- 本日は、貴重なお時間をいただき、ありがとうございます。まず、M&Aを検討し始めたきっかけについてお聞かせください。
はい、ありがとうございます。実は、私も妻も年齢を重ね、薬局の経営に関して将来的な不安を感じ始めていました。長年この地域で薬局を営んできましたが、いつまでも現役でいられるわけではありません。そこで、娘に継いでもらえないかと考えたのですが、彼女には別の人生の計画があり、難しいことがわかりました。そのため、M&Aという選択肢を真剣に検討し始めたのです。
- なるほど、事業承継の問題がきっかけだったのですね。M&Aのプロセスを進める中で、どのような不安や懸念がありましたか?
最初は、M&Aという言葉自体に抵抗がありました。長年築き上げてきた薬局を手放すことへの寂しさや、従業員の処遇、そして何より患者さんへの影響を心配していました。また、正直なところ、M&Aの仕組みや進め方についても全く知識がなく、不安でいっぱいでした。
- そうした不安を抱えながら、どのようにM&Aを進めていったのでしょうか?
最初は手探り状態でしたが、みつきコンサルティングさんに相談してからは、少しずつイメージができるようになりました。娘への説明の際には、説明用の資料を作成していただきましたが、非常に分かりやすく、家族で話し合う際にとても役立ちました。また、M&Aのプロセスや、想定される買い手企業のリストなども丁寧に説明してくれたので、徐々に理解が深まっていきました。
- 中小企業のオーナー経営者がM&Aを検討する際、他にどのような一般的な事情や状況があるのでしょうか?
そうですね、私の経験や周りの経営者の話を聞いていると、まず、高齢化による体力や気力の低下というのが、多くのオーナーが直面する共通の問題です。私も含めて、若い頃のように長時間働くことが難しくなってきています。
また、業界の変化や競争の激化も大きな要因です。例えば、私たちの薬局業界でも、大手チェーンの進出や調剤報酬の改定など、経営環境が急速に変化しています。こうした変化に対応するには、新たな投資や経営戦略の転換が必要ですが、個人経営では限界があると感じる経営者も多いようです。
さらに、後継者問題も深刻です。子供がいない、あるいは子供がいても事業を継ぐ意思がないというケースも多いと思います。私の場合は娘が継がないという意思でした。そういった状況で、会社の将来や従業員の雇用を考えると、M&Aは有力な選択肢となります。
- M&Aを決断する際に、特に悩まれたエピソードはありますか?
はい、実は最初にM&Aを提案されたとき、強く抵抗感がありました。この薬局は私の父が創業し、私が引き継いだものです。家族の歴史そのものであり、簡単に手放すことはできないと思っていました。
しかし、ある日、長年のお得意様だったおばあさんが来局された時のことです。その方は、「この薬局がなくなったら、私たちはどうすればいいの?」と不安そうに話されました。その言葉を聞いて、はっとしたんです。この薬局は単なる私の財産ではなく、地域の人々の健康を支える大切な存在なのだと。
そこで、改めてM&Aについて考え直しました。適切な譲渡先を見つけることができれば、むしろ薬局の存続と発展につながるのではないか。そう考えるようになり、前向きに検討を始めることができたのです。
- 買い手企業を選ぶ際に、どのような点を重視されましたか?
やはり一番は、患者さんへのサービスの質を落とさないことでした。長年信頼関係を築いてきた患者さんたちのために、しっかりとした経営基盤を持つ企業に引き継ぎたいと考えていました。また、従業員の雇用継続も重要な条件でした。そういった観点から、最終的にS社を選びました。S社は大手で信頼できる企業であり、また当薬局の近くに既存店舗があったことから、地域医療への理解も深いと感じました。
- 価格面での交渉はいかがでしたか?当初の想定と実際の譲渡価格に差はありましたか?
正直なところ、最初にみつきコンサルティングさんから提示された価格は想像よりも低く感じました。しかし、みつきコンサルティングさんが算出した価格の根拠を丁寧に説明してくれたおかげで、納得することができました。結果的に、みつきコンサルティングさんの交渉により、S社からの最終的な譲渡価格は当初の想定よりも高くなり、満足のいく結果となりました。
- デューデリジェンス(DD)の過程で、いくつかの問題点が発覚したと伺っています。その際の対応についてお聞かせください。
はい、DDで思わぬ問題が明らかになり、非常に焦りました。特に、建物の増築部分が未登記だったことや、医療機関へのリベートの問題は深刻でした。増築については図面と謄本等を確認したところ、未登記であることが発覚し、S社としては未登記物件の部分は引き受けられないとのことでした。リベートについても、みつきコンサルティングさんからはもともとリベートの有無について確認され、無いと回答していました。しかし、DDを通して実質リベートであると認識されてしまう取引があり、正直、これでM&Aが頓挫するのではないかと不安になりました。しかし、みつきコンサルティングさんと買い手のS社が柔軟に対応してくれたおかげで、何とか乗り越えることができました。
- 従業員の方々への説明はスムーズに進みましたか?
従業員への説明は非常に緊張しました。長年一緒に働いてきた仲間たちですから、彼らの不安を取り除くことが重要だと考えていました。クロージング後、当日中に全員参加で説明会を開催しましたが、予想以上にスムーズに進みました。正直、M&Aの話を従業員に伝えるのは怖かったんです。みんな怒ったり、辞めてしまったりするのではないかと。ところが、実際に説明してみると、多くの従業員が前向きに受け止めてくれたんです。「大手企業の傘下に入ることで、より良い待遇や研修の機会が得られるかもしれない」と期待する声も聞かれました。中には、「オーナーさんの決断を尊重します。これからも頑張ります」と言ってくれる人もいて、本当に感動しました。S社の方針や従業員の処遇について丁寧に説明したことで、皆安心してくれたようです。
- M&Aのプロセスを振り返って、特に印象に残っていることはありますか?
やはり、地主との交渉が一番印象に残っています。DD後に店舗の底地を所有する地主にM&Aについて報告したところ、株式譲渡を認めないという通知が届いたときは、本当に青ざめました。しかし、これも関係者全員で協力して丁寧に説明した結果、無事に理解してもらうことができました。この経験から、M&Aにおいては丁寧な説明の重要性を痛感しました。
- M&Aを通じて、ご自身や会社にどのような変化がありましたか?
個人的には、大きな重荷から解放された気分です。長年、薬局の経営に全力を注いできましたが、年齢とともに将来への不安も大きくなっていました。M&Aによって、患者さんや従業員の未来を託せる相手が見つかり、安心して引退する準備ができるようになりました。会社としては、大手企業の傘下に入ることで、より安定した経営基盤を得られたと思います。また、S社のノウハウや資源を活用することで、サービスの質も向上すると期待しています。
また、買い手企業との交渉過程で、自社の強みや弱みを客観的に見つめ直す機会にもなりました。例えば、私たちの薬局は地域密着型のサービスが評価されていましたが、一方で在宅医療への対応が遅れていることも分かりました。こうした気づきは、仮にM&Aを行わなかったとしても、今後の経営に活かせる貴重な経験となりました。
- M&Aを通じて、新たな気づきや学びがあったのですね。最後に、これからM&Aを検討している中小企業のオーナーの方々へアドバイスをお願いします。
まず、早めの準備が大切だと感じました。私の場合は、娘への承継が難しいとわかってから本格的に動き出しましたが、もっと早くから選択肢として考えておけば、より余裕を持って進められたかもしれません。従業員や取引先、そして顧客のことを考え、彼らの未来を守ることが、オーナーとしての最後の責務だと思います。
また、私からは「感情と理性のバランスを大切に」というメッセージを伝えたいです。M&Aは、単なるビジネス上の決断ではありません。長年愛着を持って経営してきた会社を手放すわけですから、当然、様々な感情が湧き上がってきます。
しかし、感情に流されすぎると、冷静な判断ができなくなる恐れがあります。かといって、数字だけで割り切ってしまうと、後々後悔する可能性もあります。大切なのは、自分の感情を認識しつつ、客観的な視点も持ち合わせることです。
私の場合は、家族や信頼できる専門家と何度も話し合いを重ねました。その過程で、自分の本当の想いや、会社の将来にとって何が最善なのかを見極めることができたと思います。
M&Aは確かに大きな決断です。でも、それは同時に新たな可能性を開く扉でもあります。自分の人生、従業員の未来、そして会社の発展を総合的に考え、勇気を持って一歩を踏み出してほしいと思います。
- 貴重なお話をありがとうございました。今回のM&A体験が、今後の人生にとってプラスになることを願っています。
こちらこそ、ありがとうございました。確かに不安や苦労もありましたが、結果的には良い決断だったと思っています。これからは、長年の経験を活かしながら、違った形で地域医療に貢献していきたいと考えています。