設計事務所の譲渡は、後継者不足の解消や創業者利益の獲得、従業員の雇用維持に有効な経営戦略です。2025年の省エネ基準適合義務化やBIM導入など、業界特有の課題への対応策としても注目されています。本記事では、設計事務所の売却メリットや具体的な手順、譲渡価格の相場や高く譲渡するためのポイントを解説します。経営者や従業員の処遇についても触れ、成功の秘訣をお伝えします。
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建築士事務所の事業承継を取り巻く現状と今後の課題
設計事務所を取り巻く経営環境は、ここ数年で非常に大きな転換期を迎えています。全国に約9万2千超の事業所が存在し、その多くを中小規模の法人が占めています。現場で活躍するオーナー経営者の年齢層は50代から70代に達しており、事業を誰に引き継ぐかという問題が深刻化しているのが現状です。
年商が数億円から数十億円規模で、10名から100名程度の従業員を抱える設計事務所の場合、経営状態は黒字で安定していても、将来への不安は尽きません。法改正への対応やデジタル化の波が押し寄せる中、自社単独での生き残りに限界を感じる経営者は少なくないでしょう。業界再編が進む中で、事務所の売却という選択肢が現実的な解決策として強く意識され始めています。
建築物省エネ法の適合義務化への対応
2025年4月に施行された建築物省エネ法の適合義務化は、設計事務所の実務に大きな影響を与えています。住宅から非住宅まで、あらゆる建築物で省エネ基準の適合審査が必須となり、温熱計算や仕様書の標準化が求められます。これに伴う業務量の増加や、新たな審査フローへの対応は、人員に余裕のない中小事務所にとって重い負担となります。
建築基準法の4号特例見直しによる影響
小規模な木造建築物に対する構造審査を簡略化していた、いわゆる4号特例の見直しも大きな課題です。確認申請時の図書の品質や、設計者としての説明責任がこれまで以上に厳しく問われることになります。構造計算を自社で内製するにしても外注するにしても、体制の再構築に向けた投資や教育コストの増大は避けられません。
BIMの原則適用とDX化の波
公共案件を中心に、BIM(ビルディング・インフォメーション・モデリング)の原則適用が急速に進展しています。図面の3次元化や干渉チェック、積算との連携など、デジタル技術を駆使した設計手法が標準となりつつあります。高額なソフトの導入費や、それを使いこなせる人材の育成には多額の資金が必要であり、経営を圧迫する要因の一つです。
深刻化する有資格者の高齢化と採用難
一級建築士をはじめとする有資格者の高齢化は、設計事務所の存続を脅かす根本的な問題です。若手技術者の採用は年々困難になっており、ベテランの退職に伴って受注能力が低下するリスクを常に抱えています。人材の確保と定着率の向上は、設計事務所の価値を維持するための最重要課題といえるでしょう。
事務所の形態による課題の違い
設計事務所には、建築家個人の作家性が強い「アトリエ系」と、総合的な設計を行う「組織系」が存在します。アトリエ系は属人性が高いため、経営者の引退がそのまま事業存続の危機に直結しやすい傾向にあります。一方、組織系は分業が進んでいるものの、資格者の確保や大規模なDX投資が重くのしかかります。いずれの形態であっても、事業承継の壁を乗り越えることは容易ではありません。
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建築設計事務所の譲渡|4つのメリット
自社の未来を考えたとき、事務所の譲渡を決断することは、譲渡オーナーにとって多くの恩恵をもたらします。単なる事業の引き継ぎにとどまらず、経営者個人の人生や従業員の生活を豊かにするための前向きな選択肢です。ここでは現場でよく聞かれる4つの具体的なメリットを解説します。
後継者問題の抜本的な解決
長年苦楽を共にしてきた従業員の中に、経営の重責を任せられる人材がいないという悩みは深く深刻です。第三者承継を活用すれば、親族や社内に後継者がいなくても、意欲ある第三者に会社を存続させることができます。大切に育ててきた事業と従業員の雇用をしっかりと守りながら、スムーズな事業承継を実現できるのが最大の強みです。
創業者利益の獲得とハッピーリタイア
長年にわたり築き上げてきた設計事務所の価値を、市場で適正に評価してもらうことができます。第三者承継によって得られる譲渡益は、譲渡オーナー個人の大切な資産となります。この資金を引退後の豊かな老後生活に充てることも、全く新しいビジネスを立ち上げるための原資として活用することも可能です。
経営者個人の連帯保証からの解放
中小の設計事務所では、金融機関からの借入に対して経営者自身が連帯保証を負っているケースが大半を占めます。この重圧は計り知れません。譲渡によって経営権が譲受企業へ移れば、原則として個人保証も引き継がれるか、買い手側資金による一括返済で解除されます。長年の経営リスクから解放され、精神的な安心感を得られる効果は絶大です。
大手傘下入りによる事業基盤の安定と成長
自社のリソースだけでは対応しきれなかった大型案件の受注や最新技術の導入も、資本力のある譲受企業の傘下に入ることで実現しやすくなります。大手企業の営業網や資金力をフルに活用できれば、経営基盤は飛躍的に安定するでしょう。事業の成長スピードが加速し、従業員にとってもより良い労働環境を提供できる体制が整います。
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建築設計事務所の譲渡|手順と具体的な流れ
設計事務所の譲渡を円滑に進めるためには、正しいプロセスを順序立てて理解しておくことが非常に重要です。一般的な手続は以下の流れで進行します。
- M&A専門家への相談と準備
- 企業価値の評価(バリュエーション)
- 譲受企業候補の選定とトップ面談
- 基本合意とデューデリジェンス
- 最終契約の締結と引き継ぎ業務
建築設計事務所の譲渡には業界特有の対応が求められます。下表は各ステップでの具体的な対応をまとめたものです。
| ステップ | 内容 | |
|---|---|---|
| 1 | M&A専門家への相談と準備 | 建設・設計業界に精通したM&A仲介会社に相談し、秘密保持契約を締結した上で売却の目的や譲れない希望条件を整理します。建築設計事務所では、管理建築士の在籍状況や一級建築士の資格保有者数が企業価値に直結するため、有資格者の構成を事前に整理しておくことが重要です。 |
| 2 | 企業価値の評価(バリュエーション) | 直近の財務諸表の数値だけでなく、在籍する有資格者のスキル、長年培ってきた設計技術、優良な顧客リストといった無形資産も細かく評価されます。建築設計事務所では、過去の設計実績(ポートフォリオ)や特定分野(医療・福祉・商業施設等)への専門性も評価額に大きく影響します。 |
| 3 | 譲受企業候補の選定とトップ面談 | 社名を伏せた匿名の資料で関心を引いた後、秘密保持契約を結んで詳細情報を開示し、経営者同士のトップ面談に臨みます。設計事務所では所長の人脈や顧客との信頼関係が重要であるため、面談では譲渡後の代表者の処遇や関与の度合いについても確認しておくと良いでしょう。 |
| 4 | 基本合意とデューデリジェンス | 基本合意書を締結した後、財務・税務・法務・労務など多岐にわたる買収監査が実施されます。建築設計事務所では、設計図書の著作権の帰属関係や、進行中プロジェクトの契約内容、瑕疵担保責任の潜在リスクなども重点的にチェックされます。 |
| 5 | 最終契約の締結と引き継ぎ業務 | 最終譲渡契約書を締結し、決済した後は、取引先への挨拶や従業員への説明を行いながら業務の引き継ぎを進めます。事業譲渡を選択した場合は、同一市区町村等での同業開始を禁じる競業避止義務が課される点に注意が必要です。また、建築士法上の管理建築士の変更届など、行政手続も速やかに対応する必要があります。 |
建築設計事務所の売却相場と事業評価
設計事務所の譲渡において、自社がいくらで評価されるのかは譲渡オーナーにとって最大の関心事です。長年心血を注いできた事業の適正な価値を知ることは、交渉の出発点となります。ここでは、具体的な計算方法と評価を高めるポイントを解説します。
事務所の価値を算出する一般的な計算式
中小規模の事務所の譲渡で最もよく用いられるのは、時価純資産に営業利益の数年分を足し合わせる計算手法です。具体的には、貸借対照表上の資産と負債を時価で評価し直して純資産額を算出し、そこに過去数年間の平均営業利益の2年から5年分をのれん代(営業権)として加算します。また、EBITDAを用いた倍率法が採用されるケースも少なくありません。
建築士事務所が譲渡価格を最大化するポイント
設計事務所の事業価値は、単純な財務データだけでは測れません。以下の要素をしっかりと整備し、譲受企業にアピールすることが譲渡価格の最大化に直結します。現場の支援実務においても、これらの無形資産の有無が評価額を大きく左右する傾向にあります。自社の強みを客観的に整理しておくことが不可欠です。
安定した顧客基盤と公共案件の比率
継続的な受注が見込める固定客の存在は、将来の安定した収益性を裏付ける強い証拠です。特に、官公庁からの公共案件の入札資格(PQ)を持ち、確かな受注実績がある事務所は高く評価されます。長年にわたり築き上げてきた取引先との強固な信頼関係は、大きなのれん代を生み出す源泉となります。
有資格者の年齢構成と高い定着率
一級建築士や構造設計一級建築士などの有資格者は、設計事務所における最大の財産です。資格者の年齢バランスが良く、若手から中堅がしっかりと定着している組織は、将来的な事業継続性が高いと判断されます。キーマンとなる人材が退職しないよう、日頃からの労務環境の整備とモチベーション管理が求められます。
BIM運用体制の構築とデジタル化
建設業界全体でBIMの普及が急がれる中、RevitなどのBIMソフトを標準導入し、実践的な運用体制を構築している事務所の価値は急上昇しています。これまでに作成したテンプレートやファミリといったデジタル資産は、設計の効率化に直結するため、譲受企業にとって非常に魅力的な対象財産となります。
財務のクリーン化と簿外債務の排除
過去の設計に関する瑕疵担保責任の所在や、未払い残業代といった簿外債務の存在は、譲渡価格を大きく下げる要因となります。事前に帳簿を整理し、不要な資産や不良債権を適切に処理しておくことが必須です。クリーンな財務状態を提示できれば、買収監査(デューデリジェンス)もスムーズに通過できます。
譲渡後の社長と従業員の処遇はどうなるか
事務所の譲渡を実施した後、経営者自身やこれまで共に働いてきた従業員がどのような立場になるのかは、不安の種になりがちです。契約前にしっかりと確認しておく必要があります。
社長の処遇とロックアップの可能性
譲渡オーナーの処遇は、売却の目的によって大きく異なります。ハッピーリタイアを目的としている場合は、一定の引き継ぎ期間を経て完全に経営から退くのが一般的です。一方で、譲受企業から引き続き技術指導や顧客ネットワークの維持を求められ、数年間は役員や顧問としてとどまる「ロックアップ」という条件(キーマン条項)が付くケースも多く見られます。現場の混乱を防ぐためにも、この期間の役割や待遇は詳細に決めておくべきです。
従業員の雇用維持と待遇の変化
従業員の雇用がどうなるかは、用いるM&Aの手法に大きく左右されます。実務上、どのような違いが生じるのかを下表にまとめました。
| 項目 | 株式譲渡 | 事業譲渡 |
|---|---|---|
| 従業員との雇用契約の扱い | 会社ごと譲渡されるため、雇用契約はそのまま引き継がれます。 | 譲受企業と新たに雇用契約を結び直す必要があります。 |
| 特徴と注意点 | 労働条件が急変しにくく、従業員の心理的負担が少ないです。 | 従業員が転籍に同意しないリスクがあり、丁寧な説明が必要です。 |
| 建築設計事務所に固有の注意点 | 管理建築士や一級建築士の資格者が自動的に承継されるため、建築士事務所登録の変更手続が比較的スムーズです。ただし、代表者変更に伴う届出は速やかに行う必要があります。 | 設計業務を担うキーマンが転籍を拒否した場合、譲受企業が建築士事務所の登録要件(管理建築士の配置)を満たせなくなるリスクがあります。有資格者の処遇を事前に丁寧にすり合わせておくことが不可欠です。 |
| 進行中案件への影響 | 法人格が変わらないため、進行中の設計契約はそのまま継続できます。 | 契約の相手方が変わるため、施主や元請けへの個別説明と契約の再締結が必要になる場合があります。 |
このように、株式譲渡であれば労働契約承継法などの観点からも雇用への影響を最小限に抑えられます。いずれにせよ、従業員の不安を取り除くための誠実なコミュニケーションが欠かせません。
完全成功報酬制
M&Aが成立した場合のみ、譲渡対価に応じた手数料を頂戴します。
売主様は、ご成約まで費用負担なくスタートできます。
着手金・中間金
0円
月額報酬
0円
成功報酬
成約時のみ
※レーマン方式
建築設計事務所の譲渡に関するFAQ
設計事務所の譲渡を検討される経営者からよく寄せられる、代表的な疑問にお答えします。
可能です。赤字であっても、有資格者の在籍状況や長年培ってきた設計ノウハウ、特定の取引先との太いパイプなどがあれば、それを必要とする譲受企業は存在します。自社の独自の強みを正確に見極めることが重要です。
はい、進められます。初期の打診は社名を伏せた匿名の状態で行い、詳細な交渉に入る前には必ず秘密保持契約を締結します。従業員や取引先に事実を伝えるのは、最終契約を結んだ後の適切なタイミング、または譲渡を実行した直後となります。
成約の可能性は十分にあります。資格者の数は評価基準の一つですが、それ以外にも過去の設計実績や特定の地域における営業基盤、ニッチな分野での専門性が高く評価されることもあります。
建築士事務所に精通したM&A仲介会社|みつきコンサルティング
設計事務所の譲渡は、深刻な後継者不足の解消や創業者利益の確実な獲得など、多くのメリットをもたらす有効な手段です。専門性の高い業界だからこそ、自社の価値を適正に評価し、最適な相手先を見つけ出すことが成功への近道となります。不安や疑問をお持ちの経営者の方も、まずは一度ご相談いただき、事業の存続に向けた新たな一歩を踏み出してみてはいかがでしょうか。
みつきコンサルティングは、税理士法人グループのM&A仲介会社として、財務や税務の専門知識を活かしたきめ細やかなサポートを提供しております。設計事務所のM&Aの実績経験が豊富にあり、資格者不足や法改正といった業界特有の課題にも的確に対応いたします。設計事務所の譲渡なら、みつきコンサルティングへお任せください。
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著者

- 事業法人第一部長/M&A担当ディレクター
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みずほ銀行にて大手企業から中小企業まで様々なファイナンスを支援。みつきコンサルティングでは、各種メーカーやアパレル企業等の事業計画立案・実行支援に従事。現在は、IT・テクノロジー・人材業界を中心に経営課題を解決。M&Aの成約実績多数、M&A仲介・助言の経験年数は10年以上
監修:みつき税理士法人
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