民事再生とは|スポンサー型でM&Aする方法で廃業・破産を回避

民事再生とは、業績が悪化し、事業継続が難しくなった企業が、事業活動を継続するために資金繰りの改善を図る手続です。事業継続の可能性がある一方で、ブランドイメージが低下します。本記事では民事再生の流れや費用、メリット・デメリット、社員の処遇、注意点などを解説します。

民事再生とは

民事再生は、債権者の同意と裁判所の認可を経て再生計画を策定し、債務者と債権者の権利関係を調整し、債務者の事業・経営・生活の再生を図ることを目的とした法制度です。手続は再生債務者が主体となり、裁判所が仲介に入る形で進められ、事業を継続しながら、手続を進められる事に特徴があります。

法人でも個人事業主でも利用が可能で、債務整理後に一定の財産を残すこともできます。ただし、あくまで経営改善を目指す制度であり、経営陣の交替も必須ではありません。

「破産」「特別清算」との違い

破産や特別清算は、会社を閉鎖することを目的とした清算型の手続です。これらの手続により、会社の財産は処分され、債権者や従業員、取引先との法的関係も終了します。一方で、民事再生は会社の存続を前提とし、会社の財産や債権者との関係を保ちながら再建を目指す点に大きな相違があります。

具体的には、破産や特別清算の申立てが行われると、会社の運営は即座に停止し、裁判所が指名した破産管財人や特別清算人が清算手続を進めます。一方で、民事再生の申立てがあっても事業は停止せず、裁判所が指名した監督委員の監督下で、経営陣が会社の再建を進めます。

「会社更生」との違い

大企業の場合は、会社更生法に従って再建手続きを進めます。会社更生の場合は株式会社の法人のみが対象で、旧経営陣の退任が必須となり、民事再生と手続の流れも異なります。

民事再生の方法(出口)

民事再生法に基づく手続の結末は、自力再建型、清算型、スポンサー型、の3種類に分けられます。

自力再建型

小規模の企業で利用されることが多い再生手続です。具体的には、再生会社の債務を圧縮し、圧縮された債務を自力で返済していく形となります。第三者の関与を受けること

清算型

複数の事業展開をしている企業の場合、採算部門と不採算部門に別け、採算部門の一部または全てを事業譲渡または会社分割した上で清算し、債務を弁済することが清算型の民事再生となります。

スポンサー型(M&A型)

いわばM&A型です。事業や資産にある程度の価値がある場合、スポンサーに出資してもらう形で経営再生を図ることができるのが、このスポンサー型です。スポンサーがいることで経営再生に必要な資金を得られますが、スポンサーを探す必要があります。

スポンサー(譲受企業)探し

様々な支援者があり得ます。例えば、同業大手企業、地元の異業種企業、金融機関系ファンド、投資ファンドなどです。これらの中から適切な資金提供者(買い手企業)を探すために、メインバンクが動くこともありますが、マッチングに強いM&A仲介会社に委託することもあります。

スポンサーの選定

民事再生法に基づく再建手続において、スポンサーの選定方法には主に二つのアプローチがあります。

入札方式

一つは、再生手続き開始後に入札を実施し、公平性を確保しながらスポンサーを決定する方法です。

プレパッケージ型

もう一つは、「プレパッケージ型」と呼ばれる方式で、あらかじめスポンサーを確保した上で再生手続を申し立てます。この方式では、スポンサー企業の信用力を活用することで、再建に取り組む企業の社会的評価の低下を最小限に抑える効果が期待できます。

ただし、プレパッケージ型には課題もあります。スポンサーの選定過程が不透明になりやすく、選定基準や支援額の妥当性に疑問が生じる可能性があります。そのため、裁判所がこの方式による再建計画を承認しないケースもあり得ます。

民事再生手続の流れ

民事再生の手続は、約5~6ヵ月の期間が一般的です。手続の流れを順番に見ていきましょう。

1.準備期間

専門家との相談、申立代理人となる弁護士の選任、裁判所への提出書類の準備などを行う必要があります。

2.再生手続開始の申立て

申立企業を管轄する地方裁判所で、再生手続開始の申立てをします。また、裁判所へ支払う予納金の納付準備も行います。

3.監督委員の選任と保全処分の決定

申立後は、弁済禁止の保全処分の決定が出されます。またこのタイミングで裁判所は、民事再生の専門家である弁護士を監督委員として選任します。

4.債権者への説明会開催

債権者の理解と協力を得るために説明会を実施します。この説明会は債権者と協力体制を築けるかどうかのとても重要なものとなります。

5.再生手続開始決定と債権調査

申立てから1~2週間で裁判所は再生手続開始の決定を行います。予納金の納付や再生計画の作成・可決・認可の見込みなど、民事再生ができる条件を満たさないと、棄却されてしまいますので注意が必要です。債権者は、原則として債権届出期間内に債権の金額・原因などを裁判所に届け出ることが求められます。

6.財産評定、再生計画案の策定、債権認否書の提出

届出がなされた債権の認否を債務者が行い、債権額を確定させるとともに、所有する財産の価額の評定を実施します。

7.再生計画案の可決と認可、再生計画の実行

再生計画の可決には、債権者集会に出席した債権者の「人数で過半数、債権額で2分の1以上」の賛成を得た上で、裁判所が再生計画案を可決し、認可されます。

民事再生のメリット・デメリット

民事再生法に基づき手続を進めるメリットとデメリットは以下のとおりです。

メリット

・現経営体制のまま、事業を存続させることができる

民事再生手続の最大の利点は、事業の存続や再建を目指すことができる点にあります。また、経営陣を入れ替える必要がないため、経営権を保持しながら再建を進められます。

・債務の圧縮が可能となる

民事再生手続によって再生計画が認可されると、債務の金額を大幅に減らすことができ、同時に弁済期間の延長も実現できます。

・再生や事業継続に必要な資金や契約を維持することができる

民事再生手続の申立てが金融機関に通知されると、その通知後に預金口座に入金された資金と金融機関の債権との相殺が禁止となります。このため、事業再建や事業継続に必要な手元資金を維持しつつ、手続を進めることが可能となります。

デメリット

  • 企業の社会的信用・ブランドイメージが低下する

民事再生は、倒産手続の一種であるため、企業の社会的信用やブランドイメージの低下が避けられません。

・担保による財産を回収される可能性がある

民事再生の申立てが金融機関に通知されると、預金や財産の相殺はできなくなりますが、担保権付債権については、権利行使が認められているため、財産を回収される可能性があります。担保権の行使を防ぐためには、債権者との個別の交渉が不可欠です。

  • 債務免除課税や手続の費用が発生する

民事再生による債務の圧縮は、債務の一部免除とみなされ、債務免除課税が発生することがあります。

民事再生を成功へ導く方法

以上を踏まえ、民事再生に移行した場合の成功確率を高めるポイントを紹介します。

スポンサー型(M&A型)が成功可能性が高い

民事再生法による手続の出口は、自力再建型、清算型、スポンサー型、のいずれかです。しかし、実際には、自力再生型を目指しつつ、頓挫し破産に至るケースが圧倒的に多いです。長い年月をかけて積み重なった窮境原因を自ら取り除く自力再生型は難しく、また取引銀行としても安易に債務免除に応じることはモラルハザードの面から難しい、という現実があります。

他方で、スポンサー型の民事再生であれば、第三者による資金と事業協力が得られ、またそれにより再生の蓋然性が高まり取引銀行も債権カットに応じやすくなります。そのため、実際に再生を果たそうとすれば、スポンサー型を選択することが、その可能性を高めることになると言えます。

経営戦略を策定することが重要

民事再生の目的は、会社の「再建」です。よって、過大負債の解消と継続した成長戦略が見込まれなければなりません。言い換えると、「利益」を上げられるかどうかが重要です。「利益」を上げられない場合は、単なる延命措置となり、周囲に迷惑をかけるだけだからです。

「利益」を上げる方法は、売上を増加させることとコストを削減することの2つです。売上の増加やコスト削減のためには、まず自社が置かれた状況を分析し、企業価値の損失も考慮しながら効果的かつ具体的な再生計画案を策定することがポイントです。

バランスの良い再生計画案を作成しよう

再生計画案は、事業継続が困難になった会社を如何に再建させるかを示す計画です。この再生計画案が裁判所や債権者に認められるかどうかで、民事再生の成否が決まります。具体的には、実現可能で収益性が認められるものでなければなりません。また、債権者の同意を得るためには会社が破産するよりも民事再生した方が多くの額を回収できるように計画策定することが重要です。

資金繰り問題の解決方法

民事再生手続では、申立から再生計画が認可されるまでに通常5ヶ月以上の期間が必要になります。その間、信用取引が期待できないため、現金決済が必須となり、また金融機関からの融資も困難となることから、資金繰りの問題が生じます。

民事再生手続を検討する際には、事前にスポンサーについて調査・検討することが重要です。

民事再生の留意点

民事再生法により再生を進めようとする際には、以下の点に留意してください。

社長が退任する場合もある?

民事再生は、通常の場合、経営陣の変更はありませんが、多くの債権者の納得を得るために、経営陣の退任が必要になることがあります。

民事再生した場合の社員の処遇

民事再生手続は、会社を存続させることを目的としているため、従業員は基本的に引き続き勤務することが可能です。また、経営陣も既存の経営者が継続します。

特に、従業員の技能や知識が重要な役割を果たす企業では、従業員は会社の重要な資産と考えられることから、彼らに退職しないよう依頼する必要が生じることもあります。一方で、スポンサー型再建の場合、出資者からのリストラ要求がある場合などもあるため、従業員の解雇が必要になることもあります。また、事業の一部を他社に譲渡し、残りを清算する場合、譲渡されない部門の従業員は解雇される可能性があります。この場合、退職金や給与は優先的な債権として扱われます。

一律に弁済が禁止されることに注意

民事再生手続では、一定額以下の少額債権を除いて、債権者への弁済が禁止されます。この債権者には、金融機関だけでなく、商取引による債権者も含まれます。そのため、取引先から「倒産した」というマイナスイメージを抱かれる可能性があります。

民事再生のハードルは高いと考えられるのか?

民事再生手続は、以下のいずれかの事情がある場合、却下されます(民事再生法25条)。

  • 再生手続費用の予納がないとき。
  • 裁判所に破産手続または特別清算手続が係属し、その手続によることが債権者の一般の利益に適合するとき。
  • 再生計画案の作成や可決の見込み、または再生計画の認可の見込みがないことが明らかであるとき。
  • 不当な目的で再生手続開始の申立てがされたとき、その他申立てが誠実にされたものでないとき。

さらに、開始決定がなされても、再生手続廃止、再生計画不認可または再生計画取消しの決定が確定した場合は、裁判所は職権で破産手続に移行させることができます(民事再生法250条)。

民事再生にかかる費用

民事再生手続においては、司法書士や弁護士等の専門家に依頼する場合はその依頼料金を支払う必要があります。また、負債総額に応じた予納金を裁判所に納める必要もあります。さらに、郵券代などの雑費(郵券代3,880円、収入印紙代10,000円)も支払わなければなりません。

裁判所へあらかじめ納めるべき金額は以下の通りです。

負債総額納付金額
5,000万円未満200万円
5,000万円以上1億円未満300万円
1億円以上5億円未満400万円
5億円以上10億円未満500万円
10億円以上50億円未満600万円
50億円以上100億円未満700万円
100億円以上250億円未満900万円
250億円以上500億円未満1,000万円
500億円以上1,000億円未満1,200万円
1,000億円以上1,300万円
負債総額に応じた予納金

予納金については、手続開始決定までに全額を納付することが原則とされています。ただし、裁判所によっては分割払いが認められている場合もあります。

司法書士や弁護士などの専門家に支払う報酬や料金体系は様々で専門家によって異なります。専門家との報酬規程においては、負債総額によって手数料が変動することが一般的で、予納金の2倍から10倍の間で設定されていることが多くなります。また、業務量に応じて手数料が決まる場合もあるため、事前に確認して依頼することが望ましいです。

民事再生とM&Aのまとめ

民事再生は再建型の倒産手続ではありますが、会社再建には事業譲渡や会社分割、株式譲渡などのM&Aという選択肢も存在します。会社再建の選択肢としてM&Aを含めて検討する際は、弁護士だけでなくM&Aの専門家にも相談することをお勧めします。

みつきコンサルティングは、税理士法人グループのM&A仲介会社として15年以上の業歴があり、中小企業M&Aに特化した経験実績が豊富なM&Aアドバイザーが多数在籍しております。  みつき税理士法人と連携することにより、税務面や法律面のサポートもワンストップで対応可能ですので、M&Aをご検討の際は、成功するM&A仲介で実績のある、みつきコンサルティングに是非ご相談ください。

著者

西尾崇
西尾崇事業法人第三部長
宅食事業を共同経営者として立ち上げ、CFOとして従事。みつきコンサルティングでは、会計・法務・労務の知見を活かし、業界を問わず、事業承継型・救済型・カーブアウト・MBO等、様々なニーズに即した多数の支援実績を誇る。
監修:みつき税理士法人

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