後継者がいない経営者にとって、娘婿や孫、従業員との養子縁組は有効な事業承継の手段です。法定相続人が増えることで相続税の節税効果が期待できるほか、株式を確実に後継者へ集中させる効果もあります。本記事では、養子縁組を活用した事業承継のメリットと、親族間トラブルを防ぐための注意点を解説します。
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事業承継で養子縁組が注目される理由とは
中小企業のオーナー経営者にとって、誰に会社を引き継ぐかは最大の悩みどころです。実子に後継者がいない場合、娘婿(むこ)や孫、あるいは優秀な役員・従業員を後継者候補とすることがあります。しかし、彼らは本来の「法定相続人」ではない、あるいは相続順位が低いことが多く、そのままでは自社株や事業用資産を円滑に引き継ぐことが困難です。
養子縁組で事業承継を円滑に
そこで活用されるのが「養子縁組」です。養子縁組を行うことで、血縁関係のない娘婿や従業員であっても、法的には実子と同じ「子」としての立場(法定相続人)を得ることができます。
これにより、遺言書だけに頼るよりも強力な法的地位を後継者に与えることができ、かつ相続税の計算においても有利に働くケースが多いため、事業承継の現場では頻繁に検討されるスキームとなっています。ただし、単なる節税策として安易に行うと税務署から否認されるリスクや、親族間の感情的な対立を招く恐れもあるため、制度の正しい理解が不可欠です。
▷関連:親族内での事業承継|手順・方法・メリットとデメリット・株式譲渡
事業承継に養子縁組を活用する4つのメリット
養子縁組は、単に「家督を継ぐ」という精神的な意味合いだけでなく、税務・法務の両面で具体的なメリットをもたらします。現場で私たちが提案する際に重視する主なメリットは以下の4点です。
1. 株式の分散を防ぎ経営権を集中できる
養子縁組により後継者が法定相続人となれば、遺産分割協議に参加する権利を持ちます。また、「遺留分」(最低限保障される取り分)の権利も発生しますが、これは逆に言えば、他の相続人に対する防波堤にもなり得ます。 下表は、養子縁組の有無による後継者の立場の違いを整理したものです。
| 項目 | 養子縁組なし(娘婿・従業員) | 養子縁組あり |
|---|---|---|
| 相続権 | なし(遺言がなければゼロ) | あり(実子と同等) |
| 相続税 | 2割加算の対象 | 2割加算なし(孫養子は除く) |
| 遺留分 | なし | あり |
| 株式承継 | 遺贈による取得のみ | 相続・遺贈により取得可能 |
▷関連:遺留分の特例で事業承継対策!民法の除外合意・固定合意も解説
2. 相続税の基礎控除額が増加する
養子縁組を行う最大の税務メリットは、法定相続人の数が増えることによる基礎控除額の拡大です。相続税の基礎控除額は以下の計算式で決まります。
相続税の基礎控除額 = 3,000万円 +(600万円 × 法定相続人の数)
養子縁組によって法定相続人が1人増えれば、基礎控除額が600万円増加します。また、生命保険金や死亡退職金の非課税限度額(500万円×法定相続人の数)も同様に増加するため、トータルの相続税負担を圧縮することが可能です。
3. 相続税の2割加算を回避できる(娘婿の場合)
通常、配偶者や一親等の血族(子・父母)以外が財産を遺贈などで取得した場合、相続税額が2割加算されます。娘婿は本来「一親等の血族」ではないため、遺言で株式を譲ると2割加算の対象となります。
しかし、養子縁組を行えば法律上の「子」(一親等の血族)となるため、この2割加算の適用を受けずに済みます。これは株式評価額が高い中小企業において、キャッシュアウトを抑える非常に大きな効果があります。 ※ただし、孫を養子にする場合は、代襲相続(子が先に亡くなっている場合)を除き、原則として2割加算の対象となる点に注意が必要です。
4. 後継者の自覚と対外的な信用
精神的な側面ですが、養子縁組をして名字を同じくすることで、後継者に「会社と家を継ぐ」という強い自覚が芽生えます。また、取引先や金融機関に対しても「正当な後継者」としての立場を明確にアピールでき、事業承継後の経営が安定しやすくなるという実務上のメリットも見逃せません。
▷関連:事業承継とは|3つの承継先・対象・方法や成功事例・進め方も解説
失敗しないために知っておくべき注意点とリスク
メリットが多い一方で、養子縁組には無視できないリスクも潜んでいます。支援現場でよく直面する問題点は以下の通りです。
1. 他の相続人(実子)とのトラブル
養子を迎えることで法定相続人が増えると、もともとの実子たちの法定相続分は減少します。例えば、実子が2人いる状態で養子を1人迎えると、実子の相続分は各1/2から各1/3に減ります。 これを事前に説明せず進めると、「財産を減らされた」と実子が反発し、相続争い(争族)に発展するケースが後を絶ちません。他の親族の理解を得るプロセスは必須です。
2. 養子にも「遺留分」が発生する
養子縁組をした後継者が、経営不振などを理由に途中退任したり、関係が悪化したりした場合でも、養子には「遺留分」が残ります。経営権を剥奪しようとしても、株式の買取などで多額の資金請求を受けるリスク(遺留分侵害額請求)が生じます。一度縁組をすると、一方的な離縁は困難であることも覚えておく必要があります。
3. 離婚時のリスク(娘婿の場合)
娘婿と養子縁組をした後、万が一娘と離婚することになった場合、離婚届を出しただけでは養子縁組は解消されません(死後離縁などの手続きや協議離縁が必要です)。 離婚して他人になったはずの元娘婿が、養子としての相続権を持ち続け、会社の株式を主張するという最悪のシナリオも想定されます。
4. 租税回避行為とみなされるリスク
明らかに相続税を減らすことだけを目的とした養子縁組(相続直前の駆け込み縁組や、養子が実質的に財産を受け取らないなど)は、税務署に否認される可能性があります(相続税法第63条)。実態として後継者育成が行われているかどうかが重要です。
▷関連:遺産分割対策で経営権の分散を防ぐ方法|相続・事業承継税制も解説
養子縁組の手続と併用すべき対策
養子縁組は「普通養子縁組」と「特別養子縁組」がありますが、事業承継などの相続対策で利用されるのは、実親との親子関係が残る「普通養子縁組」が一般的です。 役所への届出で成立しますが、事業承継を万全にするためには、養子縁組単体ではなく、他の制度との併用をお勧めしています。
遺言書の作成と遺留分対策
養子縁組をしたからといって、自動的に株式が後継者に集まるわけではありません。必ず「自社株式は全て養子〇〇に相続させる」という旨の遺言書を作成してください。 その上で、他の相続人から遺留分侵害額請求をされないよう、経営承継円滑化法の「除外合意」を活用し、後継者が取得する自社株を遺留分の算定基礎から除外する手続きを検討します。
▷関連:遺言書を活用した事業承継|会社株式の分散を防ぐ対策・注意点を解説
事業承継税制の活用
株式の評価額が高い場合、養子縁組による基礎控除の増加だけでは税負担をカバーしきれないことがあります。その場合は、贈与税・相続税の納税が猶予・免除される「事業承継税制」の適用を検討します。現在は親族外の後継者や養子であっても要件を満たせば適用可能です。
▷関連:事業承継税制とM&Aの関係は?要件・手続・メリットとデメリット
専門家への相談とリスクシミュレーションの重要性
養子縁組は身分関係を変更する重大な法律行為です。一度行うと簡単に取り消すことはできず、将来の親族関係や扶養義務に永続的な影響を与えます。 また、税務上の法定相続人の数には制限(実子がいる場合は養子1人まで、いない場合は2人まで)があり、計算を誤ると想定した節税効果が得られないこともあります。
当社の支援現場でも、養子縁組ありきの提案ではなく、まずは現状の株価算定と相続税シミュレーションを行い、その上で「本当に養子縁組が必要か」「他の方法(種類株式や信託など)で代替できないか」を慎重に判断します。必ず顧問税理士やM&A・事業承継の専門家を交えて検討してください。
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事業承継と養子縁組に関するFAQ
事業承継と養子縁組に関して、経営者様からよくいただく質問にお答えします。
孫を養子にした場合、実子としての地位を得ますが、相続税額に関しては原則として「2割加算の対象」となります。ただし、代襲相続(実子が先に亡くなり、その代わりとして孫が相続する場合)であれば2割加算は適用されません。
可能です。優秀な従業員を養子に迎え、経営権を移譲するケースはあります。これにより他人の従業員ではなく「親族」として扱われるため、事業承継税制などの適用がスムーズになる場合がありますが、他の親族との合意形成が非常に重要です。
娘との離婚と、養親との離縁は別の手続です。離婚しても養子縁組は自動的に解消されません。養子縁組を解消するには、役所に「養子離縁届」を提出する必要があります。合意が得られない場合は裁判手続が必要になることもあり、複雑化しやすい点に注意が必要です。
まとめ|事業承継と養子縁組
事業承継における養子縁組は、後継者の地位安定と相続税対策に有効ですが、他の親族の遺留分侵害や離婚時のリスクなど、慎重に扱うべき側面も持ち合わせています。単なる節税策としてではなく、永続的な経営と円満な家族関係の両立を目指し、遺言や種類株式など他の対策と組み合わせて検討することが成功の鍵です。
みつきコンサルティングは、税理士法人グループのM&A仲介会社として、数多くの中小企業の事業承継を支援してきました。M&Aアドバイザーに加え、公認会計士・税理士が在籍しており、株価対策から養子縁組を含めた親族内承継のシミュレーションまでワンストップで対応可能です。事業承継や養子縁組の活用でお悩みの方は、ぜひ一度当社にご相談ください。
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著者

- 名古屋法人部長/M&A担当ディレクター
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人材支援会社にて、海外人材の採用・紹介事業のチームを率いて新規開拓・人材開発に従事。みつきコンサルティングでは、強みを生かし人材会社・日本語学校等の案件を中心に工事業・広告・IT業など多種に渡る案件支援を行う。M&Aの成約実績多数、M&A仲介・助言の経験年数は10年以上
監修:みつき税理士法人
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