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タイM&Aにおける独占禁止法(競争法)の規制と届出実務

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タイのM&A市場における企業結合規制は、新取引競争法(TCA 2017)に基づき、取引の競争への影響度に応じて事前承認または事後届出が義務付けられています。この記事を読むことで、タイでのM&Aの届出が自社の取引に適用されるか、そしてタイの企業結合審査の具体的な手続とリスク管理の要点を包括的に理解することができます。

タイM&Aにおける独占禁止法(競争法)の規制と届出実務

タイのM&Aにおける独占禁止法の法的枠組みと執行体制

タイの企業結合規制は、2017年に施行されたタイ競争法(Trade Competition Act B.E. 2560、以下TCA 2017)を主たる法的根拠としています。TCA 2017は、それ以前の法律が抱えていた「執行の弱さ」といった問題に対処するために導入され、国内の全ての経済セクターにおける反競争的行為の防止と公正な競争の促進を目的として、より厳格な枠組みを確立しました。

タイ競争法(TCA 2017)の目的と特徴

タイ競争法は、競争の制限を防止し、支配的地位の濫用や反競争的協定の禁止に加え、企業結合規制を定めています。TCA 2017は、競争を実質的に制限する可能性のあるM&A取引を規制する枠組みを導入しました。

執行機関:タイの公正取引委員会(TCC)

タイの企業結合規制の執行を担うのは、タイの公正取引委員会(Trade Competition Commission, TCC)です。TCCは規制の策定、制裁の決定、届出の審査を行う最高意思決定機関であり、委員は法律、経済、金融など関連分野で10年以上の経験を持つ必要があります。

タイの企業結合規制の二元構造と「支配権」の定義

タイの競争法に基づく企業結合規制は、市場への影響度に応じて「事前承認」と「事後届出」という二つの異なる義務を課す、二元構造が特徴です。

M&A取引が規制対象となる「企業結合」の定義

TCA 2017において規制対象となる企業結合取引は、主に以下の3つとされています。

  1. 合併(Amalgamation): 複数の事業者が統合して新たな法人を設立するか、既存の一法人が存続法人となり、他の法人が消滅する形式です。
  2. 資産取得: 他の事業者の通常業務に使用される総資産価値の50%超を取得する場合です。
  3. 株式取得: 他の事業者の議決権付き株式の全てまたは一部を取得する場合です。

支配権(コントロール)の取得に関する具体的な閾値

タイにおいて、事前承認または事後届出の対象となる取引は以下の表の通りです。

取引類型支配権の取得を構成する閾値
資産取得他の事業者が通常業務に使用する総資産価値の50%超を取得
株式取得(SET上場会社)議決権の25%以上を直接または間接に取得
株式取得(非上場会社)議決権の50%超を直接または間接に取得

事前承認(Pre-Merger Approval)の要件と審査実務

事前承認は、取引が競争に重大な影響を及ぼす可能性がある場合に必須となる手続きです。

事前承認のトリガー:「独占」または「支配的地位」の創出

事前承認が必要となるのは、企業結合が結果として関連市場において「独占(Monopoly)」または「支配的地位(Dominant Position)」を創出し、または既存の支配的地位を強化する可能性がある場合です。独占は、年間売上高が10億バーツ以上であり、当該関連市場に単独の事業者しか存在せず、価格や供給量を自由に決定できる力を持つ事業者を意味します。

支配的地位の具体的な市場シェアと売上高の基準

支配的地位の基準は、以下の市場シェア基準のいずれかを満たし、かつ、当該事業者の年間タイ国内売上高が 10億バーツ以上である場合に成立すると定義されています。

基準市場シェア年間タイ国内売上高
単独支配50%以上10億バーツ以上
共同支配上位3社合計で75%以上10億バーツ以上

事前承認申請のプロセスと審査期間

事前承認の申請は、M&A計画、当事者の詳細な情報、および競争上の影響を詳細に分析した報告書を含め、広範かつ詳細な情報提供を必要とします。TCCによる審査期間は、完全な届出を受理した日から90日以内と定められており、必要に応じて最大15日の延長することができます。

事後届出(Post-Merger Notification)の要件と期限

事前承認の閾値を満たさないM&A取引であっても、市場における競争を実質的に減じる可能性がある場合は、タイのM&A届出の一つである事後届出の対象となります。

事後届出のトリガー:競争の「実質的な制限」

事後届出が義務付けられる基準は、取引が独占や支配的地位の創出には至らないものの、関連市場における競争を実質的に減じる可能性がある場合です。具体的には、合併に関与する事業者の合算した年間国内売上高が 10億バーツ以上である場合です。

事後届出の厳格な期限と手続き

事後届出は非停止規定であり、取引の実行自体は可能ですが、完了後の厳格な提出期限が設けられています。届出は、取引完了日(クロージング)から7日以内にTCCに提出しなければなりません。この7日という期間は非常に短いため、クロージング後直ちに提出できるように事前の書類準備が必須です。

タイのM&Aにおける独占禁止法に関するよくあるご質問(FAQ)

タイでM&Aを検討する日本企業の経営者や現地法人責任者の方々が、タイ競争法に関して抱く主要な疑問にお答えします。

Q:自社のM&A取引はタイの独占禁止法の届出対象になりますか?

A:まず、株式取得(上場25%以上、非上場50%超)または資産取得(50%超)により支配権を獲得するかを確認します。次に、取引当事者グループ全体の年間タイ国内売上高がTHB 10億バーツ以上であるかを確認し、両方の要件を満たす場合に届出義務が発生します。

Q:タイのM&A届出が必要な場合の売上高や市場シェアの基準は何ですか?

A:届出には「事前承認」と「事後届出」があります。事後届出は国内売上高が10億バーツ以上の場合に必要です。事前承認は、この売上高基準に加え、合併後に市場シェアが単独で50%以上、または上位3社合計で75%以上となり、独占または支配的地位を創出する場合に必要となります。

Q:タイの企業結合審査における届出から承認までの期間と手続きを教えてください?

A:事前承認が必要な場合、TCCが完全な届出を受理した日から90日以内に決定が下され、最大15日の延長が可能です。事後届出は、取引完了後7日以内にTCCに通知しなければなりません。

まとめ

タイのM&Aにおける独占禁止法に基づく企業結合規制は、「事前承認」と「事後届出」の二元構造が特徴であり、グローバル企業は単一経済主体の概念によりタイ国内売上高を慎重に評価する必要があります。

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