M&Aのテール条項とは、仲介契約などの終了後も、紹介された相手と成約した場合に手数料が発生する規定です。期間は2〜3年が目安ですが、曖昧な契約により「リストに載っていただけ」で高額請求されるトラブルも増えています。本記事では10年以上の経験を持つM&Aコンサルタントが、中小M&Aガイドライン第3版に基づき、譲渡オーナーが守るべき契約のポイントとリスク管理方法を詳しく解説します。
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M&Aのテール条項とは
会社売却を検討し始め、M&A仲介会社やFA(フィナンシャル・アドバイザー)と「アドバイザリー契約」を締結する際、必ずと言っていいほど含まれているのが「テール条項」です。この条項は、一見すると譲渡オーナーにとって不利益に思える内容ですが、業界では標準的なものとして扱われています。
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契約が終わっても手数料が発生する「残り火」のような条項
テール条項とは、M&Aの仲介契約やFA契約が期間満了や解約によって終了した後でも、一定期間(テール期間)内に特定の相手とM&Aが成立した場合、元の仲介会社に対して成功報酬を支払う義務を定める条項です。
例えば、A社という仲介会社との契約を解約し、その半年後に、かつてA社から紹介された譲受企業と直接、あるいは別の仲介会社を介して成約した場合、A社に対しても手数料を支払わなければなりません。
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なぜテール条項が必要なのか?(仲介飛ばしの防止)
この条項が存在する最大の理由は、仲介会社の正当な利益を守り「仲介飛ばし」を防ぐことにあります。
仲介会社は、譲受企業の探索や条件交渉、資料作成などに多大な人的・時間的コストを費やします。もしテール条項がなければ、成約直前にわざと契約を解除し、仲介会社を排除して直接契約を結ぶことで手数料の支払いを免れようとする悪質なケースが防げません。このように、仲介会社の貢献度を適切に評価するためのフェアな仕組みとして、テール条項は一定の合理性が認められています。
専門家の視点:テール条項は「保険」だが「足枷」にもなる
実務に長年携わっていると、テール条項が原因で「身動きが取れなくなった」と相談に来る譲渡オーナーに出会います。仲介会社にとっては正当な報酬を確保するための「保険」ですが、設定が不適切な場合、譲渡オーナーにとっては将来の選択肢を奪う「足枷」になってしまいます。契約書にハンコを押す前に、その保険が自分にとって過酷な内容になっていないか、冷静に見極める必要があります。
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中小M&Aガイドライン第3版によるテール条項の最新基準
近年、テール条項を巡るトラブルが増加していることを受け、中小企業庁は2024年8月に「中小M&Aガイドライン(第3版)」を公表し、テール条項の運用について厳しい規律を設けています。
テール期間の目安は「最長でも2~3年以内」
ガイドラインでは、テール期間が不当に長い場合、譲渡オーナーの自由な経営判断を損なう恐れがあると指摘しています。そのため、期間の目安として「最長でも2~3年以内」に設定することが望ましいとされています。
実務上、多くの仲介会社はこの基準に従っていますが、中には「5年」や「無期限」といった過剰な期間を提示してくる会社も存在するため注意が必要です。
対象となるのは「具体的な交渉が行われた候補先」のみ
テール条項の対象となる企業(譲受企業候補)についても、明確な制限が設けられました。ガイドラインによれば、対象はあくまで「当該M&A専門業者が関与・接触し、紹介した相手」に限定すべきとされています。
具体的には、譲渡オーナーとの打ち合わせに利用したリストに関して単に「社名がリストに載っていただけ」の状態(ロングリストやショートリストの提示)や、譲受企業候補に対して匿名情報である「ノンネーム・シート」の提示のみにとどまる場合は、テール条項の対象とすべきではありません。
ネームクリアと譲渡オーナーの同意が必須
最新の基準では、少なくとも「ネームクリア」が行われていることが前提となります。ネームクリアとは、譲受企業候補に対して譲渡オーナーの名称を開示することです。
さらに重要なのは、ネームクリアを行う前に、仲介会社は譲渡オーナーから「その相手に名称を明かして良い」という個別の同意を取得しなければならないという点です。このプロセスを無視して勝手に名前を明かし、後からテール条項の対象だと主張することは認められません。
2024年改訂のポイント:重要事項説明の義務化
第3版のガイドライン改訂により、仲介会社やFAは、契約を締結する前に「テール条項の内容(期間、対象、手数料の算定基準)」を書面で詳しく説明することが義務付けられました。説明が不十分なまま契約を結ばせることはガイドライン違反となり、M&A支援機関登録制度の登録取り消し事由にもなり得ます。
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実務で見られるテール条項のトラブルと悪用の実態
ルールが明確化された一方で、現場では依然としてテール条項を逆手に取ったトラブルが絶えません。特にM&Aに不慣れな中小企業の経営者がターゲットになりやすい傾向があります。
「リストに名前があっただけ」で請求されるケース
最も多いのが、最初の方で見せられた膨大な譲受企業の候補リスト(ロングリスト)に名前が載っていただけで、契約終了後にその企業と成約した際に「紹介した実績がある」と主張されるケースです。
実際の相談例:
- 関西のスーパーマーケットが独自に地元の同業者と交渉して成約したが、以前契約していた仲介会社から「以前渡したノンネーム・シートの送付先リストに含まれていた」として2500万円を請求された。
- 関東のクリニックが医師会の会合で後継者を見つけたが、仲介会社から「当初提示した医療法人リストにその名前があった」と言われ、1000万円を請求された。
これらは本来、ガイドライン上では対象外とされるべきものですが、アドバイザリー契約書に「リスト提示先を含む」といった文言があると、訴訟リスクを恐れて支払わざるを得なくなることがあります。
手数料の二重払いが発生するリスク
別の仲介会社(B社)に乗り換えて成約した場合、前任の仲介会社(A社)のテール条項に抵触すると、A社とB社の両方に成功報酬を支払わなければならない「二重払い」の状態に陥ります。
譲渡オーナーに悪意がなくても、A社の担当者が未熟で決まらなかったためにB社に変えたような場合でも、A社のテール条項が有効であればこのリスクは発生します。その結果、譲渡オーナーが手元に残る資金が大幅に減ってしまう、あるいは二重払いを恐れて有望な譲受企業との交渉を断念せざるを得なくなるといった事態を招きます。
仲介契約を解約させないための「脅し」に使われる
残念ながら、自社の能力不足を棚に上げ、テール条項を「顧客の引き留め」に悪用する業者も存在します。
契約を解除しようとする経営者に対し、「うちが接触した数百社はすべてテール条項の対象になります。今解約しても、今後3年間はどこにも売れなくなりますよ」といったはったりをかまし、無理やり契約を継続させようとする手法です。経営者はこれに萎縮してしまい、成約の可能性が低い業者と付き合い続け、最終的に承継のタイミングを逃してしまうのです。
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テール条項による義務と影響範囲
テール条項は単にお金の問題だけでなく、契約終了後のビジネス活動全般に制約を課すことがあります。
手数料支払い以外の付随的な義務
テール条項に関連して、以下のような義務が課される契約もあります。
| 義務の内容 | 具体的な制約 |
|---|---|
| 秘密保持義務の継続 | 契約中に得た情報を第三者に漏らさない義務。通常、契約終了後も数年は継続する。 |
| 直接交渉の制限 | 仲介会社が紹介した相手と、仲介会社を介さずに直接会うことを禁じる規定。 |
| 成約報告の義務 | テール期間中に他社と成約した場合、その相手が誰であるかを報告させる義務。 |
| 競業避止義務 | (主に譲受企業側に対して)特定のビジネスに関与することを制限する。 |
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法的責任と違約金のリスク
これらの義務に違反した場合、単なる手数料の支払いだけでなく、高額な「違約金」や「損害賠償」を請求されるリスクがあります。特に、テール条項の対象先を隠してこっそり成約させようとした場合、悪質とみなされて厳しい法的措置をとられる可能性が高まります。
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譲渡オーナーが不利益を被らないための5つの対策
M&Aの仲介契約におけるテール条項から身を守るためには、5つの具体策を実践することが重要です。下表の通り、期間の短縮から専門家レビューまで段階的に対策を講じます。
| 具体策 | 内容 |
|---|---|
| 1. テール期間をできる限り短縮する | まずは期間の交渉です。ガイドラインの目安は2~3年ですが、これはあくまで「最長」の目安に過ぎません。実務上は「1~2年」に短縮することも可能です。特に変化の激しい業界では、3年も経てば紹介の価値は薄れるため、短縮を求める正当な理由になります。 |
| 2. 対象範囲をIM提出先に限定する | 「関与・接触」という曖昧な表現ではなく、誰が見ても明らかな基準に限定しましょう。おすすめは、「実名入りの詳細資料(企業概要書:IM)を受け取った企業」に限定することです。 単に社名を提示されただけの企業や、ノンネームでの打診先は対象外とすることを、契約書の特約に明記させることが重要です。 |
| 3. 契約終了時に「対象先リスト」を書面で受け取る | 契約を終了(解約)する際、その時点でテール条項の対象となる企業をリストアップし、書面で提出させるようにしましょう。「これら以外の企業との成約については、今後一切の報酬を請求しない」という一文を交わしておくことで、後から「あのリストに載っていた」という後出しジャンケンを防ぐことができます。 |
| 4. 重要事項説明を徹底的に確認する | 仲介会社は契約前に「重要事項説明書」を用いて説明する義務があります。 ・説明がガイドライン第3版に基づいているか ・報酬の算定基準(レーマン方式の基準となる金額など)は明確か ・テール条項の例外規定(セカンド・オピニオンの取得など)はあるか これらをチェックし、不明点は納得いくまで質問してください。まともな業者であれば、ここで誠実に回答してくれます。 |
| 5. 専門家による契約書レビューを受ける | M&Aの仲介契約書は、仲介会社にとって有利なファースト・ドラフト(初案)であることが多いです。そのままハンコを押すのではなく、顧問税理士等に内容を確認してもらうことを強くお勧めします。数万円の相談料で、数千万円のトラブルを防げるかもしれません。 |
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よくある質問|テール条項に関するFAQ
ここでは、M&Aアドバイザリー契約におけるテール条項について、よく寄せられる疑問とその回答をご紹介します。
基本的には難しいです。前述の通り、仲介会社の正当な働きを守るための条項であるため、ほとんどの業者が標準装備しています。ただし、対象範囲を限定的にすることや、期間を短縮する交渉は可能です。
これは「専任条項(独占契約)」の有無によります。専任契約の場合、自分で見つけた相手であっても、仲介会社を介さなければならない、あるいは手数料が発生するという規定があるのが一般的です。テール条項はあくまで「契約終了後」の話ですが、契約期間中の「直接交渉の制限」とセットで確認する必要があります。
まずは中小企業庁の「M&A支援機関登録制度」の窓口、または「M&A支援機関協会」に相談してください。ガイドライン違反が認められれば、仲介会社に対して指導が入ったり、登録が取り消されたりする可能性があります。
M&Aアドバイザリー契約におけるテール条項のまとめ
テール条項は、M&A業界の健全な取引を支えるための仕組みですが、その内容が曖昧だと譲渡オーナーに多大なリスクをもたらします。
- 期間は最長2〜3年が目安(1年への短縮も検討)
- 対象は実名開示と具体的な交渉があった相手に限定
- 契約前の重要事項説明をしっかり受ける
- 解約時には対象先リストを確定させる
これらのポイントを抑えることで、不当な請求から身を守り、納得のいくM&Aを実現することができます。
当社は、みつき税理士法人グループのM&A仲介会社として15年以上の業歴があり、中小企業のM&Aに特化した実績経験が豊富なM&Aアドバイザー・公認会計士・税理士が多く在籍しております。テール条項やアドバイザリー契約の内容をご検討の際は、みつきコンサルティングにご相談ください。
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著者

- 名古屋法人部長/M&A担当ディレクター
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人材支援会社にて、海外人材の採用・紹介事業のチームを率いて新規開拓・人材開発に従事。みつきコンサルティングでは、強みを生かし人材会社・日本語学校等の案件を中心に工事業・広告・IT業など多種に渡る案件支援を行う。M&Aの成約実績多数、M&A仲介・助言の経験年数は10年以上
監修:みつき税理士法人
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