水産・養殖業の売却|漁業権の承継と餌代高騰下のM&Aの実務論点

水産・養殖業の会社売却では、漁業権や漁協加入資格の承継、養殖を圧迫する餌代高騰、海水温上昇への対応が譲渡価格と成否を分けます。後継者不在や設備更新に悩む譲渡オーナーに向けて、売却理由と養殖・漁業のKPI、改正漁業法下で注意したい実務論点、公開された養殖会社の事例まで、現場目線で整理します。

「うちの会社でも売却できるだろうか…」、「何から始めればいいんだろう…」。そのようなオーナー経営者の不安に、中小企業向けM&A仲介会社みつきコンサルティングは、20年間・500件以上の支援実績に基づき、お応えします。本格検討前の情報収集として、まずはお話をお聞かせください。

漁業権は会社にひも付き、漁協との関係も一朝一夕には引き継げません。そこへ餌代の高騰と燃料費、漁船や生簀の更新負担が重なります。マダイやブリの養殖でも、海水温の上昇で生育が乱れる年が増えました。続けるか、誰かに託すか。水産・養殖業で会社売却を考えるオーナー経営者が、最初につまずきやすい論点から順にほどいていきます。

魚離れと餌代高騰が映す水産・養殖業の経営環境

水産・養殖業は、外から見えにくい構造の変化が続いています。会社売却を考える前に、業界が置かれた状況を押さえておきましょう。

産出額1.7兆円の横ばいと漁獲量の減少

「魚はいくらでも獲れる」という時代は、とうに終わりました。農林水産省が2026年3月17日に公表した漁業産出額(確報)によると、2024年の漁業産出額は1兆6,055億円で、いわし類の価格低下等により前年から3.1%減少しました。1990年の2.6兆円から3割ほど減ったあと、近年は横ばいで推移しています。漁獲量そのものは減り続ける一方、国産水産物の需要増と価格上昇が産出額を下支えしてきました。こうした地殻変動のなかで、事業の出口としてM&Aという選択を検討する経営者が増えています。

養殖と漁撈で異なるコスト構造

同じ水産・養殖業でも、養殖と漁撈ではお金のかかり方がまるで違います。漁業経営統計調査では、会社経営体の費用構造はぶり養殖で餌代が約7割を占める一方、漁業では労務・人件費が約4割、燃料費が約2割という内訳です。養殖は餌代の相場に、漁業は人件費と燃料費に収益を握られる。近年は餌代も燃料費もそろって高止まりし、規模の小さい事業者ほど体力を削られています。譲受企業が真っ先に見るのも、このコスト構造の中身です。

陸上養殖と新規参入が広げる選択肢

近年は、海面だけでなく陸の上で魚を育てる陸上養殖が広がってきました。水を循環させて使う閉鎖循環式の技術が進み、サーモンなどで新規参入が相次いでいます。2020年の養殖業成長産業化総合戦略でも、流通企業やメーカーによる上流進出が後押しされました。三菱商事や丸紅、豊田通商といった商社が養殖に乗り出すのも、この流れの一つです。出口が広がるほど、中小企業のM&Aでも譲受企業の顔ぶれは多彩になります。

漁業権と漁協のしくみが売却に与える影響

水産・養殖業の売却で最初の関門になるのが、漁業権と漁協との関係です。一般の許認可とは勝手が違います。

漁業権の承継は株式譲渡か事業譲渡かで変わる

漁業権は、漁場を使う権利として都道府県知事から付与され、会社や漁業者にひも付いています。これを自由に売り買いすることは原則できません。株式譲渡なら権利を持つ会社がそのまま残るため、漁業権は会社に付いたまま引き継がれます。一方、事業譲渡では権利の主体が変わり、漁業権を引き継げない、あるいは取り直しが要る場合があります。だからこそ、水産・養殖業の会社売却では株式譲渡が選ばれやすいのです。

改正漁業法のTAC・IQ漁獲割当が持つ意味

2020年12月に施行された改正漁業法は、70年ぶりの大きな見直しでした。漁獲可能量(TAC)の対象魚種を広げ、漁業者や漁船ごとに枠を割り当てるIQ(個別割当)の原則導入が進んでいます。注意したいのは、この漁獲割当が原則として他者へ譲り渡せない点です。枠そのものを売買して引き継ぐことはできません。会社ごと引き継ぐ株式譲渡であれば、割当を持つ法人格が存続するため、枠を保ったまま事業を続けられます。資源管理の枠組みは、評価の前提として外せない要素です。

漁協や地元との関係をどう引き継ぐか

支援現場では、漁業権や漁協の組合員資格をどう引き継ぐかが、最初の論点になります。共同漁業権は漁協に、区画漁業権は養殖業者に付与されることが多く、組合員でなければ漁場を使えない地域もあります。株式譲渡で法人格を残せば権利は会社に付いたままですが、譲受企業の代表者が組合員資格を満たせるか、地元漁協の理解を得られるかは別問題です。みつきコンサルティングでは、漁協や地域との関係を早い段階で確認し、承継の段取りを設計します。

養殖・漁業の経営者が会社売却に踏み切る背景

売却を考える理由は一つではありません。水産・養殖業で実際に多い事情を、順に見ていきます。

就業者の高齢化と後継者不在

水産・養殖業で最も多い売却理由は、やはり後継者の不在です。漁業就業者は長らく減り続け、65歳以上が全体の約4割を占めています。船や生簀を任せられる人が身近にいないまま、経営者だけが年を重ねていく。子が別の道に進み、社内にも適任者が見当たらないケースは珍しくありません。黒字であっても、継ぐ人がいなければ事業承継は止まります。第三者へ託せば、長年の漁場と従業員、培った養殖技術を一度に手放さずに済みます。

餌代・燃料費の高騰と運転資金の重さ

養殖は、餌代という重い変動費を抱えた商売です。稚魚を仕入れて出荷までの数か月から数年、餌を与え続ける間の資金繰りは想像以上に苦しい。近年は配合飼料の原料高と円安で餌代が膨らみ、燃料費も高止まりしました。値上げが追いつかず、利益が薄くなる年も出てきます。設備と運転資金を一人で背負い続けることに限界を感じ、資本力のある相手へ託す判断に傾く経営者は少なくありません。

漁船・生簀の更新と海水温上昇への対応

漁船や生簀、給餌設備は、定期的な更新を避けられません。老朽化した設備を自前で入れ替えるのは、中小には重い決断です。さらに近ごろは、夏場の海水温上昇でマダイやブリの生育が乱れる年が増えました。漁場を水温の低い海域へ移す動きもありますが、個社で対応するには資金も知見も要ります。こうした環境変化への備えまで含めて、規模のある相手と組む道を探る経営者が増えています。

譲渡オーナーから見た売却のメリットと留意点

会社売却は、譲渡オーナーにどんな利点と注意点をもたらすのか。水産・養殖業ならではの観点で整理します。

会社売却で得られる利点と見落としやすい留意点

下表に、水産・養殖業の譲渡オーナーが得やすい利点と、見落としがちな留意点をまとめます。

譲渡オーナーのメリット譲渡オーナーのデメリット
後継者不在の解決
漁場と従業員を残したまま第三者へ承継できます
漁協や地元の理解が要る
組合員資格や地域との関係を引き継ぐ調整に時間がかかります
個人保証からの解放
株式譲渡なら借入の個人保証を外せる場合があります
譲渡後の関与
一定期間は引き継ぎのため現場に残る合意が一般的です
設備更新負担の移転
漁船や生簀の更新を資本力のある相手に委ねられます
条件交渉の長期化
漁業権や許認可の確認で時間を要することがあります
餌・原料の調達力強化
大手の調達網に乗れば餌代の交渉力が高まります
情報管理の負担
従業員や取引先への開示時期を慎重に運ぶ必要があります
従業員の雇用維持
熟練の漁師・養殖スタッフの雇用を守れます
運営方針のすり合わせ
譲受企業との養殖・出荷の方針調整が必要です
譲渡益の確保
長年積み上げた事業価値を譲渡益として受け取れます
表明保証の責任
へい死や許認可に関する保証責任を負う場合があります

留意点を踏まえた相談先の選び方

利点と留意点のどちらが大きいかは、漁場の立地や財務、漁業権の状況によって変わります。同じ養殖でも、魚種や海域が違えば評価の物差しも変わるからです。判断に迷うときは、仲介会社の一覧から複数の専門家に当たり、見立てを比べてみるのも一つの方法です。漁業権や漁協の事情まで踏み込んで相談できる相手かどうかを、早めに見極めておきましょう。

譲渡価格を見極める養殖・漁業の重要指標と年買法

水産・養殖業の譲渡価格は、何を見て決まるのか。一般的な計算式と、業界ならではの指標の両面から押さえます。

年買法で見る価格の目安

中小の水産・養殖業で最もよく使われるのが年買法(年倍法)です。時価純資産にのれん(数年分の利益)を加えて目安を出します。純資産が薄くても、安定した出荷と独自の養殖技術があれば上乗せが見込めます。漁場の立地や漁業権、長年の販路といった数字に表れにくい価値が、のれんとして評価される点が水産・養殖業の特徴です。相場感をつかむ第一歩になります。

利益を支える餌料効率と生残率

養殖の収益性を測る指標として、譲受企業がまず確認するのが餌の効率です。魚を1キロ太らせるのに何キロの餌が要るかを示す増肉係数(飼料要求率)が低いほど、餌代を抑えて利益を残せます。あわせて、稚魚から出荷までにどれだけ生き残るかを示す生残率も重要な数字です。へい死が多ければ、それだけ餌と手間が無駄になります。出荷尾数や平均魚体重とあわせて、これらの数字が安定しているかが評価を分けます。

漁獲割当・漁場規模・販路依存度の見られ方

漁業では、保有する漁獲割当や漁場の規模が価値に直結します。割当が大きく、安定した漁場を押さえているほど、将来の水揚げを見込みやすいからです。養殖でも、施設面積が大きいほど生産性が上がるとされ、規模は評価の対象になります。もう一つ見られるのが販路の偏りです。特定の量販店や卸への依存度が高いと、その取引が切れたときの打撃が大きく、譲受企業は慎重になります。複数の販路を持つことが、評価の安定につながります。

下表に、養殖型と漁業型で重視される指標の違いを整理します。

評価の視点養殖型漁業型
主なコスト餌代が約7割を占める人件費と燃料費が中心
収益性のカギ増肉係数と生残率漁獲割当と漁場の安定
規模の効き方施設面積が広いほど生産性が向上保有割当と漁船の稼働率
主なリスクへい死・赤潮・餌代高騰資源変動・燃料費・水揚げの波
譲受で得るもの養殖技術と漁場漁獲割当と熟練の漁師

当社が関わる相談では、決算書の利益だけでなく、増肉係数や生残率といった現場の数字まで踏み込んで価値を見ます。帳簿に表れない養殖技術や漁場の優位性が、のれんの厚みを左右するからです。これまでの支援を通じても、安定した出荷実績と分散された販路を持つ事業者ほど、譲受企業からの評価が高まる傾向がありました。みつきコンサルティングでは、こうした業界固有の指標を整理し、譲渡オーナーが納得できる価格の根拠を一緒に組み立てます。

水産・養殖業のM&Aで特に注意すべき論点

進め方そのものより、この業界で見落とすと痛い論点があります。譲渡前に押さえておきたい点を挙げます。

餌・稚魚・種苗の供給契約と仕入先依存

養殖は、餌や稚魚、種苗の安定調達がなければ成り立ちません。特定の業者からの仕入れに頼っている場合、その契約が会社売却後も続くかは重要な確認点です。供給元が代替わりや値上げで条件を変えれば、収益計画は簡単に崩れます。デューデリジェンスでは、こうした供給契約の中身と継続性が詳しく調べられます。長期の安定契約を持っていることが、むしろ評価の追い風になる場合もあります。

へい死・赤潮リスクと表明保証

水産・養殖業に特有のリスクが、へい死と赤潮です。台風や高水温、赤潮の発生で、生簀の魚が一度に死んでしまうことがあります。こうした事故が過去にどれだけあり、どう備えているかは、譲受企業が神経をとがらせる点です。M&Aの契約では、開示した内容に誤りがないことを売主が約束する表明保証を求められます。隠れた損失や係争が後から出れば、譲渡オーナーが責任を問われかねません。情報は包み隠さず開示するのが、結局は得策です。

公開された養殖会社の譲渡事例

実際の動きとして、養殖会社が大手の傘下に入る例が出ています。マルハニチロは2024年11月、マダイやブリの養殖を手がける海晴丸(静岡県沼津市)の株式を取得し、子会社化しました。同社にとって初の東日本の養殖場で、夏場の海水温上昇による生育リスクを、比較的水温の低い海域へ分散する狙いがあるとされます。首都圏に近く、鮮度の高い供給と輸送距離の短縮も見込まれています。こうした再編の流れを読むには、水産業界に強いM&A仲介の知見が役立ちます。

取引先の承継をどう固めるか

よくある相談として、稚魚や餌の供給元、量販店との取引を売却後も保てるかという不安があります。漁協を通じた出荷や、特定の卸との長年の関係は、契約書に残っていないことも多いのが実情です。みつきコンサルティングでは、こうした取引先承継の論点を譲渡前に洗い出し、譲受企業と引き継ぎの段取りを詰めます。へい死リスクや漁業権の確認とあわせて整理することで、譲渡後のつまずきを防ぎます。

M&Aが成立した場合のみ、譲渡対価に応じた手数料を頂戴します。
売主様は、ご成約まで費用負担なくスタートできます。



水産・養殖業の会社売却に関するFAQ

売却を検討する経営者から、よく寄せられる質問を取り上げます。

Q:漁業権は買い手に引き継げますか?

株式譲渡であれば、漁業権を持つ会社がそのまま残るため、権利は会社に付いたまま引き継がれます。ただし、漁場を使うには地元漁協との関係や組合員資格が前提になる地域があります。事業譲渡の場合は権利の取り直しが必要になることもあり、現場ではこの点を最初に確認します。

Q:漁獲割当(IQ)は売却で引き継げますか?

改正漁業法のもとで割り当てられる漁獲枠は、原則として他者へ譲り渡せません。枠だけを切り出して売ることはできない仕組みです。会社ごと引き継ぐ株式譲渡であれば、割当を持つ法人格が存続するため、枠を保ったまま事業を続けられます。スキームの選び方が結果を分けます。

Q:養殖と漁業では買い手の評価ポイントは違いますか?

違います。養殖では増肉係数や生残率といった飼育の効率、漁業では漁獲割当や漁場の安定が主に見られます。餌代の比率が高い養殖は、コスト管理の巧拙が評価を分けます。譲受企業の関心は、その魚種と事業形態で変わるため、自社の強みがどこにあるかを整理しておくと交渉が進みます。

Q:海水温の上昇は売却の評価にどう響きますか?

立地によります。夏場の高水温で生育が乱れやすい海域は、リスクとして見られます。一方、比較的水温の低い海域や、対策を講じている事業者は、むしろ評価が高まることもあります。漁場をどう守ってきたか、移転や設備の備えがあるかを示せると、譲受企業は安心して評価できます。

まとめ|水産・養殖業の売却相談先選びとみつきコンサルティング

水産・養殖業の会社売却では、漁業権や漁協加入資格の承継、養殖を圧迫する餌代高騰、海水温上昇への対応が価格と成否を分けます。増肉係数や生残率といった現場の数字まで見て価値を測ることが欠かせません。後継者や設備更新に悩む譲渡オーナーの不安は、決して特別なものではありません。

みつきコンサルティングは、税理士法人グループの財務・税務に強いM&A仲介会社として、中小企業のM&A仲介で実績と経験を重ねてきました。仲介の比較候補で迷ったら、まずは現場の数字から一緒に整理しましょう。水産・養殖業の会社売却なら、みつきコンサルティングへご相談ください。

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著者

潟野 和徳
潟野 和徳名古屋法人部長/M&A担当ディレクター
人材支援会社にて、海外人材の採用・紹介事業のチームを率いて新規開拓・人材開発に従事。みつきコンサルティングでは、強みを生かし人材会社・日本語学校等の案件を中心に工事業・広告・IT業など多種に渡る案件支援を行う。M&Aの成約実績多数、M&A仲介・助言の経験年数は10年以上
監修者 神門 剛 代表取締役 / 公認会計士・税理士

みつきコンサルティングは、中小企業の会社売却・事業承継に特化した譲渡企業様に完全成功報酬制のM&A仲介会社です。売り手と買い手企業の最適なマッチングを、経験豊富なM&Aコンサルタントが初期相談から成約まで一貫してフルサポートします。

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