-本日は、貴重なM&A事例についてお話を伺います。まず、T社の設立からこれまでの歩みについて教えていただけますか?
1970年代に設立しましたので、つい最近50年を超えました。当初は測量業務が中心でしたが、時代とともにニーズが変化し、補償コンサルティング業務、GIS関連業務、設計業務などにも力を入れてきました。主に東関東のインフラ整備や都市計画に関わる仕事を手がけてきました。
-長年経営者として会社を率いてこられたなかで、印象に残っているエピソードはありますか?
創業当初は苦労の連続でしたが、特に印象に残っているのは、バブル崩壊後の厳しい時期です。公共事業が縮小し、業界全体が苦しい状況でした。しかし、社員と一丸となって新しい技術の習得に励み、業務範囲を広げることで難局を乗り越えました。この経験から、変化に柔軟に対応することの重要性を学びました。
-建設コンサルタント業界の現状と将来展望について、どのようにお考えですか?
少子高齢化や人口減少の影響を受けて、特に宅地関係では、市場規模の縮小が懸念されています。一方で、老朽化した橋梁などのインフラの維持管理や防災、災害対策など新たなニーズも生まれています。また、IoTなどのデジタル技術を活用した業務効率化や高度化が進んでおり、これらの技術への対応が今後の競争力を左右すると考えています。
-そのような業界動向の中で、M&Aを検討し始めた具体的な経緯を教えていただけますか?
漠然とですが、5年ほど前から事業承継について考えていました。子供たちはすでに別の道を歩んでおり、社内にも適切な後継者候補がいませんでした。そんななか、2年前に大きな病気が見つかり、一時は回復の兆しもあったのですが、昨年末に再発してしまいました。医師からは療養を最優先に考え、経営の第一線からは身を引いた方がよいとアドバイスを受けました。私としてはまだまだ経営を続けたいとの思いがありましたが、急に会社を休むことも考えられますので、会社の安定と従業員の雇用を守るために、M&Aという選択肢を真剣に考えはじめました。
-みつきコンサルティングに相談を決意したきっかけについて、もう少し詳しくお聞かせください。
担当者からお手紙を受け取り、私から連絡しました。M&Aについて、きちんと話を聞くのは初めてだったので、準備しないといけない資料のことなど、正直大変そうだなとの印象でした。ただ当初より私の体調を気遣ってくれており、初回の面談から家族の同席を提案してくれました。私の病状を考えると、家族の意見も重要でしたので、この配慮が大きな安心感につながりました。
-案件を進める上で最も苦労した点は何でしょうか?
時間との戦いでした。体調の悪化が進むなかで、適切な買収先を見つけ、従業員の雇用を守りながら、会社の将来を確保することが最大の課題でした。また、長年信頼関係を築いてきた取引先や地域社会への影響も考慮しなければならず、心理的な負担も大きかったです。
-M&Aのプロセスについて、具体的にどのような流れで進められたのでしょうか?
まず、みつきコンサルティングとの面談後、すぐに会社概要書の作成に取り掛かりました。この頃は入院することもあったため、面談に向けての資料づくりやスケジュール調整が非常に大変だったと思います。その後、候補企業へのアプローチが始まり、複数の企業から関心を示していただきました。
特に印象的だったのは、S社とのトップ面談です。トップ面談の日時が決定した後に、急遽、入院することになったのです。みつきコンサルティングの担当者から時期をずらすことも提案されましたが、良いご縁だと思っておりましたので、何とか面談を実施したいとお願いしました。S社とも調整してくれ、私とみつきコンサルティングの担当者は病室から参加するかたちで無事にWeb面談が実施できました。予定とおり実現してくれたことに非常に感謝しております。
その後、財務や事業のデューデリジェンスが行われ、最終的な契約書の調整を経て、クロージングに至りました。全体で約3ヶ月という短期間でした。みつきコンサルティングのサポートのおかげで、とてもスムーズに進めることができました。今回のお相手と少しでも早くクロージングさせたいという私の意向を尊重して、デューデリジェンスのときには、週末にもよく会社にきてくれ対応してくれました。
-S社を最終的に選んだ理由について、詳しくお聞かせください。
やはり技術者の確保、技術力の向上という点です。S社は全国に拠点を持っており、専門性の高い豊富な人材が多数在籍してます。私たちも特定の分野においては、高い専門性を持っておりますが、提供できるサービスを広げることと大型案件獲得のための人員体制づくりが課題だと考えてました。
さらに、トップ面談での印象が非常に良かったことも大きな理由です。S社の社長の経営哲学や従業員を大切にする姿勢に共感しました。特に、「技術で地域に貢献する」という理念が、私たちの会社の価値観と合致していると感じました。
-M&Aプロセスの中で、特に難しかったことはありましたか?
難しいこととは少し異なりますが、従業員への伝え方については非常に悩みました。長年一緒に働いてきた仲間たちに、会社を譲渡し、私が第一線から退くことを伝えることは非常に心苦しいものがありました。特に、私の病状を考慮して、最後まで従業員には事前に知らせることができず、クロージング直前まで秘密にしておかなければならなかったことが辛かったです。
-譲渡後の心境や新たな生活について、お聞かせください。
正直なところ、複雑な心境です。長年、育ててきた会社を手放すことは、想像以上に寂しいものでした。しかし、従業員の雇用が守られ、会社が新たな形で存続していくことを考えると、安堵感もあります。
新たな生活については、療養しながら家族と過ごす時間を大切にしてます。長年、仕事一筋で過ごしてきましたが、今はこの時間が私にとって最優先です。また、体調が許す範囲で、これまでの経験を活かして地域のボランティア活動にも参加したいと考えています。
特に、若い世代に建設コンサルタント業務の魅力を伝える活動に興味があります。日本の老朽化するインフラとは反対に、若手技術者の不足が年々深刻になってきてます。この業界の重要性はますます高まっていくと信じていますので、微力ながら貢献できればと思っています。
-最後に、このM&A案件を通じて感じたことをお聞かせください。
このM&A案件を通じて、「人とのつながり」の大切さを改めて実感しました。みつきコンサルティングの担当者の丁寧な対応、S社の誠実な姿勢、そして何より、長年支えてくれた家族、従業員たちの存在が、この難しい決断を乗り越える力になりました。
また、経営者として、常に先を見据えて準備することの重要性も学びました。もし、もっと早くから事業承継について真剣に考えていれば、もう少し余裕を持って進められたかもしれません。
これから同じような状況に直面する経営者の方々へのアドバイスとしては、早めの対応と、信頼できる専門家への相談をお勧めします。M&Aは決して簡単なプロセスではありませんが、適切なサポートがあれば、会社と従業員の未来を守ることができると信じています。
最後に、この経験を通じて、企業経営とは単なる利益追求ではなく、従業員や地域社会との共生であることを再認識しました。新体制の下で、会社がさらに発展し、社会に貢献し続けることを心から願っています。