廃業とは会社や個人事業主が、運営している事業を終了させることを指します。事業を終了しても会社の解散手続きや、清算に伴う一定の費用が発生します。この記事では、廃業に伴う清算・解散の概要やそれぞれに必要な費用、具体的な手続きの流れについて、会社や個人事業主などの事業形態ごとに詳しく解説します。廃業をお考えの経営者の方は参考にしてください。
廃業とは|解散・倒産・破産との違い
廃業とは、会社や個人事業主の経営者が自らの意思で事業を終了させることを指します。廃業するためには会社の債権・債務や所有資産の清算、従業員の整理、会社の解散登記など様々な手続きが必要となります。また、取引先に対する影響への配慮も必要となりますので、不備がないよう計画的に進めることが重要となります。
まずは解散について説明します。
会社の解散とは、事業を終了させ、会社を消滅させる手続きのスタートとなります。個人事業主が廃業する場合、いくつかの届出を提出するだけで完了しますが、会社においては株主総会決議等、解散手続きが必要となります。解散だけでは会社の事業が終了したことでしかない為、廃業するには所有資産の整理や債務の整理なども必要となります。
次に倒産・破産との違いについて説明します。
「倒産」と「破産」という言葉は、同じのように捉えられがちですが、少し意味が異なります。「倒産」とは業績の悪化により債務が返済できず、事業の継続が不可能になった状態のことを言います。一方、「破産」とは「倒産」と同じような状況になった際に行う、清算を目的とした債務整理手続きのこと言います。「破産」すると、会社の資産と債務が清算され、会社は消滅することになります。「倒産」した会社は、民事再生手続きを選択するケースもあり、必ずしも「破産」手続きをするとは限りません。
廃業(解散)にかかる費用
会社が廃業する際は解散手続きが必要であり、手続きに伴う費用も発生します。
中小企業庁が発表した「2019年版中小企業白書」によれば、廃業費用の総額が100万円以上だったと回答した会社は36.2%となっており、中には1,000万円以上かかったという回答もあったようです。廃業にかかる費用項目としては、解散に伴う登記や公告費用、これらの手続きを依頼する専門家への報酬などがあります。その他、賃貸事務所の原状回復費用や在庫や設備などの処分費用など会社や事業の規模によって変動する費用が挙げられます。
登記費用
会社が廃業する際には、3つの登記を行う必要があり、登記にかかる費用の目安としては、下記の通りです。
- 解散登記: 30,000円
- 清算人の選任にかかる登記: 9,000円
- 清算結了にかかる登記: 2,000円
上記の登記を実施しないと廃業手続きが完了しないため、確実に行うようにしてください。これらの登記はオーナー個人で対応することも可能です。しかし、漏れなく適法に手続きを完了したい場合は、登記費用以外に役務報酬が発生しますが、司法書士や弁護士など専門家に依頼することをお勧めします。
解散登記に関する事項
解散登記は、企業の解散手続き開始を正式に示す為の重要な手続きです。解散登記には、登録免許税として30,000円の費用が発生します。解散した会社(株主総会で解散承認が得れた会社)は、解散後2週間以内に解散登記を完了しなければなりません。2週間を過ぎても解散登記を行うことは可能ですが、罰金等が科せられる可能性があるため、期限内に登記手続きを実施することをお勧めします。
清算人の選任と登記
会社の清算とは、解散後に資産の現金化や処分、債務の回収・弁済等を行う活動のことを指します。清算手続きを実行する役割を担う者を清算人と言い、解散には清算人の選任が必要となります。清算人が決定すると。清算人選任登記を行う必要があり、9,000円の登記費用が発生します。解散登記と同様、解散後2週間以内に登記が必要となります。
清算結了後の登記
清算結了登記は、会社の清算が完了し、法人消滅を正式に示すための登記のことを言います。清算結了登記には2,000円の登記費用が発生します。清算結了登記は、対象会社の株主総会で清算手続きが完了した旨の承認後、2週間以内に実施する必要があります。しかし、清算結了登記は、解散報告や債権者保護の公告に2ヶ月を要するため、解散から2ヶ月以上経過しないと登記申請ができませんので注意が必要です。
官報公告の費用
会社は解散後、速やかに官報にて解散の事実や債権申出に関する情報を官報にて公告することが必要です。(会社法499条)また、債権保護の観点から2ヶ月以上の公告期間が必要となります。官報による公告を例に挙げると、1行あたり3,263円(税抜)の費用が発生します。解散公告は一般的に約10行が必要とされており、3〜4万円程度の費用が発生します。
在庫および設備処分に伴う費用
事業運営のため、所有していた在庫や設備については、スピーディーな処分や買取業者の活用で現金化することになります。現金化できない資産は廃棄を検討する必要があり、費用が発生することがあります。
在庫
廃業手続きを終えた後、在庫を資産計上している場合は確定申告が必要となります。在庫を費用計上すれば確定申告が必要ないため、清算の際にまとめて処分することが一般的です。ただし、在庫は一括での通常販売が難しいため、セール販売で販売価額を下げたり、買取業者に買取ってもらったりすることで現金化します。現金化できない在庫については、単純に破棄したり、廃棄業者を活用するなどで処分することになります。現金化できない在庫の処分には、処分費用が発生する可能性があります。
設備
新しい設備や中古取引が活発に行われている設備であれば、買取業者に買取りを依頼できます。古い設備や人気のない設備は、買取が難しいため、専門の廃棄業者に依頼し処分することになります。廃棄処分にかかる費用は、「トラック1台分あたり数万円から」とされていますが、設備の仕様や引き取り時に工事が必要など設備の状況により費用が変動することに注意が必要です。
賃貸物件の原状回復費用
オーナー個人や会社で不動産を所有し事業運営している場合、原状回復にかかる費用は発生しませんが、貸しビルや貸し工場など賃貸物件で事業運営している場合、ほとんどのケースで賃貸借契約書に原状回復義務が定められていることから、原状回復費用が発生します。敷金や保証金の範囲内であれば相殺されるケースもありますが、物件の状況によっては、それ以上かかる場合もありますので注意が必要です。
専門家への依頼にかかる費用
廃業手続きはオーナー本人でも実施できますが、手間を省きたい場合や漏れなく確実に手続きを完了するため、税理士や司法書士などの専門家に依頼することも可能です。依頼する専門家にもよりますが、登記費用や公告費用などとは別に数十万円程度の報酬が発生します。依頼できる内容や費用体系は専門家により大きく異なるため、複数の専門家の見積もりを取り、比較検討することをお勧めします。
有限会社の廃業にかかる費用
有限会社の廃業費用は、株式会社の廃業費用とほぼ違いはありません。登記費用、清算費用、公告費用、専門家への依頼費用など有限会社の廃業にも一定の費用が発生します。一般的に株式会社よりも有限会社の方が売上高や従業員数は小規模な会社が多いため、清算に係る費用や専門家への依頼費用など安く抑えることができる傾向にありますが、会社によっては有限会社でも株式会社と遜色ない事業規模で運営している会社もあるため、一概には言えません。廃業に係る費用は法人の形態ではなく、事業内容及び事業や所有資産の規模によって変動すると認識していれば良いでしょう。
個人事業主の廃業にかかる費用
個人事業主の廃業は、登記手続きは必要なく国や都道府県、管轄の税務署に届出を提出するのみで完了するため、法人の廃業と比べて費用が安く済む傾向にあります。個人事業主で廃業する場合も、在庫や設備の処分、賃貸物件の原状回復、専門家への依頼などの清算事務は発生します。しかし、個人事業主の場合は自宅を仕事場にしていたり、在庫や設備も少ない傾向にあることから事業内容や事業形態によっては、廃業に係る費用はほとんどかからないケースも多くあります。
廃業(清算)手続の流れ
「廃業手続き・流れ」
解散・清算の準備
解散準備
会社の解散手続き等をスムーズに進めるため、準備や計画を立てることをお勧めします。具体的には以下のような準備を行うと良いでしょう。
【取引先や仕入れ先に解散の旨や時期について丁寧な説明を実施】
自社の廃業は、取引先や仕入れ先にとっても事業運営に大きな影響を及ぼすことがあります。事前に説明し理解を得ることが重要となります。
【各種契約を整理し必要ないものから随時解約】
事業を長く続けていると、必要のない契約や役目の終わった契約など知らずの間に継続している契約があるケースがあります。内容を整理し全体を把握した後、必要ないものは解約等の手続きを進めておくと良いでしょう。
【株主総会による解散決議、清算人登記の実施】
会社の解散は、株主総会で解散の承認と清算人の選任が必要となります。清算人については選任後、登記も必要となりますので、忘れずに手続きを完了してください。
【社会保険や税金関連の届出手続き】
税務署、都道府県税事務所、日本年金機構、労働基準監督署など社会保険や税金を管轄する各所へ解散に関する届出を提出する必要があります。この届出を提出しないと廃業した後に思わぬ税金や費用(経費計上が認められない)が発生する可能性がありますので、忘れずに届出るようにしましょう。
清算手続きの進行
【債権の回収と現務の完了及び弁済】
売掛金や未収入金など債権の回収を行ったり、解散時にまだ終わっていない業務や役務を遂行したり、継続している契約を履行する必要があります。
【官報による解散の公告】
解散後は速やかに、官報で解散事実と債権申出に関する公告を実施します。公告は債権者保護の一貫ではありますが余計なトラブルを回避するためにも、債権者に対しては、個別で債権申出の催告することをお勧めします。
【財産の調査と財産目録・貸借対照表の作成】
清算人は、会社財産の現状を調査し解散日の財産目録と貸借対照表を作成します。その後、作成した財産目録・貸借対照表を株主総会に提出し承認を得ます。株主総会で承認を得た財産目録と貸借対照表は清算結了登記が完了するまで備置する必要があります。
【解散・清算事業年度の確定申告】
解散事業年度とは、事業年度開始日から解散の日までの期間を指し、解散日の翌日から2ヶ月以内に確定申告が必要です。また、清算事業年度とは、解散日の翌日から1年毎の期間を指し、各清算事業年度の翌日から2ヶ月以内に申告が必要です。
【資産の現金化、債務弁済、残余財産の分配】
残余財産とは、資産を現金化し負債を弁済した後に残った現金や資産のことを指します。株式会社の場合、残余財産は会社の持ち主である株主で平等に分配する必要があるため、各株主の持ち分比率によって分配されます。不動産など現金化していない残余財産がある場合は、現物で分配することも可能ですが、株主が複数人いる場合や残余財産の状況によっては平等に分配できないケースもありますので、慎重に検討することが重要です。
清算終了後の手続き
残余財産確定事業年度の確定申告について
残余財産が確定すると、残余財産が確定した日から1ヶ月以内に確定申告を行う必要があります。解散・清算事業年度の確定申告と違い、1ヶ月の申告期限延長がありませんので注意してください。
清算人による決算書の作成・承認
残余財産確定事業年度の確定申告が終わると、清算人は決算書を作成し株主総会にて承認を得ます。株主総会にて決算書の承認を受けると、解散手続き中の法人格は消滅することになります。法人格は消滅することになりますが、廃業手続き完了には、清算結了の登記が必要となります。
清算結了の登記
株主総会にて決算書を承認後、清算結了登記を行います。決算結了登記とは、清算手続きが完了し、会社の法人格が消滅したことを登記することを言います。清算結了登記の期限は、株主総会での承認後2週間以内に登記する必要があります。
有限会社・個人事業主の廃業時の留意点
有限会社と個人事業主における廃業・解散の手続きは、株式会社の廃業手続きとほぼ同じ手続きとなります。しかし、法人格が違うことや法人格がないことで一部手続きが異なる点もあるため、この記事では有限会社と個人事業主が廃業する際の注意点について解説します。有限会社や個人事業主の経営者で廃業を検討している方は、参考にしてください。
有限会社が廃業する際の留意点
有限会社の廃業の流れは原則、株式会社と同じです。株式会社の廃業と異なる点を紹介します。
株主総会での承認決議議決権数
株式会社の場合、議決権を行使することのできる株主の議決権の過半数以上の出席が必要で、出席株主の議決権2/3以上の賛成で承認されます。一方、有限会社の場合、総株主の半数以上の出席が必要となり、総株主の議決権3/4以上の賛成で承認されることになります。
清算人会の設置
株式会社の場合、解散の際の清算手続きを実施する会(取締役会のようなグループ)を設置することができます。一方、有限会社の場合は、このような会を設置するができません。
代表清算人の登記
株式会社の場合、清算人が1人であっても「代表清算人」として登記が可能です。一方、有限会社の場合、清算人が1人の場合では「代表清算人」としての登記ができません。
個人事業主が廃業する際の留意点
個人事業主の廃業においては、廃業に係る届出など必要書類を、管轄の機関に提出するのみで完了します。株式会社や有限会社と異なり、登記手続きなどはありません。個人事業主における廃業に関する流れを、下記に紹介します。
管轄の税務署への届出
- 廃業後、1ヶ月以内に「個人事業の開業・廃業等届出書」提出が必要となります。
- 青色申告の場合は、廃業する年の翌年3月15日までに「所得税の青色申告の取りやめ届出書」の提出が必要となります。
- 消費税の課税事業者の場合、「事業廃止届出書」の提出も必要となります。
- 従業員などに給与支払いがある場合、源泉徴収の手続きの為「給与支払事務所等の開設・移転・廃止の届出書」提出が必要となります。
管轄の都道府県税事務所への届出
- 事業の廃止の日から10日以内に「事業開始(廃止)等申告書」の提出が必要となります。
これらの届出の提出を忘れると、廃業後にかかった費用が経費として認められなかったり、事業を廃止したことを税務署が認識できず、課税されたりと無駄な費用や税金が発生する可能性があるため、期限内に確実に提出することが重要です。
休眠会社として放置しておく方法がある
これまでの記事では、廃業(事業を自らの意思で終了させる)について解説してきましたが、会社の事業運営を止めるという意味では、休眠会社にするという選択肢も検討の余地があるかも知れません。
休眠会社とは、事業運営を一時的に停止しているものの、会社を存続している状態を指します。廃業との違いとしては、事業運営を再開する意思があるか否かというところになります。廃業は、煩雑な手続きや費用が発生するなど手間と時間がかかりますが、休眠会社は税務署や都道府県・市民税事務所に届出を提出するだけで完了します。
休眠会社にする理由としては、現経営者の体調不良や後継者不在による人材不足など事業運営の意思はあるものの継続が難しいため、一時的に事業を停止せざるを得ないケースが多いようです。廃業すると会社が消滅してしまうため、再開はできません。現時点で事業運営の継続が難しくても、将来的に再開を検討している場合は休眠会社にするという選択肢も検討してみてください。
休眠会社検討の参考に、休眠会社にすることのメリット・デメリットを下記に記載しますので、確認してみてください。
休眠のメリット
- 事業運営を一時的に停止できる。
- 管轄の税務署や都道府県民税・市区町村税事務所へ届出を提出するのみで完了するため、廃業に比べて手間や費用がかからない。
事業再開時の際も、届出提出のみでスピーディーに再開できる。
- 事業運営上必要な許認可等を再取得する必要がない。
- 会社が存続していることから法人設立期間が継続されるため、新規に会社設立するより信用が得られやすい。
休眠のデメリット
- 休眠の期間も確定申告や役員重任登記など会社が存続するために、最低限必要な手続きは発生する。
- 会社で不動産を所有している場合、休眠していても固定資産税は発生する。
- 賃貸やリース物件がある場合、休眠していても一定の固定費が発生する。
M&Aで廃業のデメリットを回避する方法もある
事業運営を終了させる選択肢として廃業・解散を検討する前に、M&Aについて検討することもお勧めします。M&Aと聞くと上場企業や大企業をイメージする方も多いかもしれませんが、実際には中小企業や個人事業主でも活用が可能です。廃業は、オーナーにかかる手間や費用など負担が大きいと言えます。
▷関連:M&Aとは|2024年も増加!目的・メリット・流れ・方法を解説
また、取引先や従業員などの期待に沿えず迷惑をかけることもあるかも知れません。M&Aは、そのような廃業に係るデメリットの回避策として有効な対策と言えます。例えば、伝承してきた技術力の継承、取引先との取引継続、従業員の雇用継続などが可能な上、M&Aによる売却益でオーナーは先行者利潤を獲得できるなど大きなメリットも期待できます。
▷関連:廃業せずにM&Aを実施するメリット・デメリットは?廃業の定義や現状についても解説
事業を終了させる為の廃業を検討の際は、是非一度M&Aの専門家に相談してみてください。事業運営を終了させる方法の選択肢として検討することをお勧めします。
▷関連:M&Aの相談先は誰がよい?相談先一覧とメリット・デメリットを解説
廃業にかかる費用のまとめ
個人事業主の廃業手続きは、事業規模が小さいことや手続きが簡便な為、特に問題ありませんが、株式会社や有限会社等の法人の廃業は、手間と時間が非常に係る上、費用や納税の負担もあることから、専門家の支援を受けたとしても経営者の負担は大きいと言えます。
また、手続きに不備があると余分な費用や税金が発生する可能性があるため、適格な対応が必要となります。これらのことを鑑みると、事業や社名を次世代に残せることや取引先や従業員など関係者への影響が少ないなど廃業に係るデメリットを回避できるM&Aも、事業終了の選択肢として検討することは極めて合理的な手法と言えるかも知れません。廃業検討と並行して、M&A仲介会社やアドバイザリー会社などM&Aの専門家に相談し比較検討してみるも良いのではないでしょうか。
弊社みつきコンサルティングは、税理士法人グループのM&A仲介会社として15年以上の業歴があります。中小企業M&Aに特化した経験豊富なM&Aアドバイザーが多数在籍しております。
みつき税理士法人と連携することにより、税務面や法務面のサポートもワンストップで対応可能です。M&Aをご検討の際は、是非一度みつきコンサルティングにご相談ください。
著者
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人材支援会社にて、海外人材の採用・紹介事業のチームを率いて新規開拓・人材開発に従事。みつきコンサルティングでは、強みを生かし人材会社・日本語学校等の案件を中心に工事業・広告・IT業など多種に渡る案件支援を行う。
監修:みつき税理士法人
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