技術者派遣の売却|エンジニアの稼働率と設計請負が問われるM&A事例

技術者派遣の会社売却で価格を大きく動かすのは、無期雇用エンジニアの稼働率と、設計請負や準委任が派遣と見なされない運用です。採用難や後継者不在に悩むオーナー経営者に向けて、譲受企業が注目する数字、譲受候補の顔ぶれ、製造派遣を兼ねる会社の注意点、自動車部品の設計を担う会社の売却事例までを解説し、納得のいく売却への備えを示します。

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目次
  1. エンジニア採用難と無期雇用の待機、技術者派遣で売却を考える背景
    1. 技術職の派遣料金は製造ラインの1.7〜2倍、厚生労働省の集計から
    2. 無期雇用派遣が増え、待機中の給与を会社が抱える
    3. 採用・客先・後継者、売却を意識し始める3つの悩み
  2. 採用網と客先の広がりを得る、技術者派遣会社を売却するメリット
    1. 技術者派遣の譲渡オーナーが得るものと手放すもの
    2. 処遇の維持と社名の存続は、基本合意までに条件へ
  3. 待機率と技術領域で差がつく、技術者派遣会社の譲渡価格
    1. 時価純資産+のれんで見る価格の目安と、技術者派遣ならではの調整
    2. 譲受企業がエンジニアの配属表と客先別の損益から読む数字
    3. 上流の工程と自社の育成の仕組みが上乗せの根拠に
  4. 大手エンジニア派遣から発電所の工事会社まで、技術者派遣の買い手候補
    1. 採用網で人手不足を補い合う大手エンジニア派遣グループ
    2. 同じ客先を持つ設計会社や、組込み開発を広げたいIT企業
    3. 専門技術者を確保したい工事会社、東京エネシスと扶桑の例
  5. 設計請負と準委任の線引き、技術者派遣の売却で特に注意すべき論点
    1. 客先常駐の請負・準委任が派遣と見なされるリスク
    2. 施工管理や設備保守への派遣で問われる業務の範囲
    3. フリーランス法への対応と外国人エンジニアの在留資格
  6. 客先の重なる設計会社への売却で取引を広げた、岐阜の技術者派遣会社の事例
    1. 後継者不在に向き合った自動車部品の設計会社
    2. 同じ大手部品メーカーとの取引が決め手に
    3. 合併せず独立採算で守ったエンジニアのキャリア
  7. 社員寮と構内請負、製造派遣を兼ねる会社が売却前に見直したいこと
    1. 無期雇用化が進む製造派遣と、客先工場の減産への備え
    2. 借上げ寮の賃貸借契約と、寮費を差し引く労使協定
    3. 同じ工場で派遣と構内請負を分けて運用しているか
  8. 技術者派遣の譲渡を検討する経営者から多い質問
  9. 技術者派遣のM&A・売却支援はみつきコンサルティング
    1. 技術者派遣の会社売却の関連コラム
M&Aの基本や会社売却の進め方を電話相談|0120-169-256・24時間受付

技術者派遣会社の値段を決めるのは、エンジニアの頭数ではなく、その中身。無期雇用で抱える技術者が途切れずに客先で働いているか、配属が特定の自動車部品メーカーに偏っていないか、請負で受けた設計業務に客先の指示が入り込んでいないか。本記事では、後継者不在や採用難から会社売却を考え始めたオーナー経営者に向けて、譲受企業が見るこれらの論点と、売却前にできる備えをお伝えします。

エンジニア採用難と無期雇用の待機、技術者派遣で売却を考える背景

「客先から増員を頼まれても、採用が追いつかずに断るしかない」。技術者派遣の経営者がM&Aを考え始めるきっかけとして、近年よく耳にする声です。

技術職の派遣料金は製造ラインの1.7〜2倍、厚生労働省の集計から

厚生労働省が2026年3月に公表した2024年度の「労働者派遣事業報告書の集計結果」(速報)によると、8時間換算の派遣料金は情報処理・通信技術者が34,382円、製造技術者が28,518円でした。製造ラインを担う製品製造・加工処理従事者の16,883円に比べ、情報処理・通信技術者はおよそ2倍、製造技術者も1.7倍ほどの水準です。消費税込みの派遣料金に占める賃金の割合も技術職のほうが低く、エンジニア1人が生む粗利は厚くなりやすい構造。主な職種の数字を、下表に抜き出しました。

職種(厚生労働省の分類)派遣料金(8時間換算・税込)派遣労働者の賃金(8時間換算)料金に占める賃金の割合(当社算出)
情報処理・通信技術者34,382円21,032円約61%
製造技術者28,518円17,724円約62%
機械組立従事者18,048円11,942円約66%
製品製造・加工処理従事者16,883円11,406円約68%
全業務平均26,257円16,735円約64%

無期雇用派遣が増え、待機中の給与を会社が抱える

同じ集計では、派遣元に期間の定めなく雇われる無期雇用派遣労働者が908,956人と前年度から7.9%増え、有期雇用の1.3%増を大きく上回りました。技術者派遣は、エンジニアを正社員として雇い、客先へ送り出す形が中心です。派遣契約が終わっても雇用は続くため、次の配属先が決まるまでの給与は会社の持ち出しに。派遣の許可基準でも、派遣契約の終了だけを理由に無期雇用の派遣社員を解雇できる定めは置かないよう求められています。

採用・客先・後継者、売却を意識し始める3つの悩み

経営者が相談に見えるのは、業績が傾いたときとは限りません。黒字のうちに、育ててきたエンジニアと長く付き合ってきた客先を、安心して託せる相手を探したいという声も目立ちます。会社を売りたいと切り出すまでには、採用、客先、後継者をめぐる悩みが何年も重なっていることが多いもの。いずれも、技術者を雇って送り出すという事業の形そのものから生じる課題で、社長1人の頑張りでは解きにくい点が共通しています。

経験者の採用で、メーカーや大手と同じ人材を取り合う

機械設計や組込み開発の経験者は、客先のメーカー自身も中途採用で求める人材です。大手の技術者派遣会社と同じ求職者を取り合えば、紹介手数料や求人広告の費用は膨らむばかり。未経験者を育てる研修を自前で回す余力がなければ、増員の依頼を断るたびに、客先での存在感は少しずつ薄れていきます。

客先の開発計画が変わり、配属先がまとめて減る

自動車の電動化やソフトウェア化、半導体の設備投資の波。派遣の仕事量は、客先メーカーの開発計画とともに動きます。1つの業界の数社に配属が集中していると、開発の中止や内製化の判断1つで、10人単位のエンジニアが同時に待機に入ることも。景気の山を越えるたびに、身軽なうちに大きなグループへ、と考える経営者もいます。

技術営業と技術者の面倒見を社長が1人で抱える

客先の設計課長と信頼を築き、配属の調整からエンジニアの面談まで社長が担ってきた会社は珍しくありません。子どもは別の道へ進み、親族への事業承継も見込めないまま60代を迎えるケースも。技術営業を任せられる人材が育っていなければ、社長の引退がそのまま客先との窓口の消失につながります。

▷関連:人材派遣・紹介業のM&A|許可の承継と登録者が支える譲渡事例

採用網と客先の広がりを得る、技術者派遣会社を売却するメリット

エンジニアの側から見ると、会社の売却は新しい案件や研修の機会が広がる転機にもなります。譲渡オーナーにとっての損得を、技術者派遣ならではの事情から並べました。

技術者派遣の譲渡オーナーが得るものと手放すもの

会社の売却で譲渡オーナーが得るものは、売却代金だけではありません。採用や客先の開拓のように、自社だけでは届かなかった経営資源をエンジニアのために使えるようになる点が大きな違い。一方で、処遇の変更や社名の扱いなど、譲る側が引き受けるものもあります。下表に、技術者派遣ならではのメリットとデメリットを並べました。相手の候補ごとに、どの項目が重くなるかは変わるもの。

譲渡オーナーのメリット譲渡オーナーのデメリット
採用網でエンジニア不足を補える
グループの採用や配置転換を生かし、断ってきた増員の依頼に応えられます。

客先と技術領域が広がる
グループの客先や案件にもエンジニアを送れ、特定の自動車部品メーカーへの依存を薄められます。

待機エンジニアの行き先が増える
グループ内の案件が再配属の受け皿となり、待機の人件費を抑えやすくなります。

研修とキャリアの選択肢が増える
大手の技術研修や上流工程の案件に触れる機会が生まれ、定着にもつながります。

派遣法対応の事務負担が軽くなる
許可の更新や労使協定の締結といった管理業務を、グループの管理部門と分担できます。

個人保証の解除と譲渡益
借入に付いた個人保証の解除を譲受企業と調整でき、株式の対価は引退後の資金に充てられます。
給与体系や評価制度が変わる場合がある
統合のやり方しだいで、エンジニアが処遇の変化に戸惑うこともあります。

客先との取引条件に影響が出る場合がある
社名や株主の変更を機に、客先が取引先の登録内容を見直すことがあります。

社長に一定期間の残留を求められる
技術営業と客先との関係を引き継ぐため、退任の時期が後ろにずれることもあります。

検討の噂による離職や発注の手控え
情報が早く漏れると、エンジニアや客先が不安を抱きかねません。

請負・準委任の運用の見直し
譲受企業の基準に合わせて契約形態を改め、利益率が下がる場合があります。

処遇の維持と社名の存続は、基本合意までに条件へ

デメリットの多くは、条件交渉で和らげられます。エンジニアの給与水準や評価制度をいつまで保つか、社名と独立した運営を残すか、社長がどのくらいの期間残って技術営業を引き継ぐか。こうした点は基本合意の段階で書面に落とし込んでおくと、後から崩れにくくなります。秘密保持の徹底も、同じくらい欠かせない備え。検討の噂が客先に伝われば発注の手控えを招くおそれがあるため、開示の順番は慎重に組み立てます。

▷関連:サービス業のM&A|人手不足と許認可承継で変わる譲渡事例と相場

待機率と技術領域で差がつく、技術者派遣会社の譲渡価格

在籍するエンジニアが多いほど高く売れる、と考える方は少なくありません。ただ、譲受企業が重く見るのは人数そのものより、その人数が利益を生み続けるかどうかです。

時価純資産+のれんで見る価格の目安と、技術者派遣ならではの調整

中小企業の売却で広く使われる年買法(年倍法)は、時価純資産+のれん(数年分の利益)で価格の目安を出す考え方です。財務デューデリジェンス(決算書の中身の調査)では、客先の入館記録と自社の勤怠記録のずれから生じる未払残業や、賞与・退職金の引当不足が、時価純資産を削る項目として調べられます。利益の側では、待機の重なった年を平常の水準に引き直す作業も。調整を終えた数字で見て初めて、実態に近い目安になります。

譲受企業がエンジニアの配属表と客先別の損益から読む数字

譲受企業は、決算書に加えて、エンジニアごとの配属先と単価、客先ごとの損益を求めてきます。技術者派遣の利益は、誰が、どの客先で、いくらの単価で働いているかの積み上げだからです。下表は、売却の場面で問われることの多い数字と、評価につながりやすい状態をまとめたもの。月次の管理資料から自社で出せる数字が大半なので、売却を決める前から毎月追っておくと、面談で慌てずに済みます。

問われる数字技術者派遣で見られる理由評価につながりやすい状態
無期雇用エンジニアの稼働率待機中も給与や休業手当がかかり、そのまま利益を削るため月ごとの稼働率と、待機から再配属までの日数を示せる
1人当たり月間粗利と単価改定の履歴技術の水準と、客先との交渉力が数字に表れるため客先別・エンジニア別に単価の推移を出せる
技術領域と担当工程構想設計や詳細設計など上流の工程ほど単価が高く、代わりが利きにくいため電動化や半導体など需要の強い領域、上流の工程に人員が厚い
上位5社への売上の集中度1社の開発計画の見直しで、稼働がまとめて落ちる事態を避けるため複数の業界・部署に配属先が分かれ、取引年数も長い
年齢構成と離職率経験者の採用が難しく、定着が利益の続く前提になるため30〜40代の中核層が厚く、離職率が低い
派遣と請負・準委任の売上構成契約の形によって、守るべきルールと利益率が変わるため契約ごとに業務範囲と指示の出し手を文書で示せる

株価の試算にあたり、税理士法人グループのM&A仲介会社であるみつきコンサルティングが技術者派遣会社に最初にお願いするのは、エンジニアごとの配属履歴と待機期間の一覧です。待機が案件の切れ目の一時的な谷なのか、特定の技術領域で繰り返し起きているのかで、のれんの見方は変わるため。後者なら、その領域の人件費の扱いを来期の利益見込みに織り込んだうえで、配置転換の計画とあわせて示します。内訳を先回りして出せれば、譲受企業が利益の下振れを過大に見込む事態は避けられます。

上流の工程と自社の育成の仕組みが上乗せの根拠に

同じ人数、同じ売上でも、売却価格の相場より上の評価を得る会社があります。分かれ目の1つは担当工程。客先の要求をもとに構想設計から任される技術者は単価が高く、代わりも見つかりにくい存在。もう1つは、未経験者を自社の研修で育てて送り出せる仕組みです。採用難が続くなか、自力で技術者を増やせる会社は、譲受企業の目に成長の土台として映ります。技術士や情報処理技術者試験の合格者、施工管理技士の在籍も、企業価値を説明する材料に。

大手エンジニア派遣から発電所の工事会社まで、技術者派遣の買い手候補

2026年には、発電所の工事会社が技術者派遣会社を傘下に収めた例も公表されました。譲受候補の顔ぶれは、自社の技術領域と客先しだいで大きく変わります。

採用網で人手不足を補い合う大手エンジニア派遣グループ

代表的な譲受候補は、全国で技術者派遣を手がける大手と、そのグループ会社です。大手の採用網で集めた技術者を対象会社の客先へ配属したり、対象会社のエンジニアにグループの案件を回したりできる点が強み。採用に苦しんできた会社ほど、組み合わせの効果は大きく出ます。ただ、統合後に給与体系や評価制度が変わる可能性もあり、エンジニアの処遇をどこまで守れるかが条件交渉の中心に。技術者派遣の取引に明るいM&A仲介を通じて、複数の候補を比べられる状態をつくっておきたいところ。

打診先を選ぶ際、支援現場では技術領域と客先の重なり方を一覧にして、候補を絞り込みます。当社が仲介した愛知県の車載・FA系システム開発会社では、オーナーが採用力のある大手人材会社への譲渡を望み、技術者派遣を主力に自動車メーカー向けのソフトウェア開発も手がける上場企業へ株式を譲りました。譲渡後は、相手先グループのエンジニア採用や配置転換で、課題だった人材不足に手を打てた形。社名を伏せた概要書で関心を確かめ、秘密保持契約を結んだ相手にだけエンジニアのスキル構成を開示する段取りです。

同じ客先を持つ設計会社や、組込み開発を広げたいIT企業

自動車部品メーカーや産業機械メーカーと取引する設計会社、受託開発を手がけるIT企業も有力な候補です。同じ客先に技術者を送っていれば、窓口をまとめて取引の幅を広げ、ほかの客先への提案力も高められます。機械設計の会社が組込みソフトの技術者を、ソフト開発の会社が電気・電子設計の技術者を求めるように、相手の手薄な領域を自社が埋められるかどうかが焦点。売却後も社名や独立した運営を残す形が選ばれることもあります。

専門技術者を確保したい工事会社、東京エネシスと扶桑の例

2026年9月9日、発電所や変電所の設備工事・保守を手がける東京エネシス(東証プライム)は、茨城県東海村の扶桑を同月1日付で100%子会社にしたと公表しました。扶桑は1983年創業で、原子力発電所などのメンテナンスに関する人材派遣業を営む会社です。目的は、工事や放射線管理、安全管理、品質管理に携わる専門技術者を確保し、グループの施工体制を強化すること。中長期的な企業価値の向上につながると見込んでいます。以前から小口の取引があった相手を、専門技術者ごと自社のグループに迎え入れた形です。

設計請負と準委任の線引き、技術者派遣の売却で特に注意すべき論点

契約書は請負、それでも毎朝の作業を割り振るのは客先の設計課長。小さな技術者派遣会社で見かけることのある光景ですが、デューデリジェンス(譲受前の調査)ではまずここが問われます。

客先常駐の請負・準委任が派遣と見なされるリスク

技術者派遣会社の多くは、派遣のほかに設計の請負や、準委任(業務の遂行を引き受ける契約)での開発支援も手がけています。厚生労働省は、契約が請負や準委任でも、客先が受注側のエンジニアに作業の進め方や労働時間を直接指示していれば労働者派遣に当たるとし、その考え方を、請負と派遣を区分する基準である37号告示の疑義応答集で示してきました。実態が派遣なら偽装請負。客先には、エンジニアへ直接雇用を申し込んだとみなされる制度が及ぶおそれもあり、譲受企業は取引を損ねる火種として警戒します。

スキルシートで客先が人を選んでいないか

客先に経歴書を出し、面談で人を選んでもらう慣行には注意が要ります。派遣では紹介予定派遣を除き、派遣先が事前の面接などで人を特定する行為は控えるよう、派遣法で求められています。請負や準委任でも、個人を特定できる経歴書で客先が指名や拒否をしていれば、指揮命令を疑われる材料に。

受注側の責任者が作業を割り付けているか

請負や準委任では、作業の割り付けや進み具合の調整、遅れへの対応を、受注側の責任者が自ら指示できる体制が欠かせません。責任者がすべての打合せに出る必要はないものの、客先の社員がエンジニアの勤怠を承認している、残業を直接命じているといった運用は、派遣と見なされやすい典型です。

施工管理や設備保守への派遣で問われる業務の範囲

建設工事の現場で直接作業に従事する業務は、労働者派遣が禁じられた建設業務に当たります。一方で、設計や積算、工程管理を含む施工管理は派遣の対象。建設や設備保守の分野に技術者を送る会社では、施工管理として派遣したエンジニアが、人手の足りない日に現場の作業へ加わっていないかが調べられます。日報や作業指示の記録で業務の範囲を説明できれば、譲受企業の懸念は和らぐはず。警備業務や医療関係の一部の業務など、ほかの派遣禁止業務に触れていないかも点検しておきます。

フリーランス法への対応と外国人エンジニアの在留資格

繁忙期に、フリーランスのエンジニアへ業務を再委託している会社もあるはず。2024年11月に施行されたフリーランス法(特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律)では、業務内容や報酬額、支払期日を書面などで示すことや、給付を受け取った日から原則60日以内に報酬を支払うことが求められます。外国籍のエンジニアがいれば、在留資格と実際の業務が合っているかも点検の対象。技術・人文知識・国際業務の在留資格で働く技術者を製造ラインの単純作業に就かせれば、不法就労の問題に発展しかねません。

請負・準委任の契約が多い会社には、当社から、契約ごとに作業場所、指示を出す人、勤怠を承認する人、成果物の検収方法を1枚の表にまとめていただくようお願いしています。客先の社員が勤怠を承認している、といったずれが見つかれば、派遣契約への切替えや運用の手直しを売却前に進める段取り。間に合わない部分は譲受企業に先に示し、表明保証(開示内容が正しいと約束する条項)の範囲と補償の上限を話し合います。後から指摘されるより、交渉はずっと穏やかに進むもの。労務の論点まで踏み込める仲介会社かどうかは、相談相手を比べる際の目安になります。

客先の重なる設計会社への売却で取引を広げた、岐阜の技術者派遣会社の事例

客先の重なりが、売却後の取引拡大につながった事例です。みつきコンサルティングが仲介しました。

大手自動車部品メーカー向けの樹脂部品設計・機械開発をイメージした3D CADのデジタルグラフィック

後継者不在に向き合った自動車部品の設計会社

岐阜県で1990年代に設立されたY社は、機械設計やソフトウェア開発を請け負い、技術者派遣や電子回路の企画設計も営む会社です。自動車の樹脂部品の設計を主力に、大手自動車部品メーカーと取引してきました。売上は1億7,500万円。60代半ばの代表者にとって、後継者不在が課題でした。

同じ大手部品メーカーとの取引が決め手に

2017年6月、Y社の株式は、産業機械や自動車関連の設計・開発を営む愛知県のH社(売上30億円)へ譲渡されました。H社も同じ大手自動車部品メーカーを取引先としており、成約後はその会社との取引が拡大。重なる取引先はほかにも複数あり、グループとして各社への競合優位性を高められました。

合併せず独立採算で守ったエンジニアのキャリア

Y社は親会社と合併せず、独立採算で運営を続けています。企業文化やキャリアアップのポジションが守られ、従業員への影響は最小限に。自動車関連分野以外の取引先も増え、売上とエンジニアの技術力の向上につながっています。

【インタビュー全文】同じ客先を持つ設計会社を選んだ、岐阜の技術者派遣会社の売却を読む

社員寮と構内請負、製造派遣を兼ねる会社が売却前に見直したいこと

借り上げた社員寮の契約は、売却後もそのまま使えるのか。製造派遣を兼ねる技術者派遣会社の経営者から、意外と多く寄せられる疑問です。

無期雇用化が進む製造派遣と、客先工場の減産への備え

厚生労働省が同じく2026年3月に公表した2025年6月1日時点の派遣事業の状況(速報)によれば、製造業務に従事した派遣労働者は約43万人で、前年から4.3%増えました。うち無期雇用は183,263人と8.7%増え、有期雇用の1.2%増を上回る伸び。無期雇用の比率が高まるほど、客先工場の減産で仕事が途切れたときの負担は重くなりがち。会社の都合で休ませれば、労働基準法に基づく休業手当が必要です。譲受企業は、過去の減産局面で何人を何か月休ませ、どこへ再配置したかに目を向けます。

借上げ寮の賃貸借契約と、寮費を差し引く労使協定

地方の工場へ人を集める製造派遣では、会社がアパートを借り上げて寮にする例が多く見られます。株式譲渡なら賃貸借の当事者は会社のまま変わらず、契約は原則として続きます。一方、事業譲渡では貸主の承諾を得て契約を移すか、結び直すことに。寮費を給与から差し引くには、労働基準法24条に基づく労使協定が要るため、協定書の有無も調べられます。空室の家賃を会社が払い続けていないか、入居率の推移も評価に響くところです。

同じ工場で派遣と構内請負を分けて運用しているか

製造派遣の会社には、客先工場の一角で生産工程を丸ごと引き受ける構内請負を兼ねるところも少なくありません。請負として認められるには、受注側が作業者に自ら指示を出すことが前提。客先の機械や設備を使う場合は、賃貸借などの契約を別に結ぶのが基本とされています。派遣の作業者と請負の作業者が同じラインに混在していれば、区分の実態が問われるところ。作業場所の区切りや指示系統の図を示せるよう、売却前に見直しておきたい論点です。

M&Aが成立した場合のみ、譲渡対価に応じた手数料を頂戴します。
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技術者派遣の譲渡を検討する経営者から多い質問

みつきコンサルティングに寄せられる質問から、技術者派遣ならではの事情が絡むものを選んでお答えします。

Q:客先と秘密保持契約を結んでおり、図面や開発の中身を見せられません。調査はどう進みますか?

客先の技術情報そのものを開示する必要はありません。みつきコンサルティングが技術者派遣会社の調査に応じる際は、客先名を記号に置き換えた配属表と、客先別の売上・粗利、契約の種類と期間を開示します。図面や設計資料は対象外。秘密保持契約や基本契約に、株主の交代の通知や第三者への開示を制限する条項がないかを先に確かめ、客先へ説明する時期もそれに合わせて決めます。

Q:CADや解析ソフトのライセンスは、売却後も使えますか?

株式譲渡なら、会社名義のライセンスは原則としてそのまま使えます。ただ、利用規約に株主の交代を届け出る定めがある製品や、社長個人の名義で契約しているものは別扱い。現場では、ソフトごとに名義、本数、更新日を一覧にし、譲受企業のグループ契約へ切り替えるかを決めていきます。客先から貸与されたライセンスは、客先との取決めに従います。

Q:主力のエンジニアが客先から直接雇用に誘われています。売却前に止められますか?

派遣元を辞めたエンジニアを派遣先が雇うことを、正当な理由なく禁じる取決めは、労働者派遣法で結べないことになっています。本人の転職の自由もあるため、止めるより、処遇や任せる技術領域で残る理由をつくるのが現実的。無期雇用の主力が抜ければ評価に響くため、現場では売却前に役割と報酬を見直し、譲渡後の処遇も条件交渉に含めます。

Q:請け負った設計の不具合で、客先から損害賠償を求められることはありますか?

あり得ます。請負で受けた設計なら、成果物の不具合に対する契約不適合責任を負う可能性があり、準委任でも注意義務を怠れば責任は残ります。現場で確かめるのは、主要な客先との基本契約に賠償額の上限や責任を負う期間がどう定められているか、過去に手直しや値引きで収めた案件がないか。上限のない契約が多ければ、表明保証や補償の範囲で手当てを考えます。

税理士法人を母体とするM&A仲介会社|みつきコンサルティングが選ばれる理由

技術者派遣のM&A・売却支援はみつきコンサルティング

技術者派遣会社の評価を支えるのは、無期雇用エンジニアの稼働率と担当工程、客先の分散です。請負・準委任の運用や派遣禁止業務との線引きは調査の焦点となり、製造派遣を兼ねるなら寮の契約と構内請負の扱いも欠かせません。長く育ててきた技術者の行き先を決める以上、慎重になるのは自然なこと。

みつきコンサルティングは、財務・税務に強いM&A仲介会社として、中小企業のM&A仲介の実績経験が豊富です。M&Aに特化した専門の担当者が、エンジニアの稼働データの読み解きから請負契約の点検まで伴走しますので、相談先選びの1社としてご検討ください。技術者派遣の会社売却なら、みつきコンサルティングへ。

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著者

田原 聖治
田原 聖治事業法人第一部長/M&A担当ディレクター
みずほ銀行にて大手企業から中小企業まで様々なファイナンスを支援。みつきコンサルティングでは、各種メーカーやアパレル企業等の事業計画立案・実行支援に従事。現在は、IT・テクノロジー・人材業界を中心に経営課題を解決。M&Aの成約実績多数、M&A仲介・助言の経験年数は10年以上
監修者 神門 剛 代表取締役 / 公認会計士・税理士

みつきコンサルティングは、中小企業の会社売却・事業承継に特化した譲渡企業様に完全成功報酬制のM&A仲介会社です。売り手と買い手企業の最適なマッチングを、経験豊富なM&Aコンサルタントが初期相談から成約まで一貫してフルサポートします。

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