M&Aで会社を売却しても、経営者の個人保証は自動的には解除されません。株式譲渡後の連帯保証解除には、買い手企業と金融機関の合意や、契約書への明記が必須です。本記事では、借入金の引継ぎルール、個人保証を確実に外すための手順、金融機関との交渉ポイントをM&Aの専門家が実務の視点から解説します。
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M&Aで会社を売却しても個人保証は自動的に消えない
中小企業のオーナー経営者にとって、会社の借入金に対する連帯保証(経営者保証)は、長年にわたり重くのしかかる精神的な負担です。 M&Aによる第三者への承継を検討される際、「会社を売れば、当然この保証からも解放される」と考えている方が非常に多くいらっしゃいます。
銀行に解除義務はない
しかし、結論から申し上げますと、M&Aで株式を譲渡して経営権が移転したとしても、経営者の連帯保証は自動的には解除されません。 金融機関との金銭消費貸借契約は、あくまで会社および連帯保証人と銀行の間で結ばれているものであり、株主が変わったことだけを理由に、銀行が保証人を免除する義務はないからです。
売主・買主・銀行の三者間調整が必要
現場の実務において、連帯保証の解除はM&Aのクロージング(最終決済)と同時に、あるいは直後に手続を行うのが一般的です。 この手続を確実に行うためには、買い手企業と金融機関、そして売り手オーナーの三者間での綿密な調整が不可欠となります。 もし適切な手順を踏まなければ、経営を引退したにもかかわらず、他人が経営する会社の借金を保証し続けるという、極めてリスクの高い状況に陥りかねません。
本記事では、M&Aにおける借入金と個人保証の取り扱いについて、実務上の注意点や契約書への落とし込み方を詳しく解説します。
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M&Aスキーム別に見る借入金と個人保証の行方
M&Aにはいくつかの手法(スキーム)があり、どの方法を選択するかによって、借入金や保証債務の引き継がれ方が大きく異なります。 中小企業のM&Aで最も一般的に用いられる「株式譲渡」と、事業の一部を切り出す「事業譲渡」では、法的な効果が全く異なるため注意が必要です。
下の表は、主要なスキームにおける借入金と個人保証の扱いを整理したものです。
| 項目 | 株式譲渡 | 事業譲渡 |
|---|---|---|
| 会社(法人格) | そのまま存続し、株主が交代する | 売り手企業に残る(買い手には事業のみ移転) |
| 借入金の扱い | 原則として会社に残る(買い手が間接的に引き継ぐ) | 原則として引き継がない(売り手企業に残る) |
| 個人保証の扱い | 別途手続きにより、買い手側の代表者等へ変更 | 売り手経営者のまま継続(借入金が残るため) |
| 解除の難易度 | 比較的スムーズ(買い手の信用力による) | 借入金を完済しない限り解除は困難 |
株式譲渡における引継ぎのメカニズム
株式譲渡の場合、会社という「箱」ごと買い手に渡すことになります。 会社が借りているお金(債務)の名義は「会社」のまま変わりませんので、借入金そのものは自動的に新体制の会社へ引き継がれます。 また、雇用契約や取引基本契約、許認可なども原則としてそのまま維持されるため、手続が簡便であり、中小企業のM&Aの9割以上はこの手法が採用されています。
ただし、ここで問題となるのが「連帯保証人」の扱いです。 借金の名義人(主債務者)である会社は存続しますが、その保証人である「前社長」が経営から退くことになります。 銀行からすれば、「経営に関与しない人物が保証人のままである」状態は管理上好ましくありませんが、「新しい株主(買い手)の信用力が未知数」であれば、安易に保証人を切り替えることにもリスクを感じます。 そのため、株式譲渡契約の中で「買い手が連帯保証を差し入れることで、売り手の保証を解除する」という合意形成が必要になるのです。
事業譲渡では借金が手元に残る
一方、事業譲渡は会社の事業(資産や権利義務の一部)だけを売買する手法です。 この場合、借入金は原則として売り手企業に残ります。 なぜなら、銀行は「事業」にお金を貸しているのではなく、「法人」にお金を貸しているからです。 事業を売却して得た対価(譲渡代金)を使って借入金を一括返済できれば、その時点で連帯保証も消滅します。 しかし、譲渡代金が借入残高を下回る場合や、一部の事業のみを譲渡して会社を存続させる場合は、借入金と共に連帯保証も経営者の手元に残ることになります。 このケースでは、売却後も返済を続けなければならず、保証解除のハードルは株式譲渡に比べて格段に高くなります。
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個人保証を確実に外すための実務プロセス
株式譲渡における連帯保証の解除は、下表の手順で進めていきます。「M&Aの契約書にハンコを押せば終わり」ではなく、金融機関所定の手続を踏む必要があります。
| 手順 | 実施内容 | |
|---|---|---|
| 1 | 譲受企業による金融機関への事前打診 | 基本合意締結後、譲受企業は対象会社の取引銀行に対し、M&Aの事実と今後の経営方針を説明します。「M&A実行後は、新経営陣が連帯保証を引き継ぐ(あるいはコーポレート保証を入れる)」旨を申し入れ、銀行の内諾を得ておきます。 |
| 2 | 株式譲渡の実行(クロージング) | 株式譲渡代金の決済が行われ、経営権が正式に移転します。この時点ではまだ、登記上の代表者は譲渡オーナーのままのケースが多いです。 |
| 3 | 役員変更登記と印鑑証明書の取得 | 臨時株主総会を経て、新しい代表取締役が選任されます。法務局での変更登記が完了(通常1〜2週間程度)した後、新代表者の印鑑証明書や会社の履歴事項全部証明書を取得します。 |
| 4 | 金融機関での保証差し入れ・解除手続 | 新しい登記事項証明書を持参し、銀行窓口で手続を行います。新経営者(または親会社)が新たに連帯保証契約書に署名・捺印し、同時に旧経営者の保証契約を解除する書類(または変更契約書)を取り交わします。 |
タイムラグへの備えが不可欠
ここで注意が必要なのは、M&Aの実行日(株式譲渡日)と、実際に連帯保証が解除される日には「タイムラグ」が生じるという点です。 代表者の変更登記には法務局での処理期間が必要ですし、金融機関内部の稟議にも時間がかかります。 この数週間から数ヶ月程度の空白期間中に、万が一会社が倒産するような事態になれば、法的にはまだ旧オーナーが保証人のままです。 そのため、実務上はクロージングと同時に買い手資金で借入金を一括返済する(借り換えを行う)手法をとることもあります。これならば、旧債務そのものが消滅するため、即座に連帯保証も解除されます。
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契約書に盛り込むべき重要条項
M&Aの最終契約書(株式譲渡契約書など)には、連帯保証の扱いについて明確な条項を設けることが、売り手オーナーを守る最大の防具となります。 口約束だけでは、「手続が面倒だから」と買い手が先延ばしにするリスクを排除できません。 具体的には、以下のような趣旨の条項を必ず盛り込みます。
- 善管注意義務としての解除努力:「譲受人(買い手)は、クロージング後速やかに、対象会社の借入金等に係る譲渡人(売り手)の連帯保証および担保提供を解除させるため、金融機関と誠実に交渉し、必要な手続を行わなければならない」
- 代替保証の提供:「金融機関が保証解除の条件として代替の保証を求めた場合、譲受人は自ら連帯保証人となるか、または譲受人の信用力をもって新たな担保を提供するなど、譲渡人の負担を免責させる措置を講じるものとする」
- 求償権の放棄と補償:「万が一、保証解除が完了する前に保証債務の履行を求められた場合、譲受人は譲渡人に対してその全額を補償し、譲渡人に一切の損害を与えないものとする」
買い手の「誠意」だけに頼らない
契約書等の文言で「最大限努力する」と書いてあっても、結果として銀行が首を縦に振らなければ解除は実現しません。 そのため、私たちがアドバイザーとして入る場合は、契約書締結の前に「銀行の内諾」を書面やメール等の確かな形で確認することを推奨しています。 また、もし解除できなかった場合のペナルティや、買い手が債務を肩代わりする(併存的債務引受)具体的なスキームまで合意しておくことが、トラブル防止の鉄則です。
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金融機関が解除を拒否したら?経営者保証トラブルと対策
M&Aを行えば必ず連帯保証が外れるかというと、残念ながら100%ではありません。 金融機関は「債権保全」を最優先するため、M&A後の会社の信用力に不安があれば、旧オーナーの保証継続を求めることがあります。 現場で直面する「解除できないケース」とその対策について解説します。
買い手企業の信用力が低い場合
買い手企業が小規模であったり、財務内容が悪かったりする場合、銀行は「新しい株主だけでは信用できない」と判断します。 特に、個人が買い手となるM&A(個人M&A)や、借入金依存度の高い企業同士のM&Aではこの傾向が顕著です。 この場合、売り手オーナーによる連帯保証の継続を求められることがあります。
対策: M&Aの相手選び(マッチング)の段階で、自社の借入金を支えきれるだけの信用力や資金力を持つ相手を選ぶことが本質的な解決策です。 または、他の金融機関への借り換え(リファイナンス)を買い手主導で行い、既存の銀行取引を解消する方法を検討します。
担保価値が不足している場合
借入額に対して不動産担保などの価値が不足しており、経営者の個人資産(自宅など)も含めてようやく融資が成り立っているケースです。 M&A後もその担保不足が解消されなければ、銀行は自宅の担保設定や連帯保証を外してくれません。
対策: 最も確実な方法は、買い手企業に別の金融機関から融資を受けてもらい、既存の借入金を全額返済(借り換え)してもらうことです。これにより、銀行との契約が終了し、担保も保証も解除されます。リファイナンスが難しい場合は、買い手企業に追加担保を差し入れてもらうよう交渉する方法もあります。いずれも買い手の信用力や資産状況が鍵となるため、マッチングの段階から担保不足の解消が見込める相手を選ぶことが重要です。
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経営者保証ガイドラインと公的な支援
近年は、中小企業庁や金融庁の指導により、過度な個人保証を抑制する動きが強まっています。 「経営者保証に関するガイドライン」はその代表的なものであり、一定の条件を満たせば保証なしでの融資や、M&A時の保証解除が認められやすくなっています。
ガイドラインが定める3つの要件
ガイドラインに基づき、保証解除を申し出るためには、下表の3つの要件を満たしていることが望ましいとされています。
| 要件 | 内容 |
|---|---|
| 法人と個人の分離 | 会社と社長のサイフが明確に分かれていることが必要です。会社から社長への貸付金や、公私混同した経費計上がないことが求められます。 |
| 財務基盤の強化 | 借入金の返済が、会社のキャッシュフローだけで十分に賄えることが必要です。債務超過でないことはもちろん、安定した利益計上が求められます。 |
| 経営の透明性 | 試算表や決算書が適時適切に作成され、金融機関に対して包み隠さず開示されていることが必要です。 |
M&Aは、資本力のある企業(上場企業など)の傘下に入ることで、一気に「財務基盤の強化」が達成されるイベントでもあります。 買い手が上場企業や有力企業であれば、このガイドラインを根拠として、「親会社の信用力があるのだから、旧代表者の個人保証は不要であるはずだ」と強く主張することが可能です。
事業承継特別保証制度の活用
M&Aを含む事業承継時において、経営者保証を不要とするための公的な保証制度「事業承継特別保証制度」も整備されています。 これは信用保証協会が通常の保証枠とは別枠で用意しているもので、一定の要件を満たせば、保証料率の上乗せ等によって経営者保証を解除できます。 M&Aにおいて買い手側の資金調達(LBOローンなど)が必要な場合、この制度を組み合わせることで、新旧経営者双方の負担を減らすスキームを組むことも可能です。
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M&Aの個人保証に関するFAQ
連帯保証の扱いは、オーナー様の引退後の生活(ライフプラン)に直結する切実な問題です。 支援の現場でよくいただく質問に対し、実務的な観点から回答をまとめました。
原則として、連帯保証の解除と同じタイミングで外れます。 ただし、自宅を会社名義にしている場合や、店舗併用住宅の場合は扱いが複雑になります。個人の持ち物である自宅に抵当権がついている場合は、M&Aのクロージング時に借入金を完済するか、買い手企業が別の担保(預金や不動産)を銀行に差し入れて、「担保の交換」を行うよう交渉する必要があります。契約書等の条件交渉が極めて重要です。
基本的には、株式譲渡の対価とは別に、会社から社長へ返済されるか、買い手が買い取ることが一般的です。 しかし、会社に返済原資がない場合、M&A実行時に債務免除して会社借金を帳消しにすることを求められるケースもあります。これは最終的な手取り額に直結するため、株価の交渉とセットで、役員借入金の処理方法(返済か、免除か、譲渡か)を明確に取り決めておく必要があります。
保証解除の手続が完了していれば、請求が来ることはありません。 しかし、銀行との間で正式な「保証解除証書」や「変更契約書」が取り交わされていなければ、法的には保証人のままです。そのため、M&A契約書には「万が一請求が来た場合は買い手が全額補償する」旨の条項を入れますが、買い手自体が倒産してしまうと補償も受けられません。だからこそ、クロージング後速やかに銀行手続を完了させることが何より重要なのです。
そのM&Aを進めるべきを慎重に再考すべきです。 買い手が連帯保証の引き継ぎを拒否するということは、「その会社を経営していく自信がない」あるいは「銀行から信用されていない」ことの裏返しでもあります。どうしてもその相手に譲渡せざるを得ない場合は、譲渡代金を高く設定して借入金を一括返済するスキームに変更するか、保証が外れるまでの期間を区切った上で、それに見合うリスクプレミアム(追加の対価)を要求するなどの交渉が必要です。
まとめ|M&Aによる個人保証解除
M&Aによる個人保証の解除は、売り手オーナーにとって「第二の人生」を安心してスタートさせるための重要事項です。 しかし、それは株式譲渡によって自動的に得られる権利ではなく、買い手企業との契約交渉と、金融機関への誠実な働きかけによって勝ち取るものです。
当社、みつきコンサルティングは、税理士法人グループのM&A仲介会社として、数多くの中小企業の事業承継を支援してまいりました。 M&Aアドバイザーだけでなく、公認会計士・税理士が在籍しており、財務・税務の専門的見地から、個人保証の解除を含む安全なM&Aスキームをご提案いたします。 「自社の借入金状況でM&Aができるのか」「個人保証を確実に外したい」とお考えの経営者様は、ぜひ一度、当社の無料相談をご活用ください。
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著者

- 名古屋法人部長/M&A担当ディレクター
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人材支援会社にて、海外人材の採用・紹介事業のチームを率いて新規開拓・人材開発に従事。みつきコンサルティングでは、強みを生かし人材会社・日本語学校等の案件を中心に工事業・広告・IT業など多種に渡る案件支援を行う。M&Aの成約実績多数、M&A仲介・助言の経験年数は10年以上
監修:みつき税理士法人
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