事業承継型M&Aとは、事業承継の手段として企業譲渡を用いることです。後継者不在の問題が全国に蔓延するなか、その有力な解決手段になり得るM&Aが拡がっています。本記事では、業界別に事業承継型M&Aの今後を占います。
事業承継型M&Aとは
事業承継型M&Aとは、後継者問題を抱える中堅・中小企業が、事業承継の解決手段として、会社売却を利用することを言います。以前のM&Aのイメージは、会社が乗っ取られるという、ネガティブなイメージが強かったですが、最近では企業の成長戦略や事業承継の選択肢として認知されてきています。
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M&Aの最新動向
以前は、上場企業や大企業間のみで行われているイメージのM&Aも、非上場企業や中小企業でも実施されることも多くなってきました。中小企業のM&A実施理由としては、事業承継の選択肢(後継者不在、業界の衰退)として検討されることが多く、最近では企業成長の選択肢としても注目を集めています。
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2023年のM&Aも活発
レコフM&Aデータベースによると、2023年の国内企業関連のM&A成約件数は、過去最高件数を記録(4,015件)。しかし、このデータは公表データをベースとして集計されており、公表義務のない企業のM&AやスモールM&A(小企業のM&A)など鑑みると、実態としては、その数倍のM&Aが実行されていると推察され、増加傾向にあります。
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休業・廃業件数は高水準
中小企業におけるM&Aの実施理由として、後継者不在による事業承継の解決策として実施されることが多いですが、世間の中小企業ではまだまだ浸透しきれていないのが現状です。東京商工リサーチの調査によると、2022年休廃業・解散企業は、コロナ関連支援が継続されていたものの3年ぶりに増加。その中の黒字率は54%と高い水準で推移しており、その原因は後継者不在を原因とするものが多いと言われております。
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事業承継の準備期間
70代、80代の経営者で事業承継の準備が完了しているという企業は、半数以下というデータもあるぐらい日本における事業承継は準備不足が否めません。また現経営者から後継者へ事業承継する際の期間としては、5~10年と意外と時間を要しているようです。
誰に事業承継をするのかを決め、まずは進めてみることが大切だと感じます。現経営者が元気で引退までの時間が長いほど、色々な事業承継の方法(親族内承継、親族外承継、M&A、経営人材ヘッドハント等)を検討実施でき選択肢が増えるでしょう。
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事業承継M&Aの動向
少子高齢化やグローバル化、IT化に伴い、多様な価値観が生まれ、従来の親族内での事業承継が難しい時代です。そんななか、合理的な第三者への事業承継が可能なM&Aは、増加が見込まれています。
事業承継M&Aの推移
現経営者の引退平均年齢である70歳を超える中小企業事業者の経営者は、2025年には約245万人に上り、そのうち約半数の127万人が後継者不在(未定)とも言われており、今後も事業承継M&Aは増加推移にあると予想されます。実際に2022年事業承継・引継ぎ支援センターで実施したM&Aは、1,514件と過去最高の件数で、右肩上がりで相談が増えています。
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国を挙げてM&Aを推進
2025年に全ての団塊世代の経営者が、75歳を超えることもあり、多くの会社で事業承継が実施されると予想されたことから、中小企業庁では事業承継の集中支援期間とし事業承継5か年計画を策定し事業承継の支援を強化しました。
日本国としても税制優遇や助成金など事業承継実施に伴うインセンティブの整備や支援プラットフォームの構築や小規模M&Aマーケットへの支援、事業統合支援や経営人材の活用など様々な事業承継支援策を実施し、事業承継M&Aに注力しています。
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業界別のM&A動向
M&Aと言っても、企業規模・地域・業界によってニーズや動向が様々です。以下では、事業承継型M&Aが多い業界別に、M&A動向を説明します。
IT業界
IT業界は、他の業界と比べても活発にM&Aが実施されている業界です。業界自体の歴史が浅い(短い)こともあり、現在も創業者オーナーで、会社としても1回目の事業承継のタイミングである会社が多いことが特徴です。家業(先祖代々の仕事)となっていないこともあり、親族外承継の方法としてM&Aが活発に実施されています。業界自体も好景気であり、積極的にM&Aを検討する譲受企業が多いことや慢性的な人材不足であることもM&Aを活発に行われている業界となっている要因と言えます。
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医療・介護業界
医療・介護業界を取り巻く環境としては、超高齢化社会いわゆる2025年問題(団塊の世代約800万人が75歳を迎える)を抱えており市場が広がるという見方がある一方、激務のイメージが強い業界であることから、慢性的な人材不足の業界でもあります。介護業界では、設備の老朽化、利用者獲得競争の激化などから業界大手のグループ傘下に入ることも多くなっています。また、医療業界においても開業医については約8割が後継者不在と言われており、今後M&Aが活発化する業界となりそうです。
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製造業界
M&A業界の中でも、最も実行件数が多いのが製造業界になります。海外生産・現地販売・OEM輸入など海外製造や取引が多かった製造業は、コロナの影響を大きく受けましたが市場規模や裾野が広い業界であることから今後も活発にM&Aが実施される業界であると予想されます。最近では専門業者から総合業者(ワンストップで対応)が増えてきていることや、卸会社などが製造機能を持つなど、独自のバリューチェーン構築など、M&Aを積極的に活用する会社も多くなっております。
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物流業界
物流業界は、M&Aが積極的に活用されてきたこともあり業界再編が進んできました。オー ナーの高齢化に伴う事業承継問題の解決策として、大手グループ傘下に入り業界を取り巻く 環境変化(雇用形態・慢性的な人材不足・多重下請け構造など)への対応策として、今後もM&Aが積極的に活用されると思われます。譲受企業としては、人材確保や地域拠点拡大を目的に自社が得意とする地域だけでなく、空白地域の補完の為、地方企業とのM&Aも多くなっております。
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建設業界
建設業界も他の業界同様、人材不足問題を抱えるが、特に資格者不足が深刻な問題となっています。建設業界の労働環境や安全対策の改善が進み、資格者の需要が高まっています。しかし、現場では資格の取得だけでなく経験値も必要となる為、自社での資格者の人材育成には非常に時間がかかります。そこで資格者確保の策として、M&Aを活用されることが増えております。また、建設業界でも専業化から総合化(ワンストップで対応)の流れがあり、主業の周辺業務を運営している会社をM&Aで買収するケースが増えております。
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M&A業界の未来予想
事業承継や成長戦略の選択としてM&Aの認知度は確実に上がってきており、時代の背景や日本国全体の課題解決策として注目が高まっています。そのため、それをサポートするM&A仲介会社や会計事務所等の業界関係者においても、体制強化と業務品質の向上が課題になるでしょう。
「第三者承継支援総合パッケージ」について
「第三者承継支援総合パッケージ」とは、経済産業省が2019年に策定した、第三者承継における支援方針をまとめた文章です。支援方針としては、年間の中小企業におけるM&Aの件数(公表されているもの)は約4,000件程度に対し潜在的な後継者不在の中小企業が127万社と言われており、第三者承継の数がまだまだ少ないといわれています。
そんな状況を打破すべく「10年間で60万者の第三者承継の実現を目指す」との指針で策定されており、黒字廃業や休業に歯止め、地域の雇用維持、技術の伝承を実現すべく支援が始まっています。
事業承継型M&Aの増加
2025年に団塊の世代の経営者が、75歳を超えることもあり、多くの会社で事業承継が実施されると予想されています。少子高齢化やグローバル化、IT化などが進み従来多かった親族内承継も減少傾向にあることやM&Aが中小企業の中で最も合理的な事業承継方法として認知度も上がってきたことから、第三者への事業承継(事業承継M&A)は、増加する方向にあると予想されています。
M&Aプラットフォームの進化による利便性向上
今までのM&Aは、M&Aアドバイザリーに相手先とのマッチングを依頼(人海戦術)することが一般的でしたが、M&A業界もIT化の流れでM&Aマッチングのプラットフォームが増えています。手軽に相手先とのマッチングが可能なため短時間でM&Aを進めたい経営者やなかなか良い相手に巡り合わず、M&Aを検討しているものの進んでいない企業などはプラットフォームの活用がお勧めです。
M&Aプラットフォームは、スピード感や便利さのメリットは大きいですが、交渉や判断などは当事者が実施しなければならないというデメリットもあります。M&Aプラットフォームの弱みを補完する意味でも、M&Aアドバイザリーと並行して活用することが最も効率的な活用の仕方だと思います。
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小規模事業者によるM&Aの増加
M&Aアドバイザリーへの成功報酬が、1,000万円~2,000万円ということもあり、今までは小規模事業者(売上1億円以下)のM&Aが、なかなか進みませんでした。しかし、プラットフォームの出現でマッチング効率があがり、1人のM&Aアドバイザーが複数の案件に取り組みやすくなったことや、起業家が小規模事業者を買収(M&A)し、買収事業者のリソースを活用することでスタートアップ時の時間と労力を削減するなどの動きがあり今後、小規模事業者のM&Aの増加が見込まれます。
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参考:M&A業界での業務内容
主な業務としては、相手先の選定・紹介、交渉・諸手続きに係るスケジューリング、価値評価・推進方法に係る助言、相手との交渉時の立会、法律事務所・会計事務所・等の専門家の紹介、デューデリジェンスの調整などM&A実行までの全ての業務を担います。
初期的な相談・マッチング
M&Aは譲渡側・譲受側共に相手先が見つからないと進めることができません。自社でM&A の相手先を見つけることは非常に困難な為、M&Aアドバイザリー会社へ相談・依頼することが一般的です。M&Aアドバイザリー会社は、相談・依頼を受けた後、自社のデータベースやネットワークを活用し、それぞれに合った相手先とのマッチング(譲渡企業と譲受企業の引き合わせ)を行います。
交渉契約サポート
M&A実行までの譲渡側-譲受側間の交渉は、財務・税務・法務・不動産など多岐にわたる上、取引金額や条件などセンシティブな交渉事項も含まれる為、譲渡側・譲受側の不要な摩擦を避ける為、交渉を代理しますので専門知識と経験値が必要です。契約についても、基本合意書や最終契約書など重要な契約も多く、法務アドバイザーへの依頼や契約内容の把握・説明などのサポートを行います。
スキーム検討
M&A実行には、譲渡側・譲受側がお互いにとって最適と考えるスキームを検討し選択する必要があります。特に重要な点としては、M&A取引金額以外に発生する税務面を考慮したスキーム検討が重要となります。スキームを決定する為、専門家によるデューデリジェンスを実施することもあります。
企業価値算定
M&Aの成否は、企業価値算定結果が一番大きな要因となると言えます。譲渡企業の財務資料を基に譲渡対象となる企業や事業の価値を算定(バリュエーションとも言う)し、M&A取引金額を決定することになります。M&Aにおける企業価値算定は、一般的な企業価値算定方法にて算出しますが、M&Aの交渉が進む中でM&A取引金額が変動することもある為、最終的な企業価値(M&A取引金額)は、デューデリジェンス実施後に決定されます。
デューデリジェンス
譲受側がM&A実行前に行う買収監査のことをデューデリジェンスと呼びます。譲受側が実施する手続きとなり、譲受側が依頼する公認会計士、税理士、弁護士といった専門家へ依頼し実施します。デューデリジェンスの結果を踏まえM&AスキームやM&A取引金額の最終決定を行います。
契約書・資料作成
M&A実行までの間、様々な契約や資料が必要となります。M&Aサポートを依頼する為の、秘密保持契約やアドバイザリー契約、相手方との交渉内容をまとめる基本合意書や最終契約書などが該当します。重要な契約書については、弁護士等の専門家に依頼が必要です。また、M&A交渉時に活用する譲受側の説明資料(ノンネームシートや企業概要書)の作成も必要で、これらの資料はM&Aアドバイザーが作成することが一般的です。
M&A後の引継支援(PMIなど)
PMIとは、ポスト・マージャー・インテグレーションの略で、M&A実行後の経営統合作業を指します。経営統合と言っても経営・業務・意識など範囲も広いことから専門家にサポートを依頼するのが一般的です。M&Aは取引の成立が成功ではなく、PMIが円滑に完了しグループとして一体運営が可能になって初めて成功と言えます。
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業界別の事業承継型M&Aのまとめ
M&Aは、事業承継の選択肢において稀なケースから日常的なケースとして認知度を上げてきました。また少子高齢化や2025年問題など時代による課題も相まって日本国としてもインセンティブや支援整備に動いており、益々、事業承継の選択肢としてM&Aが活用され事業承継M&Aの市場は拡大すると思われます。
市場が拡大すると多くのM&Aアドバイザリーが参入してきますので、M&Aアドバイザリーの選定が重要になってきます。当社みつきコンサルティングは、税理士法人グループの強みを生かし、M&A(第三者への承継)ありきの提案ではなく、事業所内承継、親族内承継など複数の選択肢のメリット・デメリットを比較した上で最適な事業承継方法を提案させて頂きます。また、事業承継方法をM&Aと選択された場合、経営コンサルティング経験者も多く在籍していることから、M&A対象企業様の詳細な事業分析を実施した上で、シナジー創出を見込める候補先の紹介に注力しております。
著者
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人材支援会社にて、海外人材の採用・紹介事業のチームを率いて新規開拓・人材開発に従事。みつきコンサルティングでは、強みを生かし人材会社・日本語学校等の案件を中心に工事業・広告・IT業など多種に渡る案件支援を行う。
監修:みつき税理士法人
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