同族会社の株式を譲渡をする場合にかかる税金やメリット、同族内で株式譲渡する際の注意点について解説します。株式譲渡を検討している人は、ぜひ参考にしてください。
同族会社とは
ここでは、同族会社の概要について詳しく解説します。
同族会社とは
同族会社とは、一般に、オーナー家が会社の株式の大部分を所有している会社をいいます。税務上は厳密に定義されており、平たく言うと、主要株主3名(3グループ)で議決権の50%を保有している会社を指します。(グループには、その株主の親族やグループ会社などが含まれます。)
同族会社株式とは
同族会社株式は、同族会社が発行した株式のことで、これらの株式の大多数は同族に属する株主が保有しています。同族会社は、一般的に個人や一族によって経営されることが多いため、株式の将来価値を予測することが難しいというデメリットがあります。
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同族会社の株式を譲渡等する方法
同族会社の株式を譲渡等をする場合は、株式譲渡、相続、贈与のいずれかが使われます。それぞれの特徴は、下記のとおりです。
・株式譲渡:株式譲渡契約を締結し、譲渡側が株式譲渡、譲受側がその対価を支払う方法
・相続:現在株式を保有している経営者が死亡した時に、自動的に相続人が相続する方法
・贈与:保有している財産を生きている内に無償で贈与する方法
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同族会社の株式の譲渡にかかる税金の種類
ここでは、同族会社の株式(非上場株式)の譲渡にかかる税金の種類について解説します。
株式譲渡所得課税
非上場株式の同族会社株式での譲渡に伴う税金の1つに、株式譲渡所得に対する課税があります。個人が非上場会社の株式を譲渡する際には、所得税と住民税がこの譲渡による所得に対して課されます。この株式譲渡所得課税の税率は合計で20%(所得税が15%、住民税が5%)です。2037年度までは、各年分の基準所得税額の2.1%が復興特別所得税として徴収されます。
法人税
法人が非上場株式を譲渡する際には、法人税が適用されます。この場合、非上場株式がその法人にとって同族会社に属すると判断されると、その法人の「子会社」として扱われます。株式譲渡後の関係性が、その会社が同族会社であるかどうかの判断基準です。
法人税は、益金の額から損金の額を引いた所得金額に、原則として23.2%が課税されます。ただし、各事業年度終了時における資本金の額などが1億円以下である普通法人などの所得金額のうち、年800万円以下の部分の金額については19%の税率が適用されます。
所得税
個人が株式を譲渡して得た利益の場合、市場価格と取得価格の差額が株式譲渡所得として認識されます。この譲渡所得に対して所得税が課税されることになります。一般株式などに関する譲渡所得の金額の計算方法は、総収入金額(譲渡価額)ー必要経費(取得費+委託手数料など)です。譲渡所得に15%をかけたものが所得税となります。
贈与税
著しく低い価額で譲渡するなどの場合には、時価と譲渡価格の差額に対して贈与税が課税されることがあります。贈与税は、基礎控除後の課税価格に税率をかけることで算出されます。税率は、一般税率か特例税率か、基礎控除後の課税価格によって変わる点をおさえておきましょう。
寄付金
個人から法人に株式譲渡をした際に、時価よりも高い価額で非上場株式を譲渡した場合、譲受側の法人にとって、譲渡価額と時価の差額は寄付金とみなされます。そのため、この寄付金は寄付金課税の適用を受けます。
寄付金として扱われた場合、法人側は損金として扱える点も把握しておきましょう。損金とは法人税法上、資産の減少の原因となる原価や費用、損失などのことです。
低額譲渡時の損金不算入
法人から役員に株式を低額譲渡する場合、譲渡価額を時価が上回る部分は役員賞与とみなされ、損金不算入の取り扱いを受けることになります。損金不算入とは、会計上は費用で処理できても、税金の計算上は費用として認められないものを指す言葉です。
みなし贈与税
同族会社間の非上場株式譲渡で注意すべき税金の1つに、みなし贈与税があります。個人間で非上場株式を譲渡する際、時価よりも大幅に低い価格で取引されることがあります。このような場合、実際の取引価格と時価の差額が贈与とみなされ、みなし贈与課税が適用されることがあります。
所得税法においては、個人間の株式譲渡における時価に関する具体的な規定は設けられていません。しかし、個人から個人へ株式が譲渡される場合には、相続税法に基づく株価が基準とされます。結果として、相続税法の下で贈与税が課されることになるのです。
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パターン別|同族会社の株式譲渡にかかる税金
ここでは、同族会社の株式譲渡にかかる税金をパターン別に解説します。
個人から個人へ株式譲渡する場合
個人から別の個人へ株式を譲渡する際、譲渡益に所得税が課されます。譲渡益とは、譲渡価格と取得原価の差額のことです。これは譲渡金額が適正な価格である場合に当てはまります。
譲渡金額が時価を下回る場合は、取引価額と時価の差額に対して贈与税が課税されます。逆に譲渡金額が時価を上回る場合は、譲渡としての性質を持ちません。譲渡ではなく贈与とみなされ、贈与税の対象となります。
個人から法人へ株式譲渡する場合
個人から法人へ株式譲渡する場合は、所得税が課されます。これは、譲渡金額が適正価格の場合、譲渡金額が時価を上回る場合のいずれも同じです。譲渡金額が時価を下回る場合には、時価に相当する金額を総収入金額として譲渡所得を計算されるケースがあります。
法人から個人へ株式譲渡する場合
法人から個人へ株式譲渡する場合は、法人税が課されます。これは、譲渡金額が適正価格の場合、譲渡金額が時価を上回る部分が売却益となります。譲渡金額が時価を下回る時、個人が法人の従業員や役員である場合は、差額を給与所得として所得税が課税されます。また、譲渡側の法人同族会社は、原則として役員賞与(損金不算入)または従業員賞与(損金算入)として扱われます。
法人から法人へ株式譲渡する場合
同族会社の法人から法人へ株式譲渡する場合は、法人税が課されます。これは、譲渡金額が適正価格の場合、譲渡金額が時価を上回る場合、譲渡金額が時価を下回る場合のいずれも同じです。譲受側法人としては、時価と譲渡価額との差額は譲渡側への寄付金の扱いとなります。
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同族内で株式を承継するメリット
同族関係者間で株式を移動する方法は、贈与、株式譲渡、相続の3つがあります。ここでは、それぞれのメリットについて解説します。
株式を生前贈与するメリット
同族関係者間で株式を生前贈与するメリットは、年間110万円の基礎控除がある点です。そのため、年間110万円以内の贈与であれば贈与税がかかりません。また、相続税精算課税制度を利用すれば、累計2,500万円の特別控除が利用できる点もメリットです。
参考:令和5年度相続税及び贈与税の税制改正のあらまし|国税庁
株式譲渡するメリット
同族関係者間で株式譲渡するメリットは、譲渡側が譲渡益を得られる点です。得た利益は、ほかの事業などに回すこともできるでしょう。また、ほかの相続人から遺留分を主張されない円滑な事業承継が実現できる点も利点です。
株式を相続するメリット
同族関係者間で株式を相続するメリットは、基礎控除額が高い点です。基礎控除3,000万円+(法定相続人の人数×600万円)までは相続税がかかりません。
同族内で株式譲渡するデメリット
ここでは、同族会社間で株式譲渡するデメリットについて解説します。
税法で特別規定が設けられている
同族関係者間で株式譲渡するデメリットは、税法で特別規定が設けられている点です。同族会社はその性格上、租税回避行為が容易です。不正を防ぐために、以下の特別規定が設けられています。
・行為または計算の否認:税務署長が法人税の課税所得や法人税額を決めることがある
・役員または使用人兼務役員の範囲の特例:みなし役員と認められる従業員への賞与は必要経費にならない
・特定同族会社の留保課税:一定の控除額を超える金額を留保した場合には、通常の法人税とは別のものとして課税されることがある
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同族内で株式譲渡する際の注意点
ここでは、同族会社間で株式譲渡する際の注意点について解説します。
迷ったら外部の専門家に相談する
同族会社間で株式譲渡する際の注意点は、十分な専門知識がない場合、自分たちだけで進めないようにすることです。迷ったら、外部の専門家に相談するよう意識しましょう。
同族会社間の株式譲渡は、金銭的な事情や断ったときの今後の付き合い、今後の事業承継の予定などによって、判断に迷うことが多い取り組みです。また、同族会社の判定や、時価の算定などが複雑に絡みます。正確に手続きを進めるためにも、専門家に相談するのがおすすめです。
譲渡する金額によっては贈与とみなされる場合がある
同族会社間で株式譲渡する際の注意点として、譲渡する金額によっては贈与とみなされるケースが挙げられます。
時価よりも低い金額で株式譲渡をした際には、課税関係が生じる場合があります。時価は、「不特定多数の当事者間で自由な取引である場合に通常成立すると認められる価額」であるため、親族間の株式譲渡で成立した金額は時価とは認められません。結果的に、時価との差額について贈与を受けたと判断され、贈与税が課されてしまいます。
みなし贈与課税とされる条件
時価よりも著しく低い価額で株式を譲渡すると、時価との差額が「みなし贈与」と見なされることがあります。これは、贈与税を逃れるために故意に低い価格で株式を譲渡したと解釈されるためです。
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株式譲渡の手順
ここでは、株式譲渡の手順について解説します。
株式譲渡承認の請求をする
株式譲渡を進める場合には、株式譲渡承認請求を行わなければなりません。株式譲渡承認請求をする際には、株式譲渡承諾請求書を作成する必要があります。
株式譲渡承諾請求書には、以下の事項を記載します。
・譲渡先
・譲渡する株式の数や種類
株式譲渡の承認決議を実施する
株式譲渡承認の請求をしたら、取締役会を開催します。また、取締役会非設置会社であれば株主総会を開催しましょう。取締役会あるいは株主総会において、譲渡を承認するかどうかが判断されます。
株式譲渡契約を締結する
取締役会あるいは株主総会において、譲渡が認められたら、株式譲渡契約を締結します。譲渡側と譲受側がお互いに合意した内容を書面に記し、株式譲渡契約を締結することが一般的です。株式譲渡契約には、基本合意事項や、譲渡側が譲受側に対し保証する事項である表明保証事項を記載しましょう。双方の署名、捺印も必要です。
株主名簿を書き換える
株式譲渡契約を締結したら、譲渡側と譲受側は共同で会社に対して株主名簿の書き換えを請求しましょう。株式名簿の書き換えは、株式を譲り受けたことを第三者に主張する手続きです。株主名義の書き換えにより、株式譲渡が完了します。
同族会社の株式譲渡のまとめ
同族内で株式譲渡をする場合には、かかる税金や得られるメリットについて十分に把握しておきましょう。知識をしっかり得ておくことで、滞りなく株式譲渡を進められます。もし知識に不安がある際には、専門家への相談もおすすめです。
みつきコンサルティングは税理士法人グループであることから、M&A(第三者への承継)ありきの提案ではなく、事業所内承継、親族内承継など複数の選択肢のメリット・デメリットを比較して選択できます。
また、M&Aにおいては、候補先から事業分析や企業価値算定のために事業計画書の提出を求められることも増えてきています。みつきコンサルティングであれば、経営コンサルティング経験者が精緻な計画を策定可能です。
同族会社間で株式譲渡をする場合にも、ぜひみつきコンサルティングにご相談ください。
著者
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宅食事業を共同経営者として立ち上げ、CFOとして従事。みつきコンサルティングでは、会計・法務・労務の知見を活かし、業界を問わず、事業承継型・救済型・カーブアウト・MBO等、様々なニーズに即した多数の支援実績を誇る。
監修:みつき税理士法人
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