会社を売った後で契約時の説明と実態の違いが見つかると、過失がなくても損失の穴埋めを求められることがあります。請求額が膨らむ算定の考え方、責任を絞る条項の交渉、請求を受けたときの初動、保険や補助金の活用、税金への影響まで、裁判例を交えて整理しました。調印前の条文ひとつが、売却後の暮らしを左右します。

表明保証違反の補償とは|民法の損害賠償との違い
会社を売って半年後、譲受企業から「決算書と実態が違っていた」と連絡が届く場面を想像してみてください。考えたくない話でも、契約上は十分に起こり得る展開。M&Aの流れの終盤、最終契約書の調印からクロージングの後まで続くこの責任を、順に整理していきます。
補償は表明保証の誤りを金銭で埋め合わせる約束
M&Aの最終契約で、譲渡オーナーが会社の財務や法務の状態に誤りがないと約束する条項を、表明保証と呼びます。その内容が事実と違っていた場合に、譲受企業が被った損失を金銭で埋め合わせる約束が「補償」(インデムニティ)。株式譲渡契約書では、両者がセットで置かれるのが一般的です。
民法の損害賠償と補償条項はここが違う
補償は、民法に基づく通常の損害賠償より、譲受企業が請求しやすい形で設計されます。下表は、両者の違いを譲渡オーナーの立場から比べたものです。
| 比較項目 | 民法上の損害賠償(債務不履行) | 契約で定める補償 |
|---|---|---|
| 請求の根拠 | 民法第415条 | 最終契約書の補償条項 |
| 譲渡オーナーの過失 | 債務者の責めに帰することができない事由なら免責 | 過失の有無を問わず請求されるのが一般的 |
| 損害の範囲 | 通常生ずべき損害と、予見すべきであった特別の損害 | 弁護士費用や調査費用まで含めるよう定めることができる |
| 請求できる期間 | 消滅時効(権利を行使できることを知った時から5年など) | 契約で定めた期間(サバイバル期間) |
| 金額の上限 | 法律上の定めなし | キャップ条項で上限を定められる |
過失がなくても請求される
民法第415条は、債務の不履行が債務者の責めに帰することができない事由によるときは、損害賠償の責任を負わないと定めています。ところが補償条項に、この逃げ道はありません。社長自身が知らなかった未払残業代であっても、表明した内容と違えば支払いの対象に。
損害の範囲を契約で広げられる
民法の損害賠償は、通常生ずべき損害が基本です。補償条項では、違反の調査にかかった弁護士費用や会計士の報酬、対応に割かれた社員の人件費まで「損害」に含める書き方もできます。どこまで含めるかは、条文の定義しだい。
請求の手順や期限も当事者が決める
請求できる期間、通知の方法、第三者から請求を受けた場合の対応まで、補償条項では当事者の合意でルールを決めます。法律の原則より細かく設計できるぶん、言葉ひとつが結果を左右しかねません。
違反が見つかる時期で扱いが変わる
同じ表明保証違反でも、発覚したのが決済の前か後かで、取引への影響は大きく異なります。
クロージング前なら取引条件の問題
調印から決済までの間に違反が見つかれば、クロージング条件を満たさないとして、決済の延期や価格の見直し、場合によっては契約の解除に進みます。企業価値を大きく損なう事態なら、MAC条項の問題にもなり得るところ。
クロージング後なら補償請求の問題
決済が済んだ後に発覚した違反は、原則として補償条項に基づく金銭の請求で処理されます。取引を白紙に戻すのではなく、お金で埋め合わせる形です。本記事が主に扱うのは、この場面。
補償請求される損害の範囲と金額の決まり方
「株価が下がった分を返せば済むのだろう」。そう考える譲渡オーナーは少なくありません。実際の請求額は、損害をどう定義し、どう算定するかで何倍にも振れます。
補償の対象になりやすい費目
下表は、補償請求の場面で損害として主張されやすい費目を整理したものです。契約書に明記されているかどうかで、請求の通りやすさが変わります。
| 費目 | 具体例 | 契約で確認したい点 |
|---|---|---|
| 是正のための費用 | 法令に反する設備の改修工事、許認可の取り直し | 必要かつ合理的な範囲に限られているか |
| 追加で納めた税金 | 税務調査による追徴税額、延滞税や加算税 | 決済日までの期間に対応する分に限られているか |
| 第三者への支払い | 取引先や元従業員からの請求、訴訟の和解金 | 譲渡オーナーが防御に関与できるか |
| 専門家の費用 | 弁護士費用、会計士や税理士の調査報酬 | 損害の定義に含まれているか |
| 社内の対応コスト | 対応に割かれた社員の人件費 | 間接的な損害として除外されているか |
| 企業価値の目減り | 違反がなければ付いたはずの価値との差額 | 算定方法が定められているか |
文言が広くても因果関係は問われる
「違反により生じた損害」を補償するという広い文言でも、何でも請求できるわけではありません。違反との相当因果関係がない損害は認めないとした裁判例(東京地裁2018年7月20日判決)もあり、請求を受けた側にとっては反論の足がかりになります。
対象会社の損害を買い手の損害とみなす条文
株式譲渡の場合、追徴課税や改修費を実際に負担するのは、譲受企業ではなく対象会社です。そこで契約書に「対象会社に生じた損害は譲受企業の損害とみなす」といった条文を置き、請求の道筋をつけるのが通例。この条文があるかどうかは、調印前に必ず確かめておきましょう。
損害額の算定は2つの考え方に分かれる
補償額の計算方法は、条文に書かれていないことも多く、争いの火種になりやすい部分です。
かかった費用をそのまま補う考え方
改修工事費や追徴税額のように、実際に出ていったお金を損害とする考え方です。金額の根拠がはっきりしているため、中小企業のM&Aでは、まずこの考え方で協議に入るのが一般的。
企業価値の差額で測る考え方
違反がなかった場合の企業価値と、実際の企業価値との差額を損害とする考え方。対象会社に未払いの税金があった事案では、税金の負担がない場合の企業価値との差額を損害と認めた裁判例(東京地裁2018年3月28日判決)があります。
利益の水増しは評価倍率で膨らむ
譲渡価格を利益の何倍という形で決めていた場合は、特に注意が必要です。時価純資産に数年分の利益を上乗せする年買法でも理屈は同じ。たとえば利益の3年分を上乗せして合意し、年間の利益が1,000万円多く計上されていたとすると、3,000万円の損害を主張される余地があります。
裁判所の判断は分かれている
DCF法で算定した企業価値の差額を損害と認めた判決(東京地裁2020年10月26日判決)がある一方、評価方法の差が譲渡価格に直結するとの合意は立証されていないとして退けた判決(東京地裁2011年4月15日判決)もあります。価格をどう決めたかという交渉の記録が、後になって効いてくるわけです。
売り手の責任を限定する補償条項の交渉ポイント
補償の上限や期間は、譲渡オーナー側から言い出さなければ決まらないのでしょうか。実務の答えは、ほぼその通り。契約書の初稿は譲受企業側が用意し、譲受企業に有利な形で書かれているのが普通だからです。
責任を限定する主な条項と交渉の目安
中小企業庁も、中小M&Aガイドラインを第3版(2024年8月)へ改訂する際、表明保証の期間や責任の上限が設定されていない場合に譲渡側が過大な責任を負い、争いが生じるリスクを指摘しました。下表は、責任を限定する主な条項と、中小企業のM&Aでの交渉の目安です。
| 条項 | 内容 | 中小企業M&Aでの交渉の目安 |
|---|---|---|
| キャップ(上限額) | 補償額の総額に上限を設ける | 譲渡代金の10〜100%の範囲で交渉 |
| ディミニマス | 1件あたりの損害が一定額未満なら請求の対象外とする | 案件規模に応じて1件数十万円など |
| バスケット | 損害の累計が一定額を超えるまで請求できないとする | 累計で数百万円など |
| サバイバル期間 | 表明保証の効力が続く期間を区切る | 一般事項は1〜3年、税務・労務は3〜5年程度 |
| 唯一の救済手段 | 補償条項以外の方法による請求を排除する | 故意や詐欺による違反は例外とされやすい |
キャップ(上限額)は最優先で交渉する
上限の設定は、売却後の生活設計を守る生命線。受け取った代金の使い道を考える前に、確かめておきたい項目です。
上限がなければ譲渡代金を超えることも
法律上、補償額に自動的な上限はありません。条文に定めがなければ、請求額が受け取った譲渡代金を上回ることもあり得ます。しかも手元に残るのは、譲渡益に税金がかかった後の金額。上限は手取り額との比較で考えるのが現実的です。
上限の対象外とされやすい項目
株式を確かに保有していること、反社会的勢力と関係がないことなど、取引の根幹にかかわる表明は、上限の対象外とされるのが一般的です。譲渡オーナーの故意や詐欺による違反も同じ扱い。例外が広がりすぎていないか、目を配ってください。
ディミニマスとバスケットで少額の請求を防ぐ
細かな指摘が積み重なると、金額以上に気持ちがすり減ります。足切りの仕組みを2段階で置くのが定石です。
1件ごとの足切りと累計の足切り
ディミニマスは、1件あたりの損害が一定額に満たない請求を対象外にする仕組み。バスケットは、損害の累計が一定額を超えるまで請求を認めない仕組みです。組み合わせれば、少額の指摘が延々と続く事態を防げます。
超えた分だけ払うのか、全額を払うのか
累計が基準額を超えたとき、超えた部分だけを払う免責型と、1円目から全額を払う全額型があります。同じ基準額でも、譲渡オーナーの負担は大きく変わるもの。条文に「超える部分」とあるかどうかは、意外と見落とされやすい落とし穴です。
サバイバル期間は項目ごとに分ける
表明保証の効力が続く期間は、すべての項目で一律にする必要はありません。
一般事項は短く、税務は法定の期間が目安
譲受企業は長い期間を求め、譲渡オーナーは早く責任から解放されたいのが本音でしょう。一般的な事項は1〜2年程度に縮める交渉が現場の定石です。税務は、税務署が更正・決定できる期間が原則5年、偽りその他不正の行為があれば7年とされている(財務省の解説資料)ため、これを目安に決まることが多くなります。
請求の通知方法も決めておく
期間内に「違反の具体的な内容と金額の根拠を書面で通知すること」を請求の条件にしておくと、期間満了の直前に漠然とした請求を受ける事態を防げます。期間の長さと同じくらい、通知の要件が効いてくる場面は多いものです。
唯一の救済手段条項で請求の経路を絞る
補償条項で上限を決めても、譲受企業が不法行為など別の法的根拠で請求してくれば、上限を迂回されるおそれがあります。これを防ぐのが、表明保証違反の救済を補償条項に限るExclusive Remedy(唯一の救済手段)条項。キャップとセットで入れておきたい条文です。
「知る限り」「重要な点において」で表明の範囲を絞る
表明の文言そのものを絞る方法もあります。「売主の知る限り」と限定すれば、譲渡オーナーが知らなかった事実は違反の対象から外れます。「重要な点において」と加えれば、軽微な誤りで請求される余地は狭まるでしょう。
知る限りの範囲を誰の認識にするか
知る限りの対象を社長本人に絞るのか、経理部長や工場長の認識まで含めるのかで、効果は大きく変わります。社員の認識まで広げると、限定の意味が薄れてしまう点に注意してください。
交渉はタームシートの段階から始める
こうした条件は、最終契約の直前に持ち出すと「今さら」と受け止められがちです。タームシートや基本合意の段階で、上限と期間の大枠だけでも合意しておけば、終盤の交渉はずいぶん楽になります。
買い手が違反を知っていた場合とサンドバッギング
譲受企業がデューデリジェンスで気づいていた問題を、決済後になって補償請求の材料にしてくるケースがあります。譲渡オーナーからすれば、知っていたなら契約前に言ってほしかった、というのが正直な気持ちでしょう。これがサンドバッギングと呼ばれる問題です。
プロ・サンドバッギングとアンチ・サンドバッギング
契約書の立場は2つに分かれます。どちらを採るかで、デューデリジェンスで情報を出す意味合いまで変わってきます。
プロ・サンドバッギング条項
譲受企業が違反を知っていたかどうかにかかわらず、補償を請求できるとする条項です。譲受企業側の初稿に入っていることが多く、そのまま調印すると、デューデリジェンスで開示した問題まで後から請求の対象になりかねません。
アンチ・サンドバッギング条項
譲受企業が知っていた事実や、重大な過失によって知らなかった事実については、補償を請求できないとする条項です。譲渡オーナーとしては、初稿をこの形に修正するよう求めるのが基本線。
条項がない場合の裁判所の考え方
契約に定めがない場合について、東京地裁2006年1月17日判決は、譲受側が違反を知っていたり、わずかな注意で気づけたのに見落としていたりする重大な過失があるときは、譲渡側が責任を免れる余地があるとの考え方を示しました。もっとも、この事案では譲受側の重過失は認められていません。条文で決着をつけておくほうが確実。
違反を防ぐ開示と特別補償の使い分け
調印の前夜になって、小さな労務トラブルを伝えるべきか迷う譲渡オーナーの姿は、支援現場で何度も見てきました。結論から言えば、迷ったら開示。それが補償請求を防ぐいちばん確実な方法です。
開示別紙に書いた事実は違反の対象外
表明保証違反は、「問題はない」と表明したのに問題があった場合に成立します。逆に言えば、契約書の開示別紙(ディスクロージャー・スケジュール)に「こうした問題がある」と書いておけば、その事実は違反の対象外。隠していたことが後で発覚すると、故意による違反として上限の例外に回され、かえって責任が重くなるおそれもあります。
分かっているリスクは特別補償か価格で処理する
デューデリジェンスで見つかった問題は、表明保証の外に出したうえで、別の方法で手当てするのが一般的です。
価格に織り込むか、特別補償にするか
金額を見積もれる問題なら、譲渡価格から差し引く価格交渉で決着させるのが明快です。係争中の訴訟や進行中の税務調査のように、結果が出るまで金額が読めない問題は、顕在化した場合に限って補償する特別補償(個別補償)で扱います。
特別補償にも上限と期限を付ける
特別補償は、一般の表明保証に付けたキャップやバスケットの対象外とされがちです。対象となる事象、上限額、請求できる期間を個別に書き込み、青天井にしないこと。現場で修正を求めることの多い箇所です。
売却前に確認したい表明保証の自己点検リスト
表明保証で問題になりやすい項目は、業種を問わずおおむね共通しています。当社が売却準備の段階で譲渡オーナーと確認している項目を、下表にまとめました。
| 点検項目 | 確認する資料 | 見落としやすい点 |
|---|---|---|
| 税務 | 過去5年分の申告書、税務調査での指摘事項 | 源泉所得税の漏れ、役員への貸付金や仮払金の処理 |
| 労務 | 賃金台帳、タイムカード、就業規則、36協定 | 固定残業代の運用、管理職扱いの社員の残業代 |
| 許認可・法令 | 許可証、行政の立入検査の記録 | 消防設備の不備、建物の用途変更、許可の更新漏れ |
| 契約 | 取引基本契約、賃貸借契約、リース契約 | 支配権が変わると解除できる条項(COC条項) |
| 資産 | 在庫の実地棚卸表、売掛金の年齢表 | 動かない在庫、回収の見込みが薄い売掛金 |
| 債務 | 保証契約、係争やクレームの記録 | 簿外債務、口約束の保証や補償 |
気になる項目は売却前に専門家の目を通す
未払残業代は人事労務デューデリジェンスで、申告内容は税務デューデリジェンスで、譲受企業側が確実に調べてくる論点です。先回りするなら、譲渡側で専門家に調査を依頼するセルサイドデューデリジェンスも選択肢に入ります。
税務の表明保証は言い切りの強さを見る
税務の表明は「すべての申告が適法かつ適正」と言い切る文言になりがちです。顧問税理士が関与していても、税務調査で解釈の違いを指摘される余地は残るもの。税理士法人グループとしての判断軸は、税務の表明を「重要な点において」に限定し、期間を更正の期間とそろえることにあります。
補償の支払いに備える仕組みと表明保証保険
譲受企業の側に立つと、補償の約束があっても、譲渡オーナーが代金を使い切っていれば回収できません。そのため、支払いを確保する仕組みを契約に組み込むよう求められることがあります。
エスクローや支払留保で代金の一部を預ける
譲渡代金の一部を第三者に預けるエスクローや、一部の支払いを一定期間遅らせる支払留保が代表例です。預ける割合と期間は、補償の上限・期間と連動させるのが筋。たとえば上限が代金の20%なのに、30%を2年間預けるといった不整合があれば、修正を求めましょう。
アーンアウトとの相殺にも目を配る
業績に応じて後から代金を払うアーンアウトを組み合わせる場合、補償額をその支払いと相殺できる条項が入ることがあります。相殺の対象を確定した補償額に限るのか、請求中の金額まで含めるのかで、手元にお金が入る時期は変わってきます。
表明保証保険で補償リスクを保険会社に移す
補償リスクを保険で手当てする方法もあります。表明保証保険は、表明保証違反による損害を保険会社が補填する仕組みです。
保険を付けるための前提条件
譲渡オーナーにとっては、補償の上限を低く抑えたり、エスクローを避けたりしやすくなる利点があります。中小M&Aガイドラインでも説明されているとおり、引受けにはデューデリジェンスの報告書などを保険会社に提出し、審査を受ける必要があるため、早めの準備が欠かせません。
資産を早めに移す予定なら価値が大きい
売却後に資産を子や孫へ移す予定がある方ほど、保険の価値は大きくなります。請求が来たときに手元資金が足りない、という事態を避けられるからです。
保険料は補助金の対象になり得る
保険料の負担が気になる場合は、事業承継・M&A補助金の専門家活用枠も視野に入ります。中小企業庁が2026年9月に公表した第16次公募の案内では、補助対象経費に表明保証保険料が含まれています。申請受付は2026年10月2日から11月6日までの予定。
表明保証違反で補償請求されたときの対応手順
請求の通知を受け取った直後に、動揺して「すぐにお支払いします」と返信するのは、最も避けたい初動です。条項に照らせば、払う必要のない請求も少なくありません。
通知を受けてから合意までの流れ
下表は、補償請求を受けてから合意に至るまでの手順と、各段階で確かめたい点を整理したものです。
| 手順 | やること | 確かめたい点 |
|---|---|---|
| 通知内容の確認 | 根拠となる条項、違反の内容、請求額を読み込む | サバイバル期間内か、通知の方式を満たしているか |
| 事実関係の整理 | 当時の資料、開示別紙、デューデリジェンスでの質疑の記録を集める | 開示済みの事実ではないか |
| 条項との照合 | 上限、足切り、知る限り、重要性の限定を当てはめる | 損害の算定根拠が実費か企業価値の差額か |
| 第三者請求への対応 | 税務調査や訴訟の進め方に関与する | 譲受企業が単独で和解していないか |
| 協議と合意 | 金額と支払方法を協議し、合意書を交わす | 以後の請求をしない旨の清算条項があるか |
交渉当時の経緯を知る専門家を早めに呼ぶ
事実関係の整理には、交渉当時の経緯を知る仲介会社やFA、契約書の作成に関わったM&Aに詳しい弁護士の関与が欠かせません。当時のQ&Aの記録ひとつで、「開示済み」を立証できる場合もあります。
補償金を払ったら納めた税金は戻るのか
見落とされがちなのが、税金の問題。非上場株式の譲渡益には、所得税15%と住民税5%に復興特別所得税を加えた税金がかかります(国税庁「株式等を譲渡したときの課税」)。補償金を支払ったとき、それを譲渡代金の減額として扱い、納めた税金を取り戻せるかは、契約の定め方や事実関係によって判断が分かれます。
補償金の性質を契約段階で決めておく
契約書に「補償の支払いは譲渡代金の調整として扱う」と定めておく実務もあります。ただ、税務上その扱いが常に認められるとは限らない点に注意が必要。支払先が譲受企業か対象会社かでも説明の組み立ては変わるため、会社売却の手取りを試算する段階で、税理士に確認しておくと安心です。
補償の範囲が争われた裁判例
判決文を読むと、補償の範囲を左右しているのは違反の悪質さというより、契約の文言と価格の決め方であることが見えてきます。ここでは、補償の範囲が争われた代表的な裁判例を紹介します。
工場の消防法違反と是正工事費用
製造業のM&Aで、工場の設備が消防法などの基準を満たしていなかった類型です。
是正工事費用が損害と認められた
東京地裁2012年1月27日判決は、対象会社が法令違反を是正するために要した工事費用を損害と認めました。「長年、行政から何も言われなかった」という現場の感覚は、M&Aの契約では通用しません。
必要かつ合理的な範囲に絞られた例
半導体工場のクリーンルームで、危険物を貯蔵するのに必要な許可を受けていなかった事案もあります。東京地裁2015年6月22日判決と東京高裁2015年12月2日判決は、補償は表明保証の内容を実現するのに必要な限度にとどまるとして、請求された工事のうち必要かつ合理的な部分に限って損害を認めました。
決算書の会計処理の誤りと損害の算定
金融業を営む会社の株式譲渡で、決算書の会計処理に誤りがあった類型です。
価格の決め方が損害額を左右した
東京地裁2006年1月17日判決では、譲渡価格が簿価純資産額を基準に決められていたことから、会計処理の誤りによる簿価純資産額の減少分が損害とされました。少しでも高く見せたいという数字の調整は、遅延損害金を付けて返すことになりかねません。
裁判例から読み取れる教訓
条文が曖昧なほど、損害の範囲や算定方法の判断は裁判所に委ねられ、結果の予測が難しくなります。上限、期間、算定の方法を契約で決めきること。それが、売却後の譲渡オーナー自身を守るいちばんの近道です。
表明保証違反の補償に関するFAQ
会社売却を検討中の経営者から、実際によく寄せられる質問を取り上げます。
答えは契約の定めしだい。買い手は売り手全員の連帯責任を求めがちですが、持株比率に応じた按分にする、配偶者や子の責任は各自の受取額を上限にする、といった調整は交渉の余地があります。株主名簿に家族が並ぶ会社ほど、早めに方針を固めておきたい論点です。
原則として相続人に引き継がれます。補償の義務は本人だけに帰属する性質のものではないためです。期間中に相続が起きると、経緯を知らない家族が請求の窓口に立つことに。残りの補償期間と上限額は、家族にも伝えておくと安心です。
原則として責任は残ります。デューデリジェンスは限られた期間と資料で行う調査で、指摘がないことは問題がない証明になりません。ただし、調査で提出した資料に記載のある事実を開示済みとみなす条項を入れられれば、補償の対象から外せる場合も。
そうとは限りません。売り手の詐欺や故意の隠し事は、保険の補填対象外とされるのが通例で、その場合は保険会社から売り手に求償される可能性もあります。保険の有無にかかわらず、知っている問題は開示しておくこと。現場で必ずお伝えしている基本です。
住む国を移しても、契約上の義務は消えません。買い手が日本の裁判所で判決を得れば、国内に残した預金や不動産が差し押さえの対象になることも。移住の予定があるなら、補償期間を短くする、保険で手当てするなど、調印前の交渉に織り込むのが現実的です。
まとめ|表明保証違反の補償は調印前の交渉で決まる
表明保証違反の補償は、過失がなくても請求され得る契約上の約束です。損害の範囲や算定方法、上限や期間は条文しだいで大きく変わるもの。売却後の暮らしを守るためにも、遠慮なく条件を求めてください。
みつきコンサルティングは税理士法人グループのM&A仲介会社として、中小企業M&Aの豊富な支援実績を重ねてきました。契約交渉から税務の確認まで、一貫した支援が当社の持ち味。会社売却をお考えなら、お気軽にご相談を。
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著者

- 事業法人第一部長/M&A担当ディレクター
-
みずほ銀行にて大手企業から中小企業まで様々なファイナンスを支援。みつきコンサルティングでは、各種メーカーやアパレル企業等の事業計画立案・実行支援に従事。現在は、IT・テクノロジー・人材業界を中心に経営課題を解決。M&Aの成約実績多数、M&A仲介・助言の経験年数は10年以上
監修者 神門 剛 代表取締役 / 公認会計士・税理士
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