電気機器業界のM&Aでは、電気用品安全法の届出や電波法の工事設計認証をどう引き継ぐかが、交渉の進み方と譲渡価格を分けます。蛍光ランプの製造終了や省エネ基準の強化により、製品構成の見直しを迫られる会社も増えました。自社ブランドと保守収益をどう評価してもらうか。本記事では譲渡オーナーと譲受企業の双方に向け、市場構造から価格形成、認証承継の実務までを解き明かします。
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完成品を手がける電気機器メーカーに迫る再編圧力
「家電の話でしょう」と受け取られがちですが、電気機器のM&Aは通信機器や計測機器、防災設備の中堅企業でも動いています。
重電の復調と白物家電の伸び悩みが同居する市場
日本電機工業会が公表した2026年度電気機器の見通しでは、重電機器の国内生産額は前年度比8.4%増の4兆467億円と、1997年度以来29年ぶりに4兆円を超える見込みです。データセンター関連の設備投資が押し上げ役になりました。一方、白物家電を含む民生用電気機器の国内出荷は1.1%増の2兆6,637億円にとどまる予想で、2027年度の省エネ基準強化を前にした駆け込み需要が支えという構図。同じ「電気機器」でも、追い風の領域と横ばいの領域がはっきり分かれています。
蛍光ランプの製造終了と省エネ基準が変える製品構成
照明器具メーカーには、期限のある宿題が突きつけられました。水銀に関する水俣条約を受けた水銀汚染防止法施行令の改正により、一般照明用の蛍光ランプは種類ごとに2027年末までに製造と輸出入が段階的に禁止されます。LED器具への切替投資、金型の入れ替え、光源事業からの撤退判断が同時に押し寄せる格好です。省エネ基準の引き上げも、旧世代機種を抱える会社には重い負担。制度が期限を切って製品を退場させる業界では、事業の売り時も自然と早まります。
設計は自社、生産は委託という構造の広がり
電子機器受託製造、いわゆるEMSへの生産委託が広がり、自前の工場を持たない設計主体のメーカーが増えました。譲受企業から見れば、量産設備よりも回路設計、ファームウェア、型式認証といった無形の資産に価値があります。工場を持たない会社ほど、会社売却で技術と人材だけを引き継いでもらう形が成立しやすいもの。設備が古いから売れない、という思い込みは中小企業のM&Aでは通用しません。
▷関連:電機・機械業界のM&A|技能承継と受注残高で見る譲渡価格と成約事例
電気用品安全法と電波法の認証をどう引き継ぐか
電気機器の譲渡で最初に確認するのが、製品を売り続けられる法的な資格が残るかどうかという一点です。
PSEの届出事業者としての地位と適合性検査
電気用品安全法では、電気用品を製造・輸入する事業者は届出事業者となり、菱形PSEの対象である特定電気用品は登録検査機関の適合性検査を受けます。株式譲渡であれば法人格が変わらないため、届出事業者としての地位はそのまま残ります。これに対して事業譲渡や会社分割では承継の届出が必要になり、切り出す範囲によっては新たな届出や検査のやり直しが生じることも。スキーム選択が製品の販売継続に直結します。
技術基準適合証明と工事設計認証の名義
無線通信機器やアンテナ、ハンディターミナルを扱う会社では、電波法の技術基準適合証明や工事設計認証、いわゆる技適の扱いが焦点になります。認証は製品ではなく取扱事業者に紐づくため、法人が入れ替わる形の再編では名義の確認を欠かせません。認証を取り直すとなれば、試験費用と数か月の空白が生まれ、その間の売上が止まります。譲受企業がここを気にするのは当然で、認証台帳が整っている会社ほど交渉が速く進む印象。
消防用設備の型式適合検定と計量法の型式承認
防災設備メーカーなら消防法に基づく消防用設備等の型式承認と型式適合検定、計測機器や試験機なら計量法の特定計量器の型式承認が事業の土台です。当社が関わった電気機器の案件でも、認証の名義人、有効期限、対象型式の一覧を最初に洗い出し、譲受企業へ提示する資料に組み込みました。支援実績としてご紹介している譲渡事例でも、認証と許認可の承継可否を早い段階で詰めた案件ほど、条件交渉が安定しています。
売り手と買い手で分かれる電気機器M&Aの損得
同じ案件でも、譲渡オーナーと譲受企業では見ている勘定が違います。下表で双方の損得を並べます。
売り手のメリット・デメリット
認証と技術者を丸ごと引き継いでもらえる点が最大の利点。半面、数字に表れない設計資産の評価をどう認めさせるかが悩みどころです。表中に主な論点を並べます。
| 論点 | 譲渡オーナーのメリット | 譲渡オーナーのデメリット |
|---|---|---|
| 認証・届出 | PSEの届出や技適の名義を維持したまま製品供給を続けられる | スキーム次第で承継手続や再認証の負担が発生する |
| 設備・生産 | 老朽ラインの更新原資やEMS再編の判断を譲受企業に委ねられる | 不採算機種の生産終了を求められる場合がある |
| 資金・保証 | 借入の個人保証と自宅担保を解除できる可能性が高い | 解除には金融機関の同意が要り、時期は交渉次第 |
| 従業員 | 設計者と修理技術者の雇用を資本力のある傘下で守れる | 開示のタイミングを誤ると中核技術者が流出する |
| 取引先 | 販売代理店網や量販店との口座を維持しやすい | OEM供給先の同意取得に時間を要することも |
| ブランド | 自社ブランドの継続使用が条件に盛り込める | 統合方針によりブランド廃止の判断もあり得る |
買い手のメリット・デメリット
譲受企業の狙いは、認証と設計人材、そして既設機のアフター収益にあります。裏返せば、そこにリスクも潜みます。
| 論点 | 譲受企業のメリット | 譲受企業のデメリット |
|---|---|---|
| 認証資産 | 取得済みの型式認証を使い、市場投入までの期間を短縮できる | 認証の名義や有効期限に不備があると計画が狂う |
| 技術者 | 回路設計や組込ソフトの技術者をまとめて確保できる | 処遇差の調整を誤ると退職が続く |
| 販路 | 量販店や電材ルート、官公庁の入札実績を取り込める | 主要顧客がチェンジオブコントロール条項を持つ場合がある |
| 保守収益 | 既設機の補修部品と修理でストック収益を上乗せできる | 補修部品の在庫が滞留し評価損を抱えることも |
| 製品安全 | 安全設計のノウハウと事故対応の体制を獲得できる | 過去のリコールや製品事故が簿外の負担として残る |
| 統合 | 調達を束ねて部材コストを下げやすい | PMIで設計思想や部品表の統一に手間がかかる |
譲渡価格に効く電気機器メーカーの評価の視点
価格は決算書だけで決まりません。認証と保守、そして誰が金型を持っているか。ここが値づけを動かします。
年買法とのれんを軸にした値づけの考え方
中小の電気機器メーカーで最もよく使われるのが年買法(年倍法)です。時価純資産にのれんを加えて目安を出します。将来の収益計画が固い会社ではDCF法、上場同業が多い分野では類似会社比較法も併用されます。手法の使い分けよりも、企業価値評価の前提となる正常収益力の把握が結果を左右する場面が多いもの。オーナー報酬や研究開発費の期ずれを直してから議論を始めます。
補修部品と保守サービスが生むストック収益
売り切りの機器メーカーでも、既設機のアフター収益は評価されます。譲受企業は、修理売上と補修部品売上が全体の何割を占めるかを必ず見ています。
部品保有年数と在庫の評価
生産終了後も補修用性能部品を保有する期間は、製品分野ごとに慣行が異なります。長く持てば顧客の信頼は保てますが、滞留在庫は評価減の対象。品番別の出庫実績を年数で切り、動かない部品を先に洗い出しておくと交渉が楽になります。
修理拠点とサービス網の厚み
全国の修理拠点や出張サービス網は、同業だけでなく隣接業種の譲受企業にも魅力です。設置工事や定期点検を伴う防災設備、計測機器では、資格を持つサービス員の人数が値づけに反映されます。
型式認証の件数とOEM比率、金型の帰属
電気機器で効くのは、型式認証の保有件数、自社ブランドとOEM供給の売上比率、金型と治具の所有者という三つの数字。特にOEM比率が高い会社は、供給先を失うと収益が一気に細るため、契約の残存期間と解除条件が価格の前提になります。みつきコンサルティングでは、株価算定の段階で認証台帳と金型台帳を突き合わせ、譲渡価格の根拠として買い手候補へ示す進め方をとっています。適切なM&A仲介の関与が、無形資産の値づけを支えます。
電気機器メーカーのM&Aで踏む6つの手順
認証と保守が絡む分だけ、一般的な製造業より確認事項が増えます。実際の進行を6段階で示します。
決算書に加え、型式認証台帳と補修部品の在庫明細を確認します。自社ブランドとOEMの売上構成を分けて把握することが、最初の値づけの出発点。
※当社では、決算書3期分をお預かりできれば、最短1日で無料の株価算定をお示ししています。
電気用品安全法の届出、電波法の工事設計認証、消防用設備等の型式適合検定、計量法の型式承認を一覧化し、名義と有効期限を確認します。OEM契約のチェンジオブコントロール条項もこの段階で洗います。
※当社は税理士法人グループとして、士業ネットワークと連携し承継可否を事前に精査します。
同業の完成品メーカーに限らず、EMSや電子部品メーカー、設備工事会社、投資ファンドまで候補を広げます。社名を伏せた資料で反応を見ながら、認証と技術者を評価する相手を絞り込みます。
※当社は買い手候補の反応を段階的に報告し、情報漏れを抑えた打診を徹底しています。
工場や修理拠点の現地視察で、はんだ付け工程や検査治具、EMC試験の設備を見てもらいます。譲渡後のブランド維持や雇用条件を、この段階で言葉にしておきます。
※当社は面談で伝えるべき技術的な強みを事前に整理し、経営者の説明を支えます。
デューデリジェンスでは製品保証引当とリコール履歴、部材の化学物質規制対応が重点的に見られます。表明保証の範囲もここで固まります。
※当社は金融機関との調整に同席し、借入の個人保証解除まで見届ける対応を標準にしています。
設計者、品質保証、サービス員の順に説明の場を設け、認証業務の担当者が残る体制を確認します。部品表と図面の引継ぎは、統合初期の生命線。
※当社は成約後も、譲受企業との橋渡し役として引継ぎ計画の作成に関与します。
製品安全とリコール引当をめぐるデューデリジェンスの着眼
買い手が最も神経を使うのが、完成品ゆえの製品事故リスク。ここでの説明の丁寧さが、価格の下振れを防ぎます。
消費生活用製品安全法と事故履歴の扱い
消費生活用製品安全法では、重大製品事故が起きた際の報告義務が定められています。過去に事故やリコールがあった会社では、対応記録と再発防止策、回収率の実績が問われます。隠して発覚するより、初めから開示したほうが結果は良くなるもの。事故がゼロでも、設計変更の履歴や苦情処理の台帳が残っていない会社は、譲受企業から不安視されがちです。
化学物質規制への対応と長納期部品の在庫
RoHS指令やREACH規則への対応状況、含有化学物質の調査票が部材ごとにそろっているかが確認されます。半導体不足を経験してから、長納期部品を厚めに抱える会社が増えました。その在庫が本当に使えるのか、生産終了品向けの死蔵在庫ではないのか。決算書上の資産が、実務では評価減の候補になることも珍しくありません。
設計技術者の年齢構成と技能の承継
アナログ回路や電源設計は、若手が育ちにくい領域です。実際の案件では、60代の設計者が1人で主力機種を支えており、譲受企業がその技術者の残留を条件としたケースもありました。支援現場では、退職の意向を早めに確かめ、譲渡後の処遇と役割を先に描いてから従業員説明に臨む段取りを組んでいます。人が資産という言葉が、この業界ほど当てはまる分野もそう多くありません。
電気機器メーカーのオーナーがみつきコンサルティングを選ぶ背景
認証、技術者、保守。数字に表れにくい資産をどう説明するかで、譲渡の結果は変わります。
税理士法人グループとしての財務・税務の目線
当社は税理士法人グループのM&A仲介会社です。開発費の資産計上、補修部品の在庫評価、オーナー報酬の正常化といった、電気機器メーカー特有の論点を税務の観点から先に整理できます。譲渡後の手取り額まで見据えた設計ができる点を、経営者から評価いただく場面が多くあります。
完成品メーカーの買い手を探す打診力
同業に限らず、隣接する電子部品や設備工事、システム開発の企業まで買い手候補を広げます。認証と設計人材に価値を見出す相手は、必ずしも同じ製品分野にいません。仲介会社を比べる際は、仲介会社の一覧で候補網の広さと業界実績を見比べてみてください。
着手金・中間金・月額報酬無料の料金体系
完全成功報酬
M&Aが成立した場合のみ、譲渡対価に応じた手数料を頂戴します。
売主様は、ご成約まで費用負担なくスタートできます。
着手金・中間金
0円
月額報酬
0円
成功報酬
成約時のみ
※レーマン方式
電気機器メーカーのM&Aを検討する経営者からの主な質問
相談の場で実際に受ける質問のうち、本文で触れなかったものをまとめます。
契約条項次第です。現場では、まずチェンジオブコントロール条項の有無と、同意取得の要否を確認します。条項がある場合は、基本合意の後に供給先へ説明する順序を組み立てます。長年の取引実績があれば継続されるケースが大半ですが、供給先が競合の傘下に入ることを嫌う場合もあるため、買い手候補の選定段階から考慮します。
難しくはなりませんが、確認事項は増えます。現地法人の労務、移転価格、撤退時のコストが論点。近年はアジアの同業や商社によるクロスボーダーM&Aの打診も届いており、海外拠点が評価される場面もあります。清算を前提とするか、拠点ごと引き継いでもらうかで、買い手候補の顔ぶれが変わります。
反映されます。ただし数字の裏づけが要ります。ブランド別の粗利率、指名購入の比率、量販店での棚の確保状況を示せると、のれんの説明材料になります。逆に、ブランドはあるが利益が出ていない場合、譲受企業はブランド廃止を前提に評価することも。売上構成をブランド別に出せるかが分かれ目です。
かなり細かく問われます。外部の設計会社に委託した部分の著作権が誰に帰属するか、ソースコードが自社で保管されているか、退職した技術者の私物パソコンに残っていないか。現場ではここを確認します。権利が不明確なままだと、表明保証の対象から外され、価格の減額要因になりかねません。
まとめ|電気機器メーカーの譲渡で外せない実務論点
電気機器業界のM&Aでは、電気用品安全法の届出や電波法の工事設計認証といった認証資産の承継可否が、スキーム選択と譲渡価格の両方を動かします。蛍光ランプの製造終了や省エネ基準の強化で、製品構成の見直しを迫られる会社も少なくありません。何から手をつけるべきか迷うのは、当然のことです。
みつきコンサルティングは税理士法人グループのM&A仲介会社として、中小企業M&Aの実績経験が豊富です。認証台帳の整理から株価算定、個人保証の解除まで一貫して伴走します。相談先選びで迷われたら、電気機器業界のM&Aなら、みつきコンサルティングへお声がけください。
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著者

- 事業法人第一部長/M&A担当ディレクター
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みずほ銀行にて大手企業から中小企業まで様々なファイナンスを支援。みつきコンサルティングでは、各種メーカーやアパレル企業等の事業計画立案・実行支援に従事。現在は、IT・テクノロジー・人材業界を中心に経営課題を解決。M&Aの成約実績多数、M&A仲介・助言の経験年数は10年以上
監修者 神門 剛 代表取締役 / 公認会計士・税理士
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