会社閉鎖と会社売却の比較|引退時の手取り・手続と選択基準

「そろそろ会社をたたもうか」と考え始めたとき、選択肢は閉鎖だけではありません。休眠・廃業・清算といった会社閉鎖と、第三者への会社売却(M&A)では、経営者の手取り、従業員の雇用、個人保証の扱いが大きく変わります。引退を見据えるオーナー経営者に向けて、処分方法ごとの違いと選び方を整理します。

「うちの会社でも売却できるだろうか…」、「何から始めればいいんだろう…」。そのようなオーナー経営者の不安に、中小企業向けM&A仲介会社みつきコンサルティングは、20年間・500件以上の支援実績に基づき、お応えします。本格検討前の情報収集として、まずはお話をお聞かせください。

会社をたたむ前に知っておきたい選択肢

「後継者がいない」「体力的にそろそろ潮時だ」。そう感じたとき、多くのオーナー経営者がまず思い浮かべるのは会社を閉じることです。ところが、閉じる方法は一つではありません。そして閉じる以外に、第三者へ譲り渡すという道もあります。

会社閉鎖と会社売却では、手元に残るお金も、社員や取引先の行き先も、まるで違ってきます。第三者への事業承継という発想を持つだけで、引退後の景色が変わることは珍しくありません。本記事の前提として、廃業とM&Aを比較した全体像もあわせて押さえておくと、判断がぶれにくくなります。

休廃業は過去最多、平均年齢は71歳

会社を手放す決断は、いまや特別なことではありません。中小企業庁の白書によると、2025年版中小企業白書では、2024年の休廃業・解散件数は約7万件にのぼり、そのうち黒字の状態で休廃業・解散に至った企業の割合は51.1%と過半数を占めています。

つまり、まだ十分に稼げる会社が、毎年たくさん市場から消えています。もったいない、と感じませんか。儲かっているうちは、たたむより譲るほうが理にかなう場面が多いのです。

会社閉鎖の3つの選択肢の違い

ひと口に「会社をたたむ」といっても、中身は三つに分かれます。法人格を残す休眠、事業をやめる廃業、そして法人格を消滅させる清算です。それぞれ手間も費用も後戻りのしやすさも違うため、まず輪郭をつかんでおきましょう。

休眠(休業)は法人格を残したまま止める

休眠(休業)とは、会社をたたまず、事業活動だけを一時停止することをいいます。登記簿に会社は残るので、再開したくなれば届出だけで戻せます。設立の費用も許認可も取り直さずに済む、いわば「冬眠」のような状態です。

税務署や都道府県・市区町村へ異動届出書を出すのが基本の流れになります。所得がなければ法人税はかかりませんが、法人住民税の均等割は所得に関係なく課税されるのが原則です。届出によって均等割が免除される自治体もありますが、扱いは地域ごとに異なるため、個別の確認が欠かせません。

株式会社は12年放置でみなし解散

休眠には落とし穴があります。株式会社は役員の任期が最長10年で、休眠中も役員変更登記の義務が消えません。最後の登記から12年が経過すると、事業活動がないものとして「みなし解散」の対象となり、法務大臣の官報公告から2か月以内に登記をしなければ登記官の職権で解散登記が行われます。放置したつもりが、知らぬ間に解散させられていた。そんな相談も現場では時折持ち込まれます。

廃業・解散は事業をやめて会社を消す手続

廃業は、事業をやめて会社を消滅させる方向の選択です。株主総会で解散を決議し、清算人を選び、債権の回収と債務の弁済を経て清算結了に至ります。流れの詳細は廃業の手続全体会社解散の進め方で整理しています。

従業員がいる会社では、解雇の通知や退職金の扱いが避けて通れません。タイミングを誤ると不信感やトラブルにつながるため、従業員への通知の段取りは早めに固めておきたいところです。

会社をたたむ費用はいくらかかるか

「会社をたたむのにお金が出ていくのか」と驚く方は少なくありません。解散・清算には、おもに登録免許税と官報公告の費用が実費として発生します。下表に主な内訳をまとめました。

費用項目金額の目安備考
解散および清算人選任の登記39,000円登録免許税(解散30,000円+清算人選任9,000円)
清算結了の登記2,000円登録免許税
官報公告(債権者保護)約32,000円〜掲載枠・行数により変動
専門家報酬数万〜数十万円司法書士・税理士へ依頼する場合

登録免許税は解散および清算人選任の登記に39,000円、清算結了の登記に2,000円の合計41,000円がかかり、債権者保護のための官報公告には約32,000円が必要です。司法書士や税理士に任せれば、ここに報酬が上乗せされます。費用の詳しい内訳は廃業にかかる費用の解説で確認できます。

有限会社をたたむ場合の注意点

「うちは有限会社だけど、同じなのか」。こうした問い合わせもよくあります。有限会社は役員に任期がないため、株式会社のような12年でのみなし解散はありません。一方で、解散・清算の手続そのものは株式会社とおおむね共通します。細かな違いは有限会社の解散手続に整理しているので、該当する方は目を通しておいてください。

清算では手元に残るのは残余財産だけ

清算まで進めると、会社は法的に消滅します。資産をすべて現金化し、借入金や買掛金などの負債を返済し、それでも残ったお金が「残余財産」です。官報公告から2か月間は清算結了できないと法律で定められているため、解散から会社の消滅まで最低でも2か月以上、実務では3か月程度を見込む必要があります。手続の全体像は会社清算の流れで確認できます。

ここで知っておきたいのは、残余財産の分配が税務上「みなし配当」として扱われ、総合課税の対象になる点です。累進税率で課税されるため、利益剰余金の大きい会社ほど思った以上に税負担が重くなる。これは見落としがちですが、現場で必ず試算する論点です。

会社売却で経営者が得られるもの

ここからが本題です。閉じる代わりに譲る。すなわち会社売却(M&A)を選ぶと、手元に残るお金も、社員の行き先も、保証の扱いも、閉鎖とは大きく変わります。順に見ていきましょう。

手取りは純資産に営業権が上乗せされる

清算で手元に残るのは、負債を返したあとの残余財産だけでした。これに対して会社売却では、会社の純資産に加えて、目に見えない稼ぐ力、いわゆる営業権が価格に乗ります。長年かけて築いた取引基盤や技術、ブランドにも値段がつく、ということです。

個人が株式を譲渡した場合の譲渡益は、原則として分離課税の対象です。残余財産分配のみなし配当が累進税率になりがちなのと比べ、税率の見通しを立てやすい点も見逃せません。同じ会社でも、たたむか譲るかで手取りが数千万円単位で違ってくる例を、当社の支援現場では何度も目にしてきました。

従業員の雇用と取引先が守られる

清算は、雇用も取引も終わらせる手続です。長く働いてくれた社員に、退職を告げなければなりません。会社売却なら、事業はそのまま続きます。社員は新しい経営者の下で働き続け、取引先との関係も保たれます。

「社員と取引先に迷惑をかけたくない」。引退を考えるオーナーが最後まで気にかけるのは、たいていこの一点です。事業を残せるかどうかは、金額以上に重い意味を持ちます。

個人保証の解除を交渉できる

中小企業の社長は、ほぼ例外なく会社の借入に個人保証を付けています。廃業では、原則として借入を完済しなければ保証から逃れられません。返せなければ、最悪の場合は自己破産という出口も視野に入ります。

会社売却では事情が違います。借入は会社ごと譲受企業へ引き継がれ、譲受企業の信用力を背景に、金融機関と保証解除を交渉できる余地が生まれます。重くのしかかっていた個人保証から解放される。これも売却ならではの大きな利点です。

会社閉鎖と会社売却を一覧で比較

ここまでの違いを、下表で一気に見比べてみましょう。経営者の手取り、従業員、取引先、債務、個人保証、期間という観点で並べています。

比較項目会社閉鎖(廃業・清算)会社売却(M&A)
経営者の手取り負債返済後の残余財産のみ。閉鎖コストも発生純資産+営業権が評価され、譲渡益を得られる
従業員の雇用解雇・退職となり雇用は終了原則そのまま新経営者の下で維持される
取引先・顧客契約は打ち切り。迷惑をかける恐れ事業継続により関係が保たれる
会社の債務原則すべて完済が必要株式譲渡なら負債ごと引き継がれることが多い
個人保証解除が難しく、完済が前提になりやすい譲受企業の信用力で解除交渉が可能
期間の目安解散から清算結了まで最低2〜3か月、通常半年〜1年相手探しから完了まで半年〜1年程度

表を見ればわかるとおり、稼ぐ力が残っている会社ほど、閉鎖より売却に分があります。手取りでも、社員の行き先でも、保証の重さでも差がつくからです。

会社閉鎖と会社売却の選択基準

とはいえ、すべての会社に売却が向くわけではありません。どちらを選ぶべきかは、会社の状態で見極めます。最後に判断の軸を整理します。

会社閉鎖を選んだほうがよい場合

業績が大きく悪化し、負債が重すぎて買い手が見つからない。あるいは、すでにたたむ覚悟が固まっていて、多少の手間と費用をかけても綺麗に終わらせたい。こうしたケースでは、廃業・清算で区切りをつける判断が現実的です。再建が難しい場合の道筋は、個人事業主の廃業もあわせて参考になります。

会社売却を検討すべき場合

黒字である、もしくは赤字でも一定の売上や技術、ブランド、許認可がある。社員の雇用を守りたい、事業を残したい。引退資金として譲渡益を確保したい。これらに一つでも当てはまるなら、たたむ前に売却を検討する価値は十分にあります。判断に迷ったら、清算した場合の残余財産と、売却した場合の譲渡益を両にらみで試算するのが近道です。

会社の閉鎖・売却に関するFAQ

最後に、引退を考えるオーナーから現場でよく寄せられる質問をまとめます。

Q:会社をたたむより売ったほうが手取りは多くなりますか?

多くの黒字企業では、清算より売却のほうが手取りは大きくなりやすいです。清算では残余財産の分配が中心ですが、売却では純資産に加えて営業権等が評価されることがあるためです。ただし、買い手の評価や税負担、負債超過の有無で結論は変わるので、売却と清算の両方を試算して比べるのが確実です。

Q:個人保証は会社を売れば必ず外れますか?

必ず外れるとは言い切れません。解除できるかは、譲受企業の信用力と金融機関の判断次第です。とはいえ廃業より交渉の余地は格段に広がります。契約条件と金融機関の姿勢を見ながら進めるのが実務です。

Q:休眠にしておいて、あとから売却に切り替えられますか?

登記が生きていれば検討は可能です。ただし休眠が長引くと、取引や従業員、許認可が失われ、売れる状態でなくなる懸念があります。売却の可能性を残したいなら、早めに動くほうが選択肢は広く保てます。

会社の閉鎖と売却を比較して後悔のない引退を

会社の処分には、休眠・廃業・清算という閉鎖の道と、第三者へ譲る売却の道があります。稼ぐ力が残る会社ほど、手取り・雇用・個人保証のどれをとっても売却に分があり、たたむ前に一度立ち止まる意味は大きいものです。長年育てた会社の幕引きに迷うのは、当然のことだと思います。

みつきコンサルティングは、税理士法人グループのM&A仲介会社として、中小企業の会社売却・事業承継を数多く支援してきました。企業価値評価と清算試算の両面から、たたむべきか譲るべきかを一緒に見極められます。引退の出口に悩まれたら、本格検討の前段階でも構いませんので、まずはお気軽にご相談ください。

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著者

田原 聖治
田原 聖治事業法人第一部長/M&A担当ディレクター
みずほ銀行にて大手企業から中小企業まで様々なファイナンスを支援。みつきコンサルティングでは、各種メーカーやアパレル企業等の事業計画立案・実行支援に従事。現在は、IT・テクノロジー・人材業界を中心に経営課題を解決。M&Aの成約実績多数、M&A仲介・助言の経験年数は10年以上
監修者 神門 剛 代表取締役 / 公認会計士・税理士

みつきコンサルティングは、中小企業の会社売却・事業承継に特化した譲渡企業様に完全成功報酬制のM&A仲介会社です。売り手と買い手企業の最適なマッチングを、経験豊富なM&Aコンサルタントが初期相談から成約まで一貫してフルサポートします。

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