足や本館の修繕、借入に付いた個人保証に悩むオーナー経営者へ。RevPARなど客室の数字で見る譲渡価格、2023年の旅館業法改正後の許可の承継、帯広の成約事例まで、譲渡オーナーの側に立って紹介します。

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目次
  1. 客室単価の上昇と人手不足のはざまで、ホテル・旅館の売却を考える動機
    1. 延べ宿泊者数は6億6,111万人泊、旅館の客室稼働率は38.2%
    2. 客室清掃と調理場の人手が、売れる部屋数を縛る
    3. 本館の大規模修繕と借入の保証が重なる世代交代期
    4. M&Aによりサービス向上が実現
  2. 客室の稼ぐ力と土地建物の時価で見るホテルの譲渡価格
    1. 年買法で見る時価純資産+のれん、土地建物の含み益と劣化
    2. 譲受企業が客室ごとに確かめる数字
    3. 先送りした修繕は、交渉の場で価格から差し引かれる
  3. 旅館業許可を会社に残すか、土地建物を残すか、ホテル売却の手法
    1. 株式譲渡なら旅館業許可も予約も会社に残る
    2. 2023年12月の旅館業法改正で、事業譲渡でも許可を承継できるように
    3. 土地建物を手元に残し、運営だけを託す選択
    4. 建物だけの売却とM&A、比べてわかる引き継げるもの
  4. 耐震診断と特定技能の外国人材、ホテル売却で見落としやすい論点
    1. 旧耐震の本館は耐震診断と結果の公表を確かめる
    2. 特定技能「宿泊」の外国人材は手法によって手続が変わる
    3. 入湯税や宿泊税の預かり分と申告の記録
    4. 建物の借入に付いた個人保証を外す段取り
  5. 帯広でホテルと浴場を営む84歳の創業者が、2年半をかけた売却事例
    1. 数億円の借入と、見送ってきた打診
    2. 家族と従業員、会社の存続を考えた決断
    3. 立地と複数事業、金融機関の壁を越えた成約
  6. 運営を見る買い手と建物を見る買い手、ホテルの譲受候補
    1. 客室を増やしたいホテルチェーンと、旅館を立て直す運営会社
    2. 収益不動産として宿を求める不動産会社や投資ファンド
    3. 異業種や地元企業が宿の取得に動く理由
    4. マッチングサイトの掲載価格は相場の目安になるか
  7. ホテル・旅館のオーナーから寄せられる売却の質問
  8. まとめ|ホテル・旅館の売却は許可と建物の棚卸しから
    1. ホテルの会社売却の関連コラム
M&Aの基本や会社売却の進め方を電話相談|0120-169-256・24時間受付

客室清掃のパートが集まらず、空いた部屋を売り止めにしたまま週末を迎える。築40年を超えた本館の耐震補強は、見積を取ったきり手付かず。そんな悩みから会社売却を調べ始めたホテル・旅館のオーナー経営者に、読んでいただきたい内容です。宿の売却では、旅館業の許可と温泉の利用許可、建物の借入に付いた個人保証をどう引き継ぐかが、手法を選ぶ出発点になります。

客室単価の上昇と人手不足のはざまで、ホテル・旅館の売却を考える動機

インバウンドで潤っている、と外からは見られがちな宿泊業。施設の種類ごとに数字を分けると、M&Aで次の担い手を探す宿の事情も見えてきます。

延べ宿泊者数は6億6,111万人泊、旅館の客室稼働率は38.2%

観光庁「宿泊旅行統計調査」の2025年確定値(2026年7月公表)によると、延べ宿泊者数は6億6,111万人泊で、2019年を1割ほど上回りました。押し上げたのは外国人で、前年比9.4%の増加。日本人は2.7%減っています。客室稼働率は全体で61.6%と、2019年の水準にまだ届きません。施設別ではビジネスホテルが75.3%、シティホテルが74.1%なのに対し、旅館は38.2%。同じ宿泊業でも、業態によって見える景色はずいぶん違います。

客室清掃と調理場の人手が、売れる部屋数を縛る

ホテルの売上は、客室数に客室平均単価(ADR)と客室稼働率(OCC)を掛けて組み立てるもの。ところが清掃が追いつかなければ、予約の問い合わせがあっても部屋は売れません。支援現場では、チェックアウト後の清掃や夕食の配膳を担う人が足りず、一部の客室を売り止めにしたまま営業する旅館の相談も珍しくない状況です。外国人材を受け入れる制度に特定技能「宿泊」がありますが、住まいの手配や日本語の教育まで自社で担うのは、小さな宿ほど重い負担。採用の仕組みを持つグループに加われば、この悩みを分け合えます。

本館の大規模修繕と借入の保証が重なる世代交代期

開業から40年、50年と続く宿では、創業者や2代目が70代、80代を迎えても、後を継ぐ親族や幹部が見当たらない例が目立ちます。そこへ重なるのが、空調やボイラー、エレベーターの更新、旧耐震の本館の補強といった大きな投資です。宿泊業は人件費や賃借料、外注費などの固定費が重く、売上が少し落ちるだけで利益が大きく振れる構造。追加の借入には社長の個人保証が付くのが通例で、自分の代でさらに背負うのかと迷う声もよく耳にします。社外の第三者に託す事業承継は、そうした迷いへの一つの答えです。

宿を閉じずに託すことで残せるもの

廃業を選べば、従業員の解雇や予約客への連絡、建物の処分や借入の返済が、社長の肩に一度にのしかかります。売却なら、雇用と常連客の通い先、地域に根づいた宿の名前を残せる可能性が高まるもの。譲渡益を老後の資金に充てられ、個人保証から外れる道も開けます。半面、屋号や料金、仕入先が譲受企業の方針で変わることもあるため、残したいものの優先順位を先に決めておきましょう。

M&Aによりサービス向上が実現

ホテル業界でM&Aを実行したことにより、サービス向上に繋がった例が多くあります。M&A実施後のサービス向上のポイントについて解説します。

予約や管理等のシステム改善

中・小規模のホテルでは、予算やリソースの関係で予約システムの開発・効率化は難しく対応が遅れがちです。M&Aによる大手ホテルグループとの提携でシステムの統合や開発支援を受けることが可能な為、多様な顧客ニーズへの対応が可能となります。

事業運営ノウハウの共有

ホテルは、それぞれの施設で運営方針が違って当然ですが、同じルーティン業務が存在します。それらのルーティン業務を如何に効率的に且つスピーディーに実施できるかは事業運営における重要なポイントです。M&Aによりお互いのノウハウやリソースを融合することで業務の効率化を図ることができれば、お客様対応へ人員を割くことが可能となり顧客満足度の向上が期待できます。

最新のトレンドへの対応

顧客ニーズやトレンドの変化スピードが上がっており、自社単独での対応も難しくなってきています。M&Aによるグループ形成でそれぞれの強み・弱みを補完し合うことで、最新トレンドへの対応能力も強化され、お客様のニーズに対して適切なサービスが展開できるでしょう。

▷関連:レジャー業界のM&A|インバウンド回復と設備投資が動かす譲渡事例

客室の稼ぐ力と土地建物の時価で見るホテルの譲渡価格

客室数が多いほど高く売れるのか。答えは半分だけ正解で、譲受企業は部屋の数より、1室がどれだけ稼ぎ、建物があと何年使えるかに目を向けます。

年買法で見る時価純資産+のれん、土地建物の含み益と劣化

価格の算定には、純資産をもとにする方法や、将来の収益から割り引くDCF法、上場企業と比べる類似会社比較法などがあります。中小のホテル・旅館で最もよく使われるのは年買法(年倍法)で、「時価純資産+のれん」で目安を出します。のれんは、数年分の利益をもとにした上乗せ分。ホテルは土地建物の比重が大きく、古くに取得した土地は帳簿より時価が高い一方、建物は帳簿上の価値が残っていても、修繕が要れば低く見られることも。純資産の中身が、帳簿とは別の顔を見せる業種です。

借地に建つホテルは地主との契約も値付けの材料

土地を借りて建物を建てている場合、借地権の残り期間と更新の条件が価格に響きます。株式譲渡なら借りている会社は変わりませんが、契約書に株主の変更を地主へ知らせる定めがないかは確かめておきたいところ。事業譲渡で建物ごと移すと借地権の譲渡にあたり、地主の承諾が要ります。代替わりした地主との関係も含め、早めに確認しておくと交渉が滞りません。

譲受企業が客室ごとに確かめる数字

決算書の利益だけでは、宿の稼ぐ力は伝わりきりません。譲受企業は下表のような数字を3〜5期分求め、改善の余地と投資の要否を見極めます。とりわけRevPAR(販売可能な客室1室あたりの客室売上)は、単価と稼働率を一つにまとめた物差しとして重んじられるもの。表中の数字の多くは、PMSと呼ばれる予約・客室管理システムや会計のデータから作れます。数字の定義を期ごとにそろえておくと、説明の説得力が増します。

確かめられる数字譲受企業が見る中身値付けにつながりやすい状態
客室稼働率(OCC)月別・曜日別の推移
売り止めにした客室の有無
繁閑の差が小さく、人手不足による売り止めがない
客室平均単価(ADR)とRevPAR近隣の競合施設との比較
値上げ後の稼働の変化
単価を上げても稼働を保てている
GOP率(売上に対する営業総利益の割合)人件費や水道光熱費、予約手数料など運営費を差し引いた部門別の損益宿泊・料飲・宴会の損益を部門ごとに示せる
直販比率とOTA依存度自社サイト・電話・旅行会社・OTA(ネット専業の予約サイト)別の予約構成と手数料公式サイトからの予約やリピーターが一定数ある
料飲・宴会・婚礼の売上宿泊以外の部門の採算
受注済みの婚礼や宴会
宿泊以外の部門も安定した採算を保っている
建物の築年数と修繕履歴大規模修繕の時期と設備の更新計画
耐震診断の有無
修繕の記録と今後の計画書がそろっている
人員体制客室あたりの従業員数
支配人や調理長の年齢、外国人材の在留資格
要となる人の残留と後任の見通しがある

先送りした修繕は、交渉の場で価格から差し引かれる

客室の空調や浴場のボイラー、配管の更新を見送ってきた宿では、譲受企業がその費用を見積もり、価格から差し引こうとします。譲渡オーナーが把握していない劣化を交渉の途中で指摘されると、値引きの幅は広がりがち。みつきコンサルティングでは、ホテル・旅館の株価を試算する段階で修繕の見積や設備業者の点検報告を先にお預かりし、譲受企業へ示す材料に変えています。税理士法人グループとして、役員退職金を組み合わせたときの譲渡オーナーの手取りまで並べて比べられるのも、当社の強みです。

▷関連:サービス業のM&A|人手不足と許認可承継で変わる譲渡事例と相場

旅館業許可を会社に残すか、土地建物を残すか、ホテル売却の手法

建物だけ売れば早い、と不動産会社に相談したものの、許可や予約、従業員の扱いで話が止まる。ホテルの売却では、そんな行き違いが起こりがちです。

株式譲渡なら旅館業許可も予約も会社に残る

宿を中小企業のM&Aで譲る場合、多く選ばれるのが株式譲渡です。会社の持ち主が替わるだけなので、旅館業の許可や温泉の利用許可、レストランの飲食店営業許可は会社に残り、従業員の雇用も、入っている予約もOTAのアカウントも途切れません。借入は会社の債務として残り、譲渡オーナーの個人保証の扱いは別に交渉します。代表者が替わると、自治体によっては保健所への変更届を求められるため、事前の確認を。会社ごと引き継ぐぶん、譲受企業は過去の未払残業や税務の問題まで調べます。

2023年12月の旅館業法改正で、事業譲渡でも許可を承継できるように

以前は、事業譲渡でホテルを移すと、譲受企業が旅館業の許可を取り直す必要がありました。2023年12月13日施行の改正旅館業法により、保健所を通じて承認を受ければ、事業譲渡でも営業者の地位を承継できます。古い情報のまま「事業譲渡なら許可は白紙」と説明されることもあり、注意が要るところ。ただし承認は譲渡の効力発生日より前に受ける必要があり、日程の組み方は株式譲渡と大きく異なります。

日帰り入浴の大浴場や飲食店は、それぞれ別の手続

宿泊客以外にも開放する大浴場は、旅館業とは別に公衆浴場の許可で営業していることがあります。公衆浴場は、事業譲渡の後すみやかに承継の届出を出す扱い。レストランの飲食店営業許可も、食品衛生法にもとづく承継の届出で引き継げます。施設の構造を大きく変える場合は、新たな申請が必要になることも。許可証の一覧を作っておくと漏れを防げます。

温泉の利用許可は事業譲渡での承継の定めがない

温泉法が承認による承継を認めているのは、法人の合併・分割と相続の場合です。事業譲渡には承継の定めがないため、温泉旅館を事業譲渡で移すなら、新たな利用許可の申請を前提に保健所と日程を詰めます。源泉を持つ宿や、温泉を目当てに客が集まる宿ほど、手法の選択には慎重さが求められます。

会社分割で運営部門を移すときは分割前に承認を

温泉旅館の運営部門を会社分割で切り出す場合は、分割の効力が生じる前に、温泉の利用許可の承継について承認を受けておく必要があります。手続が遅れると、新たに許可を申請し直すことになりかねません。分割契約の準備と並行して、保健所へ出す書類を整えておくのが現実的です。

土地建物を手元に残し、運営だけを託す選択

ホテル業界では、建物を持つ会社と運営する会社を分ける形が広がっています。土地建物の所有はそのままに、運営会社へ貸すリース方式や、運営を任せる運営委託方式(マネジメント・コントラクト)がその代表。後継者のいない社長が会社分割で運営部門を切り出して譲り、自らは家賃収入を得る家主として残る組み立ても選べます。反対に、建物を売って借り直すセール・アンド・リースバックなら、運営を続けながら資金を手にできます。どの形が合うかは、借入の残高と、社長が何を手元に残したいか次第です。

建物だけの売却とM&A、比べてわかる引き継げるもの

土地建物だけを売る不動産の売買は、取引の形が単純な半面、許可や雇用、予約は譲受側で一から用意し直すことになります。会社や事業ごと引き継ぐM&Aとの違いは、下表のとおりです。不動産の仲介会社は物件の売買、M&A仲介は会社や事業の譲渡が本業で、相談先によって最初に示される選択肢も偏りがち。譲渡オーナーの手取りや従業員の行き先まで含め、両方の形を並べて比べてから決めても遅くはありません。

比較項目株式譲渡事業譲渡土地建物のみの売却
旅館業の許可会社に残る事前の承認で承継できる譲受側が新たに取得
温泉の利用許可会社に残る新たな申請が前提譲受側が新たに申請
従業員の雇用そのまま続く個別に同意を得て転籍原則として引き継がれない
予約・OTAのアカウントそのまま続く名義の変更や再登録が要る引き継がれない
借入・個人保証会社に残り、保証の解除を交渉引き継ぐ範囲を契約で決める売却代金で返済するのが一般的
譲渡オーナー側の課税株式の譲渡益に約20%会社の利益として法人税会社の譲渡益として法人税
個人所有なら譲渡所得の課税

耐震診断と特定技能の外国人材、ホテル売却で見落としやすい論点

成約の間際になって慌てるのは、たいてい建物の記録と人の手続です。早めに手を付けるほど、価格と日程の見通しは安定します。

旧耐震の本館は耐震診断と結果の公表を確かめる

ホテル・旅館のデューデリジェンス(譲受前の詳しい調査)で、譲受企業が時間をかけて調べるのが建物です。1981年5月31日以前に着工した旧耐震基準のホテル・旅館のうち、階数3以上かつ床面積5,000平方メートル以上のものは、耐震改修促進法で耐震診断が義務付けられ、結果も公表されます。対象外の規模でも、耐震性の資料がなければ補強費を見込んで値付けされがち。消防用設備の点検報告や、防火の基準に適合した宿に交付される表示マークの有無、建築基準法にもとづく定期報告の控えも、あわせてそろえたい書類です。

特定技能「宿泊」の外国人材は手法によって手続が変わる

特定技能の在留資格で働く外国人は、雇用する会社が替わると、届出ではなく在留資格の変更許可が必要です。出入国在留管理庁の案内でも、吸収分割や事業譲渡で所属先が移る場合はこの扱いとされています。株式譲渡なら雇用主の会社は変わらないため、この手続は生じません。事業譲渡を選ぶなら、許可が下りるまでの期間を引渡し日からの逆算に組み込むことに。登録支援機関への委託契約や、派遣・請負で入っている客室清掃の会社との契約も、引き継ぐ範囲を一覧にしておくと安心です。

入湯税や宿泊税の預かり分と申告の記録

温泉を使う宿は入湯税を、自治体によっては宿泊税も、宿泊客から預かって納める立場にあります。申告や納付に漏れがあれば、譲受後に追徴を受けるのは会社のまま。財務デューデリジェンスでは、預かった額と納めた額の突き合わせも行われます。日帰り入浴の利用者が多い宿ほど、人数の集計方法まで問われることがあるもの。月ごとの申告書の控えと、人数を数えた元の記録を残しておけば、指摘を受けても慌てずに済みます。

建物の借入に付いた個人保証を外す段取り

支援現場で時間を要しやすいのが、本館の建設や改装で借りた資金をめぐる金融機関との調整です。当社が成約を支援した帯広のホテルと浴場の案件でも、数億円の借入を抱えるなかで、金融機関との折衝が山場の一つになりました。譲受企業が保証を差し替えるのか、借り換えるのか、譲渡代金で一部を返すのか。メインバンクへ伝える時期と順番を誤ると、交渉そのものが止まりかねません。基本合意の前後で返済予定表と保証契約の写しをそろえ、外し方の筋道を描いておきます。

帯広でホテルと浴場を営む84歳の創業者が、2年半をかけた売却事例

不動産賃貸とホテル、浴場施設を営む北海道帯広市の会社が、全株式を譲渡した案件です。

不動産売買・賃貸業のM&Aによる事業承継と経営権譲渡

数億円の借入と、見送ってきた打診

2005年設立、売上2億400万円の会社を率いる84歳の創業社長には、後継者がいませんでした。数億円の借入を抱え、過去には複数のM&Aの打診を見送った経験もあります。

家族と従業員、会社の存続を考えた決断

転機は、みつきコンサルティングからの働きかけでした。家族と従業員、そして会社の存続にとって最善の道として、社長は譲渡を決めます。

立地と複数事業、金融機関の壁を越えた成約

帯広という立地、複数の事業が混在する会社の形、金融機関との折衝。いくつもの課題を越え、約2年半の長期戦の末、2025年12月に成約しました。譲受企業は、収益不動産の獲得を目指す北海道北広島市の不動産会社です。

【インタビュー全文】84歳の創業社長が帯広のホテルと浴場を託すまでの2年半を読む

運営を見る買い手と建物を見る買い手、ホテルの譲受候補

同じ旅館でも、誰が見るかで値札は変わります。客室の運営で稼ぎたい会社と、収益不動産として持ちたい会社とでは、物差しが違うためです。

客室を増やしたいホテルチェーンと、旅館を立て直す運営会社

ビジネスホテルのチェーンは、駅前など新たに建てにくい立地の客室を、時間をかけずに手に入れられる点に関心を寄せます。リゾートや温泉地では、経営が苦しくなった旅館を引き受け、自社のブランドと運営の仕組みで立て直すチェーンが知られるところ。星野リゾートや伊東園ホテルズ、大江戸温泉物語と湯快リゾートが統合したGENSEN HOLDINGSが代表例です。いずれも予約の仕組みや人材の融通、仕入のまとめ買いを持ち込めるため、単独では難しい再投資にも踏み出しやすくなります。

収益不動産として宿を求める不動産会社や投資ファンド

不動産会社や投資ファンドは、土地建物の価値と賃料収入の見込みを軸に宿を見ます。運営は別の会社に任せる前提のことも多く、稼働が伸び悩んでいても、立地や建物の状態しだいで関心を持たれるもの。当社がホテルの譲受候補を探す際は、運営を見る会社と建物を見る会社の双方に、施設名を伏せた概要書で並行して打診します。温泉地や地方都市では同業どうしの距離が近く、話が漏れれば従業員や取引先が動揺しかねません。秘密保持契約を結んだ相手にだけ名前を明かす順番を、譲渡オーナーと最初に決めておきます。

異業種や地元企業が宿の取得に動く理由

宿泊施設を持たない会社にとっても、旅館やホテルは魅力のある資産です。地元の建設会社や交通事業者、飲食や健康関連の会社などが、地域での事業の幅を広げる拠点として名乗りを上げることがあります。異業種の譲受企業は運営の経験が浅いぶん、現場を知る支配人や調理長の残留を強く望む傾向に。従業員を大切にしたい譲渡オーナーにとっては、条件をすり合わせやすい相手にもなりえます。

自動車販売の会社が倉敷の温浴宿泊施設を取得した例

TOKYO PRO Market上場のダブルツリーは2025年9月22日、岡山県倉敷市で温浴施設や飲食店、ホテルを営む山本幸の全株式を取得すると発表しました。自動車の販売・整備を主力とし、グランピングなども手がける会社です。株式は地域の中小企業再生を担うファンドから譲り受け、貸付債権とあわせた対価は4億円。観光と健康を組み合わせた温浴宿泊事業をつくり、地元で30年以上続く拠点の信頼を受け継ぐ狙いです。

マッチングサイトの掲載価格は相場の目安になるか

ネット上のM&Aマッチングサイトには、ホテルや旅館の売り案件が数多く載っています。会社売却の相場をつかむ手がかりにはなりますが、掲載の金額は譲渡オーナー側の希望で、成約の価格ではありません。土地建物を含むのか、運営の権利だけなのか、借入を引き継ぐのか。前提が違えば、同じ客室数でも金額の意味はまるで別物です。比べる際は条件をそろえて読み、交渉まで任せられる先を相談先の一覧で見比べておくと、判断を誤りにくくなります。

M&Aが成立した場合のみ、譲渡対価に応じた手数料を頂戴します。
売主様は、ご成約まで費用負担なくスタートできます。


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ホテル・旅館のオーナーから寄せられる売却の質問

ブランド契約や温泉、家族経営など、宿ならではの事情にまつわる質問を集めました。

Q:ホテルブランドとフランチャイズ契約を結んでいます。売却の妨げになりますか?

妨げにはなりませんが、契約の読み込みが先です。フランチャイズ契約には、株主や経営者が替わる際に本部の承諾を求める条項が入っていることがよくあります。譲受企業が同じブランドで続けるなら承諾の手続で済む一方、別のブランドへ替えるなら解約金や看板、予約システムの切替費用が生じることも。現場では、契約の残り期間と解約の条件を最初に確認します。

Q:源泉を自社で持つ温泉旅館です。源泉はどう評価されますか?

源泉の土地や設備は、会社の資産として時価で見ます。評価の分かれ目は、湧出量と泉温の推移、ポンプなど動力装置の更新時期、ほかの宿へ湯を分ける分湯契約の収入です。湧出量が落ちていれば、掘り直しの費用を見込まれる場合も。株式譲渡なら温泉の利用許可は会社に残ります。温泉分析書と動力装置の点検記録は、早めに用意しておくと話が進みます。

Q:女将や調理長を家族が務めています。売却後も働き続けられますか?

譲受企業との合意次第で、続けられます。旅館では女将や調理長の顔で通う常連客が多く、譲受企業のほうから一定期間の残留を求められることも。役員を退く場合は、役員退職金の支給と雇用契約への切替えを組み合わせる形が一般的です。ホテル・旅館の売却を支援するみつきコンサルティングでは、家族の処遇を価格と同じ重みで、交渉の初期に伝えるよう勧めています。

Q:成約日より後の宿泊予約や婚礼の前受金はどうなりますか?

株式譲渡なら、予約も前受金も会社に残ります。前受金は将来の宿泊や挙式を提供する義務を負った負債で、預金が多く見えても自由に使えるお金ではありません。事業譲渡では、予約と前受金をどこまで引き継ぐかを契約で切り分け、OTAや旅行会社との契約も名義の変更が要ります。婚礼の予約客への案内は、譲受企業と文面をそろえてから出すのが安全です。

税理士法人を母体とするM&A仲介会社|みつきコンサルティングが選ばれる理由

まとめ|ホテル・旅館の売却は許可と建物の棚卸しから

ホテルの売却では、RevPARやGOPで示す客室の稼ぐ力と、土地建物の時価が価格の土台です。旅館業許可を残す株式譲渡か、改正後の事業譲渡か、運営だけを託すか。手法は許可と借入の状況から選びます。長く守ってきた宿を託す決断に迷うのは自然なこと。記録をそろえるほど、道は開けます。

みつきコンサルティングは税理士法人グループに属する財務・税務に強いM&A仲介会社で、中小企業のM&A仲介の実績経験が豊富です。M&Aに特化した専門スタッフが、相談先の比較から許可の承継まで寄り添います。ホテルの会社売却なら、みつきコンサルティングへご相談ください。

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著者

田原 聖治
田原 聖治事業法人第一部長/M&A担当ディレクター
みずほ銀行にて大手企業から中小企業まで様々なファイナンスを支援。みつきコンサルティングでは、各種メーカーやアパレル企業等の事業計画立案・実行支援に従事。現在は、IT・テクノロジー・人材業界を中心に経営課題を解決。M&Aの成約実績多数、M&A仲介・助言の経験年数は10年以上
監修者 神門 剛 代表取締役 / 公認会計士・税理士

みつきコンサルティングは、中小企業の会社売却・事業承継に特化した譲渡企業様に完全成功報酬制のM&A仲介会社です。売り手と買い手企業の最適なマッチングを、経験豊富なM&Aコンサルタントが初期相談から成約まで一貫してフルサポートします。

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