M&A後の離職を防ぐには?社員定着のための施策とポイントを解説

会社売却において、多くの譲渡オーナーが最も懸念するのが「社員の離職」です。なぜM&Aを機に大切な社員が辞めてしまうのか?その原因は待遇の変化だけでなく、将来への不安や企業文化の摩擦にあります。本記事では、15年以上の業歴を持つ専門家の視点から、離職リスクを最小限に抑えるリテンション(定着)施策、具体的なコミュニケーションの手法、退職金の扱いまでを詳しく解説します。

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M&Aにおいて社員の離職はなぜ起きるのか

会社売却は、企業にとって成長の大きなチャンスである一方、組織にとっては劇的な変革期となります。この過程で、長年共に歩んできた社員が会社を去ってしまうケースは少なくありません。実際、東京商工会議所の調査によると、譲受企業が当初期待していた効果を達成できなかった理由のトップ3に「相手先の従業員が退職してしまった」ことが挙げられています。

では、なぜ社員は退職を選択するのでしょうか。その背景には、経営陣が想像する以上に複雑な不安と不信感があります。

社員が不安に感じる5つの要素

社員が会社売却のニュースを耳にしたとき、真っ先に考えるのは「自分の生活がどうなるか」という点です。具体的には以下の5つの要素に不安が集中します。

  1. 待遇の変化: 給与、賞与、退職金の減少や、福利厚生の悪化、残業時間の増加など。
  2. 評価基準の変動: これまでの実績が新しい会社で正当に評価されるのか、昇進ルートはどうなるのかという懸念。
  3. 人間関係の摩擦: 新しい経営陣や譲受企業の社員との相性、組織内の立ち位置の変化。
  4. 事業方針の転換: これまで信じてきたビジョンが変わり、自分の仕事の意義を見失う可能性。
  5. システムやルールの統合: 慣れ親しんだ業務フローやシステムが強制的に変更されることによるストレス。

統計から見る離職の現状

アンケート調査によると、勤務先の会社売却の発表をきっかけに「転職を考えた」と回答した人は約7割にのぼります。また、実際に退職した人の半数が「M&A後1〜3年以内」に退職しているというデータもあります。

これは、発表直後の混乱だけでなく、統合プロセス(PMI)が進む中で生じる「文化のズレ」や「現場の疲弊」が、じわじわと退職を引き起こしていることを示唆しています。

専門家による独自視点|離職は「情報の真空状態」で加速する

実務の現場を見ていて感じるのは、退職の真犯人は「変化そのもの」ではなく、経営層からの「情報不足」であるということです。会社売却の交渉は極秘で行われるため、発表された瞬間に社員は「自分たちは蚊帳の外だった」という疎外感を抱きます。

この情報の空白を埋めるために、現場では根拠のない噂話が飛び交い、不安が増幅されます。譲渡オーナーが「社員のためを思って決断した」としても、その背景や「今後の保証」が言葉で伝わらなければ、社員は自分を守るために転職市場へと動いてしまうのです。

離職がもたらす致命的なリスクと損失

社員、特に優秀なキーパーソンの退職は、M&Aの成功を根底から揺るがします。単に人数が減るという問題だけではなく、企業の「価値」そのものが失われるからです。

シナジー効果の阻害と企業価値の毀損

M&Aの最大の目的は、2つの会社が合わさることで生まれる「シナジー(相乗効果)」です。しかし、技術やノウハウを持つ専門人材が流出すると、統合後の目標達成が困難になります。

例えば、製造業やIT業界において、熟練の技術者やライセンス保持者が退職した場合、品質の低下や納期遅延といったリスクが直結します。これは譲受企業にとって、高い買収対価を支払ったにもかかわらず、中身が空っぽの箱を買わされたような状態になりかねません。

離職の連鎖反応と生産性の低下

一部の社員が辞めることで、「あの人が辞めるなら自分も」という連鎖退職(ドミノ倒し)が起きる恐れがあります。残された社員も「この会社に未来はないのではないか」と疑心暗鬼になり、モチベーションが著しく低下します。

また、後任への引き継ぎが不十分なまま退職が進むと、現場は混乱し、既存顧客への対応力が低下します。結果として売上が減少し、M&A後の立ち上がりが大幅に遅れることになります。

実務における「キーパーソン」の特定

M&Aの現場でリテンション(定着施策)が特に重要となる人材は、以下の3つのカテゴリーに分類されます。

カテゴリー役割と重要性
経営陣・幹部社員組織の方向性を決定し、部下のマネジメントを担う。早期離脱は組織の瓦解を招く。
技術・専門スキル保持者特有のノウハウ、特許、ライセンスを持つ。代えが利かないため、流出は事業継続に直結する。
営業のキーパーソン主要取引先との深い信頼関係を持つ。退職は顧客離れや売上消失のリスクを招く。

離職を防ぐための具体的施策(リテンション対策)

社員の退職を防ぎ、組織を安定させるための一連の施策を「従業員リテンション」と呼びます。これはPMI(ポスト・マージャー・インテグレーション)の最優先課題です。

早期かつ透明性の高いコミュニケーション

M&A発表直後の対応が、その後の離職率を決定づけます。社員が最も不安なのは「自分の将来がどうなるか分からない」状態です。

  • 社内説明会の開催: 経営陣が直接、M&Aの意図とビジョンを語る。
  • FAQの配布: 「給与は変わるか」「今の役職はどうなるか」など、想定される質問に誠実に回答する。
  • 個別面談(1on1): キーパーソンに対しては、早期に個別の面談を行い、期待している役割や今後の処遇を伝えて安心感を与える。

経済的インセンティブ(リテンションボーナス)

実務において非常に効果的なのが、一定期間の在籍を条件にインセンティブを支給する「リテンションボーナス」です。

一般的には、M&A成立から1年〜2年の継続勤務を条件として支給されます。これは「お金で縛る」という意味ではなく、変化の激しい時期を支えてくれる社員に対する「感謝と期待の対価」として位置付けることが重要です。

柔軟な人事制度の設計と段階的な統合

譲受企業が一方的に自社の制度を押し付けると、対象会社の社員は反発します。

  • 経過措置の導入: 少なくとも1年程度は譲渡企業の給与体系や評価制度を維持する。
  • 働き方の尊重: テレワークやフレックスタイムなど、譲渡企業が導入していた柔軟な働き方を可能な限り継続させる。
  • キャリアパスの明示: 統合後の新しい組織図や、昇進・昇格のルートを早期に見える化する。

社員にとってのM&Aのメリットを伝える

退職を防ぐためには、不安を解消するだけでなく、会社売却がいかに社員にとって「ポジティブな変化」であるかを伝える努力も必要です。

大手グループ入りによる安定とステータス

中小企業が大手企業の傘下に入ることで、福利厚生が充実したり、社会的信用(ステータス)が向上したりすることがあります。また、親会社の資本力を背景に、これまで資金面で断念していた新しいプロジェクトに挑戦できる可能性も広がります。

キャリアの多様化と成長の機会

異なる組織と混ざり合うことで、新しい技術やノウハウを学ぶ機会が得られます。チャレンジ精神の強い社員にとっては、より大きな組織でリーダーシップを発揮するチャンスであり、キャリアアップの近道になることも多いのです。

「会社が売られた」という被害者意識ではなく、「強力なパートナーを得た」という前向きなメッセージを発信し続けることが、社員の定着率を高めます。

専門家のアドバイス|譲渡オーナーが果たすべき最後の役割

会社売却の最終合意後、譲渡オーナーは「ロックアップ」期間としてしばらく会社に残ることが多いですが、この期間こそが重要です。オーナーは社員にとっての「精神的支柱」です。

あなたが新しい経営陣と親密に協力している姿を見せ、新しい会社がいかに素晴らしいかを自分の言葉で語り続けてください。オーナーが「逃げるように」いなくなると、社員の不信感はピークに達します。最後の一日まで社員の不安に向き合うことが、旧オーナー経営者としての最後にして最大の仕事です。

M&Aを機に退職する社員の「退職金」はどうなる

万が一、社員が退職を選択する場合、あるいは会社売却の手続の過程において、退職金の扱いは大きな論点となります。下表は、会社売却の手法による退職金の扱いの違いをまとめたものです。

項目株式譲渡の場合事業譲渡の場合
基本的な仕組み会社という「箱」ごと経営権が移ります。事業の一部を譲り渡す形で、一度「旧会社」との雇用契約を終了し、「新会社」と再契約を結ぶ形になります。
退職金の支払い(原則)雇用契約はそのまま引き継がれるため、M&Aのタイミングで退職金が支払われることはありません。以下のいずれかのパターンが採用されます。
– 精算パターン:旧会社で一度退職金を精算し、新会社では勤続年数をリセットして再出発する
– 引き継ぎパターン:退職金債務を新会社が引き受け、将来の退職時に通算して支払う
将来の退職時譲受企業の規定、あるいは引き継がれた規定に基づいて支払われます。パターンによって異なります。精算パターンでは新会社での勤続分のみ、引き継ぎパターンでは通算で支払われます。
勤続年数の扱い勤続年数も合算して計算されることが一般的です。精算パターンではリセット、引き継ぎパターンでは通算されます。
実務上の注意点M&Aのタイミングでは退職金の精算は発生しませんが、将来の支払い義務は継続します。中小企業のM&Aでは、社員の不安を払拭するために「条件を落とさず引き継ぐ」ことが交渉の鍵となります。

自己都合か会社都合か

通常、M&Aが行われること自体は「会社都合」の退職理由にはなりません。しかし、以下のようなケースでは「会社都合」と判断される可能性があります。

  • 勤務地が大幅に変更され、通勤が困難になった場合。
  • 労働条件(賃金など)が一方的に、かつ大幅に悪化した場合。

譲渡オーナーとしては、安易に「自己都合になるから大丈夫」と考えるのではなく、労働条件の不利益変更が起きないよう、譲受企業と入念に協議しておく必要があります。

M&Aの成功事例と失敗の教訓

他社の事例を学ぶことは、自社の離職対策を練る上で非常に有益です。

成功事例|リクルートによるIndeedの買収

2012年、リクルートが米国のIndeedを買収した際、リクルートはIndeedの企業文化を最大限に尊重しました。

  • 施策: 創業者や経営陣をそのまま継続登用し、成果に応じた報酬制度を維持した。
  • 結果: 離職率は低く抑えられ、Indeedは買収後も飛躍的な成長を遂げ、リクルートの主力事業となりました。

この事例は、「買収したからといって自社の色に染めすぎない」ことが、リテンションの成功に直結することを証明しています。

課題が残った事例|大手通信会社とCATV会社の統合

ある大手通信会社がケーブルテレビ会社を完全子会社化した際、初期段階で想定以上の退職が発生しました。

  • 原因: 評価・報酬制度の統合が遅れ、社員の間に「自分の待遇が不透明だ」という不安が広がったため。
  • 対応策: その後、退職者を再採用する「アルムナイ制度」の導入や、6ヶ月以内の迅速な評価制度統一を行い、事態の収拾を図りました。

この教訓は、「制度の空白期間」を作ってはいけないという点にあります。

会社売却後の社員の離職に関するFAQ

会社売却を検討されるオーナー経営者から寄せられる従業員の離職防止に関する質問をまとめました。

Q:会社売却を発表する最適なタイミングはいつでしょうか?

実務上、最も適切なのは最終契約締結(あるいはクロージング)の直後です。あまりに早い段階(基本合意前など)で伝えると、破談になった際のリスクが大きく、社員の不安だけが先行してしまいます。ただし、キーパーソン(数名程度)には、交渉の最終段階で個別に打ち明け、協力を仰ぐケースもあります。

Q:優秀な社員が「辞めたい」と言い出した場合、どう引き留めるべきですか?

まずは、その理由が「誤解」に基づいていないかを確認してください。「給与が下がると思い込んでいる」「新しい上司が怖いと聞いている」などの誤解であれば、事実を提示することで解消できます。また、前述のリテンションボーナスや、新しい組織での重要なポジション(役職)を約束することも有効な手段です。

Q:譲受企業が「リストラ」を行わないか心配です

現在の中小企業M&Aにおいて、人員整理を予定して買収を行うことは極めて稀です。なぜなら、買い手は「人手不足」の解消や「ノウハウ」の取得を目的としているからです。また、交渉段階で「雇用維持」を契約書(表明保証条項など)に盛り込むことが一般的ですので、譲渡オーナーは毅然とこの条件を求めてください。

Q:社員の有給休暇は引き継がれますか?

株式譲渡の場合、雇用契約がそのまま継続するため、有給休暇の残日数も引き継がれます。事業譲渡の場合は、新会社との再契約となるため、法的にはリセットされますが、実務上は「福利厚生の一環としてそのまま引き継ぐ」という条件で合意することもあります。

M&Aの離職対策のまとめ

会社売却後の社員の退職は、適切な準備と誠実なコミュニケーションによって最小限に食い止めることができます。退職を防止するポイントをまとめます。

  • 不安の源泉を知る: 待遇、評価、人間関係、方針、システムの5要素をケアする。
  • PMIを徹底する: M&A成立後の「最初の100日」で、迅速に情報開示と制度統合を行う。
  • キーパーソンを守る: リテンションボーナスや個別面談を活用し、特別にフォローする。
  • オーナーの姿勢: 譲受企業を「敵」ではなく「未来のパートナー」として社員に紹介する。

社員は会社の宝です。M&Aという大きな転換期を、社員と共に乗り越え、新しいステージで輝かせることこそが、経営者の真の成功と言えるでしょう。

当社は、みつき税理士法人グループのM&A仲介会社として15年以上の業歴があり、中小企業のM&Aに特化した実績経験が豊富なM&Aアドバイザー・公認会計士・税理士が多く在籍しております。M&A後の離職対策や従業員の処遇、PMI(統合プロセス)をご検討の際は、みつきコンサルティングにご相談ください。

著者

伊丹 宏久
伊丹 宏久事業法人第二部長/M&A担当ディレクター
ヘルスケア分野に関わる経営支援会社を経て、みつきコンサルティングでは事業計画の策定、モニタリング支援事業に従事。運営するファンドでは、投資先の経営戦略の策定、組織改革等をハンズオンにて担当。東南アジアなど海外での業務経験から、クロスボーダー案件に関しても知見を有する。M&Aの成約実績多数、M&A仲介・助言の経験年数は10年以上
監修:みつき税理士法人

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