事業承継とはマッチング!後継者不在が50%超・手順・失敗と成功例

事業承継とは、経営権を後継者に引き継ぐことです。本記事では、事業承継で引き継ぐ3つの資源や事業継承の手順、失敗理由と成功法王などについて解説します。事業承継に関する理解を深め、スムーズに事業承継を進めるために、参考にしてください。

事業承継とは

事業承継とは、オーナー経営者が会社や事業を後継者に引き継ぐことです。自社株と承継(物的承継)と、経営ノウハウの承継(人的承継)の両面に目配せしながら、計画し、実行していきます。

事業継承との違い

「事業承継」とは、一般的には会社の経営を別の後継者へ引き継ぐことを指します。一方で「事業継承」という表現も用いられますが、実質的に同じ意味合いになります。

社会問題化している背景

事業承継が日本の社会問題となっています。その主な背景には以下のような2つの「不足」があります。

後継者の不足

東京商工リサーチの調査結果によると、2022年度の後継者不在による倒産は、負債1,000万円以上の企業で409件にのぼります。これは5年連続の増加で、最多件数を更新しました。後継者不在の企業は、中小・零細企業に多く、事業承継や後継者育成の対策不足の傾向にあります。経営者の子どもが事業を継ぐことが当たり前ではなくなったことや価値観の変化が、事業承継の障害といえるでしょう。

人材の不足

日本の少子高齢化と人口減少が進行し、全業界で人手が不足しています。経験と知識を持つ団塊世代の経営人材の高齢化や退任、非正規雇用の待遇の低さといったことが、要因として挙げられます。特に中小企業では、大手企業に比べて人材の制限があるため、経営能力の高い後継者を見つけにくく、深刻な人材不足が問題視されています。

事業承継に10年かかることもある(2024年公表)

事業承継は、後継者候補を決め、然るべき時期に本人に伝えて意向を確認し、その後徐々に株式の移転や経営の引き継ぎを行っていきますので、必然的に長期戦になります。承継を意識してから完了までに、早くても3年程度、長いと10年以上を要することも珍しくありません。

以下は、2024年3月に日本商工会議所から公表された調査結果です。

事業承継にかかる期間

事業承継の現状と課題

日本商工会議所が公表した「事業承継に関する実態アンケート」(2024年3月)を参考に、中小企業の事業承継のリアルを見ていきます。

約5割の会社が後継者未定

経営者が60歳以上の企業において、後継者を決めている企業は50%超です。後継者「候補」がいる企業まで含めると75%超になります。

後継者決定状況の推移

経営者が70歳以上でも約4割の会社が後継者未定

経営者の年齢層別に見ると、後継者が決定している企業の割合は、60歳代で44.2%、70歳以上で61.0%となっています。

年齢別の後継者決定状況

最大の課題は株式の移転

事業承継を検討する上での最大の課題は、後継者への自社株の移転をどうするか、ということです。

事業承継の障害・課題

具体的な障害としては、親族内承継においては、後継者に自社株を移転した際に生じる贈与税・相続税の負担が重いということがあります。また、非親族の役員・従業員への社内承継においては、彼らが自社株の買取資金を工面できるか、という問題があります。

後継者への株式移転時の障害

事業承継で引き継ぐ3つの資源

事業承継では、人・資産・知的財産を引き継ぎます。ここでは、3つの資源と呼ばれるものについて解説します。

人の承継

人の承継とは、経営権の引き継ぎを指します。一般的に、中小企業では経営者個人が、ノウハウや取引関係といった、重要な資源を保有しています。そのため、事業の円滑な継続と業績向上は経営者の資質に大きく左右されます。また、会社の方針を継続したい場合は、全ての株式を後継者に引き継ぐ必要があります。

資産の承継

資産の承継とは、事業を継続運営するために必要な資産を、後継者に引き継ぐことです。具体的には、不動産や機械といった事業用資産・運転資金・許認可と、経営者が保有する株式などを指します。

特に株式の移転は、経営権の確保に関連した、物的な承継の一部です。注意すべきは、タイミングによって税金の額が変動する恐れがあるという点です。そのため、税金負担を最小限に抑えられるように、戦略的アプローチの検討が重要です。

知的財産の承継

知的財産は、経営理念や経営者の信用・ノウハウ・技術・取引先との人脈など、目には見えない会社の資産です。これらの無形資産は、会社の成功に大きく寄与し、企業の競争力の源泉となるため、後継者への正確な伝達が求められます。

現経営者は、自社の強みや価値を正しく理解し、後継者に伝える必要があります。適切な計画とコミュニケーションが、スムーズな知的財産の引き継ぎにつながるでしょう。

事業承継する相手(2024年公表)

事業承継は、誰に対して行われるのでしょうか。ここでは、事業承継をする相手について解説します。

日本商工会議所が2024年3月に公表した調査結果によると、第三者承継(M&A)を除く、親族内承継・従業員への社内承継を予定する企業に限ると、親族内承継が80%超で、その中でも子供への承継が70%超となっています。

事業承継の相手先

親族(親族内承継)

現経営者の親族が経営権を引き継ぐ方法です。メリットは、関係者の理解を得やすいことです。また、早期決定により、引き継ぎの準備期間を確保できることや、相続や贈与による株式所有と経営の一体的な承継が期待できます。一方で、適切な後継者がいない場合、経営の継続が難しくなるというデメリットがあります。また、後継者の決定や経営権の集中が難しい場合もあるでしょう。

社内の役員・従業員(社内承継)

社内の後継者候補は、会社の業務を長きにわたり担当し、必要なスキルやノウハウを習得しています。従業員にも認知されて、経営方針や事業の方向性を理解しているため、後継者教育の時間や労力を削減できる点がメリットです。ただし、後継者候補に株式を譲受できる資金力が不足している、社内に適切な人材がいないといったケースもあります。

社外の第三者(第三者承継)

第三者への承継は、外部から招き入れた後継者に引き継ぐことを指します。この手法は、親族や社内に、適切な後継者が不在の場合に活用されます。広範な候補者から適切な経営者を見つけられて、資金を用意せずに済むことが、メリットといえるでしょう。

しかし、外部から招き入れるため、後継者の実力や経営への熱意を判断したり、社内従業員への理解を得たりすることの難しさを考慮する必要があります。

事業承継の流れ

ここでは、事業承継のプロセスについて、具体的に解説します。

経営状況と事業承継の課題の把握

経営状況と事業承継の課題を把握することにより、強みと弱みが明確になり、事業承継の方向性を見出せます。具体的には、自社株の評価や収益性の高い商品、サービス、競争優位性などを詳細に分析します。また、承継後の成功に向けて、強みの拡大と弱みの改善策が重要です。

企業価値の磨き上げ

企業価値を上げるためには、技術力の向上や経営資源の有効活用による、本業の競争力強化が必要です。また、不要な在庫の削減・借入金返済計画の策定といった財務状況の改善や、職務権限の明確化・権限の移譲など、会社内の体制点検もしなければなりません。これらの施策により、事業承継のプロセスが円滑に進みやすくなるでしょう。

事業承継計画の策定・後継者候補とのマッチング

事業承継は、親族や社内の従業員などに引き継ぐ場合と、M&Aで外部の第三者への場合では、流れが異なります。親族内・従業員への承継は、経営者と後継者が共同で事業承継計画の策定を進めます。また、計画には事業承継への行動計画を含めます。

一方、第三者への承継は、M&Aの相手(譲受側候補)とのマッチングが必要です。一般的に、自力で相手を見つけ、交渉や契約を進めるのは難しく、M&A仲介会社などの専門家の協力が不可欠といえるでしょう。

事業承継の実行

資産の移転と経営権の移譲を実施します。親族内や社内での事業承継は、事業承継計画書を作成します。計画に従って、自社株の相続や贈与、後継者の教育などを実施します。一方、第三者への事業承継では、最終契約に沿って自社株の承継や、クロージング(成約)の支払いなどが実施されます。

事業の見直し

承継手続き後、親族内と社内承継では、後継者は新経営者として事業を見直し、事業運営が円滑に行えるように体制を構築します。一方、M&Aによる第三者承継の場合、PMI(統合プロセス)が行われます。PMI(統合プロセス)とは、M&Aが終わった後に、譲渡側と譲受側の経営を統合する作業です。

事業承継に失敗する

事業承継は失敗するケースもあります。ここでは、なぜ事業承継に失敗するのかについて解説します。

後継者の人選・育成の失敗

後継者の人選と育成の失敗は、後継者を選ぶプロセスが難しいことから生じます。親族内で事業承継をしたくても後継者がいなかったり、家族の価値観の違いから後継者を選べなかったりします。また、後継者がいても、能力を見誤ったり、経営に必要なスキルを育成できなかったりした場合、経営状況が悪化し、事業承継に失敗する可能性が高まるでしょう。

親族内での相続争い

親族が後継者になり、複数の遺産相続人がいると、会社の株式の相続争いが発生する場合があります。相続争いが激化すると社内で対立が起きて、事業に支障が生じるかもしれません。経営状況の悪化や従業員の業務が滞ることで事業承継が難しくなり、失敗するケースもあります。

社内への周知が不十分

事業承継では、社内周知のタイミングの見極めが難しい問題です。特に上場企業のM&Aでは、早めの周知により情報漏えいのリスクが高まります。情報が漏れた場合、事業承継プロセスが中断されて、計画が白紙に戻る可能性もあります。ただし、適切な情報提供がないと、従業員は変化に戸惑い、モチベーションの低下や離職を招く恐れがあります。

事業承継を成功させる方法

事業承継を成功させるためのポイントを3つ解説します。

早めに事業承継の手続きを進める

事業承継を成功させるためには、時間を要する後継者の育成を含めて、早い段階で準備を始めるとよいでしょう。これは、不測の事態への備えにもなります。慌てて事業承継を進めると、計画の不備や情報漏えいなど、失敗のリスクが高まります。

相続トラブルに対して対策する

社内分裂を防ぐために、経営者が元気なうちから相続の準備をすることが大切です。また、後継者1人に全株式を相続させると、財産が平等に分配されないという問題が生じます。そのため、全ての相続人が納得できる条件やルールを考えて、事前に話し合いをしましょう。

資金や税金対策をする

事業承継には、相続税や贈与税、所得税、法人税などがかかります。特に、後継者が課税される可能性がある相続税や贈与税については、国や自治体の補助金制度を活用して資金を調達すると、負担が軽くなります。 

事業承継にかかる税金

事業承継においては、引き継いだ相手、用いた手法などにより、納める税金が異なります。ここでは、事業承継で生じる税金について解説します。

相続税・贈与税

親族への事業承継でかかる税金は、相続税と贈与税です。相続税は相続人が遺産を相続する際に課税され、贈与税は生前に贈与された財産に課税されます。相続税の計算は、正味課税遺産額を算出し、それに相続税率を適用します。贈与税の課税方式には、暦年課税と相続時精算課税の2つあり、どちらを選ぶのかは贈与者が決めます。

株式譲渡

M&Aによる事業承継では、一般的に株式譲渡の手法が用いられます。譲渡側が個人の場合は、譲渡所得に対して所得税と住民税がかかります。一方、譲渡側が法人の場合、譲渡益に対して法人税が課税されます。原則として譲受側には、税金は課税されません。

事業譲渡

事業の譲渡側には、譲渡益に対して法人税が課税されます。ただし、個人事業主の場合は、法人税ではなく所得税が課税されます。また、譲渡対象が土地や有価証券などを除いた課税資産の場合、消費税もかかります。渡受側は、通常譲渡側から預かった消費税を代わりに支払います。

事業承継で利用できる公的支援

円滑に事業承継を進めるために、さまざまな支援があります。ここでは主な公的支援について解説します。

事業承継税制

事業承継税制は、相続税および贈与税の納税を猶予する制度で、特定の条件を満たせば適用されます。この税制には、会社の株式などを対象とする法人版事業承継税制と、個人事業者の事業用資産を対象とする個人版事業承継税制があります。

経営資源集約化税制

経営資源集約化税制は、一定の要件を満たした中小企業が、計画に基づいてM&Aを実施した場合に活用できる制度です。設備投資減税(中小企業経営強化税制)と、準備金の積立(中小企業事業再編投資損失準備金)があります。

中小企業者が一定の要件を満たして株式を購入した場合、取得価額の一部を損金に算入できる特例が適用されます。5年経過後を踏まえて、損金計上分を5年間で均等に益金に算入可能です。

事業承継・引継ぎ補助金

事業承継・引継ぎ補助金は、経営者の交代を希望する事業者を支援する制度です。経費の一部を補助することで、事業承継、事業再編・事業統合を促進する目的があります。この補助金には、Ⅰ型「後継者承継支援型」とⅡ型「事業再編・事業統合支援型」があるのもポイントです。

自治体による公的な事業承継支援

事業承継・引継ぎ補助金は、自治体によって提供される制度で、事業承継に必要な資金をサポート提供する役割を担います。具体的には以下のような例があります。

岐阜市: 要件を満たす事業家に、最大50万円までの経費助成の提供
京都府: 中小企業の運転資金に対して、最大2億円、無担保で8千万円までを融資する支援

事業承継とは(まとめ)

事業承継は、経営者から後継者への事業の引き渡し手続きです。円滑な過程を進めるためには、計画と戦略が不可欠です。事業承継には多くの要素が絡み、適切な資源の引き継ぎ、相続人の選定、税金や法的問題の対策が求められます。事業承継を成功させるには、後継者の育成、税務戦略、家族や社内での調整、公的支援の活用が重要です。

みつきコンサルティングでは、事業承継のアドバイスや戦略の提供を通じて、経営者と後継者が円滑な移行を実現するお手伝いをします。事業承継に関するご相談は、みつきコンサルティングにお任せください。

著者

西尾崇
西尾崇事業法人第三部長
宅食事業を共同経営者として立ち上げ、CFOとして従事。みつきコンサルティングでは、会計・法務・労務の知見を活かし、業界を問わず、事業承継型・救済型・カーブアウト・MBO等、様々なニーズに即した多数の支援実績を誇る。
監修:みつき税理士法人

【無料】資料をダウンロードする

M&Aを成功させるための重要ポイント

M&Aを成功させるための
重要ポイント

M&Aの事例20選

M&Aの事例20選

事業承継の方法とは

事業承継の方法とは

【無料】企業譲渡のご相談 
簡単30秒!最適なお相手をご提案

貴社名*
お名前*
電話番号*
メールアドレス*
所在地*
ご相談内容(任意)

個人情報の取扱規程をご確認の上、「送信する」ボタンを押してください。

買収ニーズのご登録はこちら >

その他のお問い合わせはこちら >