時価純資産法とは、企業の資産と負債を現在の価値で評価し直し、その差額を企業価値とする算出方法です。中小企業M&Aでは最も基礎的な指標となりますが、将来の収益性が反映されないという弱点もあります。自社の適正価格を知るために、どこまで準備すべきでしょうか。
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時価純資産法とは
長い年月、会社を経営されてきたオーナー様にとって、決算書の数字だけでは測れない「会社の本当の価値」が気になることでしょう。 時価純資産法とは、企業が保有する資産・負債を現在の市場価格(時価)で再評価し、その差額(時価純資産)をもって企業価値とする評価手法です。
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コストアプローチの代表的な手法
企業価値評価(バリュエーション)には主に3つのアプローチがありますが、時価純資産法は「コストアプローチ」に分類されます。 これは「会社を今すぐ清算したとしたら、株主の手元にいくら残るか」という解散価値に近い考え方です。 企業の静的価値として「現在の財務状態」に焦点を当てるため、客観性が高く、納得感を得やすいのが特徴です。
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どのような場面で使われるか
この手法は、会社の歴史が長く資産(不動産など)を多く保有している中小企業の評価によく用いられます。 また、事業承継やM&Aの初期段階で「最低限の価値(下限価格)」を把握したい場合や、清算を前提とするケース、グループ内での組織再編時にも活用されます。
時価純資産法の計算式と具体的な手順
計算のロジック自体は非常にシンプルです。 基本的には、以下の計算式で算出されます。
時価純資産額 = 時価評価された資産総額 - 時価評価された負債総額
計算の3ステップ
支援現場では、以下の手順で算出を進めていきます。
- 資産の時価評価:貸借対照表(B/S)にあるすべての資産を、現在の市場価値に洗い替えます。
- 負債の時価評価:確定している負債に加え、帳簿に載っていない「隠れ債務」も計上します。
- 株主価値の算定:時価資産から時価負債を差し引き、算出します。
簿価純資産法との決定的な違い
よく混同されるのが「簿価純資産法」です。 簿価純資産法は決算書の数値をそのまま使いますが、時価純資産法は「含み損益」を反映させる点が異なります。 例えば、30年前に購入した土地が値上がりしていれば、簿価では評価額が低すぎます。逆に、回収できない売掛金が残っていれば、実態より高く見えてしまいます。これらを現在の価値に修正するのが時価純資産法です。
決算書と何が違う?
実務上、すべての科目を厳密に再評価するのはコストがかかりすぎるため、影響の大きい主要項目のみを修正する「修正簿価純資産法」が採用されることが一般的です。
時価評価が必要な勘定科目一覧
現場で特に注意すべき修正項目を整理しました。
資産の部における主な修正項目
資産に関しては、「実際に換金できる価値はいくらか」という視点で精査します。
| 勘定科目 | チェックポイントと修正内容 |
|---|---|
| 売掛金・受取手形 | 長期間回収できていない債権や、相手先が倒産して回収不能なものは減額します。 |
| 棚卸資産(在庫) | 長期滞留品、流行遅れの商品、破損品などは価値をゼロまたは減額評価します。 |
| 有価証券 | 上場株式は市場価格で評価し、非上場株式は発行会社の純資産等を基に再評価します。 |
| 土地・建物 | 公示価格や近隣の取引事例、または不動産鑑定評価額を基に時価へ修正します。 |
| 保険積立金 | 解約返戻金の額で評価し直します。簿価よりも増えるケースが多い項目です。 |
負債の部における主な修正項目
負債に関しては、「帳簿に載っていないが、将来払う必要があるお金」を漏れなく計上します。
| 勘定科目 | チェックポイントと修正内容 |
|---|---|
| 退職給付引当金 | 従業員が今すぐ全員退職した場合に支払うべき退職金総額を計算し、不足分を負債計上します。 |
| 未払残業代 | 過去に遡って未払いの残業代が発生していないか確認します。M&A後のトラブル防止に重要です。 |
| 賞与引当金 | 決算日時点で発生している賞与の支給見込額を計上します。 |
| 偶発債務 | 係争中の訴訟や、他社の連帯保証など、将来支払いが発生する可能性のあるリスクを評価します。 |
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時価純資産法のメリットとデメリット
この手法は万能ではありません。 自社の状況に合っているか判断するために、長所と短所を正しく理解しましょう。
メリット:納得感と客観性の高さ
最大のメリットは「客観性が高い」ことです。 将来の予測に基づくDCF法(インカムアプローチ)とは異なり、現時点での資産価値をベースにするため、計算結果に恣意性が入りにくくなります。 買い手・売り手の双方が「今の資産価値ならこれくらいだ」と合意しやすく、交渉のベースとして非常に優秀です。
デメリット:将来の収益力が反映されない
一方で、致命的なデメリットは「将来の稼ぐ力(収益性)」が無視される点です。 どれだけ優秀な技術やブランド(のれん)を持っていても、B/Sに載らない無形資産は評価されません。 そのため、IT企業やサービス業など、資産は少ないが高い利益を出している会社の場合、実態よりも著しく低い評価額になる恐れがあります。
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M&A実務での活用法~「時価純資産+のれん」の考え方
前述の時価純資産法のデメリットを補うため、中小企業のM&A現場では、時価純資産法を単独で使うことは稀です。 一般的には、将来の利益(営業権・のれん)を上乗せする「年買法(ねんばいほう)」というハイブリッドな手法がよく用いられます。
年買法(時価純資産+営業権)とは
計算式は以下のようになります。
企業価値 = 時価純資産 + (営業利益 × 2年~5年分)
この「営業利益の数年分」が、いわゆる「のれん代」です。 ベースとなる資産価値(時価純資産)に、将来期待できる利益(営業権)を加算することで、売り手オーナー様が長年築き上げてきた「見えない価値」を価格に反映させます。
▷関連:M&Aの「のれん」が償却不要になる?計算方法・仕訳・償却期間とは
現場での調整ポイント
「何年分の利益を足すか」は、会社の技術力、顧客基盤の安定性、業界の成長性によって変動します。 通常は2~3年分が目安ですが、独自技術や強力なブランドがある場合は5年分などと評価されることもあります。 私の支援経験でも、単なる時価純資産では評価されなかった「従業員の質の高さ」や「取引先との強固な関係」をこの部分で評価し、譲渡価格を引き上げた事例が多々あります。
▷関連:年買法とは?年倍法の計算方法・純資産+M&Aのれんの適正年数
時価純資産法に関するFAQ
譲渡オーナー様から初回面談でよくいただく質問をまとめました。
M&Aの目的によりますが、株式譲渡の場合は考慮することがあります。例えば、資産を時価評価して含み益が出た場合、将来売却した際に法人税がかかります。その分を「繰延税金負債」として負債に計上し、純資産から差し引く処理を行います。反対に資産に含み損がある場合や繰越欠損金がある場合に「繰延税金資産」を計上するかというと、微妙です。手取り額に大きく影響するため、実務上は、会計税務に強いM&A仲介会社を交えた買い手との丁寧な協議が必要です。
会社が社長個人にお金を貸している場合、資産(貸付金)として計上されています。しかし、M&A時に社長が返済できない場合、実質的に価値のない資産とみなされ、資産額からマイナス(減額)評価されることがほとんどです。事前の精算が望ましいです。
見ている「時間軸」が違います。時価純資産法は「現在」の価値を算出するのに対し、DCF法は事業計画書を基に「将来」生み出すキャッシュフローを現在価値に割り引いて算出します。将来性が高いベンチャー企業などはDCF法が適していますが、計算が複雑で主観が入りやすい特徴があります。
まとめ|時価純資産法とは
時価純資産法は、企業の資産・負債を時価で評価し直し、現在の財務実態を明らかにする堅実な手法です。客観性が高い反面、将来の収益力(のれん)が含まれないため、実務では「時価純資産+営業利益の数年分」を加算して適正価格を算出することが一般的です。
当社の立場(みつき税理士法人グループのM&A仲介会社)としても、まずはこの手法で貴社の「基礎体力」を把握することを推奨します。中小企業M&Aの実績経験が豊富なM&Aアドバイザー・公認会計士・税理士が在籍しており、正確な時価評価と、のれん代の適正な算出をサポートします。自社の価値が気になりましたら、ぜひ一度ご相談ください。
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著者

- 事業法人第二部長/M&A担当ディレクター
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ヘルスケア分野に関わる経営支援会社を経て、みつきコンサルティングでは事業計画の策定、モニタリング支援事業に従事。運営するファンドでは、投資先の経営戦略の策定、組織改革等をハンズオンにて担当。東南アジアなど海外での業務経験から、クロスボーダー案件に関しても知見を有する。M&Aの成約実績多数、M&A仲介・助言の経験年数は10年以上
監修:みつき税理士法人
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