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タイ駐在員事務所の設立と運営|メリット・デメリットと税務を解説

(日本語)

タイ駐在員事務所とは、海外企業がタイ国内で市場調査や情報収集を行うための非収益拠点です。本記事では、タイでの駐在員事務所設立の目的、許可される活動範囲、メリット・デメリット、設立手続、税務、駐在員のビザ、閉鎖について解説します。

タイ駐在員事務所とは

タイ駐在員事務所は、本社の活動を補完するためにタイに設置される拠点です。主に情報収集や市場調査、本社との連絡業務などを目的としています。

駐在員事務所の活動は、タイ国内での収益を伴う事業活動は認められていません。これは、タイ国内での商業活動を行う場合は、現地法人として登録する必要があるためです。

設置目的と法的定義

タイに駐在員事務所を設置する主な目的は、タイ市場に関する情報の収集や分析、タイ国内の事業機会に関する調査、本社との連絡調整、そしてタイの顧客やサプライヤーとの関係構築です。

駐在員事務所は、タイで事業を行う外国企業が、市場調査、情報収集、本社との連絡業務などのために設置する非営利のオフィスと位置づけられています。これにより、本格的な事業進出の前にタイのビジネス環境を把握することができます。

活動範囲の制限

駐在員事務所に許可される活動範囲は非常に限定的です。前述の通り、市場調査、情報収集、本社へのレポート作成、本社との連絡調整、本社のための物品またはサービスの供給元の発掘などが主な活動内容となります。

一方、直接的な営業活動、契約の締結、サービスの提供、製品の販売など、収益を伴う一切の商業活動は禁止されています。これは、駐在員事務所が「事業」を行う拠点ではないためです。もしこれらの活動を行う場合は、現地法人として登録する必要があります。

タイ駐在員事務所のメリットとデメリット

駐在員事務所の設置には、それぞれメリットとデメリットがあります。

メリット:低コストでの拠点確保と情報収集

駐在員事務所を設置する最大のメリットの一つは、タイ国内に比較的低コストで拠点を確保できることです。現地法人を設立する場合と比較して、設立費用や運営コストを抑えることが可能です。

また、タイ国内に物理的な拠点を置くことで、現地の市場状況や競合他社の情報、法規制の変更など、インターネットだけでは得られない生きた情報を効率的に収集することができます。これにより、将来の本格的な事業進出に向けた戦略策定に役立てられます。

デメリット:活動制限と収益事業不可

駐在員事務所の主なデメリットは、その活動範囲が厳しく制限されていることです。前述の通り、収益を伴う事業活動は一切認められていません。これは、タイ市場での事業機会を探る上では有用ですが、そこから直接的な収益に繋げることができないという制約を意味します。

また、本社の活動を補完する目的であるため、駐在員事務所自身の判断で新たな事業を開始したり、大きな取引を決定したりすることもできません。全ての重要な意思決定は本社が行う必要があります。

設立申請手続きと必要な準備

タイで駐在員事務所を設立するには、タイ商務省への登録が必要です。

設立手続きには、本社の登記簿謄本、責任者の任命状、代理人への委任状など、様々な書類が必要となります。これらの書類は英語またはタイ語に翻訳し、認証を受ける必要があります。手続きにかかる期間は、書類の準備状況や当局の審査状況によって異なりますが、一般的に数ヶ月を要することが多いようです。

駐在員のビザと労働許可証

タイで駐在員事務所の業務に従事する日本人は、就労目的のビザ(Bビザ)と労働許可証(ワークパーミット:WP)を取得する必要があります。

ビザと労働許可証の取得には、駐在員事務所の登録証明書、個人の経歴書、学歴証明書など様々な書類が必要となります。労働許可を取得せずにタイ国内で就労活動を行うことは、法律で禁止されています。

駐在員事務所の税務上の取り扱い

タイ駐在員事務所は、原則としてタイ国内での収益を伴う事業活動を行わないため、法人税の課税対象とはなりません

法人税について

駐在員事務所が法人税の課税対象とならないのは、それが収益を生み出す「事業」を行わないためです。法人の場合、タイにおける法人所得税の計算方法は、会計上の収益から会計上の費用を差し引き、税務上の調整を加えることで税務上の利益を算出し、これに法人税率を乗じて計算します。一般的な法人税率は20%です。中小企業(SME)に対しては累進課税が適用されます。税務上の欠損金は、発生年度の翌年度以降5年間にわたり繰り越すことができます。ただし、駐在員事務所の活動が実質的に収益事業とみなされる場合は、課税対象となる可能性もありますので注意が必要です。

駐在員事務所の閉鎖手続き

駐在員事務所を閉鎖する場合も、タイ商務省での正式な閉鎖手続きが必要です。

閉鎖手続きには、本社での閉鎖決定、タイ商務省への届出、未払いの税金や社会保険料の清算、従業員の解雇手続(退職金の支払い等を含む)、事務所の賃貸借契約の解除など、様々な手続が伴います。適切な手続を行わないと、将来的なトラブルの原因となる可能性があります。自己都合退職の場合、労働者保護法上の解雇補償金の支払いは不要ですが、繰り越された有給休暇の買い取りが必要となる場合があります。

現地法人への移行プロセス

タイ市場での活動が本格化し、収益事業を開始する段階になった場合、駐在員事務所を閉鎖し、新たに現地法人を設立するなどの選択肢が考えられます。

現地法人の設立は、タイ国内で商業活動を行うための最も一般的な形態です。タイの非公開会社においては、取締役が1名以上必要です。また、2023年の民商法典改正により、吸収合併も事業再編の選択肢の一つとなっています。現地法人設立の手続きは駐在員事務所の設立よりも複雑で、資本金の払込や事業目的の決定など、より詳細な準備が必要となります。

タイ駐在員事務所に関するよくあるご質問(FAQ)

タイ駐在員事務所の設立や運営に関して、よく寄せられるご質問とその回答をご紹介します。

Q:駐在員事務所ではどんな活動ができて、何ができないのか?

駐在員事務所で許可される活動は、タイ市場に関する情報収集、市場調査、本社への報告、本社との連絡調整、本社のための物品またはサービスの供給元の発掘など、本社の活動を補完するための非収益活動に限定されます。一方、物品の販売、サービスの提供、契約の締結、代金の受領など、収益を伴う商業活動は一切できません。これらの活動を行う場合は、現地法人として登録する必要があります。

Q:本格的な事業展開の前に駐在員事務所を置くメリットは?

最大のメリットは、本格的な事業進出に必要な多額の投資を行う前に、比較的低コストでタイ国内に拠点を持ち、現地の市場環境や法規制、商慣習に関する詳細な情報を収集できる点です。これにより、リスクを抑えつつ、将来の事業計画をより具体的に検討することが可能になります。

Q:設立や維持にどれくらいの費用と手間がかかるのか?

設立費用は、弁護士やコンサルタントへの依頼費用、登録にかかる実費などを含め、現地法人設立に比べて抑えられますが、それでも一定の費用は発生します。維持費用としては、事務所の賃料、駐在員の人件費、通信費や専門家への報酬などがかかります。手続きには様々な書類準備と行政とのやり取りが必要で、手間と時間がかかります。

Q:駐在員事務所の日本人スタッフのビザはどうなるのか?

駐在員事務所で働く日本人スタッフは、就労目的のBビザと労働許可証の取得が必要です。ビザや労働許可証の申請には、個人の経歴や学歴、会社の書類など、様々な準備が必要となります。

Q:将来的に現地法人化する場合の手続きは?

駐在員事務所を閉鎖し、新たに現地法人を設立する手続が必要となります。現地法人の設立は、商務省への登録、会社の定款作成、資本金の払い込みなど、駐在員事務所の設立とは異なる、より複雑な手続が伴います。タイでは非公開会社の場合、取締役は1名以上必要です。事業目的の追加や変更も必要に応じて行います。

まとめ

タイにおける駐在員事務所は、タイ市場への本格的な事業進出を検討する上で、リスクを抑えながら情報収集や市場調査を行うための有用な選択肢です。活動範囲に厳しい制限がありますが、タイのビジネス環境を理解するための第一歩として活用できます。設立や運営にはタイの法規制に基づいた適切な手続が必要であり、駐在員のビザや税務についても正確な知識を持つことが重要です。

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