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タイ進出

タイ 会計士が支える企業買収と財務デューデリジェンスの全貌

タイ進出

タイ企業の買収で失敗しないためには、現地実務に精通した会計士による財務調査が不可欠です。本記事では、二重帳簿や税務申告漏れなどの特有のリスクから、企業価値評価の手法、買収後の会計統合プロセスまでを専門家が分かりやすく解説します。

タイ現地企業の買収や組織再編を検討する際、現地の商習慣や法制度への理解不足から、思わぬ財務リスクに直面する日本企業は少なくありません。タイでは日本と異なり、すべての現地法人に法定監査が義務付けられているなど、独自のルールが存在します。買収後に簿外債務や過年度の税務リスクが発覚して損失を被ることを防ぐためには、現地の税務や会計を熟知した専門家による事前の財務精査が不可欠です。本記事では、タイでの企業買収を成功に導くためのデューデリジェンスの手法や、買収後の統合プロセスを分かりやすく解説します。

タイにおける企業買収と財務デューデリジェンスの重要性

タイで現地企業を譲受する際、なぜ財務デューデリジェンスがこれほどまでに重視されるのでしょうか。その理由は、タイの商慣習や会計実務が日本とは決定的に異なり、帳簿上の数字だけでは見えないリスクが数多く潜んでいるからです。

タイの会計制度における最大の特徴は、売上のない駐在員事務所も含め、原則としてすべての現地法人に公認会計士による法定監査が毎年義務付けられている点にあります。日本のように資本金や負債額による監査免除の規定がほとんどないため、一見するとどの企業も適正に監査された決算書を具備しているように思えます。しかし、法定監査を受けているからといって、税法上のリスクや簿外債務が完全に排除されているわけではありません。

タイの税務当局である歳入局は、非常に強力な権限を持っており、独自の基準に沿って税務調査を実施します。事前に対象会社の正確な財務状況と税務の適正性を調査しておかなければ、譲受した後に多額の追徴課税や罰金を課せられるリスクが残ります。そのため、M&Aの意思決定において、タイ現地の実務に精通した会計士による財務デューデリジェンスは極めて重要なプロセスとなるのです。

タイのローカル企業に潜む代表的な5つの財務・税務リスク

譲渡オーナーから提示された決算書をそのまま鵜呑みにすることは、タイの企業譲受において最も危険な行為と言えます。タイのローカル企業では、税務対策や独自の資金管理を目的として、実務上さまざまな処理が行われていることが一般的だからです。以下に、財務調査で検出されやすい代表的な5つのリスクを整理します。

1. 二重帳簿と領収書の書類不備

タイの税法は、損金算入(税務上の費用として認めること)の条件が日本に比べて極めて厳しいという特徴があります。ローカル企業では、税金の負担を軽減するために、税務申告用と実態管理用の2つの帳簿(いわゆる二重帳簿)を使い分けているケースが珍しくありません。また、文房具店などで販売されている簡易的な領収書(キャッシュセール)など、販売者の特定や自社名が明記されていない書類はすべて損金不算入経費として処理され、課税所得に加算されます。財務調査では、これらの申告外取引や書類不備による潜在的な税務リスクを精査する必要があります。

2. 過年度の税務リスクと源泉徴収漏れ

タイでは、法人間のサービス取引や賃貸料、海外へのロイヤルティ支払など、非常に広範な取引において源泉徴収(WHT)が義務付けられています。例えば、国内法人へのサービス料支払時には3%、事務所の賃貸料には5%、広告宣伝料には2%などの源泉徴収が必要です。ローカル企業がこれらの源泉徴収手続きを怠っていた場合、税務調査で指摘を受けると、源泉徴収義務を負っていた対象会社(譲受後の企業)が不足分を負担しなければなりません。さらに、未納分に対して月利1.5%の延滞税が課せられるため、過年度の源泉徴収漏れは譲受企業にとって税務リスクとなります。

3. 退職手当引当金の計上不足

タイの労働者保護法では、従業員が定年退職を迎えた場合であっても、会社都合の解雇と同様に解雇補償金を退職金として支払うことが義務付けられています。この補償金は勤続年数に応じて最大400日分に達し、さらに2024年の改正により一定の上限まで所得税の非課税枠が拡大されるなど、制度の厳格化が進んでいます。解雇補償金の算出にあたっては、毎月固定で支給されている諸手当も「賃金」に含まれるため、計算が複雑になります。ローカル企業の多くは、この将来発生する退職手当引当金を決算書上で適切に見積もり負債計上していないため、簿外債務として買収後に大きな負担となるケースが多発しています。

4. 棚卸差異とみなしVATの発生

実地棚卸によって帳簿上の在庫数量と現物に差異(在庫紛失)が発覚した場合、タイの税法では極めて厳しいペナルティが科されます。棚卸差異として紛失した在庫は、税務上「販売した」とみなされ、その販売予定単価の7%に相当するみなし売上VAT(付加価値税)を自社負担で納付しなければなりません。さらに、この在庫紛失に伴う損失は税務上の損金として認められないため、法人税の加算対象にもなります。在庫管理がずさんなローカル企業を買収する場合、事前の倉庫実査と現物確認を行わなければ、譲受した後に多額のみなしVATと法人税の追徴が発生することになります。

5. 固定資産台帳の管理不備と減価償却

タイの税法上、少額資産を一括で費用化する日本のルールのような金額基準はなく、原則として1年以上使用できるものはすべて固定資産として登録し、減価償却を行う必要があります。実務上は数千バーツ以下の少額資産を経費処理しているケースもありますが、税務調査で否認されるリスクを常に抱えています。また、現物がないにもかかわらず台帳上に簿価1バーツで残り続けている資産を除却する際にも、適切な廃棄手続き(30日前までの歳入局への通知や監査人による廃棄証明など)を踏んでいなければ、除却損が損金不算入となり、みなしVATの対象になります。固定資産台帳と現物の不整合は、財務の健全性を損なう要因となります。

タイにおける企業価値評価の調整ポイント

日本の感覚で純資産価額や収益力を評価していると、タイ企業の正確なバリュエーションを見誤ることになります。タイのローカル企業を評価する際には、現地特有の資産評価基準や、税務調整に伴う減額要因を網羅的に考慮しなければならないからです。

バリュエーションにおいて特に注意すべきなのは、タイの不動産や株式の評価手法です。タイに資産を所有する法人の株式を評価する場合、その資産に含まれる土地や建物などの不動産は、すべて評価時点の「時価(実勢価額)」で再評価されます。経済成長が続くタイでは、過去に取得した不動産の価値が数倍に高騰していることが多く、帳簿上の簿価を大幅に上回る評価額となり、それに伴って株価評価も割高になります。

一方で、財務デューデリジェンスによって検出された、過年度の源泉徴収漏れや棚卸差異に対する潜在的な税務罰金、退職手当引当金の未計上額などは、将来の確実なキャッシュアウトとして企業価値から減額調整する必要があります。

また、税務上の「繰越欠損金」の取り扱いも重要です。タイでは、発生した欠損金を翌年度以降5年間にわたって繰り越すことが認められており、将来の課税所得と相殺して法人税を削減する効果があります。しかし、税務調査によってこの欠損金額が減額されるリスクがあることや、対象会社が投資委員会(BOI)の免税恩典を受けている場合、BOI事業とNon-BOI事業の損益通算ルールには独自の判例が存在することに留意し、バリュエーションの算定に反映させる必要があります。

買収後の会計・税務ガバナンスと管理体制の構築

せっかく企業譲受が成功しても、その後の経営統合プロセスであるPMIがおろそかになっては、シナジー効果を得ることはできません。譲受後の混乱の中で優秀なローカル人材が離職してしまい、管理体制が崩壊する事例は後を絶たないからです。

M&A後のPMIにおいて、最も重要なのは「管理体制の標準化」と「従業員の心理的安全性」のバランスです。不必要な人員削減や経営陣の急激な刷新は、ローカル従業員のモラル低下を招き、生産性を阻害します。これまでの良好な関係を維持しつつ、日本の親会社が求めるガバナンスを浸透させるためには、会計や税務の業務プロセスを客観的に仕組み化していくことが不可欠です。

具体的には、リアルタイムで会計数値を確認できる体制の構築が急務となります。多くのローカル企業では、外部の会計事務所に記帳代行を依存しているため、決算数値の把握が翌月中旬以降に遅れるなどのボトルネックが存在します。これを解消するために、自社で「CPD(会計記録責任者)」と呼ばれるタイの有資格者を雇用し、記帳を内製化(自計化)することが推奨されます。CPDは、すべての企業に最低1名の設置が法律上義務付けられており、ライセンスの維持には毎年12時間以上のセミナー受講が必要です。自計化と同時にクラウド会計システムを導入し、日本本社とリアルタイムでデータを共有することで、内部不正のリスクを大幅に逓減させ、迅速な経営判断が可能になります。

また、2023年2月に施行された改正民商法典により、非公開会社において「吸収合併」が新たに認められるようになりました。従来の新設合併とは異なり、存続会社が消滅会社のすべての権利義務を包括的に承継できるため、消滅会社が有していた一部の事業ライセンス等の承継手続が大幅に簡略化されました。ただし、BOIなどの特定のライセンスについては、合併実行前に管轄官庁の事前承認を要する場合があるため、専門家と連携した事前のスケジュール構築がPMIの成否を分けます。

日本とタイを跨跨ぐクロスボーダーM&A支援体制の必要性

タイでのクロスボーダーM&Aを成功させるためには、日本の高度なM&A知見と、タイ現地の泥臭い実務調査力、この2つがシームレスに機能する支援体制が不可欠です。本社の経営戦略やM&Aの目的を深く理解した日本の専門家と、タイのローカル実務を隅々まで調査できる現地会計士が一体となって伴走することで、はじめてリスクのない取引とスムーズな統合が実現します。

みつきアカウンティング(みつきタイ)は、タイ・バンコクの日系会計事務所として、これまで多くの中堅・中小企業のタイ進出や現地管理、会計・税務のガバナンス構築をサポートしてきました。現地の税制や法的手続、実務慣行に精通した日本人専門家とローカル会計士が在籍しており、タイの現地現場に直接入り込んで行う財務デューデリジェンスや企業価値評価、ライセンスの引き継ぎ手続において高い調査力を有しています。

さらに、日本のM&A仲介会社であるみつきコンサルティングと強固に連携した支援体制を構築している点が、当社の最大の強みです。日本本社側の意思決定のスピードに合わせ、案件の発掘から買収スキームの構築、タイ現地での泥臭い財務・税務デューデリジェンスの実行、そして取引完了後の会計ガバナンス構築やPMI(会計統合)まで、日タイの両拠点から一気通貫で伴走支援いたします。日本とタイを跨ぐクロスボーダーM&Aならではの複雑なコミュニケーションエラーを排除し、譲受企業の事業価値最大化をお手伝いします。

タイの企業買収や財務デューデリジェンスに関するFAQ

タイの企業買収や財務デューデリジェンスにおいて、日本企業の経営者やM&A担当者が抱きやすい代表的な疑問について回答します。

Q1:タイ企業の買収において財務調査をタイ人会計士のみに任せるリスクはありますか?

タイ人会計士は現地の税法や手続に精通していますが、日本の親会社が求めるガバナンス基準や報告スピードを必ずしも理解していません。また、言語や商習慣の壁により、検出された財務リスクの深刻度や日本本社への連結決算に与える影響が、日本の経営陣に正確に伝わらない懸念があります。そのため、現地の泥臭い実務を理解した上で、日本の本社の意図や経営判断に必要な情報を翻訳して報告できる、日系会計事務所の専門家が介在することが極めて重要です。

Q2:ローカル企業の簿外債務や税務リスクを事前に見抜く具体的な手法は何ですか?

対象会社が申告している法人税確定申告書(PND50)やVAT申告書と、実際の資金流出入が記録された銀行取引明細(バンクステートメント)を細部まで突合します。特に、個人口座への不審な資金移動や、受領者が不明な領収書による損金不算入経費の有無を一枚ずつチェックします。これらをもとに、将来的に発生しうる源泉徴収漏れの罰金や、棚卸差異に伴うみなし売上VATなどの潜在的な税務ペナルティ額を定量的に試算し、バリュエーションの調整に反映させます。

Q3:譲受後の会計統合において自計化を推奨する理由は何ですか?

外部のローカル会計事務所に記帳代行を依存している場合、日本本社が求める月初早期の連結決算用データの提出に対応できないことが一般的です。自社で経理責任者(CPDサイナー)を直接雇用して記帳を内製化(自計化)し、クラウド会計システムを導入することで、会計数値がリアルタイムで可視化されます。これにより、内部不正の発生を防ぐとともに、事業の進捗や収益性をタイムリーに把握した、迅速な経営ガバナンスの構築が可能になります。

まとめ

タイでの企業買収や事業再編を成功させるには、独自の税務・会計ルールに潜む特有のリスクを事前の財務調査で緻密に洗い出すことが不可欠です。退職手当引当金の計上不足や源泉徴収漏れなどの簿外債務を正確に見極め、現地のバリュエーション基準に沿った適切な価値評価を行うことが、譲受後のリスクを最小化する極意と言えます。

タイ・バンコクの日系会計事務所であるみつきアカウンティング(みつきタイ)では、現地の高度な財務精査や、買収後の会計管理体制の構築、PMI支援を強みにしています。日本のM&A仲介会社であるみつきコンサルティングと密に連携し、最適な案件発掘から財務デューデリジェンス、取引実行、その後の会計ガバナンス構築までを一貫してサポートいたします。タイ現地での企業譲受や合弁設立、財務デューデリジェンスをご検討の際は、お気軽に無料相談フォームよりお問い合わせください。