内航海運の会社売却を検討するオーナー経営者に向けて、業界動向や売却相場、具体的な譲渡事例を専門家の視点で解説します。船員の高齢化や環境規制への対応資金など、特有の課題を解決する手段として事業の承継が注目されています。自社の企業価値を高める評価ポイントや手続きの要点を網羅し、最適な譲渡先を見つけるための有益な情報を提供します。
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内航海運の会社売却の市場動向
内航海運業界では近年、経営環境の大きな変化を背景に、事業承継や事業規模の拡大を目的とした会社譲渡の動きが活発化しています。長きにわたり海運業を支えてきた経営者にとって、業界の全体像と現在の立ち位置を正確に把握することは極めて重要です。
内航海運のピラミッド型の業界構造
内航海運は、主に国内での長距離かつ大量輸送を担う重要なインフラ産業です。輸送される対象物は、石油製品や鉄鋼などの金属、セメントといった産業基礎物資が大半を占めています。国内貨物輸送量全体に占める割合は約8%ですが、長距離輸送が多いため、トンキロベースでは約40%という極めて高いシェアを持っています。
現場で常に意識されるのが、元請であるオペレーターと、彼らに船を貸し出すオーナー(内航船舶貸渡業)によるピラミッド型の強固な業界構造です。全国にある事業者のうち、99.7%は中小企業が占めています。上位の大手オペレーターが荷主から仕事を受注し、中小のオペレーターやオーナーが下請けとして実務を担うという関係性が根付いています。
長期契約の主流と運賃の硬直性
この業界の取引形態において特徴的なのは、長期契約で利用する定期用船契約(支配船)が一般的であるという点です。小規模オーナーは特定のオペレーターへの依存度が高く、また荷主とオペレーターの関係も長年にわたって固定化されています。 そのため、需給バランスに応じて運賃が機動的に変動することは少なく、弾力性が低いという課題があります。近年の原油価格高騰に対しても、燃油サーチャージの導入や運賃引き上げ交渉が進められてはいるものの、急激なコスト増加分を完全に転嫁しきれない中小事業者は少なくありません。
一杯船主の減少とロールアップ買収の増加
このような硬直的な構造の中で、特に1隻のみを保有して事業を営むいわゆる「一杯船主」は急激な減少傾向にあります。登録貸渡事業者の約6割がこの一杯船主だと言われていますが、企業体力が脆弱であるため、単独での事業継続が年々困難になっています。 その一方で、資金力と経営体力のある大手企業による小規模船主の統合、いわゆるロールアップ買収の動きが目立ちます。スケールメリットを生かして船員の安定確保や安全運航の基準を満たすため、1社あたりの保有隻数を増やし、数十隻規模を運用するメガ船主へと再編が進む過渡期にあると言えます。支援現場でも、異業種から物流機能を取り込むための譲渡相談が後を絶ちません。
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内航海運会社が売却するメリットと課題
会社を譲渡することには多くの利点がありますが、この海運業界ならではの深刻な経営課題も同時に存在します。それぞれの側面を冷静に分析し、戦略を立てることが成功への第一歩となります。
会社売却におけるメリット・デメリット
譲渡の検討にあたっては、自社だけでなく相手方にとってのメリットやリスクもあらかじめ深く理解しておく必要があります。下表にそれぞれのメリットとデメリットをまとめました。
| 比較項目 | 譲渡オーナーのメリット | 譲受企業のメリット |
|---|---|---|
| 取引の対象 | ハッピーリタイアの確実な実現 後継者不在の深い悩みを解消し、手元に創業者利益を残して安心して引退できる。 従業員および船員の雇用確保 大手グループなどの強固な傘下に入ることで、安定した経営基盤と良好な雇用環境を維持できる。 船舶の近代化と事業の持続 資金力のある買い手による新船投資の可能性が広がり、会社が存続していく。 | 圧倒的なスケールメリットの獲得 船隊規模の拡大により、効率的な配船計画の立案や管理コストの削減が可能となる。 優秀な有資格船員の即時確保 慢性的な人手不足の中、経験豊富な海技士や船員を一度にまとまって確保できる。 優良な新規荷主の開拓 対象会社が長年築いてきた既存の長期契約や、優良な取引先基盤をそのまま引き継げる。 |
| 契約の引き継ぎ | 経営権と裁量の喪失 長年心血を注いで育てた会社の意思決定権を、完全に手放すことへの心理的抵抗が残る。 企業文化の変化による離職リスク 譲受企業の社風や厳格なルールが現場に導入され、船員に戸惑いや反発が生じるリスクがある。 | 多額の先行投資資金の負担 船舶の買収そのものに加え、老朽船の将来的なリプレースに巨額の資金が必要となる。 簿外債務や隠れた労務リスク 事前のデューディリジェンスで発見できなかった残業代未払いなどの労務問題を抱え込む恐れがある。 |
船員不足や従業員の高齢化による事業承継の懸念
内航海運における現在進行形の最大の経営課題は、間違いなく船員の確保です。船種によって状況に濃淡はあるものの、慢性的な人手不足に加えて船員全体の高齢化が急速に進んでおり、すでに小型船を中心として運航そのものに支障が出るケースも発生しています。 現場の肌感覚としても、高齢船員が一斉に退職する引退ラッシュが目前に迫っているという危機感は非常に強いものです。事業承継を目的とした会社売却では、こうした人に依存したリスクをいかに払拭するかが重要な鍵となります。
外国人材のマネジメントと働き方改革
買い手となる企業は、フィリピン人船員をはじめとする外国人材のマネジメント能力や、社内での若手教育体制の有無を極めて厳しくチェックします。さらに、法改正に伴う船員の労働時間の適正化や健康確保といった働き方改革への対応も求められます。これらをクリアし、特定のキーマンに過度に依存しない盤石な運航体制が構築されている会社は、評価が飛躍的に高まる傾向にあります。
SOx規制やLNG船などの環境対応投資の重圧
もう一つの重い課題が、世界的な環境規制への対応です。2020年以降、船舶燃料のSOx(硫黄酸化物)排出規制が本格化し、使用する燃料に含まれる硫黄分を従来の3.5%から0.5%へ大幅に引き下げることが義務付けられました。これに適合する低硫黄燃料などへの切り替えは、燃料費の増加に直結し、各社の利益水準を圧迫しています。
老朽船問題と脱炭素化に向けた新造船のハードル
さらに深刻なのが、業界全体が抱える老朽船問題です。一般的な内航船舶の法定耐用年数である14年を超える船齢の船舶が、全体の約7割にも上るとされています。 これからの時代、脱炭素社会の実現に向けてLNG(液化天然ガス)を動力とする輸送船や次世代エネルギー対応船へのリプレースが不可避となってきますが、それには数十億円単位の莫大な資金が必要です。単独での新造船投資に経営の限界を感じ、資金力と信用力のある大手海運会社や金融系企業へ会社を譲渡する決断を下すオーナーが増加しているのは、まさにこうした構造的な背景があるためです。
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内航海運会社の売却相場と株式評価
実際に自社を譲渡する際、どれくらいの企業価値として評価されるのかは経営者にとって最も関心の高い事項です。特殊な大型資産である船舶を持つ内航海運業には、独自の評価基準が存在します。
一般的な株式評価の手法と限界
非上場企業の株式を評価する際、一般的には会社の保有する純資産をベースにするコストアプローチや、将来生み出すと予測されるフリーキャッシュフローを現在価値に割り引くインカムアプローチといった計算式が用いられます。目安としては、時価純資産に営業利益の数年分を加算して算出されることが多いです。 しかし、内航海運業においてはこの一般的な机上の計算だけでは、実態に即した正しい企業価値を導き出すことは困難です。
内航海運会社における評価のポイント
当社のようなコンサルタントが支援現場で最も重視するのは、帳簿上の数字ではなく、保有する船舶そのものの市場価値と稼働状況です。船舶には独自の中古市場が形成されており、海運市況や鉄鋼価格の変動によって資産価値が大きく上下します。
船齢と将来の修繕リスクの算定
法定耐用年数を大幅に超えた老朽船を複数抱えている場合、将来的に必要となる大規模な修繕費や、新造船の建造負担が大きなマイナス評価として厳しく織り込まれます。逆に、適切なドック入りを経て日常的にメンテナンスが施され、トラブルなく高い稼働率を維持している船舶であれば、含み益を持つ優良資産として高く評価されます。
長期傭船契約の有無と有資格者の年齢構成
また、大手オペレーターや安定した特定荷主との間に、数年単位の強固な長期傭船契約(定期用船契約)が存在するかどうかも決定的な評価指標です。毎月の運賃収入が長期間にわたって安定して入ってくる見込みがあれば、買い手から見た将来のキャッシュフローのリスクが極めて低くなり、評価額は格段に跳ね上がります。 くわえて、優秀な工務監督や海技士などの必須資格保有者が、特定の年代に偏らずバランスの良い年齢構成で在籍しているかどうかも、事業の永続性を担保するプラス要因として高く評価されます。
内航海運の近年の譲渡事例
厳しい業界環境を生き抜くため、さまざまな形で譲渡や事業統合が行われています。下表に、海運業界における近年の代表的な譲渡事例をまとめます。
| 事例 | 概要 | 譲渡の背景と狙い |
|---|---|---|
| 三徳船舶の会社売却(2024年) | 総合金融サービスを展開するオリックスが三徳船舶を買収しました。企業価値ベースで約3000億円という、国内でもトップクラスの超大型案件です。三徳船舶は60隻以上の多様な船を保有し、海運会社への船舶貸し出しにとどまらず、精緻な運航管理や質の高い船員派遣といったソフト面で極めて強いノウハウを持っていました。 | オリックスは自社の既存のリース事業や金融ビジネスに、この海運特化のソフト面の強みを掛け合わせることで、他社との圧倒的な差別化を図る狙いがあったと推測されます。今後のLNG船など次世代環境対応船への巨額の投資資金の供給力や、世界的に広がる強固なネットワークとの強力なシナジーも高く評価された好例です。 |
| 双葉商会の会社売却(2024年) | ジャガイモ輸送などを手掛ける内航海運の双葉商会が、国内外の海陸一貫物流に強みを持つ総合物流企業の鶴丸海運に全株式を譲渡しました。創業70年を超える老舗でしたが、深刻な後継者不在に直面していました。 | 鶴丸海運は、この買収により中国地方における初めての物流拠点を確保し、既存業務の継続とともに新たな荷主の開拓を図るという明確な成長戦略がありました。事業の継続的な発展を見据え、150名を超える船員や従業員の雇用がしっかりと守られた、事業承継型の理想的な成功例と言えます。 |
| 泉汽船の会社売却(2015年) | 大手海運会社の第一中央汽船が、内航船主業を営む子会社の泉汽船の全株式を、外航海運と船主業を広く展開するリベラに対して約21億円で売却しました。 | 第一中央汽船が自社の事業ポートフォリオを根本から見直し、貨物輸送を主体とした不定期船事業へ経営資源を集中的に投下するための戦略的な譲渡です。買い手側のリベラにとっては、内航船主としての事業規模を一気に拡大し、グループ全体の相乗効果を見込んだものでした。グループ内の事業再編や選択と集中を目的とした譲渡を考える上で、非常に参考となる事例です。 |
会社売却に向けた手続とデューデリジェンス
いざ自社を譲渡する決断を下した場合、専門のアドバイザーを介して進める手続きのプロセスには、海運業ならではの特有の厳格な確認事項が存在します。
専門家の選定と最適なマッチング
手続きの第一歩は、海運業界の複雑な商慣習や船舶の評価に精通した仲介会社に相談することです。自社の企業価値を適切に算定した上で、規模の拡大や物流機能の取り込みによるシナジー効果を狙う最適な譲受企業の候補を選定し、水面下でマッチングを図ります。
労務状況と船舶の徹底的な精査
相手方と基本合意に至った後に実施されるデューディリジェンスは、売却の成否を分ける極めて重要なフェーズです。法務や財務に関する一般的な調査はもちろんのこと、特に船舶の技術的な詳細評価や過去のメンテナンス履歴が細かく精査されます。 また、船員の過酷な労働環境に起因する未払い残業代の有無や、労務管理の実態なども厳しく確認されます。現場では、この段階で致命的な隠れリスクが発覚して交渉が破談になるケースも実際に存在するため、売り手側からの事前の透明な情報開示が絶対に欠かせません。
契約締結と円滑なクロージング
すべての厳しい条件と調査をクリアし、双方が合意に至れば、最終的な株式譲渡契約や事業譲渡契約を締結します。その後、速やかに経営権の移転と資金決済が行われ、手続は完了となります。
完全成功報酬制(料金体系)
完全成功報酬制
M&Aが成立した場合のみ、譲渡対価に応じた手数料を頂戴します。
売主様は、ご成約まで費用負担なくスタートできます。
着手金・中間金
0円
月額報酬
0円
成功報酬
成約時のみ
※レーマン方式
内航海運の会社売却に関するFAQ
内航海運会社のオーナー経営者の皆様から日々の面談でよく寄せられる切実な疑問について、実務の観点から率直にお答えします。
十分に評価されます。現場ではまず、保守状況と向こう数年間の稼働見込みを確認します。船が古くても安定した定期用船契約が付いており、現役で収益を生み出していれば資産価値は認められます。ただし、将来の修繕費や代替建造の費用は価格交渉の材料となるため、日頃の適切なメンテナンス記録が重要です。
原則としてそのまま引き継がれます。慢性的な人材不足に悩む買い手企業にとって、経験豊富な船員や海技士は喉から手が出るほど欲しい資産です。契約書に雇用の維持を明記することが基本ですが、賃金体系の統合時期などは相手先の制度次第となるため、交渉段階での丁寧なすり合わせが必須です。
可能です。株式譲渡のスキームを用いれば、借入金などの負債も含めて会社全体を買い手が引き継ぎます。経営者個人の連帯保証も、クロージングと同時に解除されるのが一般的です。一時的な赤字であっても、荷主との取引基盤や船舶自体の価値が高ければ、買い手は十分に魅力を感じます。
内航海運に精通したM&A仲介会社|みつきコンサルティング
内航海運業界では、深刻な船員不足や脱炭素に向けた環境投資負担を背景に、事業承継や会社の譲渡による業界再編が加速しています。老朽船の評価や長期用船契約の扱いなど特有の論点を正しく見極めることが企業価値の最大化に直結します。長年会社を守り抜いてきた経営者の不安に寄り添い最良の道筋をご提示します。
税理士法人グループである当社は、中小企業の財務を知り尽くした豊富な支援実績を持っています。複雑な船舶の評価や労務リスクの精査にも専門的に対応いたします。内航海運会社の売却なら、みつきコンサルティングへぜひご相談ください。
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著者

- 事業法人第一部長/M&A担当ディレクター
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みずほ銀行にて大手企業から中小企業まで様々なファイナンスを支援。みつきコンサルティングでは、各種メーカーやアパレル企業等の事業計画立案・実行支援に従事。現在は、IT・テクノロジー・人材業界を中心に経営課題を解決。M&Aの成約実績多数、M&A仲介・助言の経験年数は10年以上
監修:みつき税理士法人
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