M&Aで譲渡オーナーと譲受企業の間に生じる価格差の原因と解消法を、15年以上の業歴を持つ専門家が解説します。アーンアウトや事業譲渡へのスキーム変更、スイングバイIPOなど、実務で使われる高度なテクニックを網羅。単なる数値の駆け引きではなく、双方が納得して成約するための具体的な交渉戦略も紹介します。企業価値評価の基本から専門的な知見まで、この記事一つで全てが分かります。
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M&Aにおける価格ギャップとは
M&Aの現場で最も頻繁に直面し、かつ成約への最大の壁となるのが「価格ギャップ」です。これは、譲渡オーナーが「自社はこの価格で売りたい」と考える希望価格と、譲受企業が「この価格なら買いたい」と提示する買収価格との間にある認識の乖離を指します。
M&Aは、譲渡オーナーにとっては人生をかけた集大成の売却であり、譲受企業にとっては将来の成長に向けた大きな投資です。双方が真剣だからこそ、金額の差が数千万円、時には数億円という単位で生じるのは決して珍しいことではありません。このギャップを単なる「わがまま」や「買い叩き」と捉えず、なぜその差が生まれているのかという構造を理解することが、交渉を前進させる第一歩となります。
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なぜ価格ギャップが生じるのか?主な原因4選
価格ギャップが生じる根本的な理由は、双方が見ている「景色」が異なるためです。譲渡オーナーは過去の苦労や無形の功績を評価し、譲受企業は将来のリスクと投資回収の確実性を評価します。ここでは、下表のとおり、実務上特によく見られる4つの原因を深掘りします。
| 原因 | 内容 |
|---|---|
| 将来の見通しに対する認識のズレ | 譲渡オーナーは自社の可能性を誰よりも信じており、「新製品が発売されれば利益は倍増する」「来期は大型受注が確定している」といった楽観的な将来予測を価格に反映させたいと考えます。一方で譲受企業は、不確実な未来に対しては非常に保守的です。「実績のない計画は評価できない」と考え、確実性の高い現状の収益力のみに基づいて価格を提示します。この「期待値」と「確実性」の差が、大きなギャップとなって現れます。 |
| リスク評価とデューデリジェンスの影響 | 譲受企業は、買収後に発生する可能性のあるリスクを非常に警戒します。従業員の離職、主要顧客との契約解消、あるいは帳簿に載っていない偶発債務など、あらゆる負の可能性を価格から差し引こうとする(リスクプレミアム)のが一般的です。デューデリジェンス(買収監査)の結果、譲渡オーナーさえ気づいてなかった法務的・財務的な欠陥が見つかると、買収価格はさらに引き下げられる傾向にあります。売り手はこれらのリスクを過小評価しがちなため、ここでも認識の相違が生まれます。 |
| 評価手法の選択による数値の乖離 | 企業価値を算出する手法には、DCF法(将来収益を重視)、マルチプル法(市場相場を重視)、時価純資産法(現在の正味資産を重視)など複数のアプローチがあります。例えば、急成長中のスタートアップ企業を資産価値を重視する「時価純資産法」で評価すれば、実際の潜在能力よりも著しく低い評価となります。逆に、安定成長の老舗企業を「DCF法」で評価しようとすると、予測の立て方一つで数値が乱高下します。どの定規を使って会社を測るかによって、算出結果が1.5倍以上変わることも珍しくありません。 |
| 譲渡オーナーの心理的・感情的な価値 | 特に中小企業の創業者にとって、会社は自分の子供のような存在です。数十年にわたる努力、守ってきた伝統、地域社会への貢献といった「感情的価値」は、財務諸表には一切現れません。この感情的価値を譲渡オーナーが価格に乗せようとするのに対し、譲受企業は合理的な投資回収の観点から「数字にならない価値に金は払えない」と反応します。この温度差が、数値的な妥協を難しくさせる要因の一つとなります。 |
譲渡価格の目安となる企業価値評価の基本
交渉を円滑に進めるためには、まず「客観的なものさし」で自社の企業価値を把握しておくことが不可欠です。感情論を抜きにして、専門家がどのような基準で価格を算出しているのかを知っておきましょう。
中小企業M&Aで多用される「年買法」
中小企業のM&A実務において、最も分かりやすく、かつ広く受け入れられている簡易的な計算式が「年買法(ねんがいほう)」です。
計算式:株式価値 = 時価純資産 +(営業利益 × 2~5年分)
この計算式の「営業利益の数年分」は「のれん(営業権)」と呼ばれ、会社のブランド力やノウハウを指します。業種や市場環境によって、この倍率が2倍になることもあれば5倍を超えることもありますが、これが一つの共通言語となります。
3つの主要な算出アプローチ
専門的な評価においては、以下の3つのアプローチが使い分けられます。案件の性質に合わせて最適な手法を選ぶことが、説得力のある価格提示に繋がります。
| アプローチ | 概要 | 適した企業 | 専門家の視点 |
|---|---|---|---|
| コストアプローチ | 会社の資産から負債を引いた純資産を基準にする | 資産背景が厚い企業、赤字企業 | 最も客観的で納得を得やすいが、将来性が無視される点に注意。 |
| マーケットアプローチ | 似た業種の他社や過去の取引例と比較する(マルチプル法など) | 上場企業に近い規模の企業 | 市場環境に左右されやすい。類似企業が見つからないと適用が難しい。 |
| インカムアプローチ | 将来生み出すキャッシュフローの現在価値を算出(DCF法など) | 成長性の高い企業、IT・サービス業 | 理論的だが、将来予測(事業計画)の信頼性が全てを決める。 |
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価格ギャップを解消する3つの実践テクニック
数値上のギャップが埋まらない場合、単にどちらかが妥協するのではなく、取引の構造(スキーム)を変えることで解決を図ります。ここでは、実務経験豊富なアドバイザーが活用する3つのテクニックを紹介します。
アーンアウト(条件付き対価)の活用
アーンアウトとは、買収時に支払う代金の一部を固定し、残りを「買収後の業績達成度」に応じて後から支払う仕組みです。
例えば、「基本価格3億円+3年後の利益目標達成で追加2億円」といった契約を結びます。これにより、譲受企業は「高値掴み」のリスクを回避でき、譲渡オーナーは「自社の将来性が正しければ、希望額を手にできる」というWin-Winの関係を築けます。
ただし、買収後の経営の独立性や、業績の計算方法を巡ってトラブルになりやすいため、契約書の設計にはアーンアウトに習熟した専門家の介入が必須です。
ストラクチャー(取引構造)の工夫
全ての株式を一度に譲渡するのではなく、取引の形を変えることで価格の折り合いをつける方法です。
例えば「事業譲渡」を活用し、不採算部門や不要な資産を除外して、収益性の高いコア事業のみを売却します。譲受企業にとってはリスクが減り、1店舗あたりの評価額を高めることが可能になります。
また、不動産などの高額資産を会社から切り離して別取引にしたり、譲渡オーナーが一定期間コンサルティング契約を結んで報酬を得ることで、実質的な受取総額を調整する手法も有効です。
2段階イグジット(スイングバイIPO)という選択肢
近年、特にスタートアップ界隈で注目されているのが「スイングバイIPO」です。これは、一度大手企業の傘下に入り(M&A)、そのリソース(販売網やブランド)を活用して急成長した後に、改めて上場(IPO)を目指すモデルです。
譲渡オーナーは初期段階で一定の現金を得つつ、上場時のキャピタルゲインという「将来のアップサイド」を残すことができます。これにより、現時点での低すぎる評価額(価格ギャップ)に不満がある場合でも、将来の成功を共有することで合意が可能になります。
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合意形成のための具体的な交渉戦略
テクニックだけでなく、交渉の「進め方」も重要です。心理的な壁を取り除き、論理的な議論ができる環境を整える必要があります。
共通の評価基準と第三者機関の活用
「自分の定規」と「相手の定規」が違うままでは、いつまで経っても平行線です。まずは、業界平均のマルチプル(倍率)や、共通の財務データを用いることに合意しましょう。
どうしても意見が合わない場合は、公平な第三者機関(企業価値評価の専門家)に算定を依頼し、その結果をベースに交渉を進めるのも一つの手です。客観的な「正解」をテーブルに置くことで、感情的な対立を避け、建設的な議論ができるようになります。
非金銭的な条件での歩み寄り
価格の差が数パーセント程度であれば、お金以外の条件で解決できることがあります。
- 従業員の雇用維持と処遇改善の確約
- 創業者の社名やブランドの継続使用
- 譲渡後のオーナーの役職や待遇の保証
譲渡オーナーにとって、長年連れ添った従業員や社名の行く末は、金額以上に重い意味を持つことが多々あります。譲受企業側がこれらの「想い」に真摯に寄り添う姿勢を見せることで、価格面での譲歩を引き出せるケースも少なくありません。
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M&Aの価格ギャップに関するFAQ
M&Aの売り手と買い手の間での譲渡価格の乖離に関するよくある質問と回答をまとめました。
不動産のような明確な相場はありません。会社ごとに財務状況や将来性、リスクが全く異なるため、一件ごとに「オーダーメイド」の価格が決まるからです。ただし、中小企業では「時価純資産+営業利益の2〜5年分」という簡易的な計算式が、交渉の目安として頻繁に利用されています。
理論的には可能ですが、現実的には非常に困難です。M&Aは双方が合意して初めて成立する契約であり、一方的な主張は交渉決裂を招きます。大切なのは「なぜその価格なのか」という論理的な根拠(事業計画や強みの可視化)を提示し、譲受企業側の納得感を高めることです。
影響します。成功報酬は一般的に「レーマン方式」という、取引金額に応じて料率が変わる仕組みで計算されます。手数料負担を考慮した上で、手元にいくら残るか(手取り額)を計算して交渉に臨む必要があります。仲介会社によって中間金の有無や最低報酬額など手数料体系が異なるため、契約前に必ず確認しましょう。
M&A価格ギャップを乗り越えて成約へ
M&Aにおける価格ギャップは、立場や視点の違いから生じる必然的なものです。単なる数字の足し引きではなく、アーンアウトやスキームの変更といった創造的な解決策を用いることで、ギャップを埋めることは十分に可能です。大切なのは、客観的な根拠を持ちつつ、相手との信頼関係を築きながら柔軟に交渉することです。
当社は、みつき税理士法人グループのM&A仲介会社として15年以上の業歴があり、中小企業のM&Aに特化した実績経験が豊富なM&Aアドバイザー・公認会計士・税理士が多く在籍しております。M&Aの価格差や企業価値評価をご検討の際は、みつきコンサルティングにご相談ください。
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著者

- 事業法人第二部長/M&A担当ディレクター
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ヘルスケア分野に関わる経営支援会社を経て、みつきコンサルティングでは事業計画の策定、モニタリング支援事業に従事。運営するファンドでは、投資先の経営戦略の策定、組織改革等をハンズオンにて担当。東南アジアなど海外での業務経験から、クロスボーダー案件に関しても知見を有する。M&Aの成約実績多数、M&A仲介・助言の経験年数は10年以上
監修:みつき税理士法人
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