靴メーカーの会社売却では、木型や底金型、製甲と底付けを担う人の手、そして安全靴のJISマーク認証といった、決算書に表れにくいものが価格を動かします。輸入品が国内出荷を大きく上回る環境で、受注減と職人の高齢化を同時に抱えるオーナーは少なくありません。株式譲渡と事業譲渡で何が変わるのかを、譲渡オーナーの目線からたどります。
革靴でもゴム靴でも、工場の値打ちは建物や機械より先に、棚に並んだ木型と、製甲ミシンを踏む人の手に宿ります。本記事は、その現場を抱えたまま会社の譲り渡しを考えているオーナー経営者に向けたものです。甲革の仕入価格を売値へ乗せきれず、底付けができるのは70代の数名だけ。加えて、安全靴のJIS認証をどう引き継ぐのかという問いも残ります。この三つを軸に、値のつき方を見ていきます。
靴の国内生産が細るなかで、製造側に届くM&Aの打診
輸入品が国内出荷を大きく上回る構図は、いまに始まった話ではありません。変わったのは、製造側に届くM&Aの打診の中身でした。
家計の履物支出が示す、紳士靴と婦人靴の温度差
総務省統計局「家計調査」(2024年)によると、履物類の1世帯当たり年間支出額は17,271円で、コロナ禍前の19,000円前後には戻りきっていません。品目別に見ると、婦人靴は購入頻度が高く平均価格5,708円、男子靴は頻度が低い一方で平均価格7,123円と最も高い水準にあります。紳士靴は少ない足数を高い単価で売る商売、婦人靴は型数を増やして回転で稼ぐ商売。同じ「靴メーカー」でも損益の組み立ては別物で、譲受企業はここを最初に見分けにきます。
事業所の9割が100人未満という産地の形
総務省・経済産業省「経済構造実態調査」では、革製履物製造業に占める従業者100人未満の事業所が9割を超え、出荷金額でも8割前後を占めます。つまり業界の大半は、社長と職人が同じ床に立っている規模感。浅草、神戸長田、久留米といった産地に、製甲、底付け、仕上げ、木型製作が分業で張り付いてきました。この分業網があるから小ロットに応えられるわけで、設備一覧を眺めても強みは読み取れません。
譲受企業が「国内に工場を持つこと」を選び直している
ここ数年、卸や小売の側から製造機能を取りに行く動きが目立ちます。海外委託は為替と物流費で読みづらくなり、小ロットの追加生産や補修対応を国内で回したいという要望が戻ってきました。中小企業のM&Aでは、赤字ぎりぎりの工場であっても「今からは作れない設備と人の組み合わせ」として評価されることがあります。閉めるしかないと思っていた工場に、複数社が手を挙げた例は実際にあります。
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木型と底金型という、決算書に出てこない靴メーカーの資産
「うちには売れるものなんて何もない」。そう言うオーナーの工場の棚に、数千本の木型が眠っていることがあります。
ラストの保有本数より、動いている本数を見る
木型(ラスト)は一度削れば数十年使えるため、取得から時間が経ったものは簿価がほぼ残っていません。ところが、いま受注している型番を再現できるラストが手元にあるかどうかで、譲受企業の初年度計画はまるで変わります。評価の現場で数えるのは保有総本数ではなく、直近2期に実際に使われた本数。ウィズ違いや左右違いを含めて何足分そろっているか、木型職人が減るなかで追加製作の当てがあるか。そこまで確認されます。
ラスト台帳がないと値が伸びない
型番とラスト番号、サイズ展開、保管棚の位置が結び付いていない工場は珍しくありません。図面が社長の頭の中にある状態だと、譲受企業は再現可能性を割り引きます。台帳は紙一枚でも作っておく価値があります。
底金型の所有権が発注元にある場合の扱い
OEM受注では、ソールの金型代を発注元が負担し、所有権も発注元に残す取り決めが少なくありません。この場合、金型は工場の資産ではなく預かり物になります。取引が終われば返還義務が生じ、置き場所と保管費用だけが残ることも。倉庫の奥で10年以上眠る型を、棚卸のたびに数だけ数えている工場もありました。譲渡の検討では、金型ごとに所有者、返還条件、無償保管になっていないかを洗い出しておきたいところ。企業価値の見え方が変わってきます。
紙型と仕様書が揃っているかで、のれんの厚みが変わる
甲革のパターン(紙型)、縫製仕様、底材の配合、接着の条件。これらが文書として残っているか、職人の経験則にとどまっているかで、譲受企業の見積もりは大きく動きます。文書化されていれば、他工場へ生産を移す選択肢も持てるためです。逆に、属人的なままなら、キーパーソンの残留を前提とした条件が提示されやすくなります。どちらが良い悪いではなく、値段の組み立てが変わるという話です。
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安全靴や静電靴を作る工場が向き合うJISマーク認証の承継
ここは見落とされがちですが、譲渡の日程そのものを縛りかねない論点です。作業用途の靴を手がける工場は必ず確認しておきたい箇所。
認証は法人と工場に紐づいている
安全靴のJIS T 8101、静電気帯電防止靴のJIS T 8103は、産業標準化法に基づくJISマーク表示制度の対象です。国に登録された登録認証機関が、製品試験と工場審査を経て事業者を認証し、認証を受けた事業者だけがJISマークを表示できます。つまり認証は製品そのものではなく、その製品を作る法人と工場に紐づいているということ。ここを押さえると、譲渡手法の選び方が見えてきます。
合併や吸収分割では、表示できない期間が生まれる
登録認証機関の案内では、合併契約書や吸収分割契約書に基づく事業承継の場合、工場の所在地が同じで品質管理体制に変更がないなどの条件を満たせば、承継後の法人が認証の権利を引き継げるとされています。ただし適合性確認と認証契約の再締結が済むまで、承継後の法人はJISマークを表示できません。消滅会社の名義での表示や出荷も、効力発生日以降はできなくなります。この空白が納期に直撃します。
株式譲渡が選ばれやすい実務的な理由
株式譲渡なら法人格が変わらないため、認証取得者の地位はそのまま残ります。事業譲渡や会社分割を選ぶと、出荷が止まる期間の手当てが要ります。作業用途の靴を扱う工場ほど、この差は小さくありません。
品質管理責任者が欠けると、その日から出荷が止まる
JISマークの表示には、資格要件を満たす品質管理責任者が工場に常駐している前提があります。要件は、対象製品の製造実務1年以上、標準化と品質管理の実務2年以上、加えて大学等での所定単位の修了か認定講習会の修了。この人が退職して不在になると、JISマークの表示も、マークを付けた製品の出荷もできなくなります。支援現場では、許認可・資格の承継を検討する段階でこの一点を先に潰し、後任の講習受講を譲渡の実行前に済ませる段取りを組みます。
工場の移転は、新規取得と同じ手順を踏む
統合後に生産拠点をまとめる構想があるなら、移転の扱いも先に読んでおきたいところです。工場の移転や移築で所在地が変わる場合、その工場での新規認証取得となります。人員や製造設備、試験設備に変更がないと確認できれば、認証に必要な生産実績6か月分のうち5か月分について移転前工場の実績を活用できる場合があるとされていますが、審査と試験は改めて実施されます。統合計画の前倒しは、ここで詰まります。
譲渡オーナーが売却に傾く理由は、靴づくり特有の事情に寄る
後継者がいない、という一言の下に、業界固有の事情がいくつも折り重なっています。相談の入口で語られる順に並べてみます。
甲革と底材の値上がりを、売値へ乗せきれない
原皮や合成皮革、ウレタン底の材料費は円安と海外需要で上がり続けてきました。一方、量販向けの上代は動かしにくく、値上げ交渉のたびに数量を減らされる懸念が付きまといます。改定を飲んでもらえた翌期に、発注量が2割落ちた。そんな話も耳にします。賃加工中心の工場なら工賃単価の改定交渉、自社ブランドなら上代改定と、打ち手は違うものの、どちらも一社では踏み切りにくい。資本の後ろ盾を得て価格交渉の立場を変えたい、という動機は現実的です。
製甲と底付けの担い手が70代に偏っている
製甲ミシンを扱える人、吊り込みと底付けができる人は、産地でも数えるほどになりました。東京都立城東職業能力開発センター台東分校の製くつ科のように、型紙から製甲、セメント式底付までを一貫して学べる公的訓練は残っていますが、修了者の数は工場の減少を埋めるほどではありません。採用できても、一人前になるまでに数年かかる仕事。オーナー自身が現場に立つ工場だと、体調ひとつで生産が止まりかねません。技能の受け皿を持つ相手へ渡す選択は、事業承継の現実解になりつつあります。
取引先ブランドの内製化や集約で受注が細る
製造小売化が進み、小売側が企画から生産管理まで自前で握る流れが続いています。長年の取引先が海外工場へ切り替える、あるいは発注を数社に絞る。そうなると、一社依存の工場は一度の見直しで売上の柱を失います。取引先の担当者が代わった年に受注が半減した、という話は珍しくありません。しかも通告は期首の商談で唐突にやってきます。稼働率が落ちて赤字が続いてからでは、選べる相手も条件も狭まる。動けるうちに動けるかが分かれ目です。
会社売却でオーナーが得るものと、手放すもの
廃業して機械を処分するのと、会社ごと譲り渡すのとでは、手元に残るものも、背負い続けるものも変わります。下表は、靴づくりの現場を抱えたオーナーが会社売却を選んだときに起きることを、良い面と負担の両方から並べたものです。数が多いほど良いという話ではなく、自社にとってどの行が重いかを見てください。とくに個人保証と、外注先との関係の二つは、面談の早い段階で必ず話題にのぼります。
| 譲渡オーナーのメリット | 譲渡オーナーのデメリット |
|---|---|
| 個人保証と担保から抜けられる 工場建屋や革の仕入枠に付いた保証を、譲渡の実行に合わせて解除する交渉ができます。 | 木型や仕様の開示を求められる 秘匿してきた配合や型紙まで、調査の過程で見せる必要が出てきます。 |
| 職人の雇用と技能の行き先が決まる 廃業なら散逸する技能が、資本の後ろ盾を得た工場で続く道が残ります。 | 値決めや生産計画の裁量が狭まる 譲受企業の販売計画に合わせ、得意でない品目の生産を求められることもあります。 |
| 設備更新の原資を確保できる 底付け機や革漉き機の更新を、自己資金の枠外で進められるようになります。 | 長年の外注先との関係が変わる 製甲や仕上げの外注単価が、譲受企業の調達基準で見直される場合があります。 |
| 販路と口座が広がる 自社では取引口座を開けなかった量販や海外へ、譲受企業の販路で入れます。 | ブランド名の扱いを決めきれない 創業家の名を冠した屋号を残すか畳むかで、交渉が長引くことがあります。 |
| 受注の谷を資本で吸収できる 季節変動の大きい靴の生産で、運転資金の綱渡りから解放されます。 | 一定期間の引継ぎ関与を求められる 技能と取引先の橋渡しのため、譲渡後も数年は現場に残る条件が付きがちです。 |
| 創業者利潤を手元に残せる 株式の対価として受け取るため、廃業時の清算価値とは桁が変わることもあります。 | 情報管理の負担が重い 検討が漏れると職人の動揺を招くため、限られた人数での進行を強いられます。 |
譲渡価格の考え方と、買い手が見る靴メーカーの数字
相場観から入ると話が早いという方もいますが、靴メーカーの場合は数字の中身を先に揃えたほうが結果的に近道です。
年買法で目安を出し、そこから業種の事情を足し引きする
中小の靴メーカーで最もよく使われるのが年買法(年倍法)です。時価純資産にのれん(数年分の利益)を加えて目安を出します。工場を持つ分だけ純資産は厚めに出やすい一方、簿価が残る土地建物の含み損益や、動かない木型の扱いで数字は揺れます。DCF法や類似会社比較法もありますが、非上場の中小工場では参考値にとどまります。会社売却の相場の考え方も併せて押さえておくと判断しやすくなります。
在庫は「量」ではなく「年齢」で見られる
甲革は色と厚みごとに使い道が限られ、数年寝かせると表面が変質します。合成皮革は加水分解が進み、ウレタン底も保管年数で劣化します。だからこそ、棚卸表に金額だけが並んでいる状態では評価が下がります。仕入年度別の残高と、直近2期で実際に投入した量。この二つを突き合わせて初めて、実質の純資産が見えてきます。ここを整えるだけで数字が変わった例は、当社の関与案件でも何度もありました。
買い手が確認する製造側の指標
決算書を渡した翌週、譲受企業から届く追加質問は、たいてい似た顔ぶれになります。売上や利益の推移そのものではなく、その数字がどう作られているかを分解する問いです。下表は、靴メーカーの調査で繰り返し尋ねられる指標を並べたもの。自社で即答できない行があれば、そこが準備の出発点になります。出せない項目ほど交渉では低めに見積もられがちですから、先に手を付ける価値があります。
| 指標 | 確認される内容 | 評価への効き方 |
|---|---|---|
| 裁断歩留まり | 1枚の甲革から何足分の甲被を取れているか。型入れの巧拙が出ます。 | 材料費率に直結し、値上げ耐性の差になります |
| 1人1日あたり製造足数 | 工程別の人員配置と、機械化されている範囲。 | 受注が増えたときの伸びしろを測る材料になります |
| 上位取引先の売上構成比 | 第1位の得意先が占める割合と、契約期間の定め。 | 集中度が高いほど、のれんは厚く積みにくくなります |
| 賃加工と買取生産の比率 | 材料を持つ側がどちらか。在庫リスクの所在が変わります。 | 粗利率の水準と運転資金の重さを説明できます |
| 稼働しているラストの本数 | 直近2期に生産で使われた木型と、その型番の売上。 | 初年度の生産計画をそのまま引き継げるかを左右します |
| 外注先の分散度 | 製甲や底付けの委託先が何社あり、単価がどう決まっているか。 | 1社依存だと統合後の交渉余地が読みにくくなります |
| 返品率とB級品発生率 | 納品後の不良戻りと、検品ではじかれる比率。 | 品質管理の実力を示す数値として重視されます |
認証や納入実績は、数字の裏付けとして効く
当社が関与した案件では、譲渡価格・株式評価の議論が数字の押し合いで止まったとき、JISマーク認証の保有区分や官公庁への納入実績が突破口になったことがあります。新たに参入しようとすれば、製品試験と工場審査に相応の時間がかかる領域だと示せるためです。決算書に載らない参入障壁を、言葉と資料で説明できるかどうか。企業価値評価の根拠として、この作業は初回の資料づくりから効いてきます。
革靴とゴム靴で分かれる外国人材の受入れ制度
同じ靴を作っていても、素材と産業分類の違いで採れる人が変わります。意外と知られていない分かれ目です。
対象となる産業分類に、革製履物製造業は入っていない
経済産業省が公表する工業製品製造業分野の受入れ対象産業分類には、「19 ゴム製品製造業」や「206 かばん製造業」が挙がる一方、「204 革製履物製造業」の記載はありません。ゴム長靴やケミカルシューズの底を成形する工場は対象になり得るのに対し、革靴を縫って吊り込む工場は同じ枠組みを使えないということ。同じ敷地で同じ靴を作っていても、素材の違いで採れる人が分かれます。ここを取り違えたまま増員計画を立てている例は、意外と少なくありません。
1号特定技能は2026年6月、育成就労は2027年4月から
1号特定技能外国人を受け入れられる事業所の産業分類は、経済産業省告示の施行により2026年6月1日以降に拡大します。育成就労については、関係法令が施行される2027年4月1日以降の受入れとされています。ゴム製品製造業で育成就労外国人を受け入れる場合は、協議会で協議が調った事項に関する措置も求められます。譲受企業が人員計画を描く際、この日程は前提として必ず確認されます。
採用計画の前提が崩れると、事業計画ごと揺れる
みつきコンサルティングでは、従業員説明・労務承継の論点を詰める段階で、在留資格の内訳と満了時期を一覧にして共有します。革製履物の工場で特定技能による増員を織り込んだ計画が出てきたら、まず産業分類の該当有無を確かめる。ここを曖昧にしたまま条件交渉へ進むと、調査の終盤で計画の作り直しが起き、日程も価格も揺れます。先に潰しておけば、譲受企業の不安材料をひとつ減らせます。
シューズメーカーを譲り受けたい会社の顔ぶれ
「うちを欲しがる会社なんているのか」と聞かれます。実際に手が挙がるのは、次の四つの層です。
同業の靴メーカーと、隣接する革製品メーカー
紳士靴の工場が婦人靴の工場を、あるいはかばんや革小物のメーカーが製靴工場を求める動きがあります。狙いは型数の補完と、繁閑の平準化。革の仕入を合算して単価を下げる効果も見込めます。同じ工程を扱う分、統合後の摩擦が小さいのも利点でしょう。近年は、同業同士が対等な立場で組む資本業務提携から入り、成果を確かめながら段階的に持分を増やす形も選ばれています。いきなり全株を渡すことに迷いがある場合の入口にもなります。
製造機能を取りに来る卸・小売と、素材側の会社
靴の卸や専門店チェーンが、企画から生産までを自前で握るために工場を求める例。逆に、なめし革や合成皮革、ソール材のメーカーが川下へ出る例もあります。前者は小ロット対応と補修体制、後者は自社素材の出口を欲しがるため、同じ工場を見ても評価の軸がまるで違う。どちらに当たるかで、提示される条件も変わってきます。仲介会社一覧を比べる際は、この両方の層へ届くネットワークを持つかどうかを確かめてください。
投資ファンドと、異業種からの参入
ファンドは、産地の複数工場をまとめて規模を作る構想で動くことがあります。異業種では、作業服やユニフォームの会社が安全靴を取り込む、介護事業者がリハビリシューズを内製化するといった組み合わせ。譲受候補を探して打診する段階で、みつきコンサルティングは同業だけに絞りません。素材側と用途側の両方向へ当たります。当社が公開している成約後のインタビューでも、想定外の業種から最終候補が出た例は少なくありません。
靴メーカーのM&Aで特に注意すべき論点
調査で指摘を受けやすい箇所は、業種ごとに驚くほど偏ります。靴の場合はここです。
株式譲渡と事業譲渡で、引き継げるものが変わる
税負担の軽いほうを選びたい、という相談は多く寄せられます。ただ靴メーカーの場合、税金より先に見るべき項目がいくつもあります。認証、取引口座、外注先との単価契約、そして預かっている型。どれも手法の選び方ひとつで扱いが変わり、実行後に気づいても簡単には戻せません。とくに預かり型の扱いは、契約書を見るまで社内でも把握されていない例が目立ちます。下表で両者を並べましたので、読み比べたうえで、どちらを前提に交渉を始めるかを決めてください。
| 比較項目 | 株式譲渡 | 事業譲渡 |
|---|---|---|
| JISマーク認証 | 法人格が変わらないため、認証取得者の地位は原則そのまま残ります | 譲受側での取得が必要となり、表示できない期間が生じます |
| 取引先の口座 | 会社が当事者のまま続くため、量販や商社の口座は維持されやすい | 再審査や再契約となり、新規口座扱いに戻ることがあります |
| 外注先との単価契約 | 包括的に引き継がれ、支払条件もそのまま残ります | 製甲や底付けの委託先ごとに、個別の巻き直しが要ります |
| 預かり金型・木型 | 保管の地位も会社に残り、返還条件の見直しは生じにくい | 所有者への通知と、保管継続の同意取得が必要になります |
| 職人の雇用 | 雇用契約は会社に残り、勤続年数も継続します | 個別に同意を得て再契約するため、離職の引き金になり得ます |
革の在庫と仕掛品で、調査の指摘が集中する
財務の調査では、棚卸資産の実在性と評価が最初の論点になります。裁断待ちの原反、製甲まで進んだ仕掛品、底付け前の甲被。工程ごとに原価の積み方が違い、社内ルールが曖昧だと数字が固まりません。現場では、DD・表明保証の準備として、工程別の仕掛品原価表を先に用意してもらうようお願いしています。財務デューデリジェンスに入る前に形にしておけば、調査の往復が減り、デューデリジェンス全体の進み方も早くなります。
ライセンスと商標の権利関係を先に確かめる
海外ブランドのライセンス生産や、量販店のプライベートブランド供給には、支配権の変動時に相手方の承諾を要する条項が入っていることがあります。自社ブランドの商標が創業者個人の名義で残っている例も見かけます。契約書の束を早めに当たり、承諾取得の順番を設計しておく。この段取りができている案件は、交渉が驚くほど滑らかに進みます。M&A仲介を選ぶ際は、この種の作業に伴走できるかを見てください。
完全成功報酬
M&Aが成立した場合のみ、譲渡対価に応じた手数料を頂戴します。
売主様は、ご成約まで費用負担なくスタートできます。
着手金・中間金
0円
月額報酬
0円
成功報酬
成約時のみ
※レーマン方式
公開された靴ブランドの譲渡から読み取れること
自社と規模は違っても、取引の組み立て方には学べる点があります。公表されている二つの例を見てみます。
ブランドの知的財産だけが取引対象になった例
米国のオールバーズは2026年3月30日、ブランドの知的財産すべてと一部の資産・負債を、アクセサリーの企画とブランド管理を手がける米アメリカン・エクスチェンジ・グループへ約3,900万ドルで譲り渡すと発表しました。株主の承認を前提に取引を終える計画で、譲渡後の法人は清算を視野に入れています。譲受側は自社のライセンス基盤にブランドを載せる狙いとみられます。工場ではなくブランドへ価値が寄る場合、こうした切り出し方が選ばれます。
得意先への集中が、工場の命運を握った例
2016年8月19日、ラオックスは、民事再生手続中だった婦人靴卸のシンエイの企画・卸売販売事業を子会社のモード・エ・ジャコモが3億8,000万円で、同じく民事再生手続中の新興製靴工業の靴製造販売事業を子会社の青葉ライフファミリーが3億9,000万円で譲り受けると決めました。国産靴の品揃えを厚くする狙いでした。福島県に自社工場を持つ新興製靴工業は売上高の約4割が卸1社向けで、その1社の再生申立てに連鎖した形です。得意先構成は有事に効きます。
シューズメーカーの売却でよくある質問
初回の面談で実際に出た問いから、業界に固有のものを選びました。
反映されますが、条件が付きます。現場では、その製法で作れる人が何名いて平均年齢が何歳か、直近2期の生産足数はどれだけかを確認します。技術の存在そのものではなく、譲渡後も供給を続けられるかが見られるためです。後進が育っていれば、のれんの加算要因として説明できます。
見つかります。むしろ、企画機能を持つ卸や小売にとっては、余計なブランドを抱えない工場のほうが組み込みやすいという声もあります。確認されるのは取引先の分散度と、図面や仕様書に基づいて安定した品質を出せる体制。ブランドの有無より、再現性のある生産が評価の軸になります。
会社が当事者のまま残るため、契約は原則として続きます。ただし現地工場側が支配権変動時の通知や協議を求める条項を置いている場合があり、実務では覚書の巻き直しが要ることも。最低発注数量や金型の所有条項まで含めて、契約書を先に確認しておくと安全です。
高く評価されやすい実績です。入札参加資格や指定の継続性、仕様書で求められる試験成績の保有状況まで踏み込んで確認されます。指定が法人単位で紐づいている場合、事業譲渡では取り直しになることもあるため、手法の選択と併せて考える必要があります。
まとめ|靴づくりの現場に通じたM&A仲介はみつきコンサルティング
靴メーカーの値打ちは、建物や機械より、稼働している木型と、製甲や底付けを担う人、続いてきた取引口座に宿ります。安全靴や静電靴を手がけるなら、JISマーク認証をどの手法で引き継ぐかが日程を縛りかねません。工場を閉めるしかないと感じていても、譲受企業の目には貴重な生産基盤と映ることがあります。
みつきコンサルティングは、財務・税務に強いM&A仲介会社として、中小企業のM&A仲介の実績経験が豊富です。木型や甲革在庫の評価からJIS認証の承継まで見据えて設計し、相談先選びの段階からお手伝いします。靴メーカーの会社売却なら、みつきコンサルティングへ。
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著者

- 名古屋法人部長/M&A担当ディレクター
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人材支援会社にて、海外人材の採用・紹介事業のチームを率いて新規開拓・人材開発に従事。みつきコンサルティングでは、強みを生かし人材会社・日本語学校等の案件を中心に工事業・広告・IT業など多種に渡る案件支援を行う。M&Aの成約実績多数、M&A仲介・助言の経験年数は10年以上
監修者 神門 剛 代表取締役 / 公認会計士・税理士
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