ジュエリー業界の売却|地金の含み益と犯収法の備えが問われるM&A

ジュエリー業界の会社売却では、金とプラチナの高騰で膨らんだ地金在庫の含み益を、どう譲渡価格に乗せるかが最初の分かれ目です。天然ダイヤの評価、犯収法(犯罪収益移転防止法)の取引時確認、販売員に付いた顧客の承継まで、宝飾店オーナーが見落としやすい論点を、税理士法人グループのM&A仲介会社が実務の目線で解説します。

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目次
  1. 金とプラチナの高騰に揺れる宝飾業と会社売却の広がり
    1. 宝飾品の小売市場は1兆円台を保つが伸びの中身は単価
    2. 製販一貫の大手と仕入れ中心の中小宝飾店との体力差
    3. ブライダルリングの単価上昇が示す需要の底堅さ
  2. 宝飾店オーナーが会社売却に傾く事情
    1. 地金の仕入資金が膨らみ借入と個人保証が重くなる
    2. 上顧客が店ではなく販売員個人に付いている
    3. 百貨店や商業施設での出店条件の変化と催事頼みの売上
  3. 地金の含み益とダイヤの含み損が同居する宝飾在庫の評価
    1. 年買法で宝飾店の譲渡価格の目安をつかむ
    2. K18やPt900の製品在庫は地金相場で引き直すと簿価を上回る
    3. 天然ダイヤのルースと色石は鑑別書と仕入年度で評価が割れる
    4. 在庫の区分ごとに評価が動く方向を一覧にする
  4. 買い手が宝飾専門店の数字で確かめる視点
    1. 在庫回転日数と仕入年度別の在庫残高
    2. ブライダル売上の比率と1組あたりの成約単価
    3. 修理・リフォーム・下取りの売上が示す顧客とのつながり
    4. 顧客台帳の登録数と販売員別の売上構成
  5. 売り手から見た宝飾店の会社売却のメリットとデメリット
    1. 地金相場が高いうちに売るという判断の考え方
    2. 顧客離れのデメリットを小さくする準備
  6. 犯収法の取引時確認とダイヤ輸入規制は売却前の点検項目
    1. 200万円を超える現金取引では本人確認と7年間の記録保存が要る
    2. 下取りや買取をする宝飾店は古物商許可の扱いを確かめる
    3. ルースを直輸入しているならロシア産ダイヤの規制と証明書類を保管する
    4. 確認記録の欠落は表明保証と価格調整に跳ね返る
  7. 宝飾店の買い手候補になりやすい相手とその狙い
    1. 同業の宝飾チェーンは店舗網と販売員を求めている
    2. 純金ジュエリー事業を切り出して譲り受けた事例
    3. 宝飾大手がリユース事業を取り込んだ事例
    4. 呉服店や時計店、投資ファンドという選択肢
  8. 宝飾店の売却交渉でつまずきやすい販売員と借入の論点
    1. ベテラン販売員への説明は時期と順番を決めてから
    2. 在庫を見合いにした借入と個人保証の外し方
    3. 帳簿の在庫と金庫の実物を合わせておく
  9. 宝飾業のオーナーから寄せられる会社売却の質問
  10. 宝飾業の地金在庫と売却相談先選び
    1. 宝飾業の会社売却の関連コラム

本記事は、宝飾品の専門店や製販一貫の宝飾会社を営み、会社売却を考え始めたオーナー経営者に向けたものです。金やプラチナの相場が上がり、決算書の在庫と実際の価値が大きく離れている会社は珍しくありません。天然ダイヤのルースの値崩れ、200万円を超える現金取引の本人確認記録、上顧客が販売員個人に付いている状態など、この業界ならではの論点が価格と交渉に響きます。

金とプラチナの高騰に揺れる宝飾業と会社売却の広がり

市場の数字が伸びても、店に残る利益が増えるとは限りません。M&Aが広がる背景を、この違いから見ていきます。

宝飾品の小売市場は1兆円台を保つが伸びの中身は単価

矢野経済研究所の「宝飾品(ジュエリー)市場に関する調査」(2025年11月公表)は、2025年の国内宝飾品小売市場を前年比106.8%の1兆2,070億円と予測しています。押し上げ役は、金地金とプラチナの急騰を受けた各社の価格改定による製品単価の上昇。低価格帯の需要増やブライダルの持ち直しも挙げられていますが、伸びの主因が相場連動の単価である以上、相場が落ち着けば市場の数字も落ち着く可能性を見ておく必要があります。

製販一貫の大手と仕入れ中心の中小宝飾店との体力差

大手は原石や地金を自ら調達し、企画から販売まで手がける製造小売へ移ってきました。一方で総務省・経済産業省「経済センサス」を見ても、この業界は小規模な事業者が大半を占める分散型の構造です。問屋やメーカーから製品を仕入れて売る宝飾店にとって、地金高騰は仕入単価の上昇に直結します。売価への転嫁が遅れれば粗利が削られ、在庫を保つ運転資金も膨らむばかり。規模の差が、相場の局面でそのまま体力の差になりやすい業界で、大手グループへの合流が中小企業のM&Aの選択肢として浮かびます。

ブライダルリングの単価上昇が示す需要の底堅さ

同じ調査では、エンゲージメントリングの平均価格が2023年の30万4,000円から2024年(速報)には31万8,000円へ、マリッジリング(1人当たり)は2019年の7万6,000円から2024年(速報)の13万3,000円へ上がりました。値上げ後も買われる商品を持つ店は、譲受企業から見て収益の読みやすい存在です。ブライダルに強い専門店の会社売却が、同業や周辺業種の関心を集めやすいのはこのためでしょう。

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宝飾店オーナーが会社売却に傾く事情

「業績が悪いから売る」と思われがちですが、黒字のうちに相談に来る宝飾店も少なくありません。売却に傾く事情は、むしろ相場と人に絡んでいます。

地金の仕入資金が膨らみ借入と個人保証が重くなる

金の参考小売価格が数年で2倍を超える水準まで上がると、同じ品ぞろえを保つだけで仕入に回すお金が大きく増えます。多くの宝飾店は運転資金を銀行借入でまかない、その借入にはオーナーの個人保証が付いたまま。相場が上がるほど保証の重みも増す構図に、60代や70代の経営者が不安を覚えるのは自然なことです。親族内の事業承継が難しい場合、第三者への売却で保証を外す道を考え始めます。

上顧客が店ではなく販売員個人に付いている

宝飾品は購入の間隔が長い商品で、誕生日や結婚記念日の提案は、長年担当してきた販売員の記憶と顧客カードが頼りです。そのベテランが高齢になり、若手の採用も思うように進まないまま。担当者が辞めた途端に上顧客の足が遠のいた経験を持つオーナーは、属人化した売上をどう次の世代へ渡すかで悩みます。自社で育て直す時間がないと判断したとき、販売体制ごと引き受けてくれる相手を探す発想に切り替わるケースは珍しくありません。

百貨店や商業施設での出店条件の変化と催事頼みの売上

百貨店のテナントやショッピングセンターの区画に頼る宝飾店は、施設の改装や売場縮小のたびに退店か移転かの判断を迫られます。路面店を持たない会社ほどホテルでの展示会や外商催事の比重が高まり、集客を外部の販売応援に頼る形にもなりがち。こうした売上は数字として立っていても、段取りが属人的なため、次の経営者が再現できるかは不透明です。会社を売りたいと考えるきっかけが、施設側の契約更新だったという相談もあります。

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地金の含み益とダイヤの含み損が同居する宝飾在庫の評価

「在庫が多いと高く売れるのか、それとも嫌われるのか」。答えは中身次第。宝飾店の譲渡価格の相場は、在庫の見直しで大きく動きます。

年買法で宝飾店の譲渡価格の目安をつかむ

会社の値段の出し方には、将来の収益から逆算するDCF法や、上場企業の株価と比べる類似会社比較法などの手法があるものの、中小の宝飾店で最もよく使われるのは年買法(年倍法)で、「時価純資産+のれん」で目安を出します。のれんは数年分の利益を上乗せする考え方です。宝飾店では時価純資産の大部分を商品在庫が占めるため、帳簿の金額をそのまま使うと実態から大きくずれることがあります。

K18やPt900の製品在庫は地金相場で引き直すと簿価を上回る

金やプラチナの製品在庫は、原則として仕入れたときの原価で決算書に載っています。田中貴金属工業が公表する金の参考小売価格(税抜・月平均)は、2023年1月の1グラム8,024円から2026年8月には2万2,660円と約2.8倍になりました。数年前に仕入れたK18のチェーンやPt900のリングは、地金の価値だけで簿価を上回っているかもしれません。この差は時価純資産を押し上げる材料になる一方、相場は日々動くため、いつの価格で評価するかを契約前に決めておく必要があります。

天然ダイヤのルースと色石は鑑別書と仕入年度で評価が割れる

地金とは逆に、値下がりの懸念を抱えるのがダイヤモンドです。研究所で作られるラボグロウンダイヤモンドの普及により、小粒や標準的なグレードの天然ダイヤは相場が軟調とされています。長く店頭に置いてきたルースや、書類の付いていない色石は、譲受企業が時価を低く見積もりやすい資産。仕入年度ごとに在庫を分け、どの石にどの機関の書類が付いているかを一覧にしておけば、評価の目減りを抑える交渉材料になります。

鑑別書と鑑定書の違い

鑑別書は、宝石の種類や天然か合成かを判定する書類です。鑑定書はダイヤモンドに限って発行され、カラット・カラー・クラリティ・カットの4つの基準でグレードを示すもの。ルースの評価では、どちらが付いているか、発行機関はどこかが見られます。

在庫の区分ごとに評価が動く方向を一覧にする

支援現場では、K18やPt900の製品在庫を品番ごとに地金の重量で拾い直し、仕入時の単価と足元の相場との差を一覧にしてから譲受企業に示すのが基本です。含み益を口頭で主張しても、根拠がなければ価格に反映されにくいためです。天然ダイヤや色石は反対に、書類の有無と仕入年度で区分し、目減りの幅を先に開示します。下表は、在庫の区分ごとに評価が動きやすい方向と、照合される資料をまとめたものです。

宝飾店の在庫区分決算書での扱い時価で見直したときの方向照合される資料
地金製品(K18・Pt900のチェーンやリング等)仕入時の原価で計上相場の上昇局面では上振れしやすい品番別の重量表
仕入伝票
天然ダイヤのルース・ダイヤ製品原価で計上
評価損を計上していない例もある
小粒・標準グレードや長期滞留品は下振れしやすい鑑定書
仕入年度別の在庫表
色石・真珠原価で計上書類の有無や品質で個別に差が出る鑑別書
真珠のサイズ・品質表示
ブライダルのサンプル・既製品原価で計上デザインが古いサンプルは下振れしやすい型番別の販売実績
問屋やメーカーからの預り品自社の在庫には含めない評価の対象外だが混在すると差異の原因になる預り品台帳
取引条件の書面

買い手が宝飾専門店の数字で確かめる視点

売上高と利益だけを資料にまとめ、面談で質問攻めにあうオーナーは少なくありません。宝飾店ならではの指標を先にそろえておきましょう。

在庫回転日数と仕入年度別の在庫残高

宝飾品は1点の単価が高く、売れるまでに時間がかかる商品です。そのため譲受企業は、年間の売上原価に対して在庫を何日分抱えているかという在庫回転日数を早い段階で確かめます。あわせて見られるのが、仕入年度ごとの在庫残高。3年以上動いていない商品が多いと品ぞろえが古いと受け止められ、値引き販売や地金への溶解を前提とした評価になりがちです。回転の遅い商品を催事で入れ替えてきたなら、その実績も一緒に示すと説得力が増します。

ブライダル売上の比率と1組あたりの成約単価

婚約指輪と結婚指輪の売上が全体の何割を占め、1組あたりいくらで成約しているかは、収益の安定度を示す材料です。ブライダルは来店予約から成約までの記録が残りやすく、成約率や来店経路のデータがそろう店ほど、譲受企業は将来の売上を読みやすくなります。一方、ファッションジュエリー中心の店では客単価と購入頻度が評価の軸。どちらが優れているという話ではなく、自社の強みがどちらにあるかを数字で示せるかが問われます。

修理・リフォーム・下取りの売上が示す顧客とのつながり

指輪のサイズ直しやネックレスの修理、古いジュエリーのリフォーム、下取りを使った買い替えの売上は、額こそ小さくても顧客が店に戻ってきている証拠です。新品の売上が落ちた年でも、こうした付帯売上が安定していれば、顧客基盤は崩れていないと説明できます。譲受企業がリユースや買取の事業を持っている場合、下取り品の入荷量が仕入ルートの価値として受け止められることも。部門別に売上を分けて集計しておくと、面談での説明が格段に楽になります。

顧客台帳の登録数と販売員別の売上構成

顧客カードや会員システムに何人が登録され、そのうち直近2年で購入があるのは何人か。この数字が、店の企業価値を支える土台を示します。もう一つ見られるのが、販売員ごとの売上の偏りです。上位1人か2人で売上の半分近くを占めていると、その人が辞めたときの落ち込みを見込んで、のれんが割り引かれるおそれがあります。偏りがあるなら、顧客情報を会社のシステムに移し、複数人で担当する体制に切り替えた経過も説明できるようにしておきたいところです。

売り手から見た宝飾店の会社売却のメリットとデメリット

メリットとデメリットは表裏の関係にあります。下表に、ジュエリー業界の譲渡オーナーに関わりの深い項目を並べました。

譲渡オーナーのメリット譲渡オーナーのデメリット
地金の含み益を価格に反映できる
相場が高い局面では、在庫を時価で評価し直すことで時価純資産が厚くなりやすい
相場が下がると価格交渉がやり直しになる
評価の基準日から実行日までに金価格が動くと、条件の見直しを求められることがある
借入と個人保証の不安から離れられる
金融機関との協議を経て、保証の差し替えや借入の返済で個人保証を外せる
ダイヤや色石の滞留在庫は目減りを求められる
書類のない石や長く売れていないルースは、時価を低く見積もられやすい
販売員の雇用と顧客へのアフターサービスが続く
店を閉じずに済むため、サイズ直しや修理を頼りにする顧客を裏切らない
販売員に付いた顧客が離れるおそれがある
担当者の退職や接客方針の変化をきっかけに、上顧客の来店が減ることがある
仕入力のある相手の下で品ぞろえを保てる
譲受企業の調達網や資金力を使い、地金高騰の影響を和らげやすくなる
屋号やブランドの扱いを相手に委ねる
長年親しまれた店名や自社ブランドが、統合の過程で変わる可能性がある
犯収法対応などの管理負担を分け合える
本人確認や記録保存の体制を、譲受企業の管理部門と一緒に回せる
記録の不備が見つかると条件が厳しくなる
確認記録や古物台帳の欠落は、補償条項や価格の引き下げにつながりやすい
譲渡益を老後の資金や相続の備えに回せる
株式の譲渡益は申告分離課税で、税率はおおむね20%にとどまる
長年の問屋との取引が縮むことがある
譲受企業が仕入先を集約すると、付き合いの深い問屋やメーカーとの取引量が減る

地金相場が高いうちに売るという判断の考え方

相場が高い今のうちに売るべきか、という相談はよくあります。含み益を価格に反映しやすい局面なのは確かですが、譲受企業も相場の反落を織り込んで評価するため、ピークの価格がそのまま認められるとは限りません。効いてくるのは、在庫を地金の重量で示せる資料と、相場に合わせた値付けを続けてきた実績です。価格改定のたびに粗利率を守ってきた店は、相場が下がっても利益を出せる店として見られます。M&A仲介の担当者と、評価の基準日をどこに置くかも含めて話し合っておくと安心です。

顧客離れのデメリットを小さくする準備

デメリットの中で、宝飾店のオーナーが特に気にかけるのは顧客離れでしょう。長年の上顧客ほど、担当販売員の退職や店名の変更に敏感です。対策として、公表前に顧客情報を会社の管理下へそろえ、成約後も一定期間はオーナーが店頭に立って引継ぎを行う約束を契約に盛り込む方法があります。店名を当面残すかどうかも、交渉で取り決められる事項の一つ。引継ぎの期間や役割を譲受企業と具体的に詰めておくほど、売上の落ち込みは抑えやすくなります。

犯収法の取引時確認とダイヤ輸入規制は売却前の点検項目

宝飾店は、銀行や不動産業者と同じく犯罪収益移転防止法の特定事業者です。記録の不備はデューデリジェンスで真っ先に指摘されます。

200万円を超える現金取引では本人確認と7年間の記録保存が要る

犯罪収益移転防止法は、代金を現金で200万円を超えて受け取る宝石・貴金属等の売買について、宝石・貴金属等取扱事業者に顧客の本人確認(取引時確認)を義務づけています。確認した内容と取引の記録は、作成したうえで7年間の保存が必要。金額を抑えるために1回の取引を分けていることが明らかな場合は、まとめて1つの取引とみなされます。現金以外や200万円以下でも、疑わしい取引は届出の対象です。高額品の現金払いが多い店ほど、記録の抜けがないか見直しておきたいところ。

下取りや買取をする宝飾店は古物商許可の扱いを確かめる

中古の貴金属やジュエリーを下取り・買取している店は、古物営業法の古物商許可を受けているはずです。株式譲渡であれば許可を受けた法人がそのまま残るため、役員が替わった際は変更の届出で足ります。これに対し事業譲渡では許可は引き継がれず、譲受企業が営業所ごとに取り直すことに。古物台帳の記載や、盗品の疑いがある品を警察へ申告する運用も見られます。許可の名義が会社かオーナー個人かも、早めに見ておきましょう。

ルースを直輸入しているならロシア産ダイヤの規制と証明書類を保管する

海外からダイヤモンドを直接仕入れている会社は、輸入規制への対応も点検の対象です。日本は2024年1月1日からロシアを船積地域とするダイヤモンドを輸入承認の対象とし、第三国で加工されたロシア産も、2024年5月10日から1カラット以上、同年10月2日からは0.5カラット以上が輸入禁止となりました。経済産業省は2024年9月に輸入事業者向けの指針を示し、ロシア産を扱わない旨の自己宣誓と、キンバリー・プロセス証明書など原産国を示す書類の保管を求めています。

確認記録の欠落は表明保証と価格調整に跳ね返る

税理士法人グループのM&A仲介会社であるみつきコンサルティングでは、宝飾店の売却準備の段階で、200万円超の現金取引の確認記録と古物台帳を抜き出して点検し、欠落があれば譲受企業へ開示する前に整えるよう助言しています。成約後に不備が見つかると、表明保証(契約時に法令違反がないと約束する条項)の違反として補償を求められるおそれがあるためです。開示済みの事項を補償の対象から外す交渉もできるので、隠さず先に出すほうが結果として条件を守りやすくなります。

宝飾店の買い手候補になりやすい相手とその狙い

「同業に知られずに相手を探せるのか」という心配をよく聞きます。実は候補は、同業の宝飾チェーンに限られていません。

同業の宝飾チェーンは店舗網と販売員を求めている

同業の宝飾チェーンが注目するのは、自社が出店できていない地域の店舗と、接客経験を積んだ販売員です。宝飾品の販売員は商品知識と顧客との信頼関係を築くのに時間がかかり、採用だけで補うのは簡単ではありません。ブライダルに強いチェーンなら婚約指輪の来店客を、ファッションジュエリー中心のチェーンなら百貨店や商業施設の売場を評価する傾向があります。仕入先の問屋が重なっていれば、仕入条件の一本化による原価の引き下げも狙えるでしょう。

純金ジュエリー事業を切り出して譲り受けた事例

地金への関心を示す例が、ジュエリーや時計などのアニバーサリーショップを全国に展開するハピネス・アンド・ディの動きです。同社は2024年4月に純金商品を企画製造するRAIN(東京都台東区)と業務提携し、2025年11月26日にはRAINの純金(24K)ジュエリーブランド「JUNGOLD」事業を3,000万円で譲り受ける基本合意を公表しました。金の実需と資産需要の高まりを背景に、地金ジュエリーの品ぞろえ拡充や製造と販売の相乗効果を狙っています。提携で相性を試してから譲り受けた順番も参考になります。

宝飾大手がリユース事業を取り込んだ事例

ジュエリーブランド「4℃」を展開するヨンドシーホールディングスは、2024年10月11日、高級ブランド時計のリユース事業を営む羅針(東京都中央区)の株式97.2%を取得すると決め、同年12月2日に株式譲渡を実行する予定と公表しました。株式の取得価額は104億9,200万円で、狙いはブランド事業の領域拡大と付加価値の向上です。新品と中古の境目が薄れるなか、下取りや買取の仕組みを持つ宝飾店は、同業からもリユース事業者からも関心を持たれやすくなっています。

呉服店や時計店、投資ファンドという選択肢

矢野経済研究所の宝飾品市場の調査は、宝石専門店チェーンに加え、百貨店や時計宝石店、呉服などの異業種から宝飾に参入した企業も対象に含めています。富裕層の顧客を抱える呉服店や時計店にとって、宝飾品は客単価を上げやすい隣接商材です。投資ファンドが、複数の宝飾店をまとめて仕入と管理を効率化する構想で関心を示すこともあります。候補をどこまで広げられるかは依頼する仲介会社の探索範囲で変わるため、同業以外の打診先も確かめておきましょう。

宝飾店の売却交渉でつまずきやすい販売員と借入の論点

価格の話がまとまった後に、人と借入の問題で交渉が止まることがあります。宝飾店で起こりやすい場面を取り上げます。

ベテラン販売員への説明は時期と順番を決めてから

当社の支援実績を振り返っても、小売業の譲渡オーナーが最後まで気にかけるのは、店の顔となってきた従業員が残ってくれるかどうかです。宝飾店では、上顧客を担当するベテラン販売員が1人抜けるだけで、ブライダルや外商催事の売上が目に見えて落ちることもあります。そこで基本合意の後、譲受企業の経営方針と処遇の条件が固まった段階で、店長やベテラン販売員へ個別に説明する順番を提案しています。噂が先に広がれば、顧客にまで不安が伝わりかねません。

在庫を見合いにした借入と個人保証の外し方

宝飾店の借入には商品在庫を見合いにした運転資金が多く、オーナーの個人保証も付いています。株式譲渡では会社の借入がそのまま残るため、個人保証を外すには金融機関の同意が欠かせません。一般的には、譲受企業が借入を肩代わりして返済するか、譲受企業の信用力で保証を差し替える方法が取られます。どちらを選ぶかで譲受企業が用意する資金が変わり、価格交渉にも影響するもの。成約日に保証が確実に外れるよう、金融機関との協議を早めに日程へ組み込んでおくことが肝心です。

帳簿の在庫と金庫の実物を合わせておく

宝飾品は小さく高価なため、帳簿の在庫と店頭や金庫の実物が合っているかは、財務デューデリジェンスで細かく見られます。棚卸が年1回だけ、サンプルや貸出中の商品が帳簿から漏れている、といった状態では差異の説明に時間を取られがちです。品番ごとにタグで管理し、店舗間の移動や催事への持ち出しを記録していれば、確認の手間は大きく減ります。売却を決める前の決算期に、実地棚卸を一度丁寧に行っておくと安心でしょう。

M&Aが成立した場合のみ、譲渡対価に応じた手数料を頂戴します。
売主様は、ご成約まで費用負担なくスタートできます。



宝飾業のオーナーから寄せられる会社売却の質問

本文で触れきれなかった、ジュエリー業界ならではの質問に答えます。

Q:契約から実行までに金価格が大きく動いたら譲渡価格はどうなりますか?

契約書の定め次第です。現場では、在庫を評価する基準日を決めたうえで、実行日までの相場の変動をどう扱うかを事前に取り決めます。変動が一定の幅を超えたときだけ価格を見直す条項を入れる方法や、地金在庫の重量をもとに実行日の相場で精算する方法があります。何も決めずに進めると、相場の急変で交渉がやり直しになりかねません。

Q:預かっている修理品や販売時に約束した無料サイズ直しは引き継がれますか?

株式譲渡なら会社がそのまま残るため、預り品の保管責任や保証の約束も会社に残ります。実務では預り品台帳と保証書の発行控えを突き合わせ、件数と内容を譲受企業に開示するのが通例。事業譲渡では、どの約束を譲受企業が引き受けるかを契約で個別に決めることになります。台帳がなければ、準備の段階で作っておきましょう。

Q:百貨店に出店していますが会社を売ると売場の取引口座はなくなりますか?

株式譲渡であれば取引の相手である会社は変わらないため、原則として口座は続きます。ただし出店契約に、株主や代表者が変わるときの通知や承諾を求める条項があれば、その手順を踏む必要があります。事業譲渡では、譲受企業が改めて口座開設の審査を受けることに。契約書の条項と百貨店側の方針次第なので、打診前に契約書の写しをそろえておくと話が早く進みます。

Q:ラボグロウンダイヤモンドを扱い始めましたが売却の評価で不利になりますか?

扱い自体が不利になるとは限りません。当社がまず見るのは、天然と合成を明確に区分して表示・保管しているかどうか。低価格帯の集客策として粗利が確保できていれば、若い顧客層を持つ店として評価される余地もあります。みつきコンサルティングでは、ジュエリー業界の商品構成の変化が価格にどう響くかを個別にお伝えしています。

税理士法人を母体とするM&A仲介会社|みつきコンサルティングが選ばれる理由

宝飾業の地金在庫と売却相談先選び

宝飾店の売却では、地金在庫の含み益と天然ダイヤの目減りを分けて示すこと、犯収法の確認記録や古物商許可を点検すること、販売員に付いた顧客を会社へ引き継ぐことが、価格と交渉の行方を分けるカギ。長年守ってきた店と顧客をどう託すか、迷うのは当然のことです。

財務・税務に強いM&A仲介会社のみつきコンサルティングは、中小企業のM&A仲介の実績経験が豊富で、宝飾在庫の評価など業種に特化した論点にも専門チームが向き合います。相談先選びに迷ったら、お気軽にお声がけください。ジュエリー業界の会社売却なら、みつきコンサルティングへ。

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著者

潟野 和徳
潟野 和徳名古屋法人部長/M&A担当ディレクター
人材支援会社にて、海外人材の採用・紹介事業のチームを率いて新規開拓・人材開発に従事。みつきコンサルティングでは、強みを生かし人材会社・日本語学校等の案件を中心に工事業・広告・IT業など多種に渡る案件支援を行う。M&Aの成約実績多数、M&A仲介・助言の経験年数は10年以上
監修者 神門 剛 代表取締役 / 公認会計士・税理士

みつきコンサルティングは、中小企業の会社売却・事業承継に特化した譲渡企業様に完全成功報酬制のM&A仲介会社です。売り手と買い手企業の最適なマッチングを、経験豊富なM&Aコンサルタントが初期相談から成約まで一貫してフルサポートします。

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