自社で保有する自己株式を、どう扱えば会社売却に役立つのか。処分は株主構成を整え、安定株主を迎え入れるための資本政策の一手です。株主割当や第三者割当による進め方、消却との違い、処分差益が課税されない理由まで、中小企業M&Aの支援現場で押さえる論点を整理しました。
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自己株式の処分(譲渡)とは|会社売却で見直される資本政策
自己株式を保有したまま放置している中小企業は、思いのほか多いものです。過去の株式買い取りや相続で会社の手元に戻った株式が、自己株式(金庫株)として決算書の純資産に残っているケースですね。これをどう扱うかは、会社売却を考え始めた譲渡オーナーにとって資本政策の入口になります。
自己株式の処分は「募集株式の発行等」の一つ
自己株式の処分とは、会社が保有する自己株式を他者へ引き渡す行為をいいます。会社法は新株発行と処分をまとめて「募集株式の発行等」として扱い、同じ募集手続を求めています(会社法199条以下)。発行済株式の総数が増えない点が、新株発行との分かれ目です。
処分・取得・消却の関係を整理
自己株式は、取得して保有し、その後に処分または消却するという流れで動きます。処分は社外へ再び出す行為、消却は完全に消し去る行為で、向かう方向が逆ですね。下表で三つの違いを押さえておきましょう。
| 比較項目 | 取得 | 処分(譲渡) | 消却 |
|---|---|---|---|
| 発行済株式総数 | 変わらない(自社で保有) | 変わらない | 減少する |
| 株式の動く方向 | 社外から自社へ | 自社から社外へ | 消滅 |
| 主な場面 | 株式の集約・相続対策 | 資金調達・M&A対価・安定株主の確保 | 株式総数の調整・整理 |
| 登記 | 不要 | 不要 | 必要(効力発生後2週間以内) |
会社売却の前に株主構成を整える手段としての処分
後継者不在で第三者承継を選ぶ譲渡オーナーの多くは、株式の大半を自分と家族で握っています。ところが過去の増資や創業メンバーの離脱で、少数株主が点在している会社も珍しくありません。買い手はこの株主の散らばりを敬遠しがちです。自己株式の取得と処分は、交渉前の地ならしに使えます。
少数株主の整理と安定株主の確保
散らばった少数株主の株を会社が買い取って自己株式化し、必要に応じて信頼できる相手へ処分し直す。こうすると、将来いざM&Aをする際に、買い手にとって扱いやすい株主構成へ組み替えられます。友好的な事業会社へ第三者割当増資の手続の形で処分すれば、安定株主の確保にもつながります。
後継候補や役員への株式移転と段階的な承継
親族や役員に一部を承継させつつ、残りを第三者へ譲渡する。こうした併用型では、自己株式をいったん会社で受け止めてから配分し直す形が取りやすくなります。考え方としては、事業承継での金庫株活用とも近い位置にあります。
支援現場でよくある相談
よくある相談として、「20年前に出資してくれた元役員の株が5%だけ残っている」というものがあります。買い手のから指摘されやすい論点です。会社が買い取って自己株式化し、交渉のテーブルに着く前に整理しておく。この一手で価格交渉が滑らかになった例は少なくありません。
自己株式を処分(譲渡)する3つの方法
処分の方法は、誰に引き受けてもらうかで分かれます。大きくは株主割当・第三者割当・対価としての交付の3つ。会社売却の文脈でどれを選ぶかは、目的が資金なのか株主構成の組み替えなのかで変わってきます。
株主割当による処分
既存株主へ、持株比率に応じて引き受ける権利を割り当てる方法です。比率が動かないため、株主間の公平を保ちやすいのが特徴ですね。非公開会社では株主総会の特別決議を経るのが原則となります。手続の細部は株主割当増資の手続で確認できます。
第三者割当による処分
特定の相手を選んで引き受けてもらう方法です。事業会社を安定株主として迎える場面や、後継候補へ集中させたい場面で使われます。第三者割当による出資受け入れは、資本業務提携による提携の典型的な入口でもあります。募集事項は原則として株主総会の特別決議で固めます。
株式交付・代用交付など対価としての交付
自社がM&Aの買い手となるケースで、買収対価を現金ではなく自社株式を対価として渡す手法です。手元資金を温存でき、売主側は譲受企業(自社)の株主として残るため、シナジーを取りに行きやすくなります。組織再編では株式交付による買収対価がこの役割を担います。
処分(譲渡)にともなう手続と決議の注意点
処分そのものは難しくありません。ただ、決議の種類と価格の決め方を外すと、後でトラブルの火種になります。非公開会社が押さえるべき要点を見ておきましょう。
非公開会社は株主総会の特別決議が原則
譲渡制限のある非公開会社では、募集事項の決定に株主総会の特別決議が要ります(会社法199条2項、309条2項5号)。定款で取締役会へ委任している場合を除き、誰にいくらで引き受けてもらうかを株主総会で決める流れです。
有利発行に当たる場合の追加対応
引受人にとって特に有利な価額で処分する場合は、取締役がその必要性を株主総会で説明しなければなりません(会社法199条3項)。身内や特定の相手へ安く出すケースでは、ここを軽視すると決議の有効性が揺らぎます。
株価算定の考え方
価額の妥当性は処分の成否を左右します。相手がオーナーや親族なら、税務上の時価の考え方が基準となり、類似業種比準方式や純資産価額方式、配当還元方式を組み合わせます。第三者企業が相手のときは、M&Aでの企業価値評価に近い発想で値決めをします。
自己株式の処分(譲渡)の会計処理と仕訳
「自己株式 処分 仕訳」で迷う担当者は多いものです。勘所は一つ。処分差額が損益ではなく、純資産の中で動くという点に尽きます。
処分差益・処分差損はその他資本剰余金で処理
対価が自己株式の帳簿価額を上回れば自己株式処分差益、下回れば自己株式処分差損です。いずれも損益計算書の収益・費用ではなく、その他資本剰余金で受け止めます(企業会計基準第1号)。
| 処分の場面 | 借方 | 貸方 |
|---|---|---|
| 処分差益が出たとき | 現預金 1,000 | 自己株式 800 その他資本剰余金 200 |
| 処分差損が出たとき | 現預金 600 その他資本剰余金 200 | 自己株式 800 |
差損がその他資本剰余金を超える分は、繰越利益剰余金から補填します。下表が基本の仕訳です(数値は仮の金額)。詳しい基準は企業会計基準第1号を参照してください。
消却との会計上の違い
消却の場合も自己株式の帳簿価額をその他資本剰余金から減らしますが、株式そのものが消える点で処分と分かれます。仕訳の比較や「処分 消却 違い」の整理は、消却と処分の違いで詳しく扱っています。
会社売却を見据えた自己株式の処分(譲渡)の税務
税務は譲渡オーナーの手取りに直結します。法人側と株主側で扱いが分かれる点に、注意が要ります。
法人税では資本等取引として課税されない
会社が自己株式を処分しても、法人税法上は資本等取引にあたり、処分差益に法人税は課されません。資産の譲渡等にも該当しないため、消費税も不課税です(国税庁の質疑応答事例)。会社の損益には乗ってこないと理解しておけば足ります。
取得段階のみなし配当に注意
落とし穴は処分ではなく、その前の取得段階にあります。会社が株主から自己株式を買い取るとき、代金の一部がみなし配当として扱われ、株主側に所得税がかかる場合があります。みなし配当の扱いを取得前に試算しておくと、手取りの見込み違いを防げます。
会社売却前に整えたい資本政策チェックリスト
買い手探しを始める前に株主と株式の状態を点検しておくと、その後の交渉が速く進みます。支援現場で確認している項目を挙げます。
- 株主名簿と実態が一致しているか(名義株・所在不明株主の有無)
- 少数株主や離脱した元役員の株が散らばっていないか
- 自己株式として会社に戻すべき株があるか、戻す場合の資金繰り
- 処分・取得にかかる決議と価格根拠が整っているか
- みなし配当など株主側の税負担を事前に試算したか
こうした地ならしはM&A準備のチェックリストの一部でもあり、最終的には株式譲渡の進め方へつながっていきます。
自己株式の処分(譲渡)に関するFAQ
M&Aとの関連で実際に多い質問をまとめました。
現場では同じ場面で使われることが多い言葉です。会社法上は「処分」が正式な呼び名で、社外へ売る、対価として渡すといった行為を広く含みます。譲渡は処分の一つと捉えて差し支えありません。
目的次第です。株主構成を組み替えたいなら処分、株式総数を減らして整理したいなら消却が向きます。会社売却の前であれば、敢えて株主を増やす処分は選択され難いです。
法人税はかかりません。資本等取引として扱われ、処分差益が損益に乗らないためです。ただし取得時のみなし配当など、株主側の課税は別途の確認が要ります。
自由ではありません。原則として株主総会の特別決議が要り、有利な価額(著しく低額)なら取締役の説明も求められます。定款で取締役会に委任していれば、その範囲で決められます。
会社で買い取って自己株式化し、消却するか、必要なら信頼できる相手へ処分し直すのがよいです。買い手のデューデリ前に整えておくと、価格交渉でつまずきにくくなります。
自己株式の処分(譲渡)を会社売却の準備に活かすために
自己株式の処分は、会社が保有する株式を社外へ出し、株主構成を組み替えるための資本政策の手段です。株主割当・第三者割当・対価としての交付の3つがあり、処分差益に法人税はかかりません。株主の散らばりに不安を抱える譲渡オーナーほど、買い手を探す前の地ならしとして検討する価値があります。
当社みつきコンサルティングは、税理士法人グループに属するM&A仲介会社です。中小企業のM&A支援で培った経験と税務の知見をもとに、自己株式の処分から株主構成の整理、会社売却までをワンストップで支えます。資本政策の見直しを考え始めた段階で、気軽にご相談ください。
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著者

- 事業法人第三部長/M&A担当ディレクター
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宅食事業を共同経営者として立ち上げ、CFOとして従事。みつきコンサルティングでは、会計・法務・労務の知見を活かし、業界を問わず、事業承継型・救済型・カーブアウト・MBO等、様々なニーズに即した多数の支援実績を誇る。M&Aの成約実績多数、M&A仲介・助言の経験年数は10年以上
監修者 神門 剛 代表取締役 / 公認会計士・税理士
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