非流動性ディスカウントとは?M&Aの売却価格への影響と判例を解説

非流動性ディスカウントとは、非上場株式が「換金しにくい」ことを理由に、企業価値から一定割合を減額する考え方です。本記事では、通常30%程度とされる割引率の根拠、評価手法(DCF法など)との関係、そして最高裁令和5年決定を含む最新の判例基準について、M&A専門家が実務的な視点で徹底解説します。

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非流動性ディスカウント(Non-Liquidity Discount)とは

M&Aや事業承継の現場において、自社株の評価額が想定よりも低く提示され、驚かれる経営者は少なくありません。その大きな要因の一つが非流動性ディスカウント(Non-Liquidity Discount)です。

これは、「非上場企業の株式は、上場企業の株式のように市場で容易に売買(換金)できない」という「流動性の低さ(非流動性)」を考慮し、本来の企業価値から一定割合を割り引く(ディスカウントする)評価概念のことです。

上場株式であれば証券取引所ですぐに現金化できますが、非上場株式にはそのような市場が存在しません。そのため、非上場株式の評価においては、この「売りにくさ」を価格に反映させる減額調整が行われるのが一般的です。

なぜ減額されるのか?仕組みと理由

評価額が割り引かれる背景には、買い手が負うリスクとコストの問題があります。下表は、非上場株式の評価額が割り引かれる主な理由をまとめたものです。

割引の理由詳細内容
市場性の欠如と換金の困難さ非上場株式は、取引所というマーケットが存在しないため、売りたいときにすぐに売れないというリスクがあります。投資家(買い手)はこの現金化の自由が制約されることに対する対価として、安く買うことを要求します。上場株式のように自由に売買できないため、流動性リスクの分だけ評価額が下がります。
取引コストの発生上場株ならクリック一つで売買できますが、非上場株の売買には、買い手を見つけるためのマッチングコスト、交渉にかかる時間、弁護士やM&Aアドバイザーへの手数料、デューデリジェンス費用など、多額の追加コストと手間が発生します。この手間賃や探索コストが、株価の減額要因として考慮されます。
支配権プレミアムとの関係M&Aの企業価値評価では、非流動性ディスカウント以外にも支配権を持つことによる価値の上乗せや、少数株主であることによる減額が検討されます。特に少数株主の持分を評価する場合、会社を自由に動かせない上に売却も難しいため、評価額は大きく下がる傾向にあります(マイノリティ・ディスカウント)。

専門家の視点|感情的な対立を避けるために

売り手(譲渡オーナー)からすると「安く買い叩かれている」と感じやすいポイントですが、買い手からすれば「将来、自分がその株を売ろうとしたときの苦労」を先取りして計算しているに過ぎません。このロジックを理解しておくことが、冷静な交渉の第一歩です。

ディスカウント率は何%が妥当か?(適用割合の相場)

では、具体的にどれくらい割り引かれるのでしょうか。結論から言えば、「20%~30%」の範囲で設定されるケースが実務上もっとも一般的です。

実務上の目安とばらつき

明確な法的基準や計算式があるわけではありませんが、過去の判例や実務慣行、米国の研究データなどを基に、以下の水準が目安とされています。

適用ディスカウント率状況・根拠
20%~30%一般的な目安。米国の教科書や実務での標準的な数値。
30%日本の裁判例や税務実務で頻繁に採用される数値。
~50%個別の事情により、非常に流動性が低いと判断される場合。

専門家の視点|一律30%への警鐘

実務では相続税評価額における斟酌率を参考にしてか「とりあえず30%引いておく」という安易な算定が見受けられますが、これは危険です。会社の規模、業種、財務状況、あるいはM&A市場の活況度合いによって、本来適用すべき率は変動します。 自社の株式評価において30%のディスカウントが適用されている場合、「その根拠は何か?」「類似の取引事例と比較しているか?」を専門家に確認することをお勧めします。

適用される場面と判断(最高裁判例の動向)

すべての非上場株式の取引で非流動性ディスカウントが認められるわけではありません。特に裁判になった場合、どのような状況で価格を決めるかによって判断が分かれます。下表は、非流動性ディスカウントの適用可否を場面別にまとめたものです。

非流動性ディスカウントの適用の可否場面具体的な状況根拠・理由
認められる(原則)譲渡制限株式の売買価格決定(会社法144条)株主が自発的に株式を売却しようとし、会社がそれを買い取る場面です。これは通常の取引と同様に売りにくさが存在するため、非流動性ディスカウントを行うことが相当とされます。株主は換価の機会を求めており、通常の売買と同じく市場性のなさを考慮すべきだからです。
否定される(例外)反対株主の株式買取請求(スクイーズアウトなど)合併などに反対した株主が、会社に対して株式の買取を請求する場面です。この場合、株主は自らの意思ではなく、会社側の事情で退出を余儀なくされるため、ディスカウントをすべきではないという判断が定着しています(例:カネボウ事件、セイコーフレッシュフーズ事件など)。会社から追い出される株主に、企業価値を適切に分配すべきであり、売却コストを負担させるのは不公平だからです。

専門家の視点|目的によって株価は変わる

つまり、同じ会社の株式であっても、「M&Aで第三者に売る時価」と「組織再編で反対株主から買い取る価格」は異なるということです。ご自身が直面している状況がどちらに当てはまるかを見極める必要があります。

評価手法(DCF法)との関係と「二重減価」のリスク

M&Aの現場で用いられる株価算定手法は、大きく3つのアプローチに分類されます。非流動性ディスカウントを適用すべきかどうかは、採用する手法によっても異なります。

比較表|3つの評価アプローチにおける適用の可否

各評価手法の基本的な考え方と、非流動性ディスカウント適用の有無を整理しました。

代表的な評価手法分類非流動性ディスカウントの適用の有無適用有無の理由・根拠
類似会社比準法マーケット・アプローチ適用する流動性のある上場企業の株価と比較して算出するため、非上場株の「売りにくさ」を調整(減額)する必要がある。
時価純資産法ネットアセット・アプローチ適用しない資産・負債を時価評価する段階で、換金性や処分価値がすでに考慮されているため、最後に重ねて減額はしない。
DCF法インカム・アプローチケースバイケース理論上は「将来のキャッシュフロー」に基づくため議論があったが、現在は条件付きで適用可能とされる。

最大の争点「DCF法」と最高裁令和5年決定

これまで実務家の間でも意見が割れていたのが、DCF法(将来の収益力に基づく評価)の場合の扱いです。 「理論的な価値なのだから、市場性の有無は関係ない(減額すべきではない)」という説もありましたが、最高裁判所(令和5年5月24日決定)により、以下の基準が明確化されました。

  • 原則: DCF法で算定された株価であっても、非流動性ディスカウント(減額)を行うことは可能である。
  • 例外: ただし、計算過程ですでに「市場性のなさ」が考慮されている場合は、不可である。

絶対に避けるべき二重減価(ダブルディスカウント)とは

最高裁が釘を刺した「例外」のケースこそ、実務で最も注意すべき「二重減価」の問題です。

DCF法では、将来のキャッシュフローを現在価値に割り引くために資本コスト(WACC)という指標を使います。もし、この割引率の中に非流動性リスク(売りにくいリスク)をあらかじめ上乗せして計算していた場合、算出された株価はすでに安くなっています。 そこからさらに、最後の一手として非流動性ディスカウント(30%等)を引いてしまうと、価値を二重に下げてしまうことになり、これは妥当ではありません。

専門家の視点|企業評価レポートの「割引率」をチェックしよう

お手元に株価価値算定書がある場合、DCF法のページにある「割引率」の項目を確認してください。

ここに、「小規模企業リスクプレミアム」や「非流動性プレミアム」といった項目が含まれていませんか? もしこれらが含まれた高い割引率で計算されているにもかかわらず、最終的な株価に対してさらに「×0.7(30%減)」などの調整が入っていれば、それは不当に株価を下げられている(二重減価)可能性が高いです。専門知識がないと見抜けないポイントですので、セカンドオピニオンを活用することをお勧めします。

非流動性ディスカウントのまとめ

適正な評価額を導くための非流動性ディスカウントについて解説しました。

  • 定義: 非上場株の「売りにくさ」を反映した減額調整。
  • 相場: 一般的に20~30%程度が目安だが、絶対ではない。
  • 判例: 自発的な売却なら適用されるが、スクイーズアウト等では否定される傾向。
  • 注意点: DCF法の場合、割引率との「二重減価」になっていないか確認が必要。

M&Aや株式譲渡において、非流動性ディスカウントは譲渡オーナーの手取り額を大きく左右する重要な要素です。買い手から提示されたディスカウント率が妥当なのか、計算根拠に二重計上はないか、これらを正確に判断するには高度な専門知識が求められます。

当社は、みつき税理士法人グループのM&A仲介会社として15年以上の業歴があり、中小企業のM&Aに特化した実績経験が豊富なM&Aアドバイザー・公認会計士・税理士が多く在籍しております。非流動性ディスカウントの妥当性や適正な株価算定をご検討の際は、みつきコンサルティングにご相談ください。

著者

伊丹 宏久
伊丹 宏久事業法人第二部長/M&A担当ディレクター
ヘルスケア分野に関わる経営支援会社を経て、みつきコンサルティングでは事業計画の策定、モニタリング支援事業に従事。運営するファンドでは、投資先の経営戦略の策定、組織改革等をハンズオンにて担当。東南アジアなど海外での業務経験から、クロスボーダー案件に関しても知見を有する。M&Aの成約実績多数、M&A仲介・助言の経験年数は10年以上
監修:みつき税理士法人

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