本コラムでは、外食の業界情報や外部環境、M&A動向などを解説します。また、実際に行われた外食企業のM&A事例も紹介します。
外食の業界情報
最初に外食産業を概観します。
外食業界とは
外食業界とは、家庭外で食事の提供を行う業種です。弁当や総菜などは家庭外で調理されているので見方によっては外食に該当しそうですが、中食と呼ばれます。
業界の特性
外食産業には以下の特性があります。
新型コロナウイルス等、伝染病の影響を受けやすい
外食業界は新型コロナウイルスやBSE、鳥インフル等の感染病の影響を受けやすい業界です。消費者の自粛、巣ごもり生活、緊急事態宣言などにより、外食業界が大きなダメージを受けたことは周知の事実でしょう。
特に居酒屋などは大打撃を受けます。コロナ禍では、多くのお店が倒産、撤退しています。自粛ムードがなくなって再び外食業界は活発化していますが、今後の動向が読めない要素ではあります。
デリバリー分野の拡大に力を入れている
外食への需要が減ったため、デリバリー分野に力を入れている企業も多いです。店舗で作った食事をデリバリーする場合や、あらかじめプラットフォームを用意し、デリバリーに特化している企業もあります。
セントラルキッチンで調理することもある
セントラルキッチンとは、店舗ではなく調理専門の施設のことです。セントラルキッチンと利用することで、食材を一括して調理し、効率化を図ることができます。また、セントラルキッチンで調理してデリバリーしているケースもあります。
業界の課題
顧客ニーズの多様化
いろいろな食事スタイルが出てきているため、顧客が求める食事も多様化しています。たとえば、手軽に済ませたい人もいれば、個室などでゆっくり食事したい人、大勢で食事を楽しみたい人など様々です。
昔から食事へのニーズは幅が広かったのですが、サービスが多様化したため、より一層消費者ニーズが多様化したということです。
集客方法の多様化
オンラインを活用した集客はすでに一般化していますが、SNSを使った戦略などが多様化しています。飲食店がSNSを活用するのは当たり前の時代になっているので、単にSNSに投稿するだけでは注目されません。
インフルエンサーを活用する方法、集客を専門とする業者に依頼する方法など同じSNSを用いた方法でも集客方法は多様化しています。
人手不足
外食業界は人材不足が常態化している業界です。外食業界は拘束時間が長く、労働環境も厳しい傾向にあります。これに関しても周知の事実でしょう。その結果労働者が離職してしまうことが多く、結果的に人手不足になっています。
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外部環境
外食企業を取り巻く外部環境を見ていきます。
市場規模
外食業界の市場規模は、新型コロナウイルスの影響で大きく落ち込みました。具体的には2020年には前年度よりも40億円以上減少しています。しかし2021年、2022年には市場規模が回復していっています。
2022年時点では2019年の水準には戻っていませんが、今後は新型コロナウイルス以前の市場規模に戻り、さらに伸びていく可能性もあります。新型コロナウイルスが今後どのように動くが不明なので、外食業界の今後も読めない部分があります。
競合業態
外食業界の競合としては、しいて言うならデリバリー業界、中食業界、食料品小売業界などが挙げられます。環境の変化によって外食業界からデリバリー業界、中食業界、食料品小売業界にニーズが移行することはあるでしょう。
新型コロナウイルスの影響で、外食業界からデリバリー業界にニーズが移行しました。またデリバリー業界のクオリティが向上すれば、外食よりもデリバリーを好む消費者が増えることもあるでしょう。
ただし外食とデリバリーは根本的に違いがあるので、直接的な競合というわけではありません。たとえば外で複数人が集まるために外食するような需要は今後も続くので、デリバリー業界や中食業界が伸びれば外食業界が廃れるということは考えにくいでしょう。
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外食企業の M&A 動向
外食業界は、新型コロナウイルスの影響による市場の縮小、人材確保の難しさ、仕入れ価格の高騰などの問題から、M&Aに踏み切る事例が増加しています。
参考:レコフM&Aデータベースより作成
また、外食産業におけるM&Aは、経済のグローバル化と市場の成熟化に伴い、ますます盛んになっています。多くの企業が、競争力の向上や効率的な事業運営を目指し、同業他社や異業種企業との統合や買収を積極的に推進しています。これらの動きの背景には、市場占有率の増大、経費の削減、新規顧客層の開拓といった目標があります。
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異業種とのM&A
近年、特に注目を集めているのは、IT企業や食品メーカーとの連携です。こうした異業種とのM&Aを通じて、外食企業はデジタルテクノロジーや食品製造ノウハウを取り込み、顧客サービスの高度化やサプライチェーンの最適化を図っています。
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海外展開のためのM&A
海外進出を視野に入れたM&Aも増加傾向にあり、特にアジア地域での事業拡大を目指して、現地の飲食店の買収が活発化しています。このような戦略は、業界の国際的な再編を促進し、外食産業のさらなる成長と進化を後押ししています。
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外食企業のM&A事例
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プレナスによる宮島醤油フレーバーの子会社化
株式会社プレナスはほっともっと、やよい軒を運営している企業です。宮島醤油フレーバー株式会社は和洋中の調味料の製造販売、冷凍冷蔵食品、レトルト食品、インスタント食品の製造販売を行う企業です。
プレナスは宮島醤油フレーバーの発行株式を55%取得し、子会社化しています。プレナスが宮島醤油フレーバーを子会社化することで、ほっともっとややよい軒の店舗で使用する調味料にも活かしています。
スシロー×元気寿司(神明)
株式会社スシローグローバルホールディングスはスシローを運営している企業です。株式会社元気寿司と株式会社神明は、元気寿司や魚べいを運営しています。スシローグローバルホールディングス、元気寿司、神明は2017年9月に資本業務提携しました。
スシローは資本提携することで、資源の調達コストを削減しました。シナジー効果の発揮に成功した例です。
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吉野家ホールディングス×せたが屋
2016年6月、株式会社吉野家ホールディングスはラーメン分野にも進出するため、人気ラーメン店を経営する株式会社せたが屋と資本提携を行いました。株式会社吉野家ホールディングスは2006年5月にはなまるうどんを運営している株式会社はなまるを完全子会社化しています。
そのため、吉野家ホールディングスは牛丼だけでなく、ラーメンにもうどんにも進出しているということです。
小僧寿し×東洋商事
株式会社小僧寿しが東洋商事株式会社および子会社のモリヨシ株式会社を買収した事例です。東洋商事は業務用総合食品類の卸売業者であり、子会社のモリヨシでは和惣菜の製造販売を行っております。本M&Aをとおして、東洋商事が有する物流機能の活用や、モリヨシのノウハウを活用した「小僧寿し」の商品バリエーションの拡充を図るものと考えられます。
壱番屋×竹井
株式会社壱番屋が株式会社竹井を買収した事例です。竹井は、「麺屋たけ井」を京都・大阪で8店舗経営しております。竹井のブランド力や企画力を評価し、グループとしての企業価値向上を目指すものと考えられます。
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外食業界のM&Aのまとめ
外食業界は新型コロナウイルスの影響により、業界全体が縮小しました。しかし新型コロナウイルスの影響が落ち着くことで、外食業界は再び右肩上がりに転じています。コロナ以前ほどではありませんが、今後以前よりも伸びていく可能性もあるでしょう。
ただし、事業の継続が厳しい企業が増加したのも事実です。結果的にコロナ禍で外食業界のM&Aが進み、現在もこの傾向は継続しています。売り手側は経営が厳しくなっているケースが多いですが、買い手側にも明確なメリットがあります。
外食業界はシナジー効果が働きやすく、また規模が大きくなれば単価当たりのコストが低くなります。M&Aが進む理由が複数あるということです。
著者
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宅食事業を共同経営者として立ち上げ、CFOとして従事。みつきコンサルティングでは、会計・法務・労務の知見を活かし、業界を問わず、事業承継型・救済型・カーブアウト・MBO等、様々なニーズに即した多数の支援実績を誇る。
監修:みつき税理士法人
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