事業譲渡した後の会社は自動的には消滅せず、法人は手元に残ります。「抜け殻」となった会社を清算すべきか、別事業で存続させるべきか。事業譲渡によって得た対価の活用法や、従業員・取引先への影響、競業避止義務などの注意点を、実務経験豊富な専門家が解説します。オーナー社長が直面するその後の選択肢とは?
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事業譲渡後の会社はどうなる?
事業譲渡を行った後、会社(法人)そのものは消滅せずに手元に残ります。
M&Aには大きく分けて「株式譲渡」と「事業譲渡」がありますが、この2つは譲渡後の法人の状態がまったく異なります。株式譲渡の場合、会社ごとお相手に引き渡すため、オーナーの手元から会社は離れます。 一方で事業譲渡は、会社の「事業」(ビジネス)や「資産」の一部または全部を切り出して売る取引です。 そのため、譲渡手続が完了しても、法人格自体は譲渡オーナーのもとに残り続けます。
実務の現場では、事業をすべて売り払った後、現金だけが入った「箱」のような状態で会社が残るケースも少なくありません(全部事業譲渡)。 この残った会社をどう扱うかが、事業譲渡後の重要な検討事項となります。
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株式譲渡との決定的な違い
株式譲渡と事業譲渡の最大の違いは、「経営権(株式)が移動するかどうか」にあります。 株式譲渡は、株主が保有する株式を譲受企業に譲り渡すため、経営権そのものが移動し、会社は譲受企業の子会社となります。
対して事業譲渡は、会社が保有する「事業・資産」を売却する行為です。 会社法上、事業譲渡は「取引行為」の一種とみなされます。 そのため、会社の株主や経営体制は変わらず、特定の事業部門や工場、店舗などが譲受企業へ移るだけです。 オーナー社長にとっては、会社という器はそのままに、中身のビジネスを切り離すイメージに近いでしょう。
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手元に残る対価(現金)の行方と税務
事業譲渡で得られた対価(譲渡代金)は、誰のものになるのでしょうか。 ここも株式譲渡と大きく異なる点です。 株式譲渡の場合、株を売ったのは株主(オーナー個人)なので、対価は個人に入り、税金は約20%の分離課税で済みます。
しかし事業譲渡の場合、売り手は「会社」です。 したがって、譲渡代金は「会社」(法人)に入金されます。 会社に利益が出れば、約30〜34%の実効税率で法人税等が課税されます。 オーナー個人がその現金を使うには、役員退職金や配当として会社から引き出す必要があり、そこでも所得税などがかかります。 この「税金の二重取り」のような構造には注意が必要です。
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事業譲渡後に残った法人の3つの選択肢
事業を譲渡し、対価として現金を得た会社をその後どうするか。 大きく分けて3つの選択肢があります。 オーナー社長のライフプランや、残った資産の状況によって最適な道は異なります。
多くの場合は「清算」を選ばれますが、あえて会社を残すメリットも存在します。 それぞれの選択肢について、実務上のポイントを見ていきましょう。
1. 新規事業や別事業への投資・継続
1つ目は、譲渡代金を元手に新しい事業を始める、あるいは残った別の事業を継続する選択です。 「不採算部門だけを切り離して、本業に集中したい」というケースや、「今の事業は全部売却して、身軽になって新しいことに挑戦したい」というシリアルアントレプレナー(連続起業家)的なケースが該当します。
法人格や過去の実績、金融機関との関係をそのまま活用できるのが利点です。 事業譲渡は特定の事業だけを選んで売却できるため、会社の中に「残したい事業」と「手放したい事業」が混在している場合に有効なスキームといえます。
2. 会社清算による株主への分配と廃業
2つ目は、会社を解散・清算し、法人を消滅させる選択です。 すべての事業を譲渡し、会社に現金だけが残った場合、この方法をとるオーナーが多いです。 会社を解散し、負債を整理した後に残った財産(残余財産)を株主に分配して、会社を完全に閉鎖します。
ただし、解散・清算の手続は意外と時間がかかります。 官報公告を出し、債権者保護手続を経て、税務申告を行い、最後に登記を閉鎖するまで、最低でも2ヶ月以上、通常は半年程度かかります。 「事業を売ったら終わり」ではなく、最後の手仕舞いまで気を抜けないのが実情です。
3. 資産管理会社としての存続
3つ目は、事業活動は行わず、資産管理会社(プライベートカンパニー)として存続させる選択です。 例えば、自社ビルや社宅などの不動産は譲渡対象から外し、会社に残すケースです。 事業譲渡で得た現金を運用したり、不動産の賃貸収入を得たりしながら、オーナー一族の資産管理を行う箱として活用します。
会社を清算して個人に資産を移すと多額の税金がかかる場合、あえて法人を残して役員報酬や配当で少しずつ還元していく方が、税務メリットが出ることもあります。 顧問税理士と入念にシミュレーションを行うことをお勧めします。
▷関連:事業譲渡の税金|売り手と買い手の税務リスク・M&Aでの節税対策
従業員や取引先との契約はどう変わるか
事業譲渡において最も神経を使うのが、従業員や取引先への対応です。 株式譲渡なら会社ごとお引越しするだけなので契約関係はそのまま引き継がれますが、事業譲渡はそうはいきません。 一つひとつの契約を巻き直す必要があり、実務的な負担は非常に大きくなります。
下表に、株式譲渡と事業譲渡の違いをまとめました。
| 項目 | 株式譲渡 | 事業譲渡 |
|---|---|---|
| 会社(法人格) | 譲受企業の子会社として存続 | 譲渡オーナーの手元に残る |
| 従業員の雇用 | 原則として自動承継 | 再契約(転籍手続き)が必要 |
| 取引先との契約 | 原則としてそのまま継続 | 個別に再契約が必要 |
| 許認可 | そのまま維持できる場合が多い | 原則として取り直しが必要 |
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従業員の雇用契約は「再契約」が原則
事業譲渡では、従業員の雇用契約は自動的に引き継がれません。 一旦、今の会社を退職し、譲受企業と新たに雇用契約を結び直す「転籍」の手続が必要です。 これには従業員個人の同意が必須となります。 同意がない限り、勝手に移籍させることはできません。
現場では、この「同意取り付け」が最大の難関となります。 「給与は下がるのか」「勤務地は変わるのか」「退職金はどうなるのか」。 従業員の不安に答え、納得してもらうプロセスを疎かにすると、キーマンの離職を招き、M&A自体が破談になるリスクさえあります。 労働条件通知書を新たに提示し、誠意を持って説明することが求められます。
▷関連:事業譲渡で社員はどうなる?同意か拒否か・転籍・退職金・給与の説明
取引先との契約や許認可の引き継ぎ実務
取引先との契約も、すべて契約者の名義変更(契約の巻き直し)が必要です。 数社程度なら良いですが、取引先が数百社ある場合、その事務作業は膨大になります。 また、相手先が契約継続を拒否すれば、売上基盤を失うことになります。
許認可についても注意が必要です。 建設業許可や運送業許可など、事業に必要な許認可は原則として引き継げません。 譲受企業側で新たに取り直す必要があり、許可が下りるまでの空白期間が生じないよう、行政書士等を交えた綿密なスケジュール調整が不可欠です。 この手続きの煩雑さが、事業譲渡のデメリットといえます。
▷関連:事業譲渡で許認可・資格は承継できる?引き継ぎ手順・注意点を解説
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譲渡オーナー社長の処遇と注意点
事業譲渡後、オーナー社長自身はどうなるのでしょうか。 会社そのものはオーナーの手元に残りますが、譲渡した事業からは手を引くことになります。 ここで注意すべきは、法律で定められた「競業避止義務」です。 知らずにうっかり類似のビジネスを始めてしまうと、損害賠償請求などのトラブルに発展しかねません。
社長の進退と連帯保証の解除について
譲渡した事業部門に関しては、一定期間の引き継ぎを行った後、完全に退くのが一般的です。 譲受企業の顧問として残るケースもありますが、株式譲渡に比べるとその期間は短い傾向にあります。
また、中小企業M&Aの大きな目的の一つである個人保証(連帯保証)の解除。 事業譲渡の場合、借入金などの負債は原則として会社に残ります。 ただし、譲受企業が特定の負債を引き継ぐ合意をした場合や、譲渡代金で借入金を完済した場合には、保証を解除できます。 代金で借金を返せるか、あるいは譲受企業に債務を引き受けてもらえるか、事前の調整が重要です。
競業避止義務による20年間の制限
会社法では、事業を譲渡した会社(および実質的な経営者)に対し、厳しい競業避止義務を課しています。 原則として、同一の市町村および隣接する市町村内で、譲渡した日から20年間は同じ事業を行ってはなりません。 特約を結べば、最長30年まで延長されることもあります。
「長年やってきた商売だから、別の場所でまた小さく始めよう」と安易に考えると、この規定に抵触する恐れがあります。 事業譲渡契約書には、この競業避止の範囲(地域、事業内容、期間)が細かく規定されることが多いため、必ず確認してください。 ご自身のセカンドライフの選択肢を狭めないよう、どこまでが禁止事項なのかを明確にしておくことが大切です。
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事業譲渡後の残存会社に関するFAQ
事業譲渡後の会社の行方について、よくある疑問に回答します。
役員退職金として支給するか、会社を解散して残余財産を分配する方法が一般的です。ただし、役員退職金は適正額を超えると損金算入が否認されるリスクがあり、配当は総合課税となるため、税理士によるシミュレーションが必須です。
可能です。事業譲渡では「資産」と「負債」を個別に選別できるため、負債を売り手企業に残したまま、優良な事業だけを売却することができます。残った借入金は、譲渡代金で返済するか、残った会社で返済を続けます。
転籍は強制できないため、その従業員は売り手企業に残ることになります。しかし、譲渡した事業がなくなれば仕事がなくなるため、配置転換や、場合によっては整理解雇の検討が必要になるなど、労務上の難しい対応を迫られます。
司法書士への報酬や官報公告費用、登録免許税などで、最低でも数十万円程度かかります。また、税理士への確定申告費用も別途必要です。手続の完了までには半年程度かかることを見込んでおく必要があります。
まとめ|事業譲渡後の会社とオーナーの選択
事業譲渡後、会社はオーナーの手元に残り、譲渡対価は法人に入ります。従業員や取引先の契約は個別に巻き直しが必要で、手続は煩雑です。残った会社をどうするかは、新規事業への投資、清算して分配、資産管理会社として存続の3つの選択肢があります。
当社は、みつき税理士法人グループのM&A仲介会社として、事業譲渡に特有の税務や労務手続まで見据えたご提案が可能です。M&Aアドバイザーや公認会計士・税理士がチームとなり、オーナー様の「その後」の人生設計までサポートします。「会社をどう畳むべきか」「手元資金をどう残すか」など、事業譲渡後のプランニングについて、ぜひ一度ご相談ください。
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著者

- 事業法人第二部長/M&A担当ディレクター
-
ヘルスケア分野に関わる経営支援会社を経て、みつきコンサルティングでは事業計画の策定、モニタリング支援事業に従事。運営するファンドでは、投資先の経営戦略の策定、組織改革等をハンズオンにて担当。東南アジアなど海外での業務経験から、クロスボーダー案件に関しても知見を有する。M&Aの成約実績多数、M&A仲介・助言の経験年数は10年以上
監修:みつき税理士法人
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