M&Aを活用する食品業界!海外展開も加速・成功ポイントと事例

食品業界におけるM&Aを活用するための成功の秘訣と事例を解説します。成長を続ける市場での競争力強化、健康志向ブーム対応、製造業の効用とリスク管理を分析します。

食品業界のM&Aの概要

食品業界は常に発展することが求められる業界です。業界での成長を支える要素として、新技術の採用や市場ニーズの変化への対応が挙げられます。このような巨大な食品市場に求められる課題に対応し、企業競争力を維持するためにM&Aが活用されています。本稿では、食品業界を取り巻くM&Aの現状について解説します。

食品・農林水産業界のM&A件数の推移(2013~2017年)
食品・農林水産業界のM&A件数の推移(2013~2017年)

出典:第166回 食品・農林水産業界(マールオンライン)

世界各国での食品M&Aの動向

食品業界でのM&Aは世界各国に広がっており、M&Aを通して、成長戦略やビジネスモデルの改革に向けた試みが行われています。その背景には、地域差による市場の多様性や海外進出の試みなどがあります。食品業界の大手プレイヤーは、積極的に市場を拡大し、企業競争力の向上を図っています。この章では、世界各国の食品企業の主要な動向を紹介します。

成長企業として注目の食品メーカーと卸売企業

多岐にわたる食品メーカーや食品卸売業者が独自の成長戦略を展開し、成長を遂げております。特に注目すべきは、これらの企業がどのような戦術を用いて海外市場にアプローチしているかです。本節では、食品業界で活躍している企業の事例を紹介し、海外への拡大戦略がどのように展開されているかを紹介します。

食品メーカーの海外展開の状況

企業名進出国概要
三菱食品中国•酒類・菓子・食品の輸入、海外からの食材・加工原料の調達等の事業を展開。
•中国・ASEANでの海外展開を成長戦略の一つとして実施。2015年、中国に初の海外法人を設立。
日本アクセス中国•「上海中鑫営銷発展有限公司」に資本参加し、商品調達、代金決済、品質管理、物流事業を展開。
•香港の大手外食企業の国際天食と上海の外食向け食品調達会社のJMUとの業務提携を発表。日本食輸出取引、業務用食品共同開発、食材サプライチェーンの構築、中国市場における外食コールドチェーン構築の4つの分野で協業を進める計画。
•現在世界13ヶ国、19社(2015年3月現在)に日本食材を販売。
国分グループ中国、ベトナム、ミャンマー、マレーシア•中国、ASEAN地域を中心に海外事業を展開。2010年より中国とベトナムを中心に物流事業、卸売事業を展開し、2013年には、業界に先駆けてミャンマーへも進出。
•クオリティの高い日本型卸機能を確立、発揮することにより日系企業の事業をサポートするとともに、現地の流通の発展に貢献。
•現在、海外50ヵ国へ約1,000メーカー/1万アイテムの日本食品、酒類を輸出。
加藤産業中国、ベトナム、マレーシア、シンガポール•2007年、中国の食品卸事業に進出(広州華新商貿有限公司に出資)。2013年にはベトナム、2015年にはシンガポールに進出。
•2012年に海外食品卸事業に関する投資会社を(加藤SCアジアインベストメント(株))設立。近年はベトナム(2016年)及びマレーシア(2017年)で現地企業の買収を行う。

出典: 農林水産省「海外展開の状況」

  • 大規模事業者を中心に、アジアを中心とした現地生産拠点の設立・拡充が進んでいる。
  • 海外でのブランド化や現地企業との販促における協業が成功要因となっている。

食品卸売業者の海外展開の状況

企業名進出国概要
味の素フランス、ポーランド、ベルギー、ロシア、トルコ、エジプト、コートジボワール、ナイジェリア、英領バージン諸島、タイ、フィリピン、マレーシア、シンガポール、インドネシア、ベトナム、カンボジア、バングラデシュ、インド、中国、台湾、韓国、ミャンマー、パキスタン、米国、メキシコ、ブラジル、ペルー、エクアドル•海外市場の拡大を継続するとともに、アジアでは現地製造体制を強化。
•トルコ、パキスタンでは、現地食品大手と共同(商標権の買収や販路提供)で、製品販売に着手。
•また、即席麺製造も拡大し、ペルーでは自社ブランドの「Aji-no-men」の酒類拡大を、インドでは東洋水産と合弁で即席麺製造の合弁会社を設立。
日清食品ホールディングス中国、インド、タイ、シンガポール、インドネシア、ベトナム、米国、メキシコ、コロンビア、ブラジル、ハンガリー、ドイツ、モロッコ、•従来のアジア現地生産に加え、英国の大手メーカーであるPremirFoodsplcと販売網の相互利用、共同商品の開発、研究開発における協働、製品の相互OEM供給等を目的とした協業に関し、基本合意に達した。
キューピー中国、タイ、ベトナム、マレーシア、インドネシア、米国、オランダ•中国、東南アジア、北米ではブランド化に成功。
•「KEWPIEMAYONNAISE」は、現地で調達した原料を使用しオランダで委託生産し、西欧を中心に、ヨーロッパでの普及を図る。
ヤクルト本社台湾、タイ、韓国、フィリピン、シンガポール、インドネシア、オーストラリア、マレーシア、ベトナム、中国、アラブ首長国連邦、ブラジル、メキシコ、米国、ベルギー、イギリス、ドイツ、オーストリア、イタリア•中国、台湾、ミャンマーでの製造拠点を新設し、現地製造体制を強化。
•中東、米州での販売体制も強化。
山﨑製パン中国、台湾、タイ、インドネシア、ベトナム、シンガポール、米国、フランス•香港、タイ、台湾、シンガポール各地にあるセントラル工場で最新技術を使った冷凍生地を生産。インドネシアでは卸売事業も展開。
•中国、ベトナム、米国、フランスでは、百貨店内の店舗開設やベーカリーカフェの事業を展開。

出典: 農林水産省「海外展開の状況」

・国内市場の縮小及び新興国における市場拡大を背景として、大手事業者は海外現地法人の設立やM&A、業務提携を通じた海外事業展開を加速させている。・進出先としては、アジア諸国が主体であり、特に中国への進出を各社が進めている。

市場を変えるイノベーションと業界のデジタル化

食品業界においても、慢性的な人手不足と円安によるコスト増加などの課題が山積みです。このような課題解決には、デジタル化(DX化)の推進が期待されています。DXとはデジタルトランスフォーメーションの略で、AIやIotを活用したデジタル技術で企業風土の変革を担い、競争上で優位に立つことを目指すものです。DX化による具体的な事例を1つ紹介します。

・食品業界のDX事例(日清食品)

国内年間売上が2019年には1,000億円を突破した日清食品のカップヌードルですが、今なおDX化による変革を日々目指しています。完全無人の国内スマートファクトリーを2018年に設立し、生産ラインには人が一切立ち入らないまま、年間10億食の生産が可能となっています。

また、NASA室といわれる集中管理室で工場内を一貫管理しており、設備や温度だけでなく、水、電気に至るまで工場内のすべてを監視できるようになっています。この品質管理システムでは映像とデータが随時確認でき、完全無人で高品質なカップヌードルの生産を行っています。

M&A成功のポイント

M&Aは企業成長の一つの手段ですが、M&Aを成功させるためには様々なポイントがあります。具体的には、綿密なM&A計画の立案、適切なプロセス管理が不可欠です。本節では、M&A成功のための重要なポイントについて解説します。どのような視点で企業価値を評価すべきか、また事前交渉や実行時の注意点は何かなど、参考にしてください。

M&A戦略の立案

M&A戦略の立案においては、適切なターゲット企業の選定が重要です。選定のポイントは、市場シェアや競争力、事業領域の相互補完ができるかなど、M&Aの目的にふさわしいシナジーを有した候補先を選定します。また、財務状況や企業価値の評価も欠かせません。

ターゲット企業を選定後、譲渡企業との交渉の進捗にあわせ適宜譲渡企業情報の収集と分析を行い、当初立案したM&A計画を修正していきます。交渉がある程度進んだ段階では、詳細なデューデリジェンスを行い、企業価値を正確に把握し、最終の譲受価格の根拠として活用します。これにより、最善の結果を得るための戦略の立案が可能となります。

交渉とディールの実行

交渉プロセスにおいて、適切な譲渡価格の設定は譲渡側と譲受側の合意形成に大きく影響します。最終的な譲渡価格は、相手方との協議によって合意します。また、M&Aの実行に際しては、株主や取締役会の承認を得る必要がありますのでスムーズなディールの実行には、全体のスケジュール管理が重要となり、あらかじめ緻密な計画を立てることが大切です。

統合期の効果的なマネジメントと企業文化の融合

M&A後の統合期においては、異なる企業文化を持つ組織を統合し、新たなビジョンを共有すること目的となります。この統合作業には、譲渡側と譲受側のどちらも取り組む必要があり、その対象範囲は、経営、業務、意識など統合に関わるすべてのプロセスに及びます。企業風土や、システムなどさまざまな面で、現場の混乱を最小限に抑え、譲渡側と譲受側の統合作業をスムーズに進めるための譲渡側と譲受側の協力と工夫が必要です。

M&Aを活用した健康志向ブームへの対応

M&Aを活用した健康志向ブームへの対応は、今日のビジネス環境において重要な戦略の一つです。健康志向ブームが拡大し続ける中で、企業はM&Aを通じて、健康食品やサプリメントの市場に参入し、競争力を強化することが期待されています。また、新たな技術や素材が開発されることで、より健康に効果的な商品が次々と登場し、市場はさらに活性化することが期待されています。

健康食品市場の拡大と最新トレンド

健康食品市場は、近年、急速な拡大を遂げていす。この背景には、消費者の健康志向の高まりや高齢化社会の進行が影響しています。広がった市場は新しいビジネスチャンスを創出し、さまざまな企業が食品市場へ参入している状況です。また、最近では、自然素材にこだわった商品や機能性食品の開発が注目されるなど、様々なトレンドに対応することが、企業にとって重要な成長戦略となっています。

健康食品メーカーの買収を成功させる方法

健康食品メーカーの買収を成功させるためには、まずは市場分析を充分に行い、競合他社との差別化を図ることが重要です。また、適切なターゲット企業の選定も不可欠で、経営陣と共にリスク管理を行って適切な評価額を算定する必要があります。

さらに、買収後の経営計画を策定し、経済的リターンを最大化するための戦略的施策を検討する必要があります。これらの要素を充分に検証することで、健康食品メーカーの買収を成功させることができます。

健康食品M&Aの成功事例

健康食品M&A分野においては、ユーグレナが成功事例としてあげられます。ユーグレナは、市場ニーズに応じた適切な企業の譲受を行い、マーケティング戦略を練り直すことで、ブランド力の向上と市場シェアの拡大につなげています。同社の成約事例から、譲渡企業を適切に選定し、戦略的な経営計画を策定することが、健康食品M&Aの成功において重要であることが理解できます。

ユーグレナの成約事例

■譲受企業:ユーグレナ

微細藻ミドリムシを活用した食品、化粧品販売を行っています。

■譲渡企業:株式会社フック(東京都:売上高11億9400万円)

健康食品のEC事業を展開しています。

ユーグレナは、株式譲渡と株式交換によってフックを完全子会社化しました。このM&Aの目的は、ユーグレナの経営資源とフックの経営資源を組み合わせることで、ヘルスケア事業のさらなる成長を図る狙いがあります。

M&Aの効果とリスク管理

食品製造業界においても、M&Aは、競争力の強化や市場シェアの拡大、コスト削減といった効果を享受することができます。しかし、M&Aを行う際にはリスクも伴い、適切なリスク管理が求められます。

リスク管理の対応では、財務リスクや経営リスクを事前に検証し、適切な評価額を算定することが不可欠です。また、買収後の経営計画の策定や人事・組織面でのリスク管理も重要です。

食品製造業の競争力強化とコスト削減のためのM&A活用

食品製造業において、M&Aを活用することで競争力の強化やコスト削減が期待できます。特に、市場環境が変化する中で適応力を持つ企業への買収が成功の鍵を握ります。適切な買収先を選定し、戦略的な経営計画を策定することで、食品製造業における競争力強化とコスト削減が実現できます。

食品工場の適切な事業価値評価と労働安全基準の確保

食品工場における適切な事業価値評価と労働安全基準の確保は、M&Aの成約には不可欠です。現代の食品製造業界は、高度な技術と省力化が求められる一方で、労働者の安全や健康を確保する厳密な基準が設定させています。

具体的には、高度な生産システムの導入により、生産性が向上し、品質管理も徹底され、また、、労働安全基準の向上は、従業員の福利厚生や働きがいを高めることで、離職率の低下や従業員満足度の向上につながります。

ニチレイや日清食品の食品製造業界でのM&A成功事例

食品製造業界におけるM&A成功事例として、ニチレイや日清食品など、その名を知らぬ者はいないような著名企業が挙げられます。彼らは、M&Aを活用して更なる事業拡大や市場競争力の強化を実現しています。

例えば、ニチレイは海外市場への進出や事業の多角化を見据えたM&A戦略を展開し、その成果を享受しています。また、日清食品は積極的なM&Aによって国内外での市場シェアを拡大し、成長を続けています。

ニチレイのM&A事例

株式会社ニチレイロジグループ本社は、多彩な低温物流サービスで日本の豊かな食生活を支える企業です。同社は、日本国内はもとより世界各国の物流ネットワークを強化する成長戦略のもと、2022年4月、マレーシアで物流事業を手掛けるLitt Tatt Enterprise Sdn.Bhd.およびLitt Tatt Distribution Sdn.Bhd.へ資本参加を実施しています。

このM&Aにより、マレーシア現地でのきめ細やかな物流体制が構築され企業競争力をさらに強化した事例となります。

日清食品のM&A戦略

チキンラーメンやカップヌードルでお馴染みの即席麺メーカー、日清食品ホールディングですが、成熟した国内市場から成長市場である中国やロシアなど海外事業の強化や、菓子など非即席麺事業の育成を狙い、M&A戦略を強化しています。

食品業界のM&Aのまとめ

本記事では、食品業界におけるM&A活用の成功秘訣と事例を解説してきました。当業界は変化の激しい市場であり、企業は常に革新的な戦略やビジョンを持って取り組むことが求められM&Aも活発に実施されています。この食品業界のM&Aを成功させるためには、業界動向を踏まえたうえで、自社にとって適切なアドバイスとサポートが受けられM&A仲介会社などの専門家との連携が重要であるということです。

我々、みつきコンサルティングは、税理士法人グループのM&A仲介会社として15年以上の業歴があり、食品業界のM&Aに精通した経験実績が豊富なM&Aアドバイザーが多数在籍しております。また、自社グループ海外現地法人も有し、クロスボーダーのM&A案件も対応可能です。M&Aをご検討の際は、成功するM&A仲介で実績のある、みつきコンサルティングに是非ご相談ください。

著者

西尾崇
西尾崇事業法人第三部長
宅食事業を共同経営者として立ち上げ、CFOとして従事。みつきコンサルティングでは、会計・法務・労務の知見を活かし、業界を問わず、事業承継型・救済型・カーブアウト・MBO等、様々なニーズに即した多数の支援実績を誇る。
監修:みつき税理士法人

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