のれんの「償却」は計画的な費用化、「減損」は突発的な損失処理です。M&A後の業績を左右する重要な会計処理の違いと、減損リスクを避けるためのポイントを解説します。自社の財務を守るために、どこまで準備すべきでしょうか。
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のれんの「償却」と「減損」の決定的な違い
M&Aにおいて、買収価額が対象会社の純資産を上回った場合に発生するのが「のれん」です。 のれんは、時間の経過や収益性の変化に伴い、会計上の価値を減らしていく必要があります。 その処理方法として「償却」と「減損」という2つの言葉が使われますが、これらは似て非なる概念です。
両者とも「資産価値を下げる処理」である点では共通しています。 しかし、その性質や発生するタイミング、企業業績に与えるインパクトは大きく異なります。 償却は、最長20年という期間をかけて計画的に費用化していく手続きです。 一方で減損は、事業の収益性が悪化した際に、突発的に損失として計上する手続きを指します。
日本の会計基準では、通常はこの「償却」を行いながら、兆候があれば「減損」も検討するという併用型をとります。 対照的に、IFRS(国際財務報告基準)では償却を行わず、毎年必ず減損テストを実施するというルールになっています。 譲渡オーナーとしては、自社を託した先で「のれん」がどのように扱われ、どのようなリスクになり得るのかを知っておく必要があります。
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のれん償却|計画的に費用化する仕組み
のれん償却とは、M&Aで計上したのれんの価値を、一定期間にわたり規則的に費用化する会計処理のことです。 これは日本の会計基準における大きな特徴であり、買収した企業のブランドやノウハウといった無形資産の価値は、時の経過とともに減少していくという考え方に基づいています。 ここでは、償却の具体的な期間や、メリット・デメリットについて解説します。
償却期間は最長20年以内の定額法
日本の会計基準では、のれんの償却期間は「20年以内の、その効果が及ぶ期間」と定められています。 実務上は、投資回収期間や事業計画に基づいて償却期間を決定しますが、一度決めた期間は後から自由に変更することはできません。 償却方法は「定額法」が一般的であり、毎年均等な金額を「販売費及び一般管理費」(販管費)として計上します,。
たとえば、のれんが5億円で償却期間を5年とした場合、毎年1億円が販管費として計上され、その分だけ営業利益が減少することになります。 この処理は、現金の支出を伴わない「非現金支出費用」であるため、キャッシュフロー計算書上では利益に加算し戻される調整が行われます。
のれん償却のメリット
のれん償却を行う最大のメリットは、将来的なリスクの軽減です。 毎期少しずつ費用処理を進めることで、のれんの帳簿価額(資産価値)は計画的に減少していきます。 これにより、万が一事業の収益性が低下した場合でも、一度に計上すべき損失額(減損額)を小さく抑えることが可能です。
また、突発的な損失計上を回避しやすくなるため、財務の健全性を保ちやすいという特徴があります。 私たち支援現場でも、堅実な経営を志向する譲受企業ほど、この日本基準の償却ルールを「リスク管理」の一環として肯定的に捉えている傾向があります。
のれん償却のデメリット
デメリットは、償却期間中は継続的に利益が圧迫されることです。 のれん償却費は「販売費及び一般管理費」に含まれるため、本業の儲けを示す「営業利益」を直接押し下げてしまいます。 たとえ買収した事業が順調であっても、償却負担が重いために、決算書上の見かけの利益が低くなってしまうのです。
そのため、M&Aを積極的に行う企業にとっては、償却費が足かせとなり、新たな投資判断や銀行からの評価に悪影響を及ぼす懸念があります。 譲渡オーナーとしては、自社の収益力がこの償却費をカバーできる水準にあるかどうかが、良い条件で譲渡できるかの一つの分水嶺となります。
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のれん減損|突発的な損失処理のリスク
のれんの減損とは、買収後の事業収益性が大幅に下落し、投資額の回収が困難になった際に、帳簿価額を強制的に引き下げて損失計上する処理です。 これは計画的な費用化(償却)とは異なり、臨時的かつ突発的な処理となります。 経営者にとって最も避けたい事態の一つですが、M&A後のPMI(統合プロセス)がうまくいかなかった場合などに発生します。
減損が発生する主な兆候と原因
減損処理が必要になる背景には、いくつかの明確な兆候があります。 まず、営業活動から生じる損益やキャッシュフローが継続してマイナスである場合です。 また、経営環境の著しい悪化や、市場価格の著しい下落なども減損の兆候とみなされます。
具体的な原因としては、「高値づかみ」が挙げられます。 買い手がシナジー効果を過大に見積もりすぎて、実力以上の価格で買収してしまった場合、計画通りの利益が出せず、早期に減損を迫られることになります。 さらに、コンプライアンス違反や商品瑕疵によってブランド価値が毀損した場合も、減損の対象となります。
減損損失が業績に与えるインパクト
減損処理を行うと、その損失額は「特別損失」として損益計算書に計上されます,。 これは営業利益や経常利益の下には表示されませんが、最終的な「当期純利益」を大きく圧迫します。 金額によっては、黒字予想が一転して巨額の赤字決算となることも珍しくありません。
赤字転落は、企業の信用力低下を招き、株価の急落や資金調達の困難化につながります。 また、純資産が大きく毀損するため、自己資本比率が低下し、最悪の場合は債務超過に陥るリスクさえあります。 譲渡オーナーとしても、手塩にかけた会社が譲渡後に巨額の減損を出してしまうことは、心情的にも避けたい結末といえるでしょう。
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比較表|償却と減損の違い
ここまで解説した「償却」と「減損」の主に違いについて、実務上のポイントを整理しました。 以下の表をご確認ください。
| 特徴 | のれん償却 | のれん減損 |
|---|---|---|
| 性質 | 規則的な費用化(計画的) | 臨時的な損失処理(突発的) |
| 計上金額 | 定額(毎年一定額) | 突発的・大規模 |
| 損益計算書 | 営業費用(販管費) | 特別損失 |
| 主な理由 | 時間の経過による価値減少 | 収益性の著しい低下、投資回収不能 |
| メリット | 将来の損失リスクを平準化できる | (会計理論上は特になし。財務リスクの顕在化) |
この表からも分かる通り、償却は「経費」として毎年織り込むものですが、減損は「事故」に近い扱いとなります。 日本基準では、日頃から償却を行うことで資産価値を少しずつ減らしているため、いざ減損が必要になった際も、その衝撃(損失額)を和らげる効果(バッファ)が期待できます。
会計基準によるのれん処理の違い
M&Aにおけるのれんの扱いは、採用している会計基準によってルールが大きく異なります。 主に日本の中小企業や多くの上場企業が採用する日本基準(J-GAAP)と、グローバル企業が採用するIFRS(国際財務報告基準)等の違いを理解しておくことは重要です。
日本基準(償却あり+減損あり)
日本基準では、のれんは「資産」として計上され、20年以内の期間で規則的に償却することが義務付けられています,。 これにより、毎年の利益は圧迫されますが、のれんの価値がゼロになるまで計画的に処理が進みます。 もし収益性が悪化した場合には、減損テストを行い、必要に応じて減損損失を計上します。 保守的で、将来の不確実性に備えるアプローチといえます。
IFRS・米国基準(償却なし+減損テスト)
IFRSや米国基準では、のれんの定期的な償却は行いません(非償却)。 その代わり、毎年必ず「減損テスト」を実施し、価値が維持されているかを厳密にチェックします。 償却費が発生しないため、買収直後の営業利益は日本基準よりも高く出やすいというメリットがあります。
しかし、一度でも「価値が下がった」と判断されれば、巨額の減損損失を一気に計上しなければなりません。 償却というクッションがない分、業績が悪化した際のダメージが直撃するハイリスク・ハイリターンな仕組みといえます。 私たちへの相談でも、「IFRS適用企業への譲渡だから、のれん代を高く評価してもらえるのではないか」という期待を頂くことがありますが、彼らはその分、将来の減損リスクに対して非常にシビアな目線を持っています。
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現場で起きがちな失敗と対策
ここでは、教科書的な解説では触れられない、実際のM&A現場で起きがちな「のれん」に関する誤解や失敗について、私の経験を踏まえて補足します。
税務上ののれん(資産調整勘定)との混同
よくある誤解が、会計上の「のれん」と、税務上の「のれん」(資産調整勘定)の混同です。 株式譲渡の場合、会計上はのれんが発生しますが、税務上はのれん(資産調整勘定)は発生しません。 つまり、会計上ののれん償却費は、税金の計算上は損金(経費)として認められないのです。
これにより、「会計上は償却費で赤字だが、税務上は黒字なので法人税を支払わなければならない」という資金繰りの圧迫が起こり得ます。 特に、譲受企業が中小企業の場合、この税効果を考慮せずに資金計画を立ててしまい、M&A後のキャッシュフローに苦しむケースが見受けられます。
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PPA(取得原価の配分)の重要性
M&Aの買収価格が決まった後、純資産との差額をすべて「のれん」として処理してしまうのは、実は正確ではありません。 本来はPPA(Purchase Price Allocation)と呼ばれる手続を行い、顧客リストや特許権、ブランドといった無形資産に個別に価値を配分すべきです。 すべてを漠然と「のれん」にしてしまうと、将来どこかの事業部門がつまずいただけで、のれん全体の減損を迫られるリスクが高まるからです。 譲渡オーナー側がこれを行う必要はありませんが、買い手側がこうした詳細な分析を行っているかは、相手の本気度やPMI(統合計画)の精度を測る一つの指標になります。
のれん償却・減損に関するFAQ
ここでは、M&Aを検討中のオーナー社長から頻繁にいただく質問に、実務的な視点から回答します。
買収価格が純資産額を下回った場合に発生する差額のことです。会計上は「発生益」として利益計上されますが、手放しで喜べるものではありません。簿外債務のリスクや将来の収益性が低いと判断された結果であるケースが多く、現場では「安く買いたたかれた」あるいは「再生案件」という評価になることが一般的です。
基本的には譲受企業(買い手)の会計方針と監査法人との協議で決まるため、譲渡オーナーが交渉で決めるものではありません。ただし、買い手は「何年で元が取れるか」(投資回収期間)を重視して価格を提示します。そのため、収益の安定性をアピールできれば、償却期間を長く見積もってもらえる(=単年度の負担が減り、高い価格を出しやすくなる)可能性はあります。
株式譲渡契約に表明保証違反(隠れた債務や不正の隠蔽など)がない限り、譲渡後の減損について元オーナーが金銭的な責任を負うことは原則ありません。しかし、「あの会社を買って失敗した」という評判は、地域の経済界や元従業員の間で広まる可能性があります。心情的な責任を感じないためにも、デューデリジェンス(買収監査)には誠実に対応することが重要です。
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まとめ|のれんの償却vs減損
のれん償却は、日本基準において最長20年で計画的に費用化する手続であり、将来の損失リスクを平準化する効果があります。 一方、減損は事業計画の未達や環境悪化により、突発的に巨額の損失を計上する処理で、企業業績に甚大なダメージを与えます。 IFRSでは償却がない代わりに毎年の減損テストが必須であり、会計基準によってリスクの現れ方が異なります。 M&Aを成功させるには、目先の売却価格だけでなく、こうした会計処理が買い手に与える影響まで理解しておくことが、円滑な交渉の鍵となります。
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著者

- 事業法人第二部長/M&A担当ディレクター
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ヘルスケア分野に関わる経営支援会社を経て、みつきコンサルティングでは事業計画の策定、モニタリング支援事業に従事。運営するファンドでは、投資先の経営戦略の策定、組織改革等をハンズオンにて担当。東南アジアなど海外での業務経験から、クロスボーダー案件に関しても知見を有する。M&Aの成約実績多数、M&A仲介・助言の経験年数は10年以上
監修:みつき税理士法人
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