人材派遣・紹介業のM&Aは、人手不足と度重なる法改正を背景に加速しています。労働者派遣事業許可や有料職業紹介事業許可をそのまま引き継げるか、登録スタッフと稼働率をどう評価するかで、譲渡価格は大きく変わります。本記事では市場動向、価格の見方、許可の承継とスキーム選択、進め方、そしてエンジニア派遣会社の譲渡事例まで、譲渡オーナーと譲受企業の双方に向けて実務目線で解説します。
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人手不足を追い風に加速する人材派遣・紹介業のM&A動向
人を供給する側が、自らも人手に苦しむ。この矛盾こそが、人材派遣・紹介業のM&Aを静かに後押ししています。まずは市場の全体像から押さえます。
単価上昇で約9兆円に達した市場と頭打ちの派遣人数
厚生労働省の労働者派遣事業報告書によれば、2023年度の労働者派遣事業の売上高は9兆500億円で、前年度から3.3%増えました。有料職業紹介事業も好調で、2023年度の手数料収入は約8,362億円と過去最高を更新しています。一方、派遣で働く人の数は2024年6月時点で約191万人と、前年からわずかに減少。つまり市場の伸びは人数ではなく、派遣単価の上昇が支えている構図です。とりわけ情報処理・通信の技術者派遣は単価が上がりやすく、収益の質という点で買い手の関心を集めています。
2015年の許可制一本化と法改正対応が促す集約
人材業は許認可がなければ営業できません。2015年の派遣法改正で特定労働者派遣の届出制が廃止され、2018年9月までに労働者派遣事業は許可制へ一本化されました。この際に設けられた基準資産2,000万円以上といった要件を満たせず、廃業か会社売却かを迫られた小規模事業者は少なくありません。加えて同一労働同一賃金への対応やキャリアアップ支援の義務化が、事務負担として中小にのしかかっています。単独運営の限界を感じ、大手グループ入りを選ぶオーナーが増えています。
譲受企業の顔ぶれ|総合人材大手・特定領域・投資ファンド
買い手の顔ぶれは、大きく四つに分かれます。総合人材大手は登録者網と派遣先をまとめて取り込み、規模の経済を狙います。隣接する紹介・派遣・請負の相互補完や、IT・医療・介護といった特定領域への進出を目的とする買い手も目立ちます。投資ファンドは複数社を束ねるロールアップの起点として関心を寄せ、2025年6月にはカーライルが医療福祉の人材紹介などを手がけるトライトの株式をTOBで取得すると発表しました。同年12月には三菱ケミカルが人材派遣子会社をパーソルテンプスタッフへ譲渡するなど、事業再編に伴う売買も動いています。
▷関連:サービス業のM&A|人手不足と許認可承継で変わる譲渡事例と相場
売主と買主それぞれのM&Aメリット・デメリット
会社の価値は規模で決まると思われがちですが、人材業では収益の質と、許可・人材の承継しやすさが評価を分けます。立場ごとに損得は異なります。
売り手のメリットとデメリット
まず譲渡オーナー側の損得を、下表にまとめました。この情報の非対称を埋めて条件を引き出すのがM&A仲介の役割です。
| 譲渡オーナーのメリット | 譲渡オーナーのデメリット |
|---|---|
| 後継者不在の解消 親族や社内に継ぎ手がいなくても、会社と雇用を残せます。 個人保証・担保からの解放 買い手が肩代わりし、経営者の重荷が外れます。 従業員と登録スタッフの雇用維持 登録者網ごと引き継がれ、働く場が守られます。 許可更新・法改正対応の負担軽減 大手の管理体制に乗ることで事務負担が下がります。 大手の営業力と登録者網の活用 単独では届かない派遣先や採用力を得られます。 譲渡益の確保 非上場株式を現金化し、次の人生の原資にできます。 | 希望条件の買い手が見つかるとは限らない 汎用領域は競合が多く、強みがないと評価が伸びにくい面があります。 情報漏えいによる離職 検討が早く漏れると、コーディネーターや登録者が離れかねません。 主要派遣先への説明と調整 契約継続の合意取り付けに時間がかかることがあります。 一定期間の残留を求められる 引継ぎのため、社長にロックアップが付くケースがあります。 評価軸が読みにくい 登録者の実態を示せないと、価格が保守的に見積もられます。 |
買い手のメリットとデメリット
譲受企業にとっての人材業M&Aは、時間を買う投資でもあります。採用と許可取得を一足飛びに済ませられる反面、見えにくいリスクも抱えます。
| 譲受企業のメリット | 譲受企業のデメリット |
|---|---|
| 登録者と稼働案件を一括取得 採用に頼らず、稼働する人材と売上を同時に得られます。 特定領域へ即時進出 IT・医療・介護・製造など、強化したい分野へ最短で入れます。 許可を包括承継し営業を継続 株式譲渡なら空白期間なく事業を回せます。 コーディネーター・営業人材の確保 運営の要となる人材ごと取り込めます。 商圏・派遣先網の拡大 地域や業種の異なる取引先を一気に広げられます。 | 登録者データの取得同意リスク 個人情報の利用範囲が不十分だと、活用に制約が出ます。 二重派遣・偽装請負の簿外リスク 過去の運用に問題があれば、承継後に負担が及びます。 主要派遣先依存の解消コスト 特定先への偏りは、統合後の収益を不安定にします。 のれんの減損リスク 想定した稼働が続かないと、評価の見直しを迫られます。 人材定着の難しさ 統合後に登録者や社員が離れると、価値が目減りします。 |
労働者派遣事業許可と有料職業紹介事業許可の承継
許可番号さえあれば大丈夫、と手続を後回しにする。人材業のM&Aで意外と多い落とし穴です。ここは手法選びで結論が変わります。
株式譲渡は許可を包括承継、事業譲渡は再取得が前提
人材業のM&Aで株式譲渡が主流なのには理由があります。労働者派遣事業も有料職業紹介事業も許可制で、法人格が変わらなければ許可はそのまま続くためです。株式譲渡なら会社が許可主体のまま残り、取引先や登録者との関係も包括的に引き継がれます。一方事業譲渡では、許可の名義変更ができず、譲受企業が新たに許可を取り直したうえで契約や登録データを個別に移す必要があります。特定部門だけを切り出すなら適しますが、手続の重さは増えます。
基準資産2,000万円要件とキャリア形成支援制度の維持
許可は取れば終わりではありません。派遣元には、基準資産額が2,000万円以上(事業所数に応じて増える)、現金預金が1,500万円以上といった資産要件があり、更新のたびに問われます。加えて派遣労働者へのキャリア形成支援制度の実施も許可の条件です。譲渡後にこれらを満たせるかは、買い手の与信や体制に左右される論点。承継の前に、許可の残存有効期間と要件充足の状況を確かめておくと、引継ぎ直後の慌ただしさを避けられます。
同一労働同一賃金と派遣期間制限への対応
2020年施行の同一労働同一賃金では、派遣先均等・均衡方式か労使協定方式のいずれかで待遇を決めます。中小の多くは労使協定方式を採りますが、協定の内容や毎年の見直しが適正かは点検が要ります。さらに事業所単位・個人単位の派遣期間制限、いわゆる3年ルールの抵触日管理も欠かせません。運用のずれは承継後の是正コストとして跳ね返ります。
支援現場では、労働者派遣事業許可の残存有効期間と、キャリア形成支援制度の実施状況を最初に確かめます。許可は株式譲渡なら会社に付いたまま残りますが、更新期限が近いと引継ぎ直後に更新申請が重なりがち。有料職業紹介事業許可を併せ持つ会社では、両方の許可番号と事業所単位の要件を突き合わせ、抜け漏れのない承継段取りを組みます。
登録者の稼働率と派遣単価に表れる譲渡価格の目安
いくらで売れるのか。最初の関心はそこに集まります。人材業の価格は、登録者の質と収益の再現性で見え方が変わります。
年買法とのれんで見る中小人材会社の価格目安
中小の人材会社で最もよく使われるのが年買法です。時価純資産にのれん(数年分の利益)を加えて目安を出します。派遣会社は大きな設備を持たず純資産が薄くなりがちですが、稼働する登録者と安定した派遣先があれば、のれんの考え方で上乗せが見込めます。DCF法や類似会社比較法も併用しますが、まずはこの年買法で会社売却の相場感をつかむのが実務の入口です。安定収益の地域密着型なら、利益の数倍で評価される例もよく見られます。
買い手が評価する登録者数・稼働率・粗利率
買い手が価格を見るとき、下表のような指標を確かめます。人材業では登録者の質と収益の厚みが評価の芯になります。
| 買い手が確認する項目 | 評価に効く理由 |
|---|---|
| 連絡が取れる登録者数 | すぐ稼働できる人材の厚みを映します。 |
| 登録者の稼働率 | 登録が売上に結びつく効率を示します。 |
| 派遣単価と粗利率 | 値上げ交渉力と収益性がわかります。 |
| 継続契約比率 | 景気に左右されにくい収益の再現性を測ります。 |
| 主要派遣先への依存度 | 特定先への偏りは割引材料として意識されます。 |
| 許可の残存有効期間 | 更新事務までの余裕を示します。 |
| 特定領域の専門性 | IT・医療・介護など高単価分野の強みを表します。 |
当社が関わった人材会社の案件では、連絡が取れる登録者数と直近の稼働率を数字で示せた会社ほど、譲受企業の評価がぶれませんでした。逆に売上が数社の派遣先に偏っていると、主要派遣先依存度がそのまま値引きの理由に使われます。登録者と派遣単価の推移を資料として整えておくことが、交渉の土台になります。
主要派遣先への依存という割引要因
売上の大半を一社の派遣先が占めていると、その契約が切れた瞬間に価値が下がるとみなされ、評価は抑えられます。派遣は契約更新が前提のため、更新条項や解約予告の期間が交渉材料になりやすい論点。派遣先を分散し、複数の業種やエリアに広げておくほど、収益の安定性は高く見られます。すぐには変えられなくても、依存を減らす方針を示せるだけで買い手の見方は変わってきます。
人材派遣・紹介業のM&Aの進め方
人材業のM&Aは、許可と人という無形の資産をどう引き継ぐかが勝負です。一般的な流れに、この業界ならではの勘所を重ねて進みます。
会社の強みと譲渡で実現したい姿を言葉にします。登録者の構成や派遣先の顔ぶれを棚卸しし、方向性を固めます。
※当社は、税理士法人グループの視点で最短1日の無料株価算定に対応します。
労働者派遣事業許可の残存有効期間、基準資産要件、連絡が取れる登録者数を洗い出し、評価の土台を作ります。
※当社では、財務と業界の両面から評価根拠を数字で組み立てます。
IT・医療・介護など特定領域を強化したい総合人材会社を軸に、相性の合う相手を選びます。
※当社は、事業会社と投資ファンド双方の買い手ネットワークから候補を探します。
コーディネーターや登録スタッフの処遇など、譲渡後の運営方針を経営者同士ですり合わせます。
※当社は、条件だけでなく人と文化の相性まで見て調整します。
二重派遣・偽装請負の有無、労使協定方式の運用、未払賃金、登録者の個人情報を精査します。
※当社は、社会保険労務士や行政書士と連携し、労務と許可の論点を詰めます。
派遣期間の抵触日管理、派遣先・登録者への周知、個人保証の解除を段取りよく進めます。
※当社は、成約後の引継ぎまで担当者が伴走します。
譲渡前に押さえる労務・個人情報のデューデリジェンス
許可さえ残れば安心、とは限りません。労務と個人情報という見えにくいリスクを、業界に強い仲介会社とともに譲渡前に洗い出します。
二重派遣・偽装請負と派遣期間制限の適法性
人材業のデューデリジェンスで最初に問われるのが、契約と指揮命令の実態です。請負契約なのに派遣先が直接指示していれば偽装請負、派遣スタッフをさらに別の会社へ回していれば二重派遣にあたり、いずれも許可の取消しにつながりかねません。事業所単位・個人単位の3年ルールの抵触日を正しく管理してきたかも確認します。過去の運用のずれは、承継後に是正費用や信用低下として買い手に及ぶため、譲渡前に把握しておくことが欠かせません。
登録スタッフの個人情報と未払賃金のリスク
登録者データは人材会社の生命線ですが、取得時の同意範囲を超えて使えば個人情報の問題になります。株式譲渡なら会社が保有主体のまま残るため引き継ぎやすい一方、事業譲渡では同意の取り直しが要る場合も。あわせて、派遣スタッフを含む未払残業や社会保険の加入漏れは、承継後の是正コストとして価格に跳ね返ります。労働時間の記録や賃金台帳を整えておくほど、交渉での指摘は減らせます。
みつきコンサルティングでは、同一労働同一賃金の労使協定方式が正しく運用されているかを、社会保険労務士とともに点検します。コーディネーターや営業担当の定着は、譲渡後の稼働案件の維持に直結する論点。二重派遣や偽装請負の疑いがないかも、契約書と指揮命令の実態から確認し、表明保証の範囲を丁寧に詰めていきます。
大手人材会社への譲渡で後継者不在を越えたエンジニア派遣会社の事例
最後に、技術者派遣の分野で後継者不在を解決した譲渡事例を紹介します。人材確保という業界共通の悩みが、M&Aで解けた案件です。

譲渡を決めた背景
愛知県で車載組込やFA系システムの開発を手がける会社で、約40名のエンジニアを抱え、売上は約4億円。1997年の設立以来、自動車関連の上流工程を担ってきました。経営者が引退を考える年齢に差しかかり、親族に後継者がいないこと、そして自社でも人材の確保が難しくなっていたことから、M&Aを検討し始めました。
大手グループ入りを選んだ決め手
採用力のある大手のエンジニア系人材会社グループに入ることを希望し、みつきコンサルティングが意向に沿う候補へ打診。売上約1,000億円の上場人材会社への株式譲渡がまとまりました。決め手は、自社の技術力を軸に相手のソフトウェア開発事業を伸ばせるという、成長の絵が描けたことでした。
譲渡後の変化
グループのエンジニア採用や配置転換により、課題だった人材不足に手が打てるようになりました。オーナー退任後も従業員の雇用は安定して続き、高度な技術力を基軸にグループ全体の収益拡大が期待されています。
大手エンジニア派遣会社への譲渡で人材不足と後継者問題を解決した経緯を読む
人材派遣・紹介業のオーナーがみつきコンサルティングを選ぶ背景
初めてのM&Aで、誰に任せるか。人材業のオーナーが当社を選ぶ理由を、三つの視点でお伝えします。
税理士法人グループの信頼性と業界知見
みつきコンサルティングは税理士法人グループのM&A仲介会社です。株価算定や税務、個人保証の解除といった財務の勘所を、グループの専門家と一体で扱えます。加えて、人材会社や日本語学校などの案件を数多く手がけてきた担当者が、労働者派遣事業許可の承継や登録者評価といった業界特有の論点に踏み込んで支援します。財務と業界の両輪を持つことが、譲渡オーナーの手取りと従業員の未来を守る力になります。
完全成功報酬制の料金体系
費用のわかりやすさも、初めての方が安心して相談できる理由の一つです。着手金や中間金をいただかない完全成功報酬制で、成約まで費用の心配なく検討を進められます。
完全成功報酬
M&Aが成立した場合のみ、譲渡対価に応じた手数料を頂戴します。
売主様は、ご成約まで費用負担なくスタートできます。
着手金・中間金
0円
月額報酬
0円
成功報酬
成約時のみ
※レーマン方式
人材派遣・紹介業のM&Aを検討する経営者からの主な質問
相談の現場で多く寄せられる、人材業ならではの疑問にお答えします。
影響します。株式譲渡なら許可は会社に残りますが、更新期限が迫っていると引継ぎ直後に更新申請が重なります。現場では、許可の残存有効期間と基準資産の充足を先に確認し、更新前に譲渡するか、買い手側で更新事務を担うかを決めます。段取り次第で、負担の置き場所は調整できます。
なります。派遣の稼働率や単価に加え、有料職業紹介の成約率や決定単価も収益源として見られます。二つの許可を持つこと自体が、買い手にとっては特定領域へ入る足がかりです。ただし、どちらが主力で、どちらが伸びしろかを数字で説明できるかどうかで、評価の厚みは変わってきます。
外部の派遣先がどれだけあるかを重く見ます。関係派遣先への派遣割合には法律上の上限があり、グループ内に偏っていると承継後に売上を維持しにくいと判断されがちです。外部の派遣先比率や、その定着状況を示せると評価は安定します。依存の度合いは、契約内容と実績次第で見方が分かれます。
一概に不利とは言えません。無期雇用のスタッフは安定した戦力とみなされ、むしろ人材の厚みとして評価されることもあります。ただし人件費が固定化するため、稼働案件とのバランスが問われます。転換の経緯と配置状況を整理しておくと、買い手は将来のコストを読みやすくなります。
人材派遣・紹介業のM&A仲介なら、みつきコンサルティング
人材派遣・紹介業のM&Aは、人手不足と法改正を追い風に活発です。譲渡価格は労働者派遣事業許可を引き継げるか、そして登録者の稼働率や派遣単価といった収益の質で差がつきます。許可と人という無形の資産を先に整えるほど、評価は安定します。初めての決断に迷いはつきものですが、進める順番を知れば道は見えてきます。
みつきコンサルティングは、税理士法人グループのM&A仲介会社として、中小企業M&Aの実績経験が豊富です。財務と業界の両面から、譲渡オーナーの手取りと従業員の未来を見据えて支援します。人材派遣・紹介業のM&Aなら、まずは信頼できる相談先として当社にお声がけください。
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著者

- 事業法人第一部長/M&A担当ディレクター
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みずほ銀行にて大手企業から中小企業まで様々なファイナンスを支援。みつきコンサルティングでは、各種メーカーやアパレル企業等の事業計画立案・実行支援に従事。現在は、IT・テクノロジー・人材業界を中心に経営課題を解決。M&Aの成約実績多数、M&A仲介・助言の経験年数は10年以上
監修者 神門 剛 代表取締役 / 公認会計士・税理士
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