譲渡オーナーにとって、外国企業を買い手とする会社売却は、海外市場への進出や企業価値の最大化を狙える大きなチャンスです。しかし、外資への売却には「外為法」による事前届出や、特有の国際税務、さらには文化の壁など、国内M&Aにはない複雑なハードルが存在します。本記事では、クロスボーダーM&Aの注意点と対策を専門家が分かりやすく解説し、成功への道筋を提示します。
「うちの会社でも売却できるだろうか…」、「何から始めればいいんだろう…」
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外国企業への会社売却の現状と背景
近年、日本国内の人口減少や市場の飽和を背景に、日本企業が海外資本へ会社売却を行う、いわゆるOUT-IN型M&A(インバウンドM&A)が増加しています。特に円安局面では、海外資本にとって日本企業は割安感があり、投資が加速する傾向にあります。
海外資本への売却は、単なる資金回収だけでなく、譲受企業が持つグローバルな販売網や技術力を活用できるという大きなメリットがあります。一方で、日本の技術流出や資本の空洞化を懸念する声もあり、業種によっては国家レベルでの規制も強化されているのが実情です。
会社売却を外国企業に行うメリットとリスク
海外資本への売却には、国内企業同士のM&Aでは得られない可能性と、特有の難しさがあります。まずは全体像を整理しましょう。
主なメリット
- 海外市場への迅速な参入: ゼロから拠点を築くよりも早く、海外の販売網や人材、許認可を獲得できます。
- 不採算事業の整理とコア事業への集中: 日本国内では買い手が見つかりにくい事業でも、グローバルな視点を持つ海外資本であれば高く評価されるケースがあります。
- 資金調達と投下資本の回収: 事業売却によってまとまった資金を得ることができ、特に清算が難しい地域からの撤退時に有効です。
- 企業価値の向上: 海外の先進的な経営手法やITインフラが導入されることで、会社が劇的に成長する可能性があります。
主なリスクと懸念事項
- 法規制への対応: 外為法(外国為替及び外国貿易法)に基づく手続が必要となり、違反すると厳しい罰則があります。
- 国際税務の複雑さ: 譲渡益に対する課税が日本と海外の両方で発生する可能性があり、専門的な知識が不可欠です。
- 文化・経営方針の相違: 言語の壁はもちろん、意思決定のスピード感や会計基準、企業文化の違いがM&A後の統合(PMI)を難しくします。
- 従業員の不安: 「外資=すぐに解雇される」というネガティブなイメージを持つ従業員も多く、メンタルケアと丁寧な説明が必要です。
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外為法による「対内直接投資」と「特定取得」の規制
外国投資家(非居住者など)が日本企業の株式を取得する場合、外為法による厳しいチェックが入ります。これは経済安全保障の観点から、日本の技術や重要インフラを守るための制度です。
規制の対象となる「外国投資家」の定義
外為法における投資主体が以下のいずれかに該当する場合、規制の対象となります。
- 非居住者である個人(外国人など)
- 外国の法令に基づいて設立された法人
- 日本法人であっても、外国投資家が直接・間接に50%以上の議決権を保有している法人
対内直接投資と特定取得の違い
手続の内容は、投資の形態によって「対内直接投資等」と「特定取得」に分かれます。
| 区分 | 定義 | 手続の概要 |
|---|---|---|
| 対内直接投資等 | 日本の非上場会社の株式を「居住者(日本人など)」から取得する場合など | 業種により「事前届出」または「事後報告」が必要 |
| 特定取得 | 日本の非上場会社の株式を「他の外国投資家」から取得する場合 | 原則として「事後報告」だが、指定業種などは注意が必要 |
事前届出が必要な「指定業種」と「コア業種」
会社売却先の外国企業が、事前届出をしなければならないかどうかは、対象会社の事業内容によって決まります。
- 指定業種: 国家の安全を損なう恐れがあるとして、原則として事前届出が必要な業種です。
- コア業種: 電気通信、ライフライン、軍事転用可能な汎用品など、より厳格な審査が行われる業種です。これに該当する場合、事前届出の免除制度も利用できません。
専門家としての視点|事前届出の「禁止期間」に注意
実務上、最も注意すべきは「禁止期間」です。事前届出を行うと、原則として30日間の「投資実行禁止期間」が設けられます(短縮されることもあります)。この期間中は、株式譲渡の実行(クロージング)ができません。この期間を考慮せずにスケジュールを組むと、契約違反になるリスクがあるため、早い段階で専門家に業種判定を依頼することが肝要です。
外国法人に会社売却する際の税金
M&Aにおいて、買い手候補として外国法人が登場するケースが増えています。「日本に支店(PE)がない外国企業に売れば、日本の税金は関係ないのでは?」という質問をいただくことがありますが、これは大きな誤解です。日本在住のオーナー経営者が自社株を売却する場合、相手が誰であっても日本の税金がかかります。
原則:日本在住なら誰に売っても課税される
売り手である譲渡オーナーが日本にお住まい(居住者)であれば、買い手が日本企業か外国企業かに関わらず、日本で所得税・住民税が課税されます。
税率と計算方法
税金の計算は国内取引と同じです。
- 税率: 約20.315%(所得税15.315%+住民税5%)
- 課税対象: 売却益(譲渡価額 - 取得費・手数料)
確定申告によりご自身で納税します。通常、買い手である外国法人が源泉徴収を行うことはありませんので、日本側での申告漏れに注意が必要です。
海外移住スキームの落とし穴
「売却前に海外(シンガポールや香港などキャピタルゲイン非課税国)へ移住すれば、税金をゼロにできるのでは?」と考える方もいらっしゃいますが、現在の税制では以下の2つの壁により封じ込められています。安易な実行は危険です。
① 国外転出時課税(Exit Tax)の壁
2015年7月年より適用された制度により、出国時に1億円以上の有価証券等を持つ場合、その含み益に対して出国時に所得税(15.315%)が課税されます。「売っていないのに売ったとみなして課税される」強力な制度ですので、移住による節税は事実上困難です。
② 事業譲渡類似株式(25/5ルール)の壁
仮に出国時課税をクリア(納税猶予等)して海外移住後に売却したとしても、日本の「事業譲渡類似株式の譲渡」に該当すれば、結局日本で課税されます。
- 過去3年以内に特殊関係者と合わせて25%以上を保有し、かつ5%以上を譲渡した場合、日本国内の事業を売却したとみなして日本で課税するルールです。
- これは「PEのない外国法人が売主」となるケースでも適用されるため、海外法人(資産管理会社)を作って間接的に売却するスキーム等も網をかけられています。
税務署は把握しているか?(別表二のリスク)
「海外企業への売却ならバレないだろう」と考えるのは禁物です。
譲渡企業は、毎年の法人税申告で「株主名簿(別表二)」を税務署に提出します。ここで株主が「社長個人」から「外国法人」に変わっていれば、株式譲渡の事実は一目瞭然です。
国際税務のまとめ
- 日本在住のまま売るなら、相手が外国法人でも通常通り20.315%の課税。
- 節税目的で海外移住しても、出国時課税や25/5ルールにより課税逃れは困難。
- 申告漏れは会社の「別表二」から容易に発覚するため、適正な申告が必要。
外国法人との取引は契約や送金面で注意点が多いですが、税務に関しては「逃げ道はない」と認識し、正面から適正な申告を行うことが、結果として最も安全な資産防衛となります。
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外国企業とのM&A交渉と相手先選定のポイント
外国企業との交渉は、国内案件よりも「準備」が成否を分けます。
売却目的の明確化とスキームの構築
資金回収を優先するのか、従業員の雇用を守るのか、あるいはブランド名を残すのかなど、目的を明確にしましょう。それにより、株式譲渡にするのか事業譲渡にするのかといったスキーム(手法)も変わってきます。
相手企業の調査
相手企業を選ぶ際は、提示価格だけでなく以下の点を確認してください。
- 財務状況の健全性と資金調達能力
- 法規制への対応能力(日本でのコンプライアンス体制)
- 過去のM&A実績と買収後の事業継続性(PMIの姿勢)
専門家のワンストップ支援
クロスボーダーM&Aには、法務(リーガル)、税務(タックス)、財務(フィナンシャル)の各領域に精通したアドバイザーが不可欠です。特に、現地の実務に詳しい専門家をチームに入れることで、言葉の壁や商習慣の違いによるトラブルを未然に防ぐことができます。
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従業員の雇用と文化の統合(PMI)
「外資に買収される」と聞いた従業員は、大きな不安を抱きます。この不安を解消できないと、優秀な人材の流出を招き、企業価値を損なうことになります。
ネガティブイメージの払拭
海外資本や外資系ファンドなどを「ハゲタカ」と呼ぶような古い固定概念を持つ社員もいますが、実際には譲受企業が「従業員をモチベートしてビジネスを成長させたい」と願っているケースがほとんどです。譲渡オーナーは、譲受企業のビジョンや、従業員にとってのポジティブな側面(評価制度の適正化やキャリアチャンスの拡大など)を丁寧に伝える必要があります。
リ・スキルの推奨
環境の変化をチャンスと捉え、新しいスキルを身につけるリスキリングを促すことも有効です。英語力の向上だけでなく、グローバルなスタンダードでの仕事の進め方を学ぶことは、従業員自身の市場価値を高めることにもつながります。
専門家としての視点|DDでの価値の伝え方
譲渡オーナー側のアドバイザーとして活動する際、私はセラーズデューデリジェンス(売却前の調査)を推奨しています。自社の強みや人材の価値をあらかじめ整理して相手に伝えることで、雇用維持や処遇の改善を交渉のカードとして有利に使うことができるからです。
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外国企業への会社売却に関するFAQ
外資への会社売却を検討中の経営者から寄せられた質問にお答えします。
確かにそのリスクは否定できません。そのため、外為法などの法規制によって、国家安全保障に関わる重要な技術やインフラを扱う企業の売却には厳しい審査が行われます。また、契約(SPA)において技術の取り扱いや秘密保持に関する条項を厳格に定めることで、一定のリスクヘッジが可能です。
単なる通訳では不十分です。M&Aの交渉には専門用語が多く、ビジネスの意図を正確に伝える必要があります。契約書の作成や条件交渉においては、国際M&Aの実務経験があり、双方のビジネス文化を理解している専門家を代理人に立てることを強くおすすめします。
非常に深刻な事態となります。外為法違反となり、1億円以上の罰金刑が科される可能性があるほか、行政処分に時効はありません。最悪の場合、株式譲渡そのものの無効化や、事業継続が困難になるリスクもあるため、必ず実行前に専門家へ確認してください。
海外資本への会社売却のまとめ
外資への会社売却は、譲渡オーナーにとって「会社をグローバルなステージへ引き上げる」機会です。しかし、その成功のためには、外為法の遵守、国際税務の適切な処理、そして従業員の不安を取り除くPMI戦略が欠かせません。国内M&Aとは異なる専門的な知識と、粘り強い交渉力が求められるため、信頼できるパートナーと共に慎重に進めることが、最終的な企業価値の最大化につながります。
当社は、みつき税理士法人グループのM&A仲介会社として15年以上の業歴があり、中小企業のM&Aに特化した実績経験が豊富なM&Aアドバイザー・公認会計士・税理士が在籍し、タイ・バンコクに自社拠点を有しております。外国企業への会社売却をご検討の際は、みつきコンサルティングにご相談ください。
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著者

- 事業法人第二部長/M&A担当ディレクター
-
ヘルスケア分野に関わる経営支援会社を経て、みつきコンサルティングでは事業計画の策定、モニタリング支援事業に従事。運営するファンドでは、投資先の経営戦略の策定、組織改革等をハンズオンにて担当。東南アジアなど海外での業務経験から、クロスボーダー案件に関しても知見を有する。M&Aの成約実績多数、M&A仲介・助言の経験年数は10年以上
監修:みつき税理士法人
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