-本日は、貴重なお時間をいただきありがとうございます。まず、X社の創業から現在に至るまでの経緯をお聞かせください。
はい、X社は今から50年以上前に東北地方にて創業し、その後、工場新設に伴い法人化しました。以降は、隣市への進出を目的に新たな法人設立、私は大学卒業後すぐに家業を手伝い始め、2000年に父から事業を引き継ぎました。以来、20年以上にわたって経営に携わってきました。
-長年経営に携わってこられたわけですね。その間、業界にはどのような変化がありましたか?
大きな変化は幾度となくありました。まず、1990年代後半から2000年代にかけて、低価格のクリーニングチェーン店の増加、クールビズによる服装の変化等により価格競争の激化および市況が変化し、多くの個人経営店が苦戦を強いられました。また、2011年には東日本大震災にも直面しました。さらには2020年以降、新型コロナウイルスの猛威もあり、世の中大半の企業が大打撃を受け、ひいては人々の生活習慣も一転しました。近年では、物価高の影響もあり仕入や固定費の増加にくわえて少子高齢化ならびに人口減少による人手不足や後継者問題においても業界全体の課題となっています。
-そのような変化の中で、X社はどのように対応されてきたのでしょうか?
私たちは、常にお客様と向き合い、地域に合ったサービスにこだわり続けてきました。低価格競争には加わらず、丁寧な仕上がりと細やかな顧客対応を重視しました。また、屋号や看板を複数ブランドで展開および特徴を活かしたことや地方において集客性のあるSMやGMSに出店することで収益の安定化を図りました。これらの取り組みにより、厳しい環境の中でも一定の収益を確保できていました。
-素晴らしい取り組みですね。では、M&Aを検討されるきっかけについて、もう少し詳しくお聞かせください。
主な理由は二つあります。一つは後継者問題です。親族内では後継者はおらず、従業員の中にも経営を任せられる人材がいませんでした。もう一つは、私自身の早期引退です。長い間、身を粉にして経営をしてきましたが、そろそろ第二の人生を歩みたいと考えていました。ただ、従業員の雇用や、父から引き継いだ事業の存続を考えると、現実的に自分だけではどうすることもできず悩んでいました。
-なるほど。M&Aのプロセスを始められた時、どのような不安や期待がありましたか?
正直、不安の方が大きかったです。経営は安定していましたが地方の中小企業ですので、果たして譲受先が見つかるのかという不安がありました。また、従業員の雇用継続や、長年築き上げてきた事業の継続性についても心配でした。一方で、適切な譲受先が見つかれば、会社の未来が開けるのではないかという期待もありました。特に、業界全体が縮小傾向にある中で、競争優位性や規模の経済を活かせる可能性に期待していました。
-みつきコンサルティングとの出会いはどのようなものでしたか?
みつきコンサルティングさんからのダイレクトメールがきっかけでした。最初は半信半疑でしたが、担当者との電話やメールでのやり取りを重ねるうちに、業界への理解の深さや、丁寧な対応に信頼感を覚えました。特に、初回の面談で担当者が当地域にゆかりがあると知り、親近感を覚えたのを覚えています。地方の事情を理解してくれているという安心感がありました。
-みつきコンサルティングの対応で、特に印象に残っている点はありますか?
はい、いくつかあります。まず、業界に精通していたことで、私たちの事業の特性や課題をすでに理解してくれていたことです。例えば、クリーニング業界特有の季節変動や、工場設備、業法などを理解した上で、適切なアドバイスをしてくれました。また、譲受先探しに苦労する中で、粘り強く候補を探してくれたことも印象的でした。さらに、業界内での繋がりも多くあることや、豊富な知識と実績が裏付けとなり、大変心強かったですね。
-様々な外部環境の変化がある中で、M&Aプロセスを進められたのは素晴らしいですね。譲受企業とのマッチングはスムーズに進みましたか?
実は、最初はあまりスムーズではありませんでした。当初、関心を示してくれた企業がありましたが、関東の企業で、距離的な問題で話が進みませんでした。地方企業ならではの課題だと感じました。引き続き、みつきコンサルティングさんが粘り強く候補を探してくれて、最終的に同じ東北であるZ社とマッチングすることができました。
-譲受企業との初めての面談はいかがでしたか?
とても良い印象を持ちました。Z社の社長様は、業歴も長く地域でも有数なクリーニング会社であり、先輩経営者でありながら謙虚で誠実な方でした。また、社員を大切にする経営方針や新しいことにも挑戦しようとする事業意欲には感銘を受け、当社も安心してお任せできると確信しました。
-価格交渉や条件面での調整はスムーズに進みましたか?
はい、私の希望する価格をお伝えしつつも、みつきコンサルティングさんが業界の動向を踏まえながら合理的な条件での提示をしていただいておりましたので、大きな混乱はありませんでした。ただ、交渉・調査を進めていく過程の中で最終的には当初の予定より少し低い価格で合意しました。この点については、みつきコンサルティングさんが中立的な立場から適切なアドバイスをしてくれたおかげで、納得のいく結果となりました。
-デューデリジェンス(DD)の過程で何か課題はありましたか?
DDは会計・税務を中心とした内容でしたが特に大きな問題はありませんでした。一方では、クリーニング業界特有の土壌汚染調査が必要とのことで、これがコロナ禍の緊急事態宣言の影響で予定より1ヶ月ほど遅れましたが、何とか実施することができました。結果的には軽微な汚染しか見つからず、専門家の見解としても大きな問題にはなりませんでした。ただ、この調査結果を受け先方と真摯に向き合い、最終的な譲渡価格は若干下がりましたが、迷いなく合意しました。
-最終的な契約締結までの過程で印象に残っていることはありますか?
はい、みつきコンサルティングさんの専門的かつ柔軟な対応が印象的でした。コロナの影響で譲受側の投資意欲が減退する可能性があったのですが、当社の役員退職慰労金を設け、譲受側の初期の資金負担を軽減することや、税務上の観点から私自身の経済合理性の最大化まで、両社の立場を考えた提案をしてくれました。このような柔軟な発想がなければ、契約締結まで至らなかったかもしれません。
-M&Aを完了した今、どのような感想をお持ちですか?
安堵感と共に、新たな期待を感じています。長年続けてきた事業が良い形で引き継がれることになり、従業員の雇用も守られることになりました。また、譲受企業との相乗効果で、会社がさらに発展する可能性も感じています。
-M&A後の協業について、具体的にどのようなシナジーを想定されていますか?
いくつか考えられます。例えば、Z社とのドミナント戦略及び複数のブランド展開により顧客の囲い込み、特殊品専門工場を活用したグループ内における一貫したサービスが外注コストの抑制にもなるため、積極的な事業拡大が期待できます。
-譲渡後の心境や新たな生活について、お聞かせください。
正直なところ、複雑な心境です。入社して30年以上携わってきた事業を手放すことには寂しさもありますが、同時に大きな安堵感も感じています。特に、従業員の雇用が守られ、会社が存続していくことへの安心感は大きいですね。新たな生活については、まだ模索中です。当面は顧問として会社に関わりながら、徐々に家族や自分の時間を増やしていく予定です。
-クリーニング業界の将来展望について、どのようにお考えですか?
厳しい見方をする人も多いですが、私は決して悲観的ではありません。確かに、家庭用クリーニング需要は減少傾向にありますが、一方で高付加価値サービスへのニーズは依然として存在すると考えています。例えば、高級衣料や特殊素材のケア、しみ抜きなどの専門技術を要するサービスです。また、環境意識の高まりから、衣類のメンテナンスやリペアへの関心も高まっています。これらのニーズに応えることで、新たな市場を開拓できる可能性があります。さらに、法人向けサービスについては、衛生管理の重要性やインバウントによる観光需要が高まる中で、むしろ増加する可能性もあると見ています。
-最後に、M&Aを検討している経営者の方々へメッセージをお願いします。
M&Aは決して簡単なプロセスではありませんが、適切なサポートがあれば、会社の未来を開く素晴らしい選択肢になり得ると思います。特に、みつきコンサルティングさんのような経験豊富な専門家のサポートは非常に心強かったです。不安や迷いはあると思いますが、早めに相談することをお勧めします。また、M&Aを単なる事業売却ではなく、新たな成長の機会と捉えることが重要だと感じました。譲受企業との相乗効果を考え、従業員や顧客にとってもプラスになる方向性を見出すことができれば、より良い結果につながると思います。最後に、このプロセスを通じて、自社の強みや課題を改めて認識する良い機会にもなりました。M&Aを検討することで、経営者として新たな気づきを得られる可能性もあります。ぜひ、前向きに検討してみてください。
-本日は貴重なお話をありがとうございました。
こちらこそ、ありがとうございました。このインタビューを通じて、改めてM&Aプロセスを振り返ることができ、良い経験になりました。今後、同じような立場の経営者の方々の参考になれば幸いです。