-本日は貴重なお時間をいただき、ありがとうございます。まずは、K社の事業概要と経営者としてのこれまでの経験について教えていただけますでしょうか。
はい、分かりました。当社は中四国に本社を置き、海鮮料理店を3店舗、弁当販売店を1店舗、そしてラーメン店を1店舗、合計5店舗を運営しています。主力の海鮮料理店は、新鮮な海の幸を使った和食中心の料理を提供しており、観光客や地元の方々に親しまれています。
30年ほど前に父から事業を引き継ぎ、当時は1店舗だけでしたが、徐々に事業を拡大してきました。経営者として最も大切にしてきたのは、地域との共生です。瀬戸内海の豊かな食材を活かし、地元の方々の雇用を創出することで、地域経済の活性化に貢献してきたつもりです。
-なるほど。長年にわたり地域に根差した経営をされてきたのですね。御社の強みはどのような点にあるとお考えですか?
そうですね。やはり最大の強みは、瀬戸内海という自然豊かな観光地に複数の店舗を持っていることです。特に、当社のブランドは、地元で長年営業してきた実績があり、知名度も高いです。また、冠婚葬祭にも対応できる大型の個室を備えた店舗構成も強みの一つです。さらに、魚を捌く技術を持った職人や、ホスピタリティの高いホールスタッフがいることも大きな強みだと考えています。
私が経営者として特に力を入れてきたのは、人材育成です。料理人としての技術はもちろんですが、お客様に心からのおもてなしができる人材を育てることに注力してきました。その結果、リピーターのお客様も多く、安定した経営基盤を築くことができたと自負しています。
-素晴らしい取り組みですね。一方で、経営上の課題などはありましたか?
はい。最大の課題は人手不足でした。瀬戸内海という立地柄、慢性的に人材確保が難しく、店舗運営に手一杯の状態が続いていました。また、私自身も高齢になってきており、会社の更なる成長に向けて時間と体力を注ぐことが難しくなってきていました。
特に近年は、若い世代の都市流出が加速し、人材確保がますます困難になっていました。これらの課題に対して、地元への広告活動や、待遇改善、地元の高校や専門学校との連携強化など、様々な対策を講じてきましたが、根本的な解決には至っていませんでした。
また、コロナ禍の影響で観光客が減少し、売上が落ち込む時期がしばらくの間続いたことも影響がありました。
-なるほど。そういった背景もあり、今回のM&Aを検討されたわけですね。M&Aを決断された具体的な理由を教えていただけますか?
はい、主な理由は後継者問題です。息子はいるのですが、調理人としての経験が長く、調理場やホールの管理はできても会社経営となるとまだ難しいと判断しました。それに加えて、先ほど申し上げた人手不足の解消や通信販売の強化など、会社をさらに発展させてくれる相手を探したいという思いもありました。なにより、息子の考えも現状の課題解決や事業のさらなる発展のためには、M&Aを選択肢にいれるべきというものでした。
息子には幼い頃から店を手伝わせ、将来は事業を継いでもらうつもりでした。しかし、息子は大学進学を機に都会に出て、そこで新しい価値観に触れたようです。帰ってきてからも、伝統を守りつつ新しいことにチャレンジしたいという息子と、安定路線を重視する私との間で、度々意見の衝突がありました。
最終的に、わたしの考え方もコロナ渦や慢性的な人手不足をとおして変わりつつあったことと、息子の考えも尊重しつつ、会社の将来を考えた結果、M&Aという選択肢にたどり着いたのです。
-難しい決断だったと思います。M&Aを進めるにあたって、どのような企業を理想の相手先とお考えでしたか?
まず、当社を発展させてくれる企業であることが重要でした。そして、人手不足を解消してくれる能力のある企業であることも条件でした。また、できれば仕入れや物流での連携を想定し、近隣エリアで事業展開している企業が理想でした。
特に重視したのは、当社のブランドや、これまで築いてきた地域との関係性を理解し、尊重してくれる企業であることです。単に利益を追求するだけでなく、地域貢献や従業員の幸せも大切にしてくれる企業を探していました。
-具体的な条件をお持ちだったのですね。実際に譲受先となったT社を紹介された時はどのような印象を持たれましたか?
正直、最初は主業がFC展開ということで少し躊躇しました。当社は長年、オリジナリティを大切にしてきましたから、FCのイメージとは少しギャップがありました。しかし、海鮮系の業態を持っているため仕入れ先の共有ができること、FCならではの効率的なオペレーションを取り入れることで効率化が図れる可能性があること、物理的な距離も近く人的サポートも得られそうだということを聞いて、前向きに検討しようと思いました。
特に印象的だったのは、T社の理念です。地域に根差した店づくりを大切にされており、当社の理念と非常に近いものを感じました。また、従業員の教育システムが充実していることも魅力的でした。
-T社との面談はいかがでしたか?
非常に良い印象を持ちました。T社の社長をはじめとする経営陣が、当社に興味を持った理由や今後の連携について丁寧に説明してくださいました。私たちの事業に対する理解も深かったです。特に、私たちの強みを活かしながら、さらなる成長の可能性を示してくれたことが印象的でした。
例えば、当社のブランドを活かしつつ、T社のノウハウを導入することで、オペレーションの効率化や新メニューの開発が可能になるという具体的な提案がありました。また、グループ一括採用の活用や人材育成システムを導入することで、人手不足の解消にもつながるという話もありました。
正直、一緒に仕事をしていくのが楽しみだという気持ちになりました。
-素晴らしいですね。M&Aのプロセスを通じて、みつきコンサルティングのサポートはいかがでしたか?
非常に満足しています。わたしの条件がかなり厳しかったので、譲受先を探すのに少しだけ苦労されていたようですが、最終的に良い相手を見つけていただきました。また、日々の電話でのコミュニケーションはもちろん、遠方にも関わらず、定期的にお越しいただいたことで、安心してプロセスを進めることができました。いつも打合せ時間より早めにお店に来てくれて、美味しそうにご飯を食べてくれるのも嬉しかったです。
-M&Aプロセスの中で、特に印象に残っているエピソードはありますか?
はい、デューデリジェンスのときです。当社の主力商品のレシピや仕入れルートについて、買い手側から詳細な質問が相次ぎました。最初はノウハウに近い情報まで開示する必要があるのかと戸惑いましたが、みつきコンサルティングの担当者が「これは買い手側の事業連携し、一緒に発展したいという強い意思の表れです。この段階で、この範囲までであれば開示してもいいと思います。」と説明してくれました。
この経験を通じて、M&Aは単なる企業の売買ではなく、自分が築き上げてきた事業を次の世代に引き継ぐ重要な過程なのだと実感しました。同時に、T社が当社の事業に真剣に向き合ってくれていることを感じ、信頼関係が深まったように思います。
-なるほど。M&Aプロセスを通じて、様々な気づきがあったのですね。では、これからのK社に対する期待をお聞かせください。
T社の傘下に入ることで、人手不足の解消や効率的な経営ノウハウの導入が進むことを期待しています。また、瀬戸内海の観光事業と連携した新たな試みも楽しみです。
何より、長年築いてきた当社のブランドがさらに発展していくことを願っています。T社のマーケティング力や商品開発力を活かして、当社の魅力を全国に発信できるようになれば嬉しいですね。
従業員たちにも新しい環境で成長の機会があることを嬉しく思います。T社の充実した研修制度を通じて、従業員一人一人がさらにスキルアップし、やりがいを持って働ける環境になることを期待しています。
-M&A後の協業について、具体的なシナジー効果をどのように想定されていますか?
まず、仕入れでのシナジーが期待できます。T社が持つ広範な仕入れネットワークを活用することで、より質の高い食材をより安定的に確保できるようになるでしょう。これは品質の向上とコスト削減の両方につながります。
次に、マーケティングによる集客でのシナジーです。T社のデジタルマーケティングのノウハウを活用することで、若い世代の集客が強化できると考えています。例えば、SNSを活用した情報発信やオンライン予約システムの導入など、これまで当社では手薄だった部分を補強できます。
さらに、新規出店の際のノウハウも大きなシナジーになるでしょう。T社の店舗開発のノウハウを活用することで、より効率的かつ戦略的な出店が可能になると期待しています。
-素晴らしいビジョンですね。最後に、M&A後の心境や新たな生活について、お聞かせいただけますか?
正直なところ、複雑な心境です。35年間、毎日のようにお店に立ち、お客様と接してきた生活が一変するわけですから、少し寂しさもあります。しかし、それ以上に、会社の未来に対する期待と安堵感の方が大きいですね。
M&A後は、しばらく顧問として会社を見守りつつ、徐々に第二の人生に向けた準備を進めていく予定です。具体的には、長年の夢だった世界各国の料理を巡る旅に出たいと考えています。そこで得た知識や経験を、何らかのかたちで大好きなお店に還元できればと思っています。
また、地域貢献にも力を入れたいと考えています。瀬戸内海エリアの食文化を次世代に伝えるための料理教室を開いたり、地元の子供たちに食育の大切さを伝える活動をしたりするのも良いかもしれません。
これまでは会社の経営に追われる日々でしたが、これからは自分の時間を持てることに、ある種の解放感も感じています。家族との時間も大切にしたいですし、趣味の園芸にも久しぶりに力を入れたいと思っています。
ただ、完全に会社から離れてしまうわけではありません。T社からも、当面は顧問として関わってほしいと言われています。長年培ってきた経験や人脈を活かして、グループの発展に少しでも貢献できればと考えています。
M&Aのプロセスをとおして、改めて会社への愛着と誇りを感じました。同時に、新たな挑戦への期待も膨らんでいます。