吸収合併契約書の作り方・記載事項を解説【ひな型/記載例あり】

吸収合併を正しく実行するためには、会社法に従い、吸収合併契約書の記載事項を遵守して行う必要があります。この記事では、吸収合併契約書の記載例やひな型を示し、その作成方法について説明します。

吸収合併契約書の概要

吸収合併を進める際には、合併契約を締結しなければなりません(会社法748条)。また、吸収合併契約書においては、法定で定められた記載事項(以下「法定記載事項」)があり(749条1項)、さらに、株主や債権者の保護を目的として、その法定記載事項が記載された書面を用意し備え付けることが求められます(782条1項、794条1項)。そのため、吸収合併においては、吸収合併契約書の作成がマストになります。

本章では、吸収合併の各手続きについて解説します。

吸収合併契約の締結

合併契約を締結には、取締役会設置会社の場合は取締役会の決議、取締役会非設置会社では取締役の過半数の決定を基に、代表取締役または代表執行役が各会社を代表して締結し、原則、株主総会における承認(特別決議)が必要となります。

吸収合併契約締結のタイミング

吸収合併契約の締結は、原則、株主総会において特別決議による承認が必要なため、株主総会の前に締結されます。具体的には、吸収合併契約の締結手続きの流れは、取締役会の決議→吸収合併契約の締結→備置→株主総会の決議、という順序で進められます。

吸収合併契約書の記載事項

吸収合併契約書には、法定記載事項を記載する必要があります。法定記載事項の欠如や違法な記載がある場合は、当該契約は原則的に無効であるとされています。法定記載事項に瑕疵がある吸収合併契約は、効力発生日前に株主から合併の差止め請求、効力発生日後には合併無効訴訟の提起が可能となってしまいますので十分な注意が必要です。

吸収合併契約書の作成方法

本章では、吸収合併契約書の作成方法について解説します。

吸収合併契約書のタイトルは、会社法で特別な定めがないため、「吸収合併契約書」や「合併契約書」といった表記が用いられることが一般的です。

吸収合併契約書の前文は、契約を締結する存続会社と消滅会社の社名を記載し、存続会社を「甲」とし、消滅会社を「乙」として表記することが一般的です。

契約内容の定義については、会社法で定められた法定記載事項を含める必要があります。

契約内容には、以下の内容を含むことが推奨されます。

  • 吸収合併の形式
  • 吸収合併効力発生日
  • 財産の管理や引継ぎ
  • 従業員の処遇や引継ぎ
  • 契約内容の変更や解除
  • 吸収合併契約書に定めのない取り決めについて

次に、吸収合併契約書の締結に関する事項です。契約書には、契約書の作成数や保管場所、日付や両社の捺印や署名を記載することが求められます。

吸収合併契約に添付する書類

吸収合併契約書は、吸収合併登記申請の際に提出する必要があります。

申請の際には、以下のような書類を添付することが一般的です。

  • 収入印紙(契約書1枚につき4万円)
  • 株式会社合併による変更登記申請書

収入印紙については、吸収合併契約書の枚数が増えるごとに4万円の費用が発生しますが、原本が1枚あれば他の書類は写しで構わないため、印紙代は1枚分に抑えることができます。ただし、存続会社と消滅会社がグループ企業でない場合、両社が原本を保有しておいた方が良いこともあるため、その際は2枚分の印紙代がかかることに注意が必要です。

最後に、合併効力発生後に法務局に登記申請書を提出する必要があります。申請書提出時は、補助書類も必要となるため予め準備しておくことが大切です。

吸収合併契約書の法定記載事項

吸収合併契約書には、会社法の第749条で法定記載事項が定められており、法定記載事項を適切に記載できていない場合、契約書は法的に無効とされるため、注意が必要です。

吸収合併契約の主要な法定記載事項は次の通りです。

  • 存続会社と消滅会社の商号・住所
  • 消滅会社に対する合併対価の取り決め
  • 吸収合併契約の効力発生日の取り決め

存続会社と消滅会社の商号・住所

吸収合併契約書には、に従い、存続会社および消滅会社それぞれの会社名と住所を記載する必要があります(会社法第749条)。

消滅会社に対する合併対価の取り決め

吸収合併契約書への記載事項として合併条件に関する記載は欠かせません。合併条件とは、特に「消滅会社への合併対価」を意味します。

具体的には以下の事項を記載します。

  • 資本金または準備金の額
  • 株式の種類・数・算定方法
  • 社債の種類・合計額・算定方法
  • 新株予約権の内容・数・算定方法
  • 新株予約件権付社債の内容・数・算定方法
  • 上記以外の財産の内容・数(金額)・算定方法

同じグループ内での組織再編で消滅会社が100%子会社である場合や、消滅会社が債務超過であるケースの合併対価は、対価の交付が一切ない「無対価合併」も存在します。

吸収合併契約の効力発生日の取り決め

吸収合併契約書には、合併契約の効力発生日と合併契約書の承認のために必要な株式総会の開催期日を記載する必要があります。

吸収合併契約書の任意記載事項

吸収合併契約書には法定記載事項以外にも、当事者間で合意した事項を任意で記載することができます。これらの記載事項は任意的記載事項と呼ばれます。

任意的記載事項の一例は以下の通りです。

  • 存続会社の定款変更に関する事項
  • 新規に選任される、存続会社の取締役・その他役員についての事項
  • 吸収合併契約の承認に関する事項
  • 効力発生日までの増資・減資・新株発行などに関する事項
  • 効力発生日の変更に関する事項
  • 人事に関する事項
  • 消滅会社の財産承継に関する事項

任意的記載事項を記載する際は、吸収合併のルールに違反していないか注意が必要です。

契約締結時の注意事項

本章では、吸収合併契約書締結時に確認すべき重要なポイントについて解説します。

合併前の契約は承継される

吸収合併により、消滅会社が合併より前に締結した既存の契約は、存続会社に包括承継されます。権利義務も存続会社に承継されますので、法的には既存契約の変更覚書などを交わす必要はありません。

COC(チェンジ・オブ・コントロール)条項

COC条項とは、主要株主が変わる場合に、その取引先の承諾が必要という条項です。COC条項に該当する取引先がある場合は、この取引先の承諾を得ないと取引が一方的に打ち切られる可能性がある点は注意を要します。

吸収合併契約書の雛型

吸収合併契約書は、会社法によって定められた法定記載事項を適切に記載することで効力を発揮します。契約書作成時は、記載例やひな型を参照することで、記入漏れや記載ミスを防ぐことができます。本章では、吸収合併契約書のひな型を紹介しますので、契約書作成時の参考にしてください。

吸収合併契約書のまとめ

吸収合併契約書が有効となるためには、法令で定められた記載事項を適切に明記することが重要です。記載例・ひな型を利用することで記載漏れを防ぐことが可能ですが、記載例・ひな型に掲載されている記載事項以外にも、任意で記載すべき項目が存在しますので、専門家のサポートを受けて進めることが、後日のトラブル回避のためにも望ましいでしょう。

みつきコンサルティングは、税理士法人グループのM&A仲介会社として15年以上の業歴があり、中小企業M&Aに特化した経験実績が豊富なM&Aアドバイザーが多数在籍しております。 

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著者

西尾崇
西尾崇事業法人第三部長
宅食事業を共同経営者として立ち上げ、CFOとして従事。みつきコンサルティングでは、会計・法務・労務の知見を活かし、業界を問わず、事業承継型・救済型・カーブアウト・MBO等、様々なニーズに即した多数の支援実績を誇る。
監修:みつき税理士法人

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