事業譲渡契約書の作成方法|必要な条項・ひな形・従業員と印紙税

事業譲渡契約書は、譲渡する資産や契約を一つずつ特定して初めて機能する書面です。何を書き漏らすと揉めるのか、従業員の転籍や許認可はどう扱うのか、印紙税はいくらかかるのか。中小企業の会社売却を支援する立場から、主要条項の書き方と落とし穴、ひな形の使い方、株式譲渡と比べたときのスキーム選定の判断軸まで解説します。

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事業譲渡契約書とは何を決める書面か

事業譲渡契約書は、譲渡する事業に含まれる資産・負債・契約を一件ずつ特定し、その移転条件を当事者が取り決める書面です。会社そのものを引き渡す株式譲渡による会社売却と違い、渡すものと残すものの線引きが、そのまま契約条項になります。

個別承継だからこそ書き漏らしが致命傷になる

そもそも事業譲渡の基本と手続は会社法が枠組みを定めていますが、何を渡して何を残すかは当事者の合意に委ねられています。書かなかったものは移りません。この一点が、事業譲渡契約書を厚くする理由です。

支援現場で紛糾するのは、意外にも金額そのものより「これは含まれていたはず」という認識のズレのほう。譲渡日の直前に、備品一台をめぐって空気が凍る場面を何度も見てきました。

株式譲渡契約書との違いを整理

下表は、事業譲渡契約書と株式譲渡契約書の記載事項を、実務で効いてくる観点から並べたものです。

比較する観点事業譲渡契約書株式譲渡契約書(SPA)
承継の方法資産・負債・契約を選んで移す個別承継会社ごと移る包括承継
契約書で特定する対象資産・債権・債務・契約を1件ずつ譲渡する株式の種類と株数
従業員の移籍本人の同意を得て譲受企業と再契約在籍したまま変わらない
取引先との契約相手方の個別承諾を取り直す原則としてそのまま継続
許認可譲受企業側で取得し直すのが原則会社が保持したまま
簿外債務引き継がない範囲を契約で書ける会社に付いたまま移る
印紙税譲渡金額に応じて課税(第1号文書)課税されない
消費税課税資産の部分に課税非課税
契約書の分量別紙を含めて厚くなりやすい相対的に薄い

この違いは条項の書きぶりだけでなく、手取り額にも跳ね返ります。株式譲渡と事業譲渡の違いを金額面まで含めて比べておくと、契約書の分厚さにも納得がいくはずです。

会社法が求める機関決定

契約書に調印しただけでは足りません。事業譲渡は会社法で機関決定が要求される取引であり、決議を欠いたまま進めると効力そのものが争われます。

譲渡企業側で必要な決議

事業の全部を譲渡する場合、および事業の重要な一部を譲渡する場合は、株主総会の特別決議が要ります。重要な一部かどうかは、譲渡資産の帳簿価額が総資産額の5分の1を超えるかどうかが一つの基準です(会社法467条)。

条文はe-Gov法令検索の会社法で確認できます。株主が譲渡オーナーとご家族だけであっても、議事録は必ず残しておいてください。

譲受企業側で必要な決議

他の会社の事業の全部を譲り受ける場合、譲受企業でも特別決議が必要になります。ただし対価が譲受企業の純資産額の5分の1以下であれば、簡易手続として株主総会を省略できます。事業の一部だけを譲り受けるときは、そもそも決議が要りません。

反対株主の買取請求と債権者保護

特別決議が必要な事業譲渡では、反対株主に株式買取請求権が生じます。少数株主がいる会社では、この請求が価格交渉の火種になることも。

一方、会社分割と違って官報公告などの債権者保護手続はありません。その代わり、債務を移すには債権者の個別同意が要る。制度の重心が違うだけで、負担が消えるわけではないのです。

事業譲渡契約書に盛り込む条項

ここからは、実際に条項として書き起こす項目を順に見ていきます。ひな形に載っている見出しをなぞるだけでは足りず、自社の事業に合わせて中身を詰める作業が本番です。

譲渡対象の特定に関する条項

最も分量を割くべき条項です。本文には「甲が営む〇〇事業」と書き、内訳は別紙の目録に落とし込むのが一般的な建て付けになります。

別紙で特定する内容

下表は、目録に何を書き、書き漏らすと何が起きるかを区分ごとに整理したものです。

記載区分別紙で特定する内容書き漏らしたときに起きること
資産不動産、機械装置、車両、工具器具備品、在庫を型番や数量まで記載引き渡し当日に帰属を巡って交渉が再開する
債権債務者名と債権額を1件ごとに記載し、譲渡禁止特約の有無も確認移転できない債権が混ざり、対価の再計算になる
債務債権者名と債務額を1件ごとに記載し、免責的引受か併存的引受かを明示譲渡後に譲渡企業へ請求が来る
契約取引基本契約、賃貸借契約、リース契約を締結日と相手方で特定承諾取得が漏れ、事業が止まる
知的財産特許権・商標権の登録番号、ドメイン、顧客データ、ノウハウ屋号やレシピが移らず、事業価値が目減りする

債権の移転には対抗要件の具備が伴います。事業譲渡での債権承継は通知や承諾の段取りまで含めて設計しておく必要があります。

譲渡対象から外すものの明記

含めるものを書くだけでは片手落ちです。現金預金、売掛金、役員貸付金、簿外債務、係争中の案件など、渡さないものを除外リストとして書き出しておく。譲受企業からすれば、この除外条項こそが安心材料になります。

譲渡対価と支払・精算に関する条項

譲渡対価は、資産の簿価を足し上げた金額ではありません。顧客基盤やノウハウを含めた事業全体の価値であり、そこには営業権の譲渡とのれんの考え方が反映されます。

金額の水準感は事業売却の相場の決まり方で整理していますが、契約書で書くべきは金額そのものより支払条件です。

分割払いと精算条項

分割払いは、残金が支払われないリスクを譲渡企業が負う構造になります。譲渡日一括が望ましいものの、在庫の棚卸が譲渡日に間に合わないケースは実際に起こる。その場合は精算期日と精算方法を条項に落とし、上下限を設けておくと後の争いを防げます。

譲渡日とクロージング条件

譲渡日は効力発生日であり、競業避止義務の起算点でもあります。ここを曖昧にすると、売上や経費の帰属まで揺らぐことに。

前提条件、つまりクロージング条件の具体例としては、キーパーソンの転籍承諾書、主要取引先の承諾、許認可の取得、株主総会決議の完了などが並びます。条件が未充足なら実行義務を負わない。この安全弁を入れておくかどうかで、当日の緊張感がまるで変わります。

当日の段取りそのものはM&Aのクロージング当日の流れと共通します。

従業員の転籍に関する条項

事業譲渡では従業員が自動的に移りません。譲渡企業を退職し、譲受企業と新たに雇用契約を結ぶ二段階を踏みます。だからこそ契約書では、転籍対象者を別紙で特定し、承諾書の取得を譲渡企業の義務として書き込むのが定石です。

厚生労働省の指針が求める個別協議

厚生労働省の事業譲渡又は合併を行うに当たって会社等が留意すべき事項に関する指針は、譲渡企業に対し、承継予定の従業員と個別に協議し、真意にもとづく承諾を得ることを求めています。

承継されない従業員についても、配置転換など雇用を維持する相応の措置を検討すべきとされています。同指針は改正され、2026年5月25日から改正後の内容が適用されています。給与や退職金の扱いを含めた実務は事業譲渡での従業員の扱いで詳述しています。

キーパーソンは前提条件に格上げする

職人や営業責任者が転籍を拒めば、譲受企業にとって事業を譲り受ける意味が薄れます。努力義務ではなく前提条件として書く。この一行の差が、後の交渉力を左右します。

表明保証と補償

表明保証は、開示した情報が真実かつ正確であることを保証する条項です。事業譲渡では、譲渡対象事業に関する簿外債務の不存在、未払残業代の不存在、契約の有効性などが対象になりやすい。

具体的な項目はデューデリジェンスの結果を踏まえて詰めます。条項の型は表明保証の条項例を参照してください。

補償の上限と期間を必ず交渉する

補償条項を無制限にすると、譲渡オーナーは受け取った対価を超える負担を抱えかねません。補償額の上限を譲渡対価の一定割合に置き、請求期間を1年から2年程度に区切る。ここは譲渡側が声を上げてよい論点です。

競業避止義務

会社法21条により、譲渡企業は原則として同一市町村と隣接市町村の区域内で、譲渡日から20年間は同一の事業を行えません。契約書に何も書かなくても、この義務は法律上発生します。

期間と地域はカスタマイズできる

当事者の合意があれば、法律の内容を変更できます。実務で見かける調整は次のようなものです。

  • 期間の延長(特約による場合は30年が上限)
  • 期間の短縮
  • 適用地域の拡大または限定
  • 義務の免除

譲渡オーナーが別事業を続ける予定なら、地域と業種の定義を狭く書き直しておく。ここを放置したまま調印し、後から手足を縛られていたと気づく例は珍しくありません。なお不正競争の目的での同一事業は、期間にかかわらず禁じられます。

事業譲渡契約書で揉めやすい落とし穴

条項を並べただけの契約書は、実行段階で必ずほころびます。現場で繰り返し目にする四つの穴を挙げておきます。

「一式」表記が引き渡し当日に火種になる

「工具器具備品一式」「在庫一式」という書き方は、作成側にとっては楽です。ところが引き渡し当日、譲渡オーナーが個人的に持ち込んでいた測定器や、リース物件が混在していることが判明する。目録は型番と数量まで落とすのが結局は早道になります。

許認可の空白期間

飲食業、建設業、産業廃棄物処理業、運送業。これらの許認可は原則として譲受企業が取り直します。申請から取得まで数週間から数か月かかる業種もあり、譲渡日と許可取得日がずれると事業が止まる。

譲渡日を許可取得日に連動させる建て付けにするか、取得を前提条件に置くか。事業譲渡での許認可の承継を確認したうえで、条項に反映させてください。

商号続用と免責登記

譲受企業が譲渡企業の屋号や商号をそのまま使う場合、会社法22条により、譲受企業も譲渡された事業に関する債務の弁済責任を負います。債権者保護の趣旨です。

これを避けるには、譲渡後遅滞なく本店所在地で免責の登記を行うか、債権者へ通知する必要があります。登記には譲渡企業の承諾が要るため、契約書に協力義務を書いておく。契約上の地位承継とあわせて押さえたい論点です。

残存債権者からの履行請求

譲渡企業に残った債権者を害することを知りながら事業譲渡をした場合、その債権者は譲受企業に対し、承継した財産の価額を限度に履行を請求できます(会社法23条の2)。

借入が残る会社で優良事業だけを切り出すスキームでは、この規定が現実味を帯びる。金融機関への事前説明を飛ばさないことが、結局は双方の安全につながります。

調印前に確認したいチェックリスト

当社の支援現場で、譲渡オーナーに調印前の最終確認をお願いしている項目です。

  • 別紙の資産目録に、型番・数量・所在場所まで書かれているか
  • リース物件・所有権留保付き物件を資産と混在させていないか
  • 譲渡対象から外すもの(現金預金、売掛金、役員貸付金、係争案件)を明記したか
  • 債務の引受が免責的か併存的かを条文で区別しているか
  • 債権者・賃貸人・主要取引先からの承諾取得の担当と期限を決めたか
  • 転籍対象者と転籍しない従業員の線引きを別紙で特定したか
  • キーパーソンの承諾書取得を前提条件に格上げしたか
  • 許認可の取得予定日と譲渡日の前後関係を確認したか
  • 譲渡オーナー個人の連帯保証の解除を、金融機関と事前に協議したか
  • 補償の上限額と請求期間に歯止めを設けたか
  • 競業避止義務の地域と業種の定義が、今後の予定と矛盾していないか
  • 商号を続用するなら、免責登記への協力義務を書いたか

事業譲渡契約書の印紙税と消費税

税金の話は最後に回されがちですが、契約書の書き方そのものに影響します。特に印紙税は、書式ひとつで金額が変わる領域です。

印紙税額は第1号文書の税率

事業譲渡契約書は「営業の譲渡に関する契約書」として、印紙税法上の第1号文書に該当します。下表は、国税庁が公表する第1号文書の印紙税額です。

記載された契約金額1通あたりの印紙税額
1万円未満非課税
1万円以上10万円以下200円
10万円を超え50万円以下400円
50万円を超え100万円以下1千円
100万円を超え500万円以下2千円
500万円を超え1千万円以下1万円
1千万円を超え5千万円以下2万円
5千万円を超え1億円以下6万円
1億円を超え5億円以下10万円
5億円を超え10億円以下20万円
10億円を超え50億円以下40万円
50億円を超えるもの60万円
契約金額の記載のないもの200円

出典は国税庁タックスアンサーNo.7140 印紙税額の一覧表です。不動産譲渡契約書には軽減税率がありますが、営業の譲渡部分には及びません。不動産を含む事業譲渡では、所轄税務署に確認しておくのが確実です。

消印の方法と契約書の通数

収入印紙は貼るだけでは納付になりません。署名または押印による消印が要ります。署名する人は文書の作成者本人でなくてもよく、代理人や従業員でも差し支えありません。両者が署名する必要もない。

見落としやすいのが通数です。原本を2通作れば2通とも課税文書になり、印紙税も2倍かかります。原本1通に印紙を貼り、もう一方はコピーを保管する運用も可能ですが、証拠力の観点から譲渡オーナー側が原本を持つかどうかは慎重に決めてください。

電子契約なら印紙税がかからない

紙で作成せず、PDFなどの電磁的記録として締結・交付する場合、課税文書を作成したことにならないという取扱いが示されています。国税庁の文書回答事例が根拠です。

譲渡金額が数億円の案件なら、印紙税だけで10万円単位の差になります。株式譲渡契約書と印紙税の扱いと比べると、事業譲渡側の負担の重さが際立ちます。

消費税を区分記載すると印紙税が下がることも

第1号文書では、消費税額等が区分記載されていれば、その金額は印紙税の記載金額に含めません(国税庁タックスアンサーNo.7124)。「1億1,000万円(税込)」と書くか、「本体1億円、消費税額等1,000万円」と書くか。階級の境目付近では、この書き分けが税額を動かします。

事業譲渡では、建物・機械・在庫・のれんが課税対象、土地や有価証券は非課税と、資産ごとに扱いが分かれます。事業譲渡と消費税の関係を整理したうえで、契約書に対価の内訳を書いておくと、後の申告が楽になります。譲渡益に対する法人税の扱いは事業譲渡にかかる税金で解説しています。

事業譲渡契約書のひな形と使い方

インターネット上のひな形は無料で手に入ります。ただし、そのまま使える案件を当社は見たことがありません。

ひな形をそのまま流用すると危ない理由

ひな形は最大公約数の条項を並べたものです。譲渡対象の目録、許認可の段取り、キーパーソンの承諾、連帯保証の解除といった、その会社固有の論点は当然ながら空白のまま。

骨組みとして使い、肉付けは専門家と行う。この使い方なら、ひな形は十分に役立ちます。経済産業省の中小M&Aガイドラインにも、契約実務の考え方が整理されています。

事業譲渡契約書のテンプレート

以下は簡素なサンプルです。実際の案件では、これに前提条件・表明保証・補償の各条項を厚く書き足すことになります。

事業譲渡契約書(本文)

譲渡人【譲渡人の名称】(以下「甲」という。)と譲受人【譲受人の名称】(以下「乙」という。)は、甲が営む【事業名】事業(以下「本件事業」という。)を乙に譲渡するにあたり、以下のとおり事業譲渡契約(以下「本契約」という。)を締結する。

第1条(事業譲渡の合意)
甲は乙に対し、本契約の定めに従い本件事業を譲渡し、乙はこれを譲り受ける(以下「本事業譲渡」という。)。

第2条(譲渡日)
本事業譲渡の効力発生日(以下「譲渡日」という。)は、西暦【  】年【 】月【 】日とする。ただし、甲乙協議のうえ、これを変更することができる。

第3条(譲渡対象資産及び負債)
1. 甲は乙に対し、譲渡日をもって、本件事業に属する別紙1記載の資産(以下「譲渡資産」という。)を譲渡する。
2. 甲は乙に対し、譲渡日をもって、別紙2記載の契約(以下「承継契約」という。)における契約上の地位を移転する。
3. 乙は、譲渡日をもって、別紙3記載の債務(以下「承継債務」という。)を免責的に引き受けるものとし、甲及び乙は、債権者の承諾取得を含む必要な手続を相互に協力して行う。
4. 前3項に掲げるもの以外の甲の資産、負債及び契約上の地位は、本事業譲渡の対象に含まれない。現金預金、売掛金及び役員貸付金は、譲渡対象から除外する。

第4条(譲渡代金及び支払方法)
1. 本事業譲渡の対価(以下「譲渡代金」という。)は、金【    】円とし、これに対する消費税額等【    】円を加算した額を支払額とする。
2. 乙は甲に対し、前項の支払額を譲渡日までに甲の指定する銀行口座へ振り込む方法により支払う。振込手数料は乙の負担とする。
3. 譲渡日時点の棚卸資産の数量に増減が生じた場合、甲乙は譲渡日から【 】日以内に精算を行う。

第5条(前提条件)
乙は、次の各号のすべてが譲渡日までに充足されていることを条件として、本事業譲渡を実行する義務を負う。ただし、乙はその裁量により条件の全部または一部を放棄することができる。
1. 甲において本契約に必要な株主総会の決議が行われていること
2. 別紙4記載のキーパーソンから転籍に関する承諾書が取得されていること
3. 別紙5記載の主要取引先から契約上の地位の移転に関する承諾が取得されていること
4. 本件事業の遂行に要する許認可を乙が取得していること

第6条(従業員の取扱い)
1. 本件事業に従事する甲の従業員のうち、別紙4記載の者については、乙が譲渡日付で新たに雇用する。甲は、当該従業員に対し、労働条件を説明したうえで個別に協議し、その承諾を得るものとする。
2. 甲は、乙に転籍する従業員に対し、譲渡日までに発生した賃金、賞与及び退職金を支払い、乙はこれらの債務を承継しない。

第7条(許認可及び各種手続)
1. 甲は、乙が本件事業に要する許認可を取得できるよう、資料の提供その他必要な協力を行う。
2. 譲渡資産の移転につき登記、登録その他の対抗要件の具備を要する手続は、甲乙協力のうえ速やかに行い、これに要する費用は乙の負担とする。

第8条(商号の取扱い)
乙が甲の使用していた商号または屋号を続用する場合、甲は、乙が会社法22条2項に定める登記を行うことに同意し、必要な手続に協力する。

第9条(善管注意義務)
甲は、本契約締結の日から譲渡日に至るまで、善良な管理者の注意をもって本件事業及び譲渡資産を管理・運営し、その価値を維持する。

第10条(競業避止義務)
甲は、譲渡日から【 】年間、【  】の区域内において、本件事業と同一または類似の事業を自ら行い、または第三者をして行わせてはならない。

第11条(表明及び保証)
甲及び乙は、それぞれ相手方に対し、本契約締結日及び譲渡日において、別紙6記載の事項が真実かつ正確であることを表明し、保証する。

第12条(補償)
1. 甲及び乙は、前条の表明保証に違反し、または本契約に違反したことにより相手方に生じた損害を補償する。
2. 前項に基づく補償の請求は譲渡日から【 】か月以内に行うものとし、補償額の上限は譲渡代金の【 】%とする。

第13条(解除)
甲または乙は、相手方に本契約の重大な違反があった場合、催告のうえ本契約を解除することができる。ただし、譲渡日以降は本契約を解除することができない。

第14条(秘密保持)
甲及び乙は、本事業譲渡に関して知り得た相手方の営業上・技術上の情報を、相手方の事前の書面による承諾なく第三者に開示または漏洩してはならない。

第15条(公租公課の負担)
譲渡資産に関する公租公課は、譲渡日の前日までの分を甲が、譲渡日以降の分を乙が、それぞれ負担する。

第16条(協議事項)
本契約に定めのない事項及び本契約の解釈に疑義が生じた事項については、甲乙誠意をもって協議のうえ解決する。

第17条(準拠法及び合意管轄)
1. 本契約は日本法に準拠し、これに従って解釈される。
2. 本契約に関する一切の紛争については、【  】地方裁判所を第一審の専属的合意管轄裁判所とする。

【  】年【 】月【 】日

甲(譲渡人)
所在地 【甲の所在地】
商号 【甲の商号】
代表者 【甲の代表者氏名】        印

乙(譲受人)
所在地 【乙の所在地】
商号 【乙の商号】
代表者 【乙の代表者氏名】        印

別紙の作り方

別紙は6種類を想定しています。資産目録、承継契約目録、承継債務目録、転籍対象者名簿、承諾取得先リスト、表明保証事項。名簿や目録は、担当者が現物と突き合わせできる粒度で作ってください。

資産目録の例としては、不動産(所在地番・家屋番号)、機械装置(機械名・型番・製造番号)、車両運搬具(車種・登録番号)、工具器具備品(品目・数量)、在庫(商品・原材料・仕掛品)、知的財産権(特許権・商標権の登録番号)といった単位まで落とし込むのが実務です。

上記のひな形は、経済産業省「中小M&Aガイドライン」をもとに当社で加工したものです。

会社売却スキームの選定と事業譲渡契約書

ここまで読んで、契約書の重さに驚かれたかもしれません。実はこの重さ自体が、スキーム選定の判断材料になります。

契約書の分厚さは移転コストの裏返し

事業譲渡契約書が厚くなるのは、移転すべきものが一件ずつ手作業だからです。承諾取得、許認可の再取得、従業員の再雇用。どれも人手と時間を食う。譲渡オーナーにとっては、成約までの期間が延びることを意味します。

加えて、代金は会社に入ります。オーナー個人の手元に移すには配当や役員退職金というもう一段の設計が要り、そこにも課税が生じる。譲渡代金の会社での処理を先に確認しておくべき理由がここにあります。

どちらのスキームが向くのか

下表は、当社が初回相談で譲渡オーナーと確認している判断軸です。

確認したい点事業譲渡が向く場面株式譲渡が向く場面
渡したい範囲複数事業のうち一部だけを切り出したい会社ごと引き継いでもらいたい
残したい資産不動産や保険を会社に残したい残す資産は特にない
簿外リスク譲受企業がリスク遮断を強く求めている買収監査で説明しきれる
手取りの受け取り方会社に資金を残して再投資したいオーナー個人で受け取りたい
成約までの期間時間をかけても対象を絞りたい短期間で確実に引き継ぎたい
個人保証借入が事業に紐づいていない借入と保証をまとめて外したい

当社が支援する中小企業の会社売却は、約9割が株式譲渡です。事業譲渡が選ばれるのは、切り出しに合理性がある場合に限られます。売却後も法人が残る点については、事業譲渡後に残る会社の扱いを含めて検討してください。

支援現場で見た2つの事例

契約書の一行が結果を変えた場面を、匿名化して紹介します。

事例1 目録の粒度で当日が止まった製造業

年商8億円、従業員35名の金属加工業。2つの製造ラインのうち採算の悪い一方を、同業へ事業譲渡した案件です。別紙の資産目録に「工具器具備品一式」とだけ記載していたため、引き渡し当日、測定器3台の帰属で交渉が再開しました。

結果として譲渡代金の一部を留保し、後日精算する形で決着。目録を型番まで書いていれば、避けられた半日でした。

事例2 許認可を前提条件に入れなかった飲食業

従業員18名の飲食チェーン。5店舗のうち2店舗を事業譲渡しました。契約書には譲渡日を固定日で書いただけで、飲食店営業許可の取得をクロージング条件に入れていなかった。

保健所の検査日程が押し、2週間の休業が発生。その間の固定費負担をどちらが持つかで、譲渡後に協議が長引きました。前提条件の一項目が、両社の関係を守ってくれたはずの案件です。

相談は契約書の前に

契約書のドラフトが出てきてから相談に来られる方もいます。ただ、その段階では譲渡対象も対価も概ね固まっており、動かせる余地は限られる。事業売却の流れを見ればわかるとおり、スキームを決める初期段階こそ手取りが決まる局面です。

事業譲渡契約書に関するFAQ

譲渡オーナーから実際にいただく質問のうち、本文で触れきれなかったものをまとめました。

Q:収入印紙は売り手と買い手のどちらが負担しますか?

印紙税法上は、共同で作成した文書について当事者が連帯して納付義務を負います。つまり法律上はどちらが貼っても構いません。実務では折半、または買い手負担とする例が多い印象です。争いを避けるため、契約書に費用負担の条項を置いておくことをお勧めします。

Q:契約書を交わす前に基本合意書は必要ですか?

規模と交渉の複雑さ次第です。デューデリジェンスに費用をかける案件なら、独占交渉権を確保する意味で結んでおく価値があります。小規模で一気に進む案件では省略することも。現場では、買い手が調査費用を投じるかどうかを一つの目安にしています。

Q:売り手個人の連帯保証は契約書に書けば外れますか?

契約書に解除の合意を書いても、それだけでは外れません。保証を解除できるのは金融機関だけです。実務では、譲受企業が代わりの保証を差し入れるか、借入を返済するかを金融機関と事前協議します。契約書には協力義務と、解除できなかった場合の取扱いを書いておきます。

Q:買収側から契約締結を急かされています。

日程を優先して前提条件や補償の上限を削るのは避けたいところ。まず確認するのは、デューデリジェンスの指摘事項が契約書に反映されているかです。急ぐ理由が買い手側の決算期であれば、条項を残したまま調印日を調整できる余地があります。

税理士法人を母体とするM&A仲介会社|みつきコンサルティングが選ばれる理由

事業譲渡契約書の作成で押さえる要点のまとめ

事業譲渡契約書は、渡すものと残すものを一件ずつ線引きし、従業員・許認可・債務の移転手順まで書き込んで初めて機能します。ひな形は出発点にすぎず、目録の粒度と前提条件の設計が結果を左右する。契約書の厚みに気後れする方は少なくありませんが、それは会社を守るための厚みでもあります。

みつきコンサルティングは、税理士法人グループのM&A仲介会社として、中小企業の会社売却と事業承継を長年支援してきました。スキーム選定から契約条項の勘所、税務面まで、みつき税理士法人と連携してワンストップでご対応します。事業譲渡と株式譲渡のどちらが自社に合うかお迷いでしたら、契約書のドラフトが出る前にご相談ください。

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著者

田原 聖治
田原 聖治事業法人第一部長/M&A担当ディレクター
みずほ銀行にて大手企業から中小企業まで様々なファイナンスを支援。みつきコンサルティングでは、各種メーカーやアパレル企業等の事業計画立案・実行支援に従事。現在は、IT・テクノロジー・人材業界を中心に経営課題を解決。M&Aの成約実績多数、M&A仲介・助言の経験年数は10年以上
監修者 神門 剛 代表取締役 / 公認会計士・税理士

みつきコンサルティングは、中小企業の会社売却・事業承継に特化した譲渡企業様に完全成功報酬制のM&A仲介会社です。売り手と買い手企業の最適なマッチングを、経験豊富なM&Aコンサルタントが初期相談から成約まで一貫してフルサポートします。

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