食品メーカーのM&A|業界環境・目的・2024年までの成約事例

中小の食品製造会社では、アイテムの拡充、商圏の拡大、販売チャネルの確保を目的としたM&Aが増加しており、今後も増加すると見込まれます。本記事では、食品製造業界の業界情報や外部環境、M&A動向、実際に行われた食品製造業界のM&A事例を解説します。

食品製造業界とは

最初に食品メーカー業界がどのような業界か、簡単に説明します。

食品メーカーは、食品を製造して販売します。具体的には、原材料を購入して工場などで食品や飲料を製造し、最終的に販売することで利益を得る業界を指します。 経済産業省の定義や業界内での見解としては、以下のいずれかを製造している事業者は食品製造業者に該当します。 

  • 畜産食料品 
  • 水産食料品 
  • 野菜缶詰、果実缶詰、農産保存食料品 
  • 調味料 
  • 糖類 
  • 精穀、製粉 
  • パン、菓子 
  • 動植物油脂 
  • その他の食料品 

代表的な大手企業としては、味の素、日本ハム、明治ホールディングス、森永乳業などが挙げられます。 

業界特性

食品メーカーの特性は以下のようなものになります。

仲介者の多い流通構造 

食品製造業界は加工業者、卸売業者、飲食店、小売業者などがそれぞれ分かれているケースが多いです。このように多くの業者を仲介している特徴があります。 

安全性への配慮が重要 

食品は消費者が食べるものなので、他の業界と比べて安全性への配慮が重要です。もし異物が紛れ込んでいる、病原菌が発生している、原料が腐っているといったことが起こると信用を失ってしまいます。このような事態を防ぐには、安全面にコストを割く必要があります。 

原料の多くを輸入に頼っている 

日本は食糧自給率が低く、原料の多くを輸入に頼っています。そのため、国外に資金が流出するだけでなく、賞味期限や消費期限が短くなるデメリットもあります。 

時期や作物の出来具合によって入手できる量が変化する 

食品は季節や年度によって出来具合が変化するため、入手できる量が変わります。また生産量や必要な人員数も変わりますますので、コストを適切に調整する取り組みが求められます。 

賞味期限における対応や扱いが難しい 

賞味期限は消費期限とは異なり、まだ食べることは可能だが品質は劣化しているという期限です。賞味期限や消費期限への対応は、消費者庁「食品表示基準について」等で定義されています。しかし、「消費期限又は賞味期限については、食品の特性等を十分に考慮した上で、客観的な試験・検査を行い、科学的・合理的に設定すること」と記載されているだけで、具体的に決まっているわけではありません。 

基準に従って企業が設定するということですので、対応や扱いが難しくなります。 

業界の課題 

食品メーカーが抱える課題は以下のようなものです。

人口減少 

日本の人口が減れば、食品製造業の市場も小さくなります。また高齢化が進めば一人当たりの食品消費量が減るため、今後ますます市場が縮小する可能性があります。 

自炊する人の減少 

共働きや単身者の人が増え、自炊する人が減っています。その結果、食品が売れにくくなっている現状です。 

低利益率、低成長率 

食品製造業は大量生産大量消費を前提としており、他の業者と価格競争になります。また飲食店のような差別化は難しい傾向にありますので低利益率になりやすく、成長率も低くなります。 

費用高騰 

食品製造業では原料費、人件費、物流費が高騰しています。もともと利益率が低いところに費用が高騰しているので、より厳しい状況になっています。

食品メーカーの外部環境

食品製造企業を取り巻く環境を見ていきます。

市場規模

財務省の法人企業統計調査によると、2021年度の食品製造業の売上高は、前年比1.2%減の41兆6,385億円、営業利益率は前年比26.1%増の2.9%でした。2018~2020年までは市場規模は縮小傾向にありましたが、2021年度は拡大傾向に転じました。 

食品製造業の中で売上高の大きい企業に焦点を当てると、業界動向リサーチによると、2021~2022年では売上高を伸ばしている企業が多いです。具体的には日本ハム、味の素、山崎製パン、マルハニチロ、伊藤ハム米久HD、日本水産、ニチレイなどは売上高を伸ばしています。 

競合する業態 

食品製造業の競合として、飲食業が思い浮かぶかもしれません。しかし、飲食業は食品製造業と競合にはならない可能性が高いです。なぜなら、料理する習慣がなくなったとしても自炊をするかどうかは個人の習慣に依存する部分が大きいため、食品製造業の競合になる事態は考えづらいからです。 

では食品製造業にとっての競合はどこなのでしょうか。それには、海外の食品製造業が考えられます。なぜなら、海外から輸入が増えれば日本の食品製造業は不利になるからです。 

食品メーカーがM&Aする目的 

食品製造業では、同業者同士でのM&Aが活発です。食品製造業は基本的に事業規模が大きいほど生産効率性が高く、コスト削減を図りやすくなります。具体的には、譲渡側と譲受側でそれぞれ以下のような狙いがあります。 

譲渡側の目的

  • 経営、雇用の安定化 
  • 事業成長機会の獲得 
  • 事業の選択と集中 
  • 後継者不在問題の解消 
  • 経営再建 
  • 資金調達 

譲受側の目的

  • 事業拡大 
  • 強みや弱みの事業補完 
  • 流通経路の効率化 
  • 新たな分野への事業進出 
  • 市場の変化に対するリスク分散 
  • 消費者ニーズへの対応力強化 
  • 海外事業の強化 

食品メーカーのM&A事例

食品製造業のM&Aで具体的な事例をご紹介します。 

成約事例一覧

2022年~2024年途中までに譲渡が実行された食品製造会社の主なM&A事例は以下のとおりです。

食品製造業界のM&A成約事例の一覧・リスト

個別事例

幾つかの個別のM&A事例を紹介します。

ダスキンによる蜂屋乳業の売却 

清掃事業で有名なダスキンが、傘下に食肉の加工・販売、外食を手がける子会社を抱える持ち株会社であるバンリューに対し、子会社である蜂屋乳業を売却した事例です。売り手側も買い手側も食品製造業ではありませんでしたが、売買された蜂屋乳業が食品製造業でした。なお、蜂屋乳業はアイスクリームなどをOEM製造している企業であり、ダスキンにとっては事業の選択と集中を目的とした譲渡です。 

三井物産による五洋食品産業の子会社化 

五洋食品作業は、フローズンスイーツの製造販売を主軸にしている企業です。三井物産は三井グループの大手総合商社であり、食品製造業を買収して海外展開を狙った事例です。 

三光マーケティングフーズによる海商の全事業取得 

海商は魚を中心に小売業を手掛けている企業です。三光マーケティングフーズは、食店経営、水産業などを手掛ける企業です。M&Aにより、三光マーケティングフーズは魚中心の小売業と水産業のシナジー効果を狙っていると考えられます。 

フジッコによるフーズパレットの買収 

フジッコは健康食品の素材や豆を販売している企業です。ふじっ子のおまめさんが有名でしょう。またフーズパレットは、中華総菜を販売している企業です。フジッコは総菜事業も強みとしているため、フーズパレットを買収することでさらなる事業強化を狙いました。 

食品メーカーのM&Aのまとめ 

食品製造業において、今後M&Aはより活発化すると考えられます。それには以下の理由が挙げられます。 

  • 多角化を目指して同業他社が参入する 
  • 海外進出に積極的になっている 
  • 異業種からの新規参入が増えている 
  • 社会に不可欠な業界にもかかわらず、生産性の向上が進んでいない 

また少子高齢化や後継者不足などの影響からM&Aが増加することが考えられます。つまり売り手希望も買い手希望も増加し、結果的にM&A市場が盛り上がると予測されます。 

著者

西尾崇
西尾崇事業法人第三部長
宅食事業を共同経営者として立ち上げ、CFOとして従事。みつきコンサルティングでは、会計・法務・労務の知見を活かし、業界を問わず、事業承継型・救済型・カーブアウト・MBO等、様々なニーズに即した多数の支援実績を誇る。
監修:みつき税理士法人

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