非流動性ディスカウントとは?相場・判例とM&A譲渡価格への影響

自社株の評価額が思ったより低く、納得できずにいませんか。非上場株式の売りにくさを映す減額は30%前後が使われがちでも、合意された水準はなく、最高裁も場面ごとに結論を分けています。二重減価の見抜き方や算定書の確認項目を、中小企業の会社売却の実務目線でまとめました。

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非流動性ディスカウントとは

自社株の評価額が想定より低く出て、戸惑う経営者は少なくありません。その背景によくあるのが、非流動性ディスカウントという調整。

非上場株式が「すぐに現金化できない」ことを理由に、評価額から一定割合を差し引く考え方を指します。英語ではDLOM(Discount for Lack of Marketability)と呼ばれ、非流動性割引とも言います。

上場株式との換金しやすさの差を価格に映す

上場株式なら、取引所で売ればすぐに現金になります。非上場株式には市場がなく、売却先探しから交渉、契約まで時間と費用がかかるもの。この差を価格に反映させるのが基本の発想です。

日本公認会計士協会の企業価値評価ガイドラインも、換金に追加コストがかかる分だけ非上場株式は低く評価されると説明しつつ、見込むべき水準に合意はないとしています。

会社売却の譲渡価格とのつながり

M&Aの譲渡価格は、企業価値評価で算出した株主価値をたたき台に、交渉を経て決まります。非流動性ディスカウントは、その株主価値に最後の調整として掛けられやすい項目です。

同じ30%でも、事業価値と株式価値のどちらに掛けるかで減額の金額は変わるもの。借入金などを差し引く前か後かを見落とすと、提示額を読み違えやすくなります。

非上場株式の評価額が割り引かれる理由

「安く買いたたかれているのでは」と感じる方もいますが、減額には一定の理屈があります。下表は、非上場株式の評価額が割り引かれる主な理由をまとめたものです。

減額の理由具体的な内容
換金の難しさ取引所がないため、売りたい時期に売れるとは限りません。売却先が見つかるまで数か月以上かかることもあり、その間の不確実性が価格に跳ね返ります。
取引コストの発生売却先探し、交渉、デューデリジェンス、専門家への報酬など、上場株式の売買にはない費用と手間が生じます。
譲渡制限と情報の少なさ中小企業の多くは、株式の譲渡に会社の承認を求める定めを定款に置いています。上場会社のような詳しい情報開示もなく、譲受企業はリスクを多めに見積もりがちです。

買い手の計算を知ると交渉は冷静になる

譲受企業から見れば、この減額は将来その株式を手放すときの苦労を先に織り込んだもの。値切りの口実と決めつけると、話し合いが感情的になりやすくなります。

とはいえ、理屈があることと、提示された率が妥当かどうかは別の話。率と掛け方は、分けて確かめる必要があります。

マイノリティ・ディスカウントとの違い

混同されやすいのがマイノリティ・ディスカウントです。経営を左右できない少数株式であることを理由とする減額で、売りにくさを理由とする非流動性ディスカウントとは根拠が異なります。

反対に、支配権の取得に対して上乗せされるのがコントロール・プレミアム。支配権の有無で価格が上下する話と、市場の有無で上下する話は、切り分けて考えるのが基本です。

非流動性ディスカウントの率の相場

結論から言えば、実務では20〜30%の範囲、特に30%前後が使われる場面が目立ちます。ただし法令や通達で決まった数字ではなく、会社の状況によって上下するものです。

目安とされる水準と根拠

何を根拠に率が語られているのかを知っておくと、提示された数字を冷静に受け止められます。下表は、よく引用される水準と根拠を整理したものです。

水準主な根拠と使われ方
20〜30%米国の企業評価の教科書などで、一般的な目安として示されてきた範囲です。
30%前後国内の評価実務で採用例が多い水準です。最高裁の2023年5月24日決定の事案でも、30%の減価を認めた原審の判断が維持されました。
案件ごとに判断類似取引の水準や、売却に制限がある株式と上場株式の価格差を調べた米国の研究などを参考にします。裁判例でも、事案によって異なる率が使われています。

率が高くなりやすい会社と低くなりやすい会社

同じ非上場株式でも、出口の描きやすさで率は変わります。下表は、非流動性ディスカウントの率を左右しやすい要因を比べたものです。

要因率が高くなりやすい状況率が低くなりやすい状況
持分の大きさ少数株式で、単独では売却も経営参加もしにくい100%や過半数で、会社ごと売る判断ができる
出口の見通し上場予定がなく、売却先の候補も限られる上場準備が進んでいる、または譲受企業の候補が複数いる
株主への還元無配で、保有中に受け取れる現金が少ない安定した配当があり、持ち続ける利点がある
契約上の出口譲渡制限が厳しく、買取りの約束もない株主間契約に買取条項や一括売却の定めがある

一律30%を当然視しない

意外と多いのが、「3割引きは当たり前」と受け止めてしまうケースです。会社の規模も業種もM&A市場の状況も違う以上、同じ率になる理由はありません。

相続税評価の斟酌率と混同しない

国税庁の財産評価基本通達180では、類似業種比準価額の計算に大会社0.7、中会社0.6、小会社0.5を掛けると定めています。支援現場では、この0.7を連想して30%減を相場と思い込む方に出会うことがあります。

ただし、これは相続税や贈与税を計算するための評価ルール。税務上の非上場株式の評価と、第三者に売る価格とでは物差しが違います。

率の根拠を確かめる問いかけ

提示された率には、「何を根拠にこの率にしたのか」「類似の取引と比べたのか」と尋ねてみてください。返ってくる答えが実務慣行の30%だけなら、見直しを求める余地は十分にあります。

非流動性ディスカウントが認められる場面と判例

非上場株式なら常に減額できる、というのは誤解です。裁判所が価格を決める場面では、株主が自ら売ろうとしているのか、会社側の事情で退出を迫られているのかで判断が分かれています。

場面別に見た裁判所の判断

下表は、非流動性ディスカウントの可否について、代表的な場面ごとの裁判所の判断をまとめたものです。

場面減額の可否主な判断と理由
譲渡制限株式の売買価格の決定(会社法144条)認められる最高裁2023年5月24日決定。譲渡を望む株主に投下資本の回収手段を保障する手続であるため、任意に譲渡される場合と同様に減額できるとされました。
吸収合併などに反対した株主の株式買取請求(会社法785条ほか)否定される最高裁2015年3月26日決定(セイコーフレッシュフーズ事件)。収益還元法は市場価格と比べる要素を含まない手法であることなどから、減額はできないとされました。
少数株主が退出を求められるスクイーズアウト考慮しない判断例があるカネボウ事件などで、売却を望んでいない株主に売りにくさの負担を求めない考え方がとられています。

分かれ目は自ら売るか退出を迫られるか

2015年決定は、合併に反対した株主に退出の機会を与え、企業価値を適切に分配するという買取請求の趣旨を重く見ました。一方の2023年決定は、会社法144条の手続を、売りたい株主の投下資本回収を支える仕組みと位置づけています。

売りにくさのコストを誰が負うのが公平か。この視点で読むと、2つの決定の違いが見えてきます。

会社売却の株式譲渡は当事者の交渉で決まる

第三者への会社売却は、譲渡オーナーと譲受企業が合意して成立する任意の取引です。裁判所が率を決めるわけではなく、非流動性ディスカウントは交渉の論点のひとつになります。

気をつけたいのは、売却前に親族や元役員の株式を集める場面。少数株主の整理で価格がこじれると、判例の考え方が争点に浮上しかねません。譲渡制限株式の譲渡承認も含め、早めに手を打っておきたいところです。

評価手法ごとの扱いと二重減価の落とし穴

同じ30%の減額でも、どの評価手法の結果に掛けるかで妥当性は変わります。手法の性格を無視して一律に掛けると、同じ理由で二度減額する二重減価が起きかねません。

評価手法別の適用の考え方

中小企業M&Aで使われる手法は、上場株価を物差しにするかどうかで性格が分かれます。下表は、主な評価手法ごとに非流動性ディスカウントの扱いを整理したものです。

評価手法扱いの目安理由と注意点
類似会社比較法検討する上場会社の株価倍率を物差しにするため、非上場であることの調整を検討します。規模補正の減額と重ならないよう注意が必要です。
DCF法条件付きで検討する割引率に市場性のなさが織り込まれていなければ、減額できるとされています。
時価純資産法原則として重ねない資産と負債を時価で評価し直して時価純資産を求める段階で、個々の資産の処分のしやすさが反映されるためです。
年買法重ねる理屈は立ちにくい時価純資産に営業利益の数年分を加える慣行的な計算で、上場株価を物差しにしていないためです。

DCF法の扱いを示した最高裁2023年決定

将来のキャッシュフローを現在価値に割り引くDCF法は、市場価格と比べる要素を含みません。そのため減額は不要という見方もありましたが、2023年5月24日の最高裁第三小法廷決定が、この論点に一定の答えを示しています。

決定の要点

事案は、会社が譲渡を承認せず、自ら買い取ることになった譲渡制限株式の売買価格の決定です。原審はDCF法による評価額から30%を減価し、最高裁もこれを是認しました。DCF法を使っても、任意に譲渡される場合と同様に減額できるという判断。

二重の減価との線引き

最高裁は、算定過程で市場性のなさが既に十分考慮されていれば、更に減額するのは二重の減価で相当でないとも述べています。本件の評価額は類似上場会社の数値を使って算定され、市場性のなさを考慮した形跡がうかがわれないとして、減額が認められました。

2015年決定との関係

2015年決定は、合併に反対した株主の買取請求で、収益還元法による価格からの減額を否定していました。2023年決定は、この先例を事案が異なるとして区別しています。

二重減価が起きやすいパターン

最高裁が二重の減価を戒めた点は、会社売却の価格交渉でもそのまま使える視点です。算定書で見かけやすい重複の形を確認しておきましょう。

割引率の上乗せと最終的な減額の重複

DCF法では、WACCなどの割引率に「非流動性プレミアム」や「サイズ・プレミアム」を上乗せすることがあります。そのうえで最終段階でも30%を差し引いていれば、市場性のなさを二度数えている疑いが濃くなります。

規模補正との重複

類似会社比較法では、上場会社との規模の差を補正する減額を入れる場合があります。補正の中身が換金しにくさの調整と重なっているなら、別枠で非流動性ディスカウントを掛けると過小評価につながりやすい。

マイノリティ・ディスカウントとの重複

少数株式の評価では、支配権がないことによる減額と、売りにくさによる減額が並ぶことがあります。理由が別なら併用もあり得ますが、説明の中身が同じなら要注意です。

売り手が株価算定書で確認したいこと

支援現場では、提示額の妥当性を判断する材料として、算定書の減額部分を一緒に読み解く場面が少なくありません。意向表明書に記された価格の背景を尋ねる際にも、同じ観点が役立ちます。

減額部分のチェックリスト

下表は、非流動性ディスカウントに関して算定書で確認したい項目と、見直しを求めたいサインをまとめたものです。

確認項目算定書で見る場所見直しを求めたいサイン
評価の目的冒頭の評価目的と前提条件相続税評価や株主間の買取り用の数字を、売却価格の議論にそのまま使っている
対象株式の割合評価対象の株式数と持分比率100%の譲渡なのに、少数株式を想定した減額率が使われている
減額を掛けた手法手法別の計算結果と総合評価時価純資産法の結果にも、一律で同じ率を掛けている
割引率の内訳DCF法の資本コストの計算表割引率に上乗せ項目があるうえ、最終段階でも減額している
率の根拠注記や参考資料「実務慣行上30%」とだけ書かれ、類似取引などの根拠が示されていない

当社が価格交渉で重視している判断軸

チェックリストで引っかかる点が見つかったら、率の大小より先に、どの数字に掛かっているかを確認します。掛け先が変わるだけで、手取りに響く差が生まれるからです。

100%譲渡では減額の前提を問い直す

会社ごと売る株式譲渡では、譲受企業は支配権を得て、将来も会社単位で売却や再編を選べます。少数株主の持分と同じ売りにくさを当てはめる理屈は弱くなるため、率の説明を丁寧に求めます。

買い手候補が複数いれば減額の主張は弱まる

複数の譲受企業候補から意向が寄せられている局面では、「売却先が見つかりにくい」という減額の前提そのものが揺らぎます。M&Aの価格交渉で、候補の広がりは有力な反論材料になりやすいもの。

減額幅より先に価格の土台を固める

減額の議論は、元になる株主価値が固まっていてこそ意味を持ちます。役員報酬や一時的な費用を調整した実力ベースの利益を示し、中小企業の譲渡価格の土台を整えてから減額幅の交渉に臨むのが現実的です。

非流動性ディスカウントに関するFAQ

減額の扱いで迷いやすい点を、会社売却を検討する経営者の立場から取り上げます。

Q:買い手に減額率の根拠を尋ねてもよいですか?

根拠の確認は、交渉の場で自然なこと。買い手の社内算定書は開示されないことが多いため、現場では「どの評価手法の結果に何%を掛けたか」を口頭か書面で確認します。仲介会社を通じて質問を整理すると、関係をこじらせずに済みます。

Q:親族や役員に株式を売るときも減額してよいですか?

M&Aの交渉価格の感覚で大きく減額するのは危険です。同族間の売買は、税務上の時価より著しく低い価格だと、贈与税や所得税の課税問題が生じ得ます。税理士と相談し、税務上の時価を基準に考えるのが基本。

Q:事業譲渡でも非流動性ディスカウントは関係しますか?

事業譲渡は株式ではなく事業そのものを売る取引のため、株式の売りにくさを理由とする減額は論点になりにくいのが実情です。ただし上場会社の倍率で事業価値を測る場合は、規模差の補正などで似た調整が入ることがあります。

Q:株価算定を依頼するとき、何を伝えればよいですか?

評価の目的と、売る予定の株式の割合を最初に伝えてください。第三者への売却か株主間の買取りかで、減額の考え方が変わるためです。決算書3期分と事業計画がそろっていると、手法選びの話も進めやすい。

税理士法人を母体とするM&A仲介会社|みつきコンサルティングが選ばれる理由

非流動性ディスカウントのまとめと譲渡価格の考え方

非流動性ディスカウントは非上場株式の売りにくさを価格に映す調整で、30%前後が使われがちでも決まった率はありません。判例は場面で結論を分け、手法次第では二重減価も起こり得るもの。長年守ってきた会社の値段だからこそ、提示額に迷いが生じるのは自然なことです。

みつきコンサルティングは、税理士法人グループのM&A仲介会社です。中小企業M&Aの実績経験が豊富な専門家による、株価算定書の読み解きから価格交渉までの一貫した支援が強み。減額の妥当性を確かめたいときは、お気軽にご相談ください。ディスカウントの妥当性や適正な株価算定をご検討の際は、みつきコンサルティングにご相談ください。

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著者

伊丹 宏久
伊丹 宏久事業法人第二部長/M&A担当ディレクター
ヘルスケア分野に関わる経営支援会社を経て、みつきコンサルティングでは事業計画の策定、モニタリング支援事業に従事。運営するファンドでは、投資先の経営戦略の策定、組織改革等をハンズオンにて担当。東南アジアなど海外での業務経験から、クロスボーダー案件に関しても知見を有する。M&Aの成約実績多数、M&A仲介・助言の経験年数は10年以上
監修者 神門 剛 代表取締役 / 公認会計士・税理士

みつきコンサルティングは、中小企業の会社売却・事業承継に特化した譲渡企業様に完全成功報酬制のM&A仲介会社です。売り手と買い手企業の最適なマッチングを、経験豊富なM&Aコンサルタントが初期相談から成約まで一貫してフルサポートします。

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