会社を任せる相手は、何を基準に決めればよいのでしょうか。M&Aに業務独占の国家資格はなく、民間資格と士業の専門性、そして実務経験の読み解き方が判断材料になります。登録制度の使い方から担当者の力量の測り方まで、譲渡オーナーの視点で整理しました。
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M&Aアドバイザーに公的な資格は要るのか
「会社売却を任せる相手に、何か資格は要るのだろうか」。多くの譲渡オーナーが、企業譲渡を最初に考えた際に、この疑問が浮かびます。結論から言えば、M&Aの仲介やアドバイザリーに、業務独占の国家資格はありません。
仲介・アドバイザーに業務独占資格はない
弁護士や公認会計士のような独占業務は、M&A仲介そのものには定められていません。だれでも名乗れる世界です。だからこそ仲介会社の選び方を誤ると、力量の差がそのまま結果に響きます。
だから見極めは経営者の役割になる
資格がないことは、質が低いという意味ではありません。肩書だけでは実力を測れない、ということです。M&A仲介の役割を押さえ、見るべき点を経営者自身が持っておきましょう。
選べないことが失敗を生む
相手の良し悪しを判断する物差しがないと、提案の調子の良さや手数料の安さだけで決めてしまいがちです。会社売却は一生に一度の取引が大半です。やり直しが効かないからこそ、入口の選択が重くのしかかります。
そもそもM&Aアドバイザーは何をする人か
資格の話に入る前に、相手の役割を整理しておきましょう。同じ「専門家」でも、立ち位置によってできることが変わります。ここを誤解したまま選ぶと、期待とずれが生じます。
仲介とアドバイザリーの違い
仲介は譲渡オーナーと譲受企業の間に立ち、双方の合意形成を進めます。一方のM&Aアドバイザリーは一般に「FA」と呼ばれ、片側だけの代理人として条件を引き出します。どちらが向くかは案件次第です。
譲渡オーナーに伴走する範囲
良い担当者は、相手探しから条件交渉、契約、引き継ぎまでを通しで支えます。価値評価や税務の論点も、節目ごとに整理してくれる存在です。範囲が広いほど、担当者本人の経験と知識が問われます。なお、仲介会社のなかには、売主担当と買い手担当が分かれている会社があります。効率化のためですが、良し悪しです。
経営者が知っておきたいM&A関連資格の体系
資格が要らないとしても、相手が持つ資格は実力を推し量る手がかりになります。M&A関連の資格は、大きく民間資格と国家資格に分かれます。意味あいはそれぞれ別物です。
民間資格はM&Aの実務知識を示す
民間資格は、M&Aの進め方や実務の全体像を体系的に学んだ証しです。代表的なものを下表にまとめました。
| 資格名 | 認定団体 | 位置づけ |
|---|---|---|
| M&Aシニアエキスパート | 金融財政事情研究会 | 実務知識を問う上級資格 |
| 事業承継・M&Aエキスパート | 金融財政事情研究会 | 入門レベルの基礎資格 |
| JMAA認定M&Aアドバイザー | 日本M&Aアドバイザー協会 | 養成講座で実務技能を習得 |
シニアエキスパートは上級の「知識」資格
M&Aシニアエキスパートは、数ある民間資格のなかでも上級に位置づけられます。ただ、難関であることと成約させる腕は別の話です。担当者が持っていれば、知識面の土台はある、と捉える程度が現実的です。
国家資格は専門性で信頼を裏づける
国家資格は、財務や法務といった専門領域の裏づけになります。M&Aで力を発揮しやすいのは下表の士業です。
| 資格 | M&Aで効く場面 |
|---|---|
| 公認会計士 | 企業価値評価・財務デューデリジェンス |
| 税理士 | 譲渡益の試算・税務スキームの設計 |
| 弁護士 | 契約書作成・法務デューデリジェンス |
| 中小企業診断士 | 経営課題の整理と承継後の方針づくり |
当社のように代表者が公認会計士で、税理士も関わるM&Aでは、譲渡益の試算を早い段階で示せます。
資格は入口、本質は実務経験
資格は知識の証明であって、交渉や買い手探しの巧拙までは保証しません。何件、どんな規模の案件を成約させたか。そこに踏み込んで初めて、相手の実力が見えてきます。
資格や登録でわかること、わからないこと
資格や登録制度は便利な目印です。ただ、何を保証して何を保証しないのかを切り分けると、過信を避けられます。下表に整理しました。
| わかること | わからないこと |
|---|---|
| 知識や専門領域の土台 | 実際の成約力・交渉力 |
| ガイドライン遵守の姿勢 | 自社の業種への精通度 |
| 手数料体系の透明性 | 担当者個人との相性 |
目印で母集団を絞り、最後は人と実績で決める。この二段構えが現実的です。
会社売却で失敗しないアドバイザーの選び方
ここからは、譲渡オーナーが相手を選ぶときの具体的な見方です。資格の有無だけでなく、公的な裏づけと実務の中身を重ねて確認します。
公的な登録制度で母集団を絞る
有効なのが、中小企業庁のM&A支援機関登録制度です。中小M&Aガイドラインの遵守を宣言した業者だけが登録され、手数料体系も公表されています。登録の有無は公式データベースで確認できます。
登録制度を入口に土台を確かめる
令和3年8月に創設された制度で、登録そのものが質を保証するわけではありません。それでも登録制度の基準を入口にすれば、最低限の土台がある相手に絞り込めます。
担当者個人の資格と経験を確かめる
会社の看板ではなく、実際に動く担当者を見ます。保有資格、関与した案件の業種と規模、在籍年数。名刺の肩書ではなく、手がけた中身を質問するのが近道です。
自社と近い実績があるか
同じ年商帯、同じ業界の成約経験があるかは、大きな差になります。製造業の譲渡と店舗ビジネスの譲渡では、買い手の探し方も評価の勘所も変わるからです。仲介会社の比較軸として外せません。
報酬体系が明朗か
着手金、中間金、成功報酬。どの段階でいくらかかるかを、最初に紙で示せる相手は信頼できます。逆に説明が曖昧なら、後から想定外の請求が出る余地を残します。料金は遠慮なく聞きましょう。
有資格者を見極めるチェックリスト
当社が初回相談でお伝えしている確認項目を、そのまま並べます。
- 登録M&A支援機関に登録されているか
- 担当者の保有資格と実務年数を答えられるか
- 自社と同じ規模・業種の成約事例があるか
- 報酬体系と中小M&Aガイドライン遵守を明示しているか
- 買い手候補の探し方を具体的に説明できるか
よくあるアドバイザー選びの失敗
選び方の裏返しとして、つまずきやすい点も知っておくと役立ちます。当社へ二社目として相談に来られる方の話には、共通する型があります。
手数料の安さだけで決めてしまう
料金は重要ですが、安さは支援の薄さと表裏一体のこともあります。買い手探しに人手をかけない、価値評価が雑になる。結果として、得られたはずの譲渡価格を取り逃すほうが痛手です。総額で考えましょう。
一社しか会わずに決めてしまう
最初に会った担当者の印象だけで進めるのは危ういです。提案の質も相性も、比べて初めて分かります。複数社と面談し、同じ質問をぶつけてみると、力量の差がはっきり見えてきます。
大手の看板だけで安心してしまう
規模の大きさは安心材料の一つです。ただ、実際に動くのは目の前の担当者です。看板が立派でも、自社の業種に不慣れな新人が付くこともあります。会社ではなく人を見てください。
資格では測れない相性と姿勢
知識や登録で土台を確かめたら、最後は人柄に近い部分が効いてきます。数字には出にくいものの、交渉の現場では結果を大きく左右します。
返答の速さと説明の丁寧さ
質問への返事が速く、専門用語をかみ砕いて説明してくれるか。ここは初回の数回のやり取りで見えます。レスポンスの鈍さは、案件が動き出してからの停滞につながりやすいものです。
自社の利益を優先してくれるか
仲介は双方の間に立ちます。それでも、譲渡オーナーの希望を正面から受け止め、言いにくい条件も代弁してくれるかは見極めどころです。相手の顔色ばかりうかがう担当者では心もとありません。
セカンドオピニオンを嫌がらないか
別の専門家の意見を聞きたいと伝えたとき、嫌な顔をしないかどうか。自信のある担当者ほど、比較を歓迎します。囲い込もうとする姿勢が見えたら、一歩引いて考え直す合図です。
相談前に経営者が準備しておくこと
良い相手に出会えても、手元が整っていないと話は進みません。初回相談の前に、ざっと用意しておくと格段にスムーズです。
直近の決算書と株主名簿
決算書は3期分あると、相手も会社の輪郭をつかめます。株主名簿は、オーナー以外に誰がどれだけ株を持つかを示すものです。少数株主がいる場合、後の手続に影響するため早めの共有が安心です。
借入と個人保証の状況
借入残高と、社長個人が背負う保証の有無を整理しておきます。中小企業の譲渡では、ここが交渉の山場になりがちです。隠さず開示するほうが、現実的な出口を一緒に描けます。
譲渡で実現したいこと
価格の最大化なのか、従業員の雇用維持なのか、引退時期なのか。優先順位を一言で言えるようにしておくと、提案の評価軸が定まります。ここが曖昧だと、相手も的を絞れません。
公認会計士・税理士が関わるM&Aの実務上の強み
数ある専門家のなかでも、財務・税務に強いチームがM&Aに関わると、譲渡オーナーの手取りに直結する論点を早く詰められます。
企業価値評価と税務をひとつの流れで
株価の算定と、譲渡益にかかる税の試算は、本来つながっています。別々の専門家に分けると、話が後戻りしがちです。会計士の役割と税務を一体で見られると、判断が速くなります。
個人保証や手取りまで見据える
中小企業の譲渡では、借入の個人保証をどう外すかが大きな論点です。価格だけ追っても、保証が残れば安心できません。税務と財務を併せ持つ担当者なら、出口の手取りまで描いて交渉に臨めます。
デューデリジェンスで慌てないために
譲受企業による調査では、会計や税務の細かな点を突かれます。普段から決算を見ている専門家が伴走していれば、想定問答を先に潰せるはずです。指摘されてから動くのと、備えておくのとでは、交渉の主導権が変わります。
現場でよくある相談から
年商8億円ほどの地方の卸売業で、後継者不在を理由に相談へ来られた譲渡オーナーがいました。当初は株価ばかり気にしておられましたが、譲渡益の試算を示すと、論点は手取りの最大化へ移りました。
M&Aアドバイザーの資格と選び方に関するFAQ
相談の前によく寄せられる疑問をまとめました。
一概には言えません。ただ登録M&A支援機関なら、ガイドライン遵守と手数料開示という最低ラインは満たしています。迷うなら登録の有無を起点にすると安全です。
お勧めはできません。一般社団法人M&A支援機関協会への加盟に加え、トラブルを起こした特定の買い手を記載した特定事業者リスト(ブラックリスト)を閲覧・利用できる環境にある企業でなければ、不適切な買い手との接触を未然に防ぐことが困難であるためです。
目的次第です。価値評価や財務調査なら会計士、譲渡益の税務設計なら税理士の視点が効きます。両方を抱えるチームなら一度で済みます。
規模より相性です。自社と近い業種・規模の成約実績と、担当者の経験で選ぶほうが後悔しにくいというのが現場の実感です。
M&Aアドバイザー選びで会社売却を成功させるために
M&Aに業務独占資格はなく、民間資格・国家資格・実務経験を重ねて相手を見極めることが、会社売却の成否を分けます。初めての譲渡で不安なのは当然です。判断材料を一つずつ持てば、迷いは小さくなります。
みつきコンサルティングは、税理士法人グループのM&A仲介会社です。中小企業の会社売却・事業承継で培った実務経験をもとに、価値評価から税務まで一体で支援します。まずはお気軽にご相談ください。
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著者

- 名古屋法人部長/M&A担当ディレクター
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人材支援会社にて、海外人材の採用・紹介事業のチームを率いて新規開拓・人材開発に従事。みつきコンサルティングでは、強みを生かし人材会社・日本語学校等の案件を中心に工事業・広告・IT業など多種に渡る案件支援を行う。M&Aの成約実績多数、M&A仲介・助言の経験年数は10年以上
監修者 神門 剛 代表取締役 / 公認会計士・税理士
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