M&A事例を、会社売却を考えるオーナー経営者の判断材料として整理しました。当社が仲介した中小企業の成約事例に加え、2025年以降の有名企業の事例も紹介します。後継者がいない、成長が頭打ちになった。そんな局面で他社がどう決断し、譲渡後に何が変わったのか。自社に近い事例から現実的な選択肢が見えてきます。
M&A事例の読み方|自社の判断材料に変える3つの視点
事例集をいくら眺めても、自社の話として腹に落ちない。そうおっしゃる経営者は少なくありません。数千億円の大型案件と、年商10億円の会社の譲渡とでは、見るべき場所がまるで違うためです。M&Aの全体像を押さえたうえで、事例を自社に置き換える読み方から整理します。
誰が、なぜ、その会社を譲り受けたのか
事例で最初に見るのは金額ではありません。譲受企業がどんな課題を抱え、その会社の何を評価したのか。ここが分かると、自社を高く評価してくれる相手の輪郭が見えてきます。同業とは限りません。むしろ隣接業種や異業種のほうが高く評価する場面も、現場では珍しくないのです。
自社に近い規模と業種を優先して見る
年商5〜50億円、従業員10〜100名。この規模帯の事例は、報道されないだけで毎年数千件動いています。有名企業の案件は市場の風向きを知る材料、規模の近い事例は自社の相場観をつかむ材料。役割を分けて読むと混乱しません。
成功例と失敗例をセットで見る
うまくいった話だけを集めると、判断が甘くなります。譲渡後に人が辞めた、条件が土壇場で下がった。こうしたM&Aの失敗事例にも目を通しておくと、準備すべきことが具体的になります。
M&Aの件数は過去最高|事例が身近になった背景
「うちのような規模で相手が見つかるのか」。初回面談で必ず出る問いです。数字を見れば、答えははっきりしています。
2025年は5,115件で過去最高を更新
レコフデータによると、2025年の日本企業のM&A件数は5,115件、金額は35.7兆円で、いずれも過去最高でした。うち事業承継を目的とした案件は1,028件と、こちらも年間最多。M&Aの件数推移は10年以上、増加基調が続いています。
経営者の高齢化が事例を押し上げている
中小企業庁の事業承継・引継ぎ支援事業の報告書では、2024年の経営者の平均年齢は63.59歳、70代以上の経営者がいる中小企業は約100万者とされています。承継の検討が必要な層が、これだけ厚い。
公的機関を通じた第三者承継も過去最高
全国の事業承継・引継ぎ支援センターの実績を見ると、2024年度の第三者承継の成約は2,132件で過去最高。民間の仲介と合わせれば、第三者への承継はもはや例外的な選択肢ではありません。中小企業のM&Aは、静かに常態化しています。
中小企業の会社売却事例|当社が仲介した成約事例
ここからは、当社が仲介して成約した実際の事例を紹介します。

いずれも譲渡オーナーの体験談として公開されているものです。下表に、譲渡の背景と譲渡後の変化を整理しました。
| 業種・地域 | 譲渡を決めた背景 | 譲受企業の狙い | 譲渡後の変化 |
|---|---|---|---|
| 運送業(新潟) | 後継者不在、ドライバー不足と2024年問題 | 輸送拠点の拡大 | ネットワーク統合と採用力の改善 |
| 酒類卸(群馬) | 後継者不在、コロナ禍の売上減 | 地方の販路獲得 | 屋号と従業員を維持したまま品揃え拡充 |
| 化粧品EC(福岡) | 単独での成長に限界 | EC販売網の獲得 | 販売ノウハウを得て売上拡大 |
運送業|ドライバー不足と後継者不在が重なった
新潟で物流と除雪を手がける会社の事例です。2024年問題への対応に追われるなかで後継者もいない。同じ悩みを抱える運送会社は全国にあります。拠点拡大を狙う同業へ譲渡し、輸送網の一本化と働き手の確保が進みました。運送業の譲渡事例として詳細を公開しています。
酒類卸|屋号と雇用を残すことを条件にした
群馬でワインや地酒を扱う老舗。売却の第一条件は、金額ではなく店名と社員を残すことでした。輸入酒販の会社へ譲渡し、仕入れ力を得て品揃えが広がっています。条件の優先順位を最初に決めた案件は、交渉が驚くほど早く進む。酒類卸の譲渡事例もご覧ください。
化粧品EC|後継者問題ではなく成長戦略だった
福岡の化粧品輸入商社は、売上の大半をECに依存していました。供給不足と認知度の壁を、単独では越えられない。そう判断して同業グループ入りを選び、販売網とEC運営の知見を得て売上を伸ばしました。化粧品ECの譲渡事例は、成長戦略型の典型です。
事例に共通する譲渡オーナーの決断理由
当社の支援現場で見ると、譲渡の動機はおおむね3つの型に収まります。自社がどれに近いかで、準備すべきことも変わってきます。
後継者不在型|相談の約7割を占める
子が別の道を選んだ、社内に適任がいない、番頭格はいるが個人保証を引き継げない。事業承継型M&Aは、この行き詰まりを外部の資本で解く方法です。廃業を選べば、取引先も雇用も同時に消えます。
成長戦略型|単独での限界を感じたとき
設備投資、人材採用、海外展開。やるべきことは見えているのに、資金と人が足りない。大手の傘下に入って加速させる判断も、立派な選択です。年商規模が伸びている会社ほど、譲受企業からの評価は高くなりやすい傾向があります。
環境変化型|規制や制度改正が引き金になる
2024年問題、法改正による収益源の縮小、業界再編。外部環境が変わった瞬間に将来像が描けなくなる会社があります。体力があるうちに動いた会社が、良い条件で決まっている。これは事例を並べると、はっきり見えてくる傾向です。
2025年以降の有名なM&A事例|大企業の動きは追い風になる
大企業の案件は、自社と規模が違っても無関係ではありません。譲受企業の予算と関心がどこへ向かっているかを示す、いわば天気図です。下表は2025年に公表された代表的な案件を、狙い別に整理したものです。
| 案件 | 類型 | 譲受側の狙い |
|---|---|---|
| トヨタ不動産による豊田自動織機の非公開化 | TOBによる非公開化 | グループ内の株式持ち合い解消と連携強化 |
| 住友化学がエンジニアリング子会社をJFEエンジニアリングへ譲渡 | 選択と集中 | コア事業への資源集中と財務体質の改善 |
| サッポロホールディングスによる不動産事業の切り出し | 事業ポートフォリオの見直し | 本業である酒類事業への集中 |
| マツキヨココカラ&カンパニーによる調剤薬局の譲受 | 周辺領域の取り込み | 首都圏の店舗網拡大と処方箋の獲得 |
| クスリのアオキHDによる食品スーパーの子会社化 | 異業種の機能獲得 | 鮮魚・惣菜のノウハウと人材の確保 |
| サンリオによるXRコンテンツ企業の譲受 | 新領域への進出 | IPのデジタル展開強化 |
上場企業の非公開化が増えている
トヨタグループは、モビリティカンパニーへの変革に向けて豊田自動織機の非公開化を公表しました。上場を維持するコストより、意思決定の速さを取る。TOBの仕組みを知っておくと、報道の読み方が変わります。
選択と集中とコングロマリットディスカウント
複数事業を抱える企業の株価が、事業価値の合計より低く評価される。この「コングロマリットディスカウント」を解消する手として、非中核事業の切り出しが使われます。住友化学やサッポロの事例が、まさにこれ。事業の切り出しは上場企業だけの話ではありません。
中小企業にとっての意味
大手が選択と集中を進めるほど、手放された事業の受け皿と、強化される本業の周辺を埋める会社が必要になります。中堅・中小の優良企業に声がかかるのは、この局面。売り手市場と言われる背景の一つです。
周辺領域の取り込みは中小企業案件と地続き
調剤薬局、食品スーパー、XRコンテンツ。譲受企業は、自前で育てるには時間がかかる機能を買っています。人材、許認可、地域の顧客基盤。中小企業が持つ資産も、この文脈でなら十分に評価対象です。大型案件の傾向やJTの海外案件も参考になります。
失敗事例から逆算する|つまずきやすい3つの局面
成約した案件だけを見ていると、途中で止まった案件の共通点を見落とします。当社が引き継いだ相談のなかにも、他社で交渉が破談になった案件が一定数あります。
決算書に映っていない負債が後から出る
未払残業、退職金の積立不足、社長個人と会社の資金の混在。デューデリジェンスで出てくると、価格が下がるだけでなく信頼そのものが揺らぎます。隠すより、先に開示して条件に織り込む。これが結果的に高く売れる道です。
従業員への伝え方を誤る
成約前に噂が広がり、中核社員が辞める。譲受企業が最も恐れるのはこれです。伝えるタイミングは原則として最終契約の後。M&Aのリスクのうち、譲渡オーナーが自分で制御できる数少ない部分です。
株式が分散したまま交渉に入る
相続で株式が親族に散っている会社は、意外と多い。譲受企業は100%の取得を前提にします。反対する少数株主が1人いるだけで、案件は止まる。M&A失敗の原因として、地味ですが頻度は高いところです。
譲渡前セルフチェックリスト
相談前に、次の5項目を確認しておくと初動が速くなります。
- 株主名簿と実際の株主が一致しているか
- 直近3期の決算書に、実態と乖離した資産や負債がないか
- 社長個人の資産と会社資産が混ざっていないか
- 主要取引先との契約に、支配権の変更を制限する条項がないか
- 借入に付いた個人保証の残高と、解除の見込みを把握しているか
成功事例に近づくための準備
良い条件で決まった会社に、特別な魔法はありません。準備の順番が正しかっただけ、というのが実感です。
相手候補を広く見る
同業1社だけと交渉すると、比較のしようがなくなります。異業種や隣接業種を含めて複数の候補に当たると、評価の幅が見えてくる。M&A成功のポイントの第一は、選択肢を狭めないことです。
数字より先に、譲れない条件を決める
雇用、屋号、取引先との関係、自身の引退時期。何を守りたいのかが決まっていない状態で価格交渉に入ると、判断が揺れます。M&Aの成功率を分けるのは、この優先順位づけです。
支援機関の選び方も事例から学ぶ
中小企業庁は中小M&Aガイドラインで、仲介者やFAを選ぶ際の考慮要素や、手数料の説明義務を示しています。担当者の保有資格や経験年数まで確認してよい。遠慮せず聞くのが、後悔しない進め方です。会社売却の実務支援についても公開しています。
M&A事例に関するFAQ
相談の場で実際によく出る質問を挙げます。
年商1億円台の会社の成約も珍しくありません。現場で見ているのは規模より収益性と、譲受企業にとっての希少性です。赤字でも、許認可や人材、地域シェアが評価されて決まる案件があります。まずは自社の何が強みかを一緒に棚卸しするところから始めます。
株式譲渡であれば、雇用契約はそのまま引き継がれるのが原則です。譲受企業の目的が人材や技術の獲得である以上、辞められては困る。実際、当社の成約事例でも社名や拠点を残した例が多くあります。ただし最終契約に雇用維持の条項を入れるかは、交渉次第です。
仲介会社が持つネットワークと、公的機関のデータベースの両方を使います。同業に限らず、隣接業種や異業種にも当たるのが実務。社名を伏せた資料で打診するため、検討段階で情報が広まる心配は基本的にありません。
多くの案件で、引継ぎのため半年から2年ほど残ります。会長や顧問として技術伝承にあたる例も。引退時期は交渉できる項目ですので、希望があれば早い段階で伝えてください。
M&A事例のまとめ|自社に近い事例が判断の起点になる
M&Aの件数は過去最高を更新し続け、後継者不在も成長の頭打ちも、第三者への承継で解いた会社が確実に増えています。有名企業の大型案件は市場の風向きを、規模の近い中小企業の事例は自社の相場観を教えてくれる。まだ決めていない段階でも、事例を並べて眺めるところから始めて構いません。
みつきコンサルティングは、税理士法人グループのM&A仲介会社です。中小企業の会社売却と事業承継を専門に、幅広い業種で成約を支援してきました。自社に近い事例が知りたい、まずは相場感だけ確認したい。その段階のご相談から承ります。
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著者

- 名古屋法人部長/M&A担当ディレクター
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人材支援会社にて、海外人材の採用・紹介事業のチームを率いて新規開拓・人材開発に従事。みつきコンサルティングでは、強みを生かし人材会社・日本語学校等の案件を中心に工事業・広告・IT業など多種に渡る案件支援を行う。M&Aの成約実績多数、M&A仲介・助言の経験年数は10年以上
監修者 神門 剛 代表取締役 / 公認会計士・税理士
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