株式譲渡では、取締役会や株主総会の議事録の作成が必要となります。この記事では、どのような場面で必要となるのか、注意点や雛形を解説するため、議事録の作成に役立ててください。
株式譲渡の議事録とは
株式譲渡において、議事録は取引の成否を握る重要な文書の1つです。株式譲渡では、株主総会や取締役会の議決が必要であり、議事録は取引の事実を証明する書面です。議事録には、協議の決定事項や出席者、議事経過などが記載され、承認を得た重要な証拠とされます。また、議事録は、取締役会の有無によって、2種類に区別されます。
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株主総会議事録
取締役会がない企業は、株主総会の承認決議で議事録の作成が必要です。株式の譲渡承認の決議だけでなく、株主総会が開催される毎に議事録を作成します。会社法により、一定の記載事項が定められています。
議事録の作成・保管を行うことで、株主総会の開催日時や場所、決議内容の証明が可能です。
取締役会議事録(取締役決定書)
取締役会がある企業は、取締役会での承認決議が必要です。取締役会も、株主総会と同様に、決められた記載事項を盛り込んだ議事録の作成が義務付けられています。
取締役「会」はないが、1人または複数の取締役の決議承認が必要な機関設計の会社があります(取締役会非設置会社)。このような会社の場合は、「取締役決定書」や「取締役決議書」といったタイトルで、取締役会議事録に相当する議事録を作成します。
以上の議事録を、書面で作成した場合は出席した取締役や監査役の記名と押印、電磁的記録では電子署名が必要です。
株式譲渡の承認手続の流れ
株式譲渡の承認手続は、次のような流れで行います。それぞれの段階で、必要に応じて取締役会議事録や株主総会議事録を作成します。
1.株式譲渡の承認を請求する
まずは、株式の譲渡を希望する株主が、会社に譲渡承認請求書を提出します。譲渡制限のある株式の場合は、譲渡側と譲受側が共同で譲渡承認請求書を作成し、提出します。譲渡承認請求書には、譲渡する株式数、種類、株式譲渡引受人の住所・氏名などの記載が必要です。
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2.取締役会・株主総会で承認決議をする
次に、発行会社での承認決議を行います。譲渡承認請求書を受領した企業は、株式譲渡承認(または不承認)の手続をします。一般に、譲渡承認は、取締役会設置会社の場合は取締役会が、取締役会非設置会社の場合は株主総会が、行うことになります。
3.議決内容を通知して譲渡契約を実行する
続いて、議決内容の通知を行います。承認請求を提出した取引当事者へ、請求書提出から2週間以内に、株式譲渡承認通知書による通知が必要です。通知しなかった場合は、承認したものとみなされるケースもあります。株式譲渡承認通知書により通知を受けた取引当事者は、株式譲渡を実行します。
4.株式譲渡契約書の締結手続きをする
譲渡の当事者間で、株式譲渡契約書の締結手続きを進めます。譲渡の合意は、口約束でも成立しますが、後々のトラブル防止のためにも、譲渡契約書を作成することをおすすめします。
5.株主名簿の書き換え証明書を交付する
最後は、株主名簿の書き換えです。株主名簿の書き換えは譲渡側、譲受側の当事者が共同で、会社に対して請求します。名義書簡請求を受けた会社は、株主名簿の書き換えを実行します。また、譲渡側から株主名簿記載事項証明書の交付を請求された場合、株主名簿記載事項証明書を交付しなければなりません。
株式譲渡に関連して議事録の提出が必要となる場合
株式譲渡に関連して議事録を作成したり、提出したりするのは、以下のような場面になります。
株式譲渡契約の締結に先立って
株式譲渡契約に先立つ株式譲渡承認の手続のなかで、取締役会議事録や株主総会議事録が作成されます。
変更登記に際して
株式譲渡そのものは登記や変更登記は必要ありません。ただ、一般に、M&A等で株式譲渡すると、定款や役員を変更するため、変更登記が必要となり、その際に定款変更・役員変更を承認した株主総会議事録の添付が必要になります。
その他のケース
レアケースですが、以下のような状況でも議事録の提出が必要になります。
裁判への証拠書類として
取締役会や株主総会で決議された内容や決議の成立について、当事者間で裁判に発展した場合も、証拠書類として議事録が必要です。議事録がなかったり、記載に不確かな点があったりすると、作成責任者の立場が裁判上不利になるケースもあります。
株主からの閲覧謄写請求に応じて
株主からの閲覧謄写請求があれば、議事録の閲覧や謄写に応じる必要があります。正当な理由なく閲覧を拒否した場合、100万円以下の過科が課せられるルールになっています。
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株式譲渡における議事録の6つの注意点
議事録を作成する場合の注意点を6つ解説します。
株主総会や取締役会の開催日に注意する
株式譲渡における議事録は、客観的な正確性が必要です。例えば、開催日の記載に誤りがあると、議事録の客観的な正確性が崩れ、虚偽記載と判断されます。時間、場所など必要事項の記載を忘れないようにしましょう。
記載内容に不備がないか注意する
株式譲渡における議事録は、商業登記や裁判の証拠資料になります。証拠資料として有効な書面とするには、正しい内容であることが不可欠です。株主総会の決定事項と議事録の記載内容が異なる場合は、議事録の記載が正しいとみなされます。
署名や印鑑が必要か確認する
株主総会を規定している会社法においては、議事録への署名・捺印の義務はありません。署名・捺印がなくても、株主総会議事録は有効です。ただし、多くの会社では、定款で「株主総会議事録作成・印鑑を押す人物」について条項を設定しており、定款に沿って署名・捺印が必要とされるケースもあります。事前に確認しておきましょう。
作成者の署名が必要か確認する
会社法では、取締役が株主総会の議事録の作成者にあたると定められています。定款に定められている場合、議事録の作成者も、株主総会議事録に署名・捺印が必要です。一方、取締役会議事録は、定款に関係なく、議長・参加者の署名・捺印が必要です。
速やかに作成する
株式譲渡で登記変更となる決議では、2週間以内に変更の登記申請が必要です。さらに、登記申請には、議事録の添付が必要になります。取締役会議事録の作成期限は、法律上定められてはいませんが、2週間以内で作成される場合がほとんどです。
保管期間に注意する
株主総会の議事録は、本店で原本を10年間、支店で写しを5年間保管します。また、議事録は、株主や債権者への情報公開資料であり、閲覧・謄写に応じなければなりません。さらに、保管期間を満たさずに廃棄したり、写しを支店へ送り忘れたりすると、法令違反になるため、注意が必要です。
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株主総会議事録の記載事項とひな形
ここでは、株主総会議事録に記載する項目とひな形について解説します。また、参考までに株主総会の招集方法について補足します。
基本的な記載項目
株主総会の議事録は、機密事項があり、開示を前提としていないのが特徴です。
株主総会議事録の基本的な項目は、次のとおりです。
- 株主総会の実施場所、日時
- 出席役員及び株主の氏名や名称
- 議長の役職、氏名
- 議案の概要、経過の要領
- 会計参与、監査役等の発言の概要
- 株式譲渡承認における決議事項
ひな形
基本的な項目を網羅した株主総会議事録のひな形は、次のとおりです。
株主総会議事録 開催日時:令和yy年mm月dd日(◯曜日)午後hh時mm分から午後hh時mm分 開催場所:●●県●●市●●区●●町●丁目●番地●号(当会社第◯会議室) 出席株主および議決権の状況: 株主総数 △△名 発行済株式総数 △△△株 議決権を行使することができる株主数 △△名 議決権を行使することができる株主の議決権の総数 △△個 出席株主数(委任状による出席含む)△△名 出席株主における議決権数 △△個 議長および議事録作成者:代表取締役◯◯◯◯ 出席取締役および監査役:取締役□□□□ 監査役■■■■ 議事の経過および結果 定刻、代表取締役◯◯◯◯は、議長席より開会を宣言し、上記のとおり定数に足る株主の出席があったため、本総会は適法に成立した旨を述べ、直ちに議案の審議に移った。 議長は、当会社株主により、次のように株式譲渡承認請求書が提出されている旨を説明し、株式の譲渡の承認の有無について審議を希望する旨を述べ、慎重に審議した結果、出席者の満場一致をもってこれを承認可決した。 株式譲渡承認請求株主 住所:◯◯県◯◯区◯◯◯◯◯ 氏名:△△△△ 譲渡株数:〇〇株 譲渡の相手方 住所:◯◯県◯◯市◯◯◯◯◯ 氏名:▲▲▲▲ 以上をもって本日の議事が終了したため、議長は閉会を宣言した。上記決議を明確にするため、議長および出席取締役がこれに記名押印する。 令和yy年mm月dd日 ◯◯株式会社株主総会 議長・代表取締役:◯◯◯◯ 印 出席取締役:□□□□ 印印 |
株主総会の招集方法
ここでは、株式譲渡の承認における株主総会の招集方法について解説します。
取締役会がある会社
取締役会が、株主総会の日時や場所、議題などを決定し、代表取締役が株主総会を招集します。一般的には、代表取締役が書面により招集を通知しますが、承諾があれば電磁的方法による招集も可能です。通知する期限は、原則、株主総会の1週間前までですが、2週間前となるケースもあります。
取締役会がない企業
取締役が株主総会の日時や場所、議題などを決定し、代表取締役が株主総会を招集します。株主総会の招集通知は、特に定められていません。書面以外の方法による通知も可能です。通知する期限は、原則、株主総会の1週間前までですが、期間を短くできるケースもあります。
取締役会議事録の記載事項とひな形
次に、取締役会議事録に記載する項目とひな形について解説します。
基本的な記載項目
取締役会の議事録についても、株主総会議事録と同様に機密事項があり、開示を前提としていません。
取締役会議事録の基本的な項目は、次のとおりです。
- 取締役会の実施場所、日時
- 出席役員及び株主の氏名や名称
- 議長の役職、氏名
- 議案の概要、経過の要領
- 会計参与、監査役の発言の概要
- 株式譲渡承認における決議事項
ひな形
基本的な項目を網羅したひな形は、次のとおりです。
取締役会議事録 開催日時:令和yy年mm月dd日(◯曜日)午後hh時mm分から午後hh時mm分 開催場所:当会社の本社〇階第◯会議室 出席者 取締役4名(取締役総数6名) 〇〇、△△、▲▲、△△ 監査役4名(監査役総数5名) 〇〇、△△、▲▲、△△ 以上のとおり出席があったため、本取締役会は適法に成立した。代表取締役◎◎◎◎が議長を務め、定刻に開会を宣し、直ちに議案の審議を始めた。 議案 株式譲渡承認の件 議長は、株主□□□□様より出された株式譲渡承認請求について説明し、承認すべきか否かについて議場に諮ったところ、全会一致で下記のとおり可決承認した。 記 □□□□が所有する株式◯◯◯◯株を、■■氏に譲渡する。 以上をもって本取締役会の議案を終了したため、議長が閉会を宣し散会した。 上記の決議を明確にするためここに議事録を作成し、議長および出席取締役と監査役がこれに記名捺印する。 令和yy年mm月dd日 ◯◯株式会社取締役会 議長 代表取締役◎◎◎◎ 印 取締役△△△△ 印 |
株式譲渡の議事録のまとめ
株式譲渡において、議事録は取引の成否を握る重要な文書の1つです。商業登記や裁判での証拠資料としても用いられるため、客観的な正確性が必要となります。より正確な議事録の作成には、専門家に依頼することをおすすめします。議事録作成を含む、株式譲渡やM&Aに関するご相談は、「みつきコンサルティング」にお任せください。
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著者
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宅食事業を共同経営者として立ち上げ、CFOとして従事。みつきコンサルティングでは、会計・法務・労務の知見を活かし、業界を問わず、事業承継型・救済型・カーブアウト・MBO等、様々なニーズに即した多数の支援実績を誇る。
監修:みつき税理士法人
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