歯科M&A|メリット・デメリットや流れ・費用・注意点、事例も紹介

歯科医院のM&Aは、経営効率化や後継者問題の解決など、さまざまなメリットがある一方で、M&Aにはリスクもあるのが実情です。この記事では、歯科医院のM&Aのメリットとデメリット、成功事例や注意点などを紹介します。M&Aの流れや費用についても解説しているため、歯科医院の引継ぎ開業や売却、合併などに興味がある方はぜひ参考にしてください。

歯科医院のM&Aとは

M&Aとは「企業間・事業部門の売買取引や企業間の組織を再編すること」です。歯科医院の場合、歯科医院同士や、歯科医院と他の企業との間で実施されます。M&Aにはさまざまな手法があり、株式譲渡や事業譲渡、役員や従業員の交代、吸収合併、分割などが代表的です。これらの手法は、歯科医院の経営課題や目的などに応じて選択されます。

歯科医院M&Aの関連用語

歯科医院の承継について学ぶ際には、「事業承継」と「居抜き売却」を理解することが重要です。以下では、それぞれの言葉の意味と、M&Aとの違いや関連性について解説します。

事業承継との違い

事業承継とは、親族や役員、従業員、第三者、企業などに事業の経営権を渡すこと全般を指す言葉です。事業承継の1手段としてM&Aを活用することもあります。

居抜き売却との違い

居抜き売却とは、店舗の物件や内装、設備を譲渡することをいいます。M&Aとの大きな違いは、企業や事業そのものを売却するわけではない点です。M&Aの場合は、譲渡側の企業が持っていたノウハウやブランド力、従業員、取引先との契約なども売却の対象です。

歯科医院M&Aの現状

歯科医院のM&Aは、どのような状況にあるのでしょうか。2023年時点の現状を解説します。

世代交代が進んでいない

歯科医院では、代表者の世代交代が進んでいないことが問題視されています。日本国内で、60歳以上の代表者が経営している歯科医院の割合は、全体の58.6%に達しています。

歯科医院では、事業を立ち上げた経営者が後継者を置かずに経営を続け、高齢になった段階で廃業や解散をするケースも少なくありません。このような状況は、地域の歯科医療の供給不足や質の低下につながります。M&Aで事業を継承して歯科医を存続させることは、譲渡側と譲受側だけではなく、地域にとってもメリットが大きいといえます。

参考:医療機関の休廃業・解散動向調査(2021年)

居抜き売却も検討される

M&Aでなく、居抜き売却による譲渡が検討されることもあります。居抜きによる開業も、M&Aと同様に、全くの新規開院に比べてコスト(費用)を下げられます。ただし、M&Aと異なり、従業員や顧客は引き継がれません。

譲受側は、従業員を採用するコスト(費用)がかかることや、新規顧客の獲得に努める必要があることに注意しましょう。機材のメンテナンスや更新など思わぬ費用が発生する可能性もあります。譲渡側は、従業員の雇用が守られないことや、自分の築いたブランドやノウハウが失われる可能性についても考慮が必要です。

歯科医院M&Aのメリット

以下では、歯科医院をM&Aするメリットについて、詳しく解説します。

地域の歯科医療サービス提供を確保できる

歯科医院のM&Aは、地域の歯科医療サービス提供を確保することに貢献します。公益社団法人日本歯科総合研究機構の調査によると、歯科医療機関の管理者のうち、2040年に周辺の歯科診療所が現在よりも少なくなると回答した人は、全体の30.8%にのぼります。

近年では、廃業を選択する歯科医院も増えているため、地域の歯科医療サービスを維持できる点は大きなメリットといえるでしょう。

参考:公益社団法人日本歯科総合研究機構『2004年を見据えた歯科ビジョン-令和における歯科医療の姿-』

従業員の雇用確保

歯科医院を廃業する場合、医院に勤務していた医師や事務員などのスタッフは、新たな雇用先を見つける必要があります。一方、事業を継承するM&Aは従業員も引き継ぐため、スタッフの雇用が確保されます。

歯科医院M&Aのデメリット

歯科医院のM&Aにはデメリットもあります。詳しく見ていきましょう。

患者の信頼を損ねるケースも

歯科医院のM&Aでは、代表者が変わることで医師の技術レベルが落ちたり、医院の診療方針が変わったりすることも少なくありません。この結果、患者からの信頼を損ね、医院に継続して通ってもらえなくなるリスクも生まれます。

従業員のモチベーション低下につながることも

従業員が院長との信頼関係をもとに働いている場合、M&Aがモチベーションの低下につながるケースもあります。また、労働条件や評価システムの変更による、モチベーションの低下も考えられるでしょう。

歯科医院M&Aの流れ

歯科医院をM&Aする場合、どのような流れで進めるのでしょうか。ここでは、一般的なM&Aの流れについて解説します。

1. 譲渡側と譲受側のマッチング

まずは、譲渡側と譲受側のマッチングが必要です。M&A専門機関や金融機関などを介し、希望に合った相手を探します。M&A専門機関には、FA(ファイナンシャル・アドバイザー)やM&A仲介会社、M&Aマッチングサイトなどがあります。

2. 基本合意の締結

譲渡側と譲受側で秘密保持契約を結んだあとに、お互いの希望条件を提示します。合意が取れれば、基本合意書を締結します。

3. デューデリジェンス(買収監査・企業調査)の実施

基本合意が締結されたあと、譲受側がデューデリジェンス(買収監査・企業調査)を実施します。医院の財務状況(資産や負債)や契約関係にどのようなリスクがあるのかを把握するねらいがあります。

4. M&A契約の締結

デューデリジェンス(買収監査・企業調査)の結果、双方に問題がなければM&A契約を締結します。

5. クロージング(成約)

最後に、クロージング(成約)を行います。売買代金の支払いや医院の引き渡し、株式や事業の譲渡などを経て、医院が譲渡されます。クロージング(成約)が完了すれば、M&Aは完了です。

歯科医院M&Aにかかる費用

歯科医院のM&Aにはさまざまな費用がかかります。ここでは、主な費用について詳しく解説します。

仲介手数料

M&A仲介会社などに支払う手数料です。譲渡側と譲受側がともに支払うことが一般的です。仲介手数料には、相談料や着手金、中間金、成功報酬の費用などが含まれます。なお、相談料や着手金、中間金は発生しない仲介会社もありますので、事前に確認してください。

売却費用

医院の評価額を、譲受側が譲渡側に支払います。医院の規模や立地、設備や患者数などによっても変わりますが、歯科医院の売却相場は2,000万円〜3,000万円程度が一般的です。医院をM&Aせず新規に開業する場合、最低でも5,000万円程度の費用がかかります。そのためM&Aは、新規開業するより低い価格で事業を始められる点も大きな魅力です。

なお、実際の価格を決める際は、専門家の評価や市場調査を参考にしましょう。

歯科医院M&Aの注意点

歯科医院のM&Aで失敗を防ぐためには、どのような点に気をつければよいのでしょうか。注意点について詳しく解説します。

譲渡側院長からの説明もしっかりと行う

歯科医院のM&Aでは、譲渡側医院がもともと持っていた文化を承継することが重要です。譲渡側の院長は、医院がこれまで歩んできた経緯を、譲受側の院長や代表者に伝えましょう。医院が作り上げてきた歴史や文化を尊重してもらうことが、患者や従業員の安心感につながります。

デューデリジェンス(買収監査・企業調査)は入念に実施する

デューデリジェンス(買収監査・企業調査)とは、売買契約を結ぶ前に、譲受側が譲渡側の事業について、実態調査することです。

歯科医院のM&Aにおいては、歯科用の医療機器などのハード部分はもちろん、患者やスタッフ、診療体制などのソフト部分も継承します。損益計算書などのデータだけでは把握できない医院の価値について、譲渡側・譲受側が共通の認識を持つことが必要です。

歯科医院M&Aの成約事例3選

歯科医院をM&Aした成功事例にはどのようなものがあるのでしょうか。ここでは、3つの事例を紹介します。

1. 愛媛県の個人クリニックの譲渡例

愛媛県にある個人クリニックでは、後継者不足からM&Aが実施されました。譲渡側がマッチングの際に気をつけた点は、金銭面だけでなく、医院がこれまで持っていた「地域の患者を優先する」という経営方針を重視してくれる譲受側を探すことです。マッチングの結果、同じ価値観を持った人材が見つかり、大きなトラブルもなく譲渡に成功しました。

2. 70代の院長が経営する歯科クリニックの譲渡例

ノウハウや想いを引き継ぐことを重視してM&Aを実施したクリニックの例です。この事例では、契約締結からクリニックを引き継ぐまでに、4カ月の期間をもうけています。通常は数週間から1ヶ月程度なので、長い期間を費やしているのが特徴です。

譲受側は技術や診療方針を学べたほか、患者や従業員とも信頼関係を築くことができたため、M&A後の患者離れも避け、売り上げの増加に成功しています。

3. 40代の院長が、医療法人にクリニックを譲渡した例

沖縄にある歯科クリニックが、医療法人によるクリニックの買収を受け入れた例です。譲渡側の院長は40代と若かったため、引退をするのではなく、法人内で人事異動をする形で業務を続けています。歯科医院のM&Aにおいては比較的珍しい事例です。

成功する歯科医院M&Aの特徴

M&Aに成功する歯科医院の特徴について解説します。

医院の価値を把握している

歯科医院のM&Aで重要なのは、譲渡側と譲受側がそれぞれ、医院の価値を適切に判断することです。医院がこれまで築いてきたブランドや人材、ノウハウなどの財産が、M&Aによって損なわれないようにしなければなりません。

専門家と協力する

ひとくちにM&Aといっても、医院の状況や要望によって、最適な手法は異なります。よりよい選択肢を検討するためにも、コンサルティングサービスやM&A仲介会社などを活用しましょう。

歯科M&Aのまとめ

歯科医院のM&Aは、後継者不足や経営効率化などの課題を解決する有効な手段です。しかし、M&Aにはメリットだけでなくデメリットや注意点もあります。M&Aに成功するためには、医院の価値を把握し、専門家と協力することが重要といえるでしょう。

歯科医院のM&Aを検討している方は、みつきコンサルティングにご相談ください。税理士法人グループのみつきコンサルティングでは、M&Aだけでなく、事業所内承継、親族内承継など複数の選択肢を提案します。

また、M&Aに付き物である相続対策にもワンストップで対応可能です。

著者

西尾崇
西尾崇事業法人第三部長
宅食事業を共同経営者として立ち上げ、CFOとして従事。みつきコンサルティングでは、会計・法務・労務の知見を活かし、業界を問わず、事業承継型・救済型・カーブアウト・MBO等、様々なニーズに即した多数の支援実績を誇る。
監修:みつき税理士法人

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