近年、システム開発業界において、人手不足の解消や業務の内製化を目的としたМ&Aが増加しています。本記事では、システム開発会社のM&A動向や譲渡価格の考え方、具体事例などついて詳しく解説します。
システム開発の業界
システム開発会社の業界事情について概説します。
システム開発会社とは
システム開発とは、情報技術(IT)を活用して業務プロセスを効率化する、システムの構築を指します。システム開発会社は、企業や組織からの依頼を受け、ニーズに合わせたシステムの設計・実装・運用・サポートを行う企業です。
市場規模
矢野経済研究所による調査「国内企業のIT投資に関する調査」によると、システム開発会社が属するIT業界は、2018年度から右肩上がりの成長を遂げています。この傾向は、今後も続くと予想されており、クラウド、ビッグデータ、IoT(モノのインターネット)などの技術が、あらゆる業界で求められています。
出所:矢野経済研究所の資料を編集部にて加工
M&A動向
デジタル化の波は、システム開発会社に新たな課題と機会をもたらしました。特に、クラウド化の進展により、従来型のシステム開発のビジネスモデルは変化を迫られています。このため、多くのシステム開発会社が、クラウド型システムパッケージを活用したソリューション事業への移行を目指し、M&Aを実施しています。
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売り手のメリット・デメリット
システム開発会社のオーナー経営者が会社売却することのメリットとデメリットのうち主なものを紹介します。
メリット
主なメリットは以下のとおりです。
後継者不在の解決
M&Aは、身近に適当な後継者がいない場合の解決手段として有効です。
経営基盤の安定化
譲受企業のサポートを得ることで、譲渡側企業の収益が上がりやすくなるケースが多くあります。
従業員のキャリア拡大
譲受企業との交流により、従業員のモチベーションが向上し、新たな技術習得の機会が増えます。
投資回収・現金化の時間短縮
M&Aにより、投資の回収や現金化にかかる時間を短縮できます。端的に言うと、いわゆる創業家者利益を得ることができます。
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デメリット
デメリットは以下のようなものです。
雇用・労働条件の変更リスク
譲受企業による雇用・労働条件の変更や、それに伴う従業員の離職が起こる可能性があります。
期待以下の評価
思っていたほど会社に価値がつかない可能性があります。
企業文化の衝突
お相手機企業との融合がうまくいかない可能性があります。
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買い手のメリット・デメリット
システム開発会社のM&Aにおける譲受企業のメリット・デメリットについて説明します。
メリット
最初にメリットです。
時間の節約
新規事業立ち上げや既存事業拡大にかかる時間を短縮できます。
エンジニアの効率的な確保
IT業界の市場規模が拡大する一方で、多くのシステム開発会社は人材不足に直面しています。M&Aは、人材不足問題に対する有効な解決策の1つです。譲受側の会社は、譲渡側から人材を引き継ぎ、即戦力として活用することで、人材不足を効果的に解消できるでしょう。
業務の内製化
業務の内製化は、コスト削減や業務効率の向上を目指すシステム開発会社にとって、重要な戦略です。M&Aを通じて、会社は必要な技術や専門知識を持った企業を取り込むことができます。
技術・ノウハウの獲得
譲渡企業の技術やノウハウを即座に取り込むことができます。
事業規模の拡大
既存の取引先や流通網を活用し、ビジネス規模を拡大できます。
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デメリット
次にデメリットです。
多額の買収資金
譲渡企業が魅力的な場合には、多額の買収資金が必要になる場合があります。
統合の難しさ
買収後の人事や組織の統合に課題が生じる可能性があります。
想定外のリスク
デューデリジェンスで把握できなかった問題が顕在化するリスクがあります。
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システム開発会社の価格相場
システム開発会社のM&Aにおける価格相場について説明します。
価格相場の特徴
システム開発会社のM&Aにおける価格相場は、一概に特定の金額や範囲を示すことが難しい特徴があります。これは以下の要因によるものです。
- 企業規模の違い
- 保有資産の状況
- 営業利益の状況
- 技術力や開発実績
- 顧客基盤
相場感の把握方法
具体的な相場を把握するには、以下の方法があります。
- M&Aの専門家への相談
- M&Aマッチングサイトの案件確認
- 公表されている過去のM&A事例の調査
価格に影響を与える要因
システム開発会社のM&Aにおいては、後述する財務指標だけでなく、技術力や市場での競争力、将来性なども含めた総合的な評価が行われます。そのため、専門家のアドバイスを受けながら、自社の強みを適切にアピールし、交渉を進めることが重要です。
業界動向
業界内での成長が見込めるサービスやプロダクトを取り扱う場合、好条件での成立が期待できます。
譲渡するタイミング
会社売却するタイミングも価格に大きく影響します。譲渡したい時が「売り時」ではありません。
譲受企業とのシナジー効果
お相手企業との相乗効果が期待できる場合、高い評価につながる可能性があります。
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企業価値算定の3つの方法
M&Aにおける具体的な譲渡価格は、主に以下の要素を考慮して決定されます。他業界に比べ、システム開発会社の場合は、技術力や開発実績が重要な評価ポイントとなります。
- 有形資産: 現金、設備、不動産など
- 無形資産: 技術力、ノウハウ、顧客関係など
- 財務状況: 売上高、利益率、成長性など
- 市場動向: 業界の成長性、需要の拡大など
代表的な企業価値の算定方法には、以下3つのアプローチがあります。これらの方法は、それぞれ異なる側面から企業価値を評価し、M&Aにおける適正な価格を決定するのに役立ちます。
コストアプローチ
コストアプローチは、企業の現在の純資産をもとに企業価値を算出します。企業の物理的な資産や負債を考慮するため、客観性に優れた譲渡価格の算出が可能です。中小企業のM&Aでは、年倍法等が代表例で、時価に換算した 純資産に「のれん」を加えて算出します。「のれん」は、他業界の場合は営業利益等の利益指標の2~3年分により計算されることが一般的ですが、有力なシステム開発会社の場合には4~5年分、又はそれ以上で評価することも珍しくありません。
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インカムアプローチ
インカムアプローチでは、将来のキャッシュフローを現在価値に割り引いて算出する方法を取ります。この算定方法は、今後の収益性や成長可能性に期待できる場合、特に有効です。代表例はDCF法で、 将来キャッシュフローの現在価値を算出します。
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マーケットアプローチ
マーケットアプローチは、市場取引をもとに企業価値を算出する方法です。類似企業の取引データを参考にして価値を評価するため、正確に企業価値を算定できます。EBITDAマルチプルが代表例で、譲渡企業のEBITDAにEBITDA倍率を掛けて算出します。
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M&A成功のポイント
M&Aを成功に導くためには、いくつかの重要なポイントがあります。
自社の強みを明確にする
M&Aで可能な限り高値で譲渡するためには、自社の強みを明確にすることが重要です。特に、技術力、顧客基盤、ブランド価値など、自社独自の競争優位点を強調することを意識しましょう。
優秀な従業員を育成する
優秀な従業員を多く雇用している企業は、高額で取引される傾向にあります。従業員の育成と定着に向けた取り組みは、企業価値を高めるために欠かせません。
市場の状況やトレンドを把握する
M&Aを成功させるためには、市場の状況や最新のトレンドを把握することが重要です。市場動向、競合他社の動き、業界の変化などを理解することで、適切なタイミングでM&Aを実施し、より良い条件で取引できるでしょう。
必要なデータをまとめる
M&Aにおいては、事業に関連するデータの整理と提示が重要です。財務諸表、契約書、顧客リスト、業績データなどを整理・可視化し、取引相手に対して事業の透明性と信頼性を高めましょう。
専門家に相談する
M&Aには複雑な手続きや法的な側面が含まれるため、自社のみで対応するのは困難かもしれません。弁護士、会計士、M&Aアドバイザーなど、専門家による適切なアドバイスとサポートを受けることで、スムーズな取引が実現しやすくなるでしょう。
M&Aに関する相談先は多岐にわたり、それぞれが異なる専門性とサポートを提供します。適切な相談先を選ぶことが、M&Aの成功においては非常に重要です。
税理士や公認会計士
M&Aにおいて、税理士や公認会計士は重要な役割を担います。これらの専門家は、会計や税務に関する深い知識を持ち、M&Aに伴う複雑な財務処理や税務処理を適切にサポートします。M&Aにおいて財務的なリスクを最小限に抑えるのに役立つでしょう。
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M&A仲介会社
M&A仲介会社は、売り手と買い手のマッチングから交渉、契約締結までの一連のプロセスをサポートする企業です。これらの企業は、豊富な経験と専門知識を持ち、効率的な取引の進行や適切な価格設定のアドバイスを提供します。また、幅広いネットワークを利用して、最適な取引相手を見つけることも可能です。
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金融機関
銀行や証券会社などの金融機関も、M&Aにおいて重要な相談先です。これらの機関は、資金調達から財務アドバイザリーまで、幅広いサポートを提供します。特に、資金調達に関するアドバイスやM&Aに伴う融資の手配は、金融機関の得意とする領域です。
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公的機関
商工会議所や経済産業省などの公的機関は、M&Aに関する情報提供やアドバイスを行っています。特に、中小企業の事業承継を支援するための事業承継・引継ぎ支援センターは、地域に密着したサポートを提供します。これらの機関は、費用面でのメリットや公的な信頼性が高いという点で、特に小規模な事業者にとって有用です。
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システム開発会社のM&A事例
システム開発会社のM&Aは、多様な戦略的目的を持ちます。以下では、注目のM&A事例を6つ紹介します。
エスエイティーティーがアイ・ティ・コンサルティングを子会社化
2019年8月6日、エスエイティーティー株式会社は、株式会社アイ・ティ・コンサルティングの全株式を取得し、子会社化しました。このM&Aの主な目的は、全国展開を加速させることです。全国的に知名度を上げることで、新たなクライアントの獲得や業務拡張が期待できます。
サンロフトがS’PLANTを子会社化
2021年3月3日、株式会社サンロフトは、株式会社S’PLANTの株式を100%取得し、子会社化しました。このM&Aは、基幹業務システム開発事業部門の体制強化を目的としています。株式会社サンロフトのサービス範囲と競争力を強化するための、戦略的な一歩といえるでしょう。
方正がインテック武漢を子会社化
2021年1月4日、HOUSEI株式会社(方正)は、英特克信息技術(武漢)有限公司(通称インテック武漢)の全株式を取得し、子会社化しました。HOUSEI株式会社は、このM&Aにより、事業規模と事業領域の拡大を目指しています。
TDCソフトが八木ビジネスコンサルタントを子会社化
2020年2月3日、TDCソフト株式会社は、株式会社八木ビジネスコンサルタントを子会社化しました。このM&Aは、2社のノウハウとシステム開発技術を融合させ、次世代を見据えたサービス提供につなげることを目的としています。
ソフィア総合研究所が藤井を子会社化
2020年8月1日、株式会社ソフィア総合研究所は、株式会社藤井を子会社化しました。このM&Aの目的は、技術力の強化と事業の拡大です。ソフィア総合研究所の研究開発能力を、一層高めることを目指しています。
エイム・ソフトがケア・ダイナミクスを子会社化
2020年5月1日、株式会社エイム・ソフト(現・クシムソフト)は、株式会社ケア・ダイナミクスを子会社化しました。このM&Aは、新たな市場の開拓や、人員の効率的な活用方法の模索、自社開発プロダクトの開発や販売、保守などの実現を目的としており、企業の成長戦略の重要な一環となっています。
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システム開発会社のM&Aのまとめ
デジタル化による社会の変化に伴い、課題を抱えるシステム開発会社は少なくありません。М&Aは、人材不足や業務の内製化をはじめとする課題の解決に有効な手段です。しかし、M&Aは複雑なプロセスが伴います。経験豊富な専門家による、適切な知識とサポートがМ&Aの成功の鍵といえるでしょう。
みつきコンサルティングは、M&Aにまつわる専門的支援を提供するパートナーです。事業承継の多様な選択肢、経営コンサルティング、国際案件、相続対策に至るまで幅広いサービスの提供が可能です。企業のM&A戦略を成功に導くため、ワンストップの支援を実施しています。
著者
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宅食事業を共同経営者として立ち上げ、CFOとして従事。みつきコンサルティングでは、会計・法務・労務の知見を活かし、業界を問わず、事業承継型・救済型・カーブアウト・MBO等、様々なニーズに即した多数の支援実績を誇る。
監修:みつき税理士法人
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