- Y社様の創業からこれまでの歩みと、M&Aを検討するに至った背景をお教えいただけますでしょうか。
当社は昭和50年代に私が創業した魚類を原材料とした和総菜製造会社です。長年にわたり品質にこだわったお惣菜を作ってきました。創業以来、お客様との信頼関係を大切にしながら、日本の魚食文化を支える役割を担ってきたと自負しています。
しかし、近年は魚業界全体が厳しい状況に直面しています。世界的な魚食文化の浸透や不漁による原料価格の値上がり、国内の人口減少による市場縮小、さらには漁師さんの後継者不足など、さまざまな課題が山積しています。そのような中で、当社の将来を考えたとき、単独での成長には限界があると感じ始めていました。
また、当社の中心メンバーが、私も含めてほぼ70才以上の高齢者です。この年齢になると、いつ何があるか分かりません。そうなってしまった場合、従業員をどうするんだという想いはずっと抱えていました。
私に息子は一人いるのですが、全く違う業界で活躍していますので、継ぐことはありませんでした。
そこで、会社の存続と発展、そして従業員の雇用を守るためには、他の選択肢を模索する必要があると考えました。M&Aという選択肢は、当初は正直なところ抵抗がありましたが、会社の未来を見据えた際、最善の選択肢になり得ると思い、検討を始めたのです。
- M&Aに対し、当初は抵抗があったとのことですが、どのようなご懸念がありましたか?
最も大きな懸念は、会社の理念や大切にしているものが失われてしまうのではないかという点でした。長年築き上げてきた取引先との関係や、従業員との信頼関係が崩れてしまうのではないかという不安です。
また、私も古い人間なもので、M&Aという言葉自体にどこか冷たいイメージがあり、単なる金銭的な取引で会社を手放すことへの罪悪感のようなものもありました。従業員や取引先をお金に換えてしまったような感覚もあり、申し訳ない気持ちがあり、M&Aに取り組む決断をするまでには相当な時間を要しました。
さらに、M&Aにおける実際の手続きについての全く知らなかったので、適切に進められるのかという不安もありました。しかし、みつきコンサルティングの担当者の方々と話をする中で、これらの懸念が少しずつ解消されていきました。
- みつきコンサルティングを選んだ理由をお聞かせください。他社と比較して、どのような点が決め手となりましたか?
M&Aに取り組もうと考えた際、みつきコンサルティングをはじめとして複数社の仲介会社の方とお話をしました。その中で、みつきコンサルティングを選んだ最大の理由は、担当者の方々の誠実さと専門性です。税理士法人の方なので冷たい方なのかなと想像していたのですが、初めての面談から、私たちの会社の状況や課題を丁寧に聞いてくださり、単なる仲介ではなく、本当に会社のためになる最適な解決策を一生懸命に考えてくれる姿勢に信頼感を覚えました。
また、食品製造業界に関する深い知見を持っていることも大きな決め手となりました。業界特有の課題や動向を理解した上で、買手候補先についての適切なアドバイスをいただけたことは非常に心強かったです。
さらに、中小企業のM&A支援の実績が豊富で、成功事例も多く持っていたことも安心材料となりました。他社と比較しても、きめ細やかなサポート体制と、透明性の高い手数料体系、税理士法人系という信頼感が魅力的でした。
何より、私たちの会社の理念や従業員を大切にする姿勢を理解し、尊重してくれたことが、最終的な決め手となりました。
- M&Aを進める中で、特に印象に残っているエピソードはありますか?
最も印象に残っているのは、買い手候補との初めての面談です。みつきコンサルティングの担当者が、私たちの会社の強みや課題、そして将来のビジョンを非常に分かりやすく説明してくださいました。私の頭の中にあるものの整理できていないことを理路整然とお話しくださいました。その説明を聞いて、改めて自社の価値を再認識し、うちの会社っていい会社なんだなと誇らしげな気持ちになったのは今でも覚えています。
また、買収監査を行ったところ、長年見落としていた課題が明らかになったこともよく覚えています。具体的には、魚の仕入に係る会計処理が適切に行われていなかったのですが、これにより毎年の業績を正確に把握することができなくなっていました。
この点が詳らかになり、一時的に不安を感じる出来事でしたが、みつきコンサルティングの担当者が冷静に対応し、買い手さんと相談したうえで、むしろこれを機に会社の体質改善につなげる提案をしてくださいました。
さらに、従業員説明会の際、みつきコンサルティングの担当者が従業員の不安や質問に丁寧に答えてくださり、社内の雰囲気が大きく変わったのも忘れられません。従業員のM&Aへの理解が深まり、不安が解消され、前向きな気持ちで取り組める雰囲気が生まれたのです。
- M&Aを進める中で、最も大変だった点は何でしょうか?また、それをどのように乗り越えられましたか?
譲渡価格の交渉です。当初、私の中で考えていた価格と、買い手側が提示した価格には大きな乖離がありました。長年経営してきた会社への愛着もあり、なかなか妥協点を見出せずにいました。
要因としては、買収監査で発見された会計処理の不備により税負担が新たに発生してしまうことや、昨今の原材料価格の値上がりを考慮したためです。
しかし、みつきコンサルティングの担当者が、客観的な視点から当社の価値を改めて分析し、業界の相場観も踏まえた上で、私どもと買い手さんの両者に対し、適切なアドバイスをしてくださいました。また、単に価格だけでなく、従業員の処遇や取引先との関係維持など、金銭以外の条件も含めた総合的な交渉を行うことで、両者の一致点を見出してくれました。
結果として、譲渡価格は当初の希望よりは低くなりましたが、従業員の雇用継続や取引先との関係維持など、重要な条件を確保することができました。この過程で、会社の将来のために何が本当に大切なのかを改めて考えさせられ、最終的には納得のいく結論に至ることができました。
- M&Aの過程で、従業員の方々との関係はどのように変化しましたか?
まず、従業員より先に、長年一緒にやってきた役員をはじめとした中心メンバーにM&Aを検討していることを話しました。彼らは、ほぼ私と同年代(70才前後)ということもあり、無条件で賛成してくれました。そこで、中心メンバーと一緒にM&Aに取り組み始め、ある程度の見通しが立った段階で従業員に話しました。当初は、M&Aという言葉だけで不安や動揺が広がりましたが、みつきコンサルティングのアドバイスを受けながら、できる限り早い段階で従業員に対して説明会を開催し、状況を共有するようにしました。
特に印象的だったのは、従業員からの質問や懸念に対して、みつきコンサルティングの担当者が専門的な知識を基に丁寧に回答してくださったことです。これにより、従業員の不安が徐々に解消され、むしろ会社の未来に対して前向きな意見が出るようになりました。
また、M&Aの過程で、従業員一人一人と個別に面談する機会を設けたことも大きな転機となりました。それぞれの想いや希望を直接聞くことで、買い手との交渉において、何を重視するかが明確になったと思います。結果として、ほとんどの従業員が新体制での継続勤務を希望し、むしろモチベーションが向上したように感じています。
- 買い手との交渉で特に重視されたポイントは何でしょうか?
買い手との交渉で最も重視したのは、当社の企業理念や文化の承継です。損して得取れではないですが、取引先との関係は毎回いいものではありません。相手が困っているときにはこちらが譲りますし、逆もまた然りです。そうやって長年築き上げてきた信頼関係や、従業員との一体感を理解してくれる買い手を見つけることが最優先事項でした。
次に重視したのは、従業員の雇用継続と処遇の維持です。従業員は当社の最大の資産であり、彼らの生活を守ることは経営者としての責務だと考えています。
M&Aを実行することで株主は幸せになれたとしても、従業員が不幸せになってしまっては失敗だと思っていましたからその点も重視していました。
みつきコンサルティングの担当者は、これらの点を十分に理解し、適切な買い手候補の選定から交渉のサポートまで、きめ細やかなサポートをしてくださいました。
- M&A成立後、実際に事業の引き継ぎを行う中で、予想外の出来事や課題はありましたか?
実は、M&A成立から半年ほどで役員の一人が亡くなりました。彼は主に営業を担当していたのですが、体調が悪い中で買い手の担当者に懸命に引き継ぎ作業を行ってくれました。彼とは創業以来の仲で、まさしく同じ釜の飯を食った仲間だったんですが、亡くなる直前に病院に見舞いに行ったときに、「安心した」と心底ほっとした顔で言っていたのが今でも忘れられません。
事業の引き継ぎ自体は想像以上にスムーズに進みました。これは、みつきコンサルティングの担当者が事前に綿密な計画を立ててくださったおかげだと感じています。
ただし、小さな課題はいくつかでてきました。例えば、当社で長年使用してきた業務システムが古いもので、買い手のシステムへの統合に予想以上に時間がかかってしまい、うまく連携が取れなかったり、一部の取引先から、今までの中心メンバーが抜けることで不安の声が上がったりすることがありました。
しかし、こういったことに対しても、みつきコンサルティングの担当者は事前に想定していてくれて、適格なアドバイスをくださいました。具体的には、事前にシステム一覧を作成され、買い手の担当者とシミュレーションを行ったり、M&Aが決ま直前に取引先に買い手とともにご挨拶したりなど、一つ一つ丁寧に対応するためのサポートを提供してくれました。
結果として、これらへの対応を通じて、買い手との関係がより深まり、新たな体制での一体感が生まれたように感じています。
- M&A後の会社の変化について、具体的にお聞かせください。良かった点や、予想外の効果などはありましたか?
私をはじめとした中心メンバーは引き継ぎ作業を行った後に一線から退きました。年齢的なものもありますし、何より、この買い手に任せればいい会社にしてくれると確信していたからです。
想像通り、M&A後の変化は、全体としてとても前向きなものでした。まず、資金力が強化されたことで、長年の課題だった設備投資を実現することができました。これにより、業務効率が大幅に向上し、繁忙期の残業時間が削減されるなど従業員の労働環境も改善されました。
また、買い手のネットワークを活用することで、新たな取引先の開拓が進み、事業領域が拡大しました。特に、これまで手が届かなかった介護向けの大口顧客との取引が始まったことは、大きな変化でした。元々、高齢者向けの総菜は私がずっとやりたかったことです。ただ、そのためには専用の機械を入れる必要がありますし、専門の卸会社さんとのお付き合いも必要です。M&Aの成立前にそんな想いをお話しする機会があったのですが、先方さんは迅速に事業化してくれました。
予想外の効果としては、従業員のモチベーション向上が挙げられます。新しい環境や挑戦的な目標に触れることで、若手社員を中心に自己啓発や新しいアイデアの提案が活発になりました。
さらに、買い手の人事制度や教育プログラムを導入したことで、従業員のキャリアパスが明確になり、長期的な人材育成が可能になりました。これは、海外からの仕入をはじめとした将来の経営を担う人材の育成にもつながっています。
一方で、当初懸念していた企業文化の衝突はほとんどなく、むしろお互いの良いところを学び合う良好な関係が築けています。これも、みつきコンサルティングの担当者が、文化の融合に関して適切なアドバイスをしてくださったおかげだと感じています。
- M&Aを経験されて、経営者としての視点や考え方に変化はありましたか?
M&Aを経験したことで、今まで気づかなかった点に気づかされたと感じています。まず、自社の価値を客観的に見つめ直す機会となり、強みや弱みをより明確に認識できるようになりました。
また、長期的な視点で会社の将来を考えることの重要性を再認識しました。日々の業務に追われがちで、5年後、10年後の会社のあるべき姿を常に意識していなかったなと反省しています。
最後に、専門家の知見を活用することの重要性も再認識しました。今までも税理士さんや弁護士さんのお力をお借りしたことはありましたが、ことM&Aはやるべきことがとても多いです。みつきコンサルティングのような専門家の支援がなければ、ここまでスムーズにM&Aを進めることはできなかったと思います。経営者は全てを一人で抱え込むのではなく、適切なタイミングで専門家の力を借りることも大切だと痛感しました。
- 最後に、これからM&Aを検討している経営者の方々へメッセージをお願いします。
そうですね、まず、M&Aは決して怖いものではないということを真っ先にお伝えしたいです。むしろ、今では会社の新たな成長のきっかけになる可能性を秘めていると思っています。
ただ、M&Aを成功させるためには、自社の現状と課題を把握したうえで、叶えたいことの優先順位をつけることが重要です。
相手企業との出会いについては運の要素もあるかもしれません。一方で、自社の強みや特徴を的確に把握し、相性がいいかどうかというのは、感覚的でもいいので考えてください。
M&Aは確かに大きな決断ですが、それは同時に新たな可能性を開く扉でもあります。自社の未来を見据え、勇気を持って一歩を踏み出すことで、思いもよらない成長の機会が訪れるかもしれません。皆様の挑戦が実り多きものとなることを心から願っています。